第68話 即席作戦会議。
「ムーク様! 前方を!」
抱えているロロンが叫ぶ。
えっと……あ! イセコさんが止まってる!
それから彼女は手を上にあげて――花火みたいな魔法を撃ち上げた。
あそこが待ち伏せ地点ね、了解!
「シッカリ掴マッテテ~!」
「は、はいっ!」
きゅ、と首に手を回すロロン。
よし、これなら大丈夫――軽く衝撃波を放ち、速度を落とす。
滑空しながら高度を下げて……足パイル、隠形刃腕展開!
「ヨッホッ――トットトトト!」
足ブレーキ、刃腕ブレーキで問題なく……停止!
どんどんロボみたいになるな、ボクの挙動は。
格好いいからいいけど。
「ロロン、オ疲レ様。大丈夫ダッタ?」
「じゃじゃじゃ……じゃじゃじゃ……」
地面に降り立ったロロンはちょっとフラフラしてる。
飛び慣れてないと辛いもんね。
「お疲れ様です、ムーク様。お怪我は?」
歩いてきたイセコさんは、息一つ切らしていない。
あんなにノンストップで走り続けてたのに……ダルトンさんもだけど。
「ナイデス。イセコサン足速イデスネエ~……ダルトンサンモ」
「ふふ、影衆には雄の走竜よりも速く走れる同僚が多いのです。私もですが」
凄いや……
「身体強化のコツば掴めば簡単なことだなっす。今度教えやんしょう」
ダルトンさんもやってきたけど、絶対にそんな簡単な話じゃないと思う。
できる人の『簡単』ほど信用ならないものはないのだ。
「アレ、アルデアハ?」
トーラスさんたちもいない。
「アルデア様に先導を頼み、もう少し先にある所に避難してもらっています。流れ弾で怪我をしても大変ですので」
「成程」
ええっと、ここは……昨日通った場所だね。
街道の脇に、背の低い草がまばらに生えた広い所だ。
「伝令魔法を周囲に放ちました。詳しい情報を付与したので、緊急度が高いということは把握してもらえると思います」
今更すぎるけど、伝令魔法ってすごいよね。
なんかみんな使ってるけど、意外と簡単なのかな?
『なわけないでしょう。伝令魔法は習得難度の高い魔法の一つですよ、今までむっくんが出会った使い手たちはどなたも熟練の魔法使いです』
ですよね~?
要は念話の亜種みたいなもんでしょ? 簡単なわけないですね。
『そうです、私の把握している知識では……習得していれば一生食いっぱぐれナシとされています』
うへあ、そりゃすごい。
何処の世界でも情報ってのは大事なんだよなあ……
「伝令魔法を受け取って部隊を編成し、ここへ来るまでの間ですが……我々だけで、ディナ・ロータスを食い止めねばなりません」
「デスネ。救援ハドノクライデ到着スルンデス?」
遠目で見ただけで超大きかったなあ、亀。
懐かしの『帰らずの森』で見た大地竜の成体と遜色ないデカさだった。
「敵がこちらに到着するまでには、まだ間があります。その間に私からいくつか説明をさせていただきます」
ありがたい、ボクはクソデカイ亀ってことしか知らんからね。
「んみゅ」
あらアカ。
肩で寝転がってどうしたん?
「おやびーん、おなかすいた、すいた~」
ああ、先頭の連続だったからね。
それじゃあ、イクサの前に腹ごしらえを軽く済ませるか。
・・☆・・
「ディナ・ロータスはとにかく巨大です。そして、その体格相応に皮膚も分厚くできています」
「フムフム」「あむあむ」「はもも」「チュチュピヨ」
イセコさんの説明を、車座になって聞いている。
椅子はそこら辺に転がっていた大きな岩です。
トーラスさんたちを避難させたアルデアも戻ってきている。
ちなみにボクの頭にはアカ、右肩にはヴァル、そして左肩にはピーちゃんが乗っていて……皆で仲良く干し魚を齧っている。
塩っけが丁度よくて美味しい! 歯ごたえも楽しいね!
「まず甲羅です。ここは普通の亀と同じく、奴の体で一番硬い部分です……ここには、第一等級の魔法ですら致命打を与えることはできません。狙うだけ無駄です」
だいいちとうきゅう?
『ものっそい強い魔法、と覚えておけばいいかと』
……わかりやすい!
「はぐ……それでは、どごに攻撃したらええのす?」
干し魚を豪快に噛みちぎるロロン。
歯がいいねえ! ダルトンさんは……岩みたいな干し肉をバリバリ齧っている。
聞こえてくる音が工事現場みたい! 歯がいいって言っても限度があるだろ!!
「はい。関節、胴体と手足の付け根、眼球、そして口内です……これらは『比較的』柔らかい部分です」
比較的……ですか、ぶるぶる。
「そして、敵の主な攻撃手段ですが……まず手足を振り回すだけで脅威です。岩山が飛んでくるようなものだと思ってください」
「だろうナ。触れただけで千切れ飛ぶナ」
炭酸水をゴクゴク飲んでいるアルデア。
「さらに、甲羅や身体各部にある棘が飛んできます……これは、熟練魔術師レベルの土魔法だと思ってください。生半可な結界は貫通します」
あ、ボクがやられた攻撃だ。
……もしもの時はヴィラールさんの結界に頼ろう。
後で魔石モグモグして充填しておこうか、まだ余裕はあったはずだけど。
「そして……最後にブレスです。これは、高濃度に圧縮された魔力を起爆剤として、ため込んだ岩石や鉱石を放射状に発射するものです。これだけはなんとしても被弾しないように心がけてください、私は結界術にはそこそこの自信がありますが……これは、防げて2度です」
イセコさんが2回しか防げないのォ!?
それじゃ……ボクは無理だね! 塵と化す予感だけはある!
『なんと言う後ろ向きな自信……』
自己認識は重要でしょ~?
っていうか、想像以上のバケモンだ。
これは油断した瞬間にデスってしまう……
「ならば、距離を取って魔法で……と、いうわけにもいかんのナ?」
アルデアの質問に、イセコさんが頷く。
「ええ。甲羅はもとより、奴の全身は魔法に対して極めて高い防御力を持っています……先程述べた攻撃に適した場所でさえ、第二等級の魔法を防ぎます」
だいにとうきゅう?
『ものごっつ強い魔法だと思ってください』
さっきと同じじゃ……まあ、わかりやすいけども。
むーん……あ、トモさんトモさん。
ボクの胸ビームは魔法で言うと何等級になんの?
『そうですね、現状のむっくんでは通常のもので第二等級……『過電流』でギリギリ第一等級に届かない……と言った所でしょうか』
【悲報】ボクの必殺技、通用しないことが確定。
過電流なんて悠長にむんむん溜めてたら、土石流ブレスで微塵虫と化してしまう。
ちきしょう……強くなったつもりだけど、やっぱりこの世界強い魔物多すぎ問題ですよ。
「アノ……ソウイエバ、トキーチロサンガクレタ魔石ガ、アノ亀ノモノダッタンデスケド……アノ人ハドウヤッテ倒シタンデスカネ?」
もはや遠いガラハリの記憶だ。
思えば、あの街でカマラさんとも知り合ったんだよね……懐かしいなあ。
あの魔石で一気に進化したんだよなあ……ある意味恩人かな、あの亀。
「ああ、トキーチロ様ですか……」
イセコさん、乗っ取られてたからか表情は複雑だ。
あのね、ボクはもう何も気にしてないんだからそんなに気まずそうにせんといて?
「お頭……ゲニーチロ様とトキーチロ様のような方々は、我々とは一線を画した実力の持ち主です。お二人ともが単独で第一等級を超える魔法を行使することができますので……先程の説明は、あの方々には意味を成しません」
ですよね~……ってナニ? 魔法って第一等級より上にもあるのん?
『ええ、『超越等級』と呼称されています。簡単に言いますと……ああ、そうですね、おひいさまがお使いになっていたごん太ビームがそれに該当しますよ』
あ~! アレか!
今思い出しても肌がピリピリするような魔法だったね……なるほどね。
うーん、無理! 確かにあの魔法と比べたらボクの胸ビームはカスや……
「ワカリマシタ……ツマリ、接近戦デナントカスルシカナインデスネ」
「……ええ、そうです。ここが城壁なら、バリスタやクロスボウなどもあったのですが……」
エンシュを思い出すなあ。
「クロスボウ、通用スルンデス?」
「魔法的な破壊をもたらすものでなければ通用します。私の同僚の中には『十人張り』の弓を使えるものもいます……彼女なら、ディナ・ロータスの皮膚と言えども撃ち抜けるかと」
『弓の弦を張る時に、ウォーリアーむしんちゅが10人がかりで張る弓のことです。並の人には1ミリも引けませんし、弦の跳ね返りで指どころか手が切断されます』
トモさん補足コワイぃ……
「な、なんと! それは是非ともお目にかかりたいものでやんす~!」
ロロンのお目目がキラキラしちょるねえ、平常運航じゃねえ。
――ともあれ、戦いでボクが何をしたらいいかはわかった。
「ブレスヲ浴ビナイヨウニ死角ニ回リ込ンデ――ブン殴リマクレバイインデスネ」
「その通りです、大人数での戦いなら戦術の幅も広がりますが……我々にできる戦法はそれのみになります」
うーん、地獄!
でもここで逃げてもどうにもならんしねえ……やるしかないか。
「私が先陣を切り、幻惑の呪法で相手をかく乱しつつ惹き付けます。皆様はその隙に回り込んでください」
「じゃじゃじゃ、それだどイセコさが危険になりやんすが……」
ダルトンさんが待ったをかけている。
「それなら陸と空の双方で挑発すればいいのナ。上空は私が担当するのナ」
アルデアが手を上げた。
「魔法戦ならともかく、今回の戦いでは私の戦法は役に立たんのナ。薙ぎ槍は高高度から滑空しつつ接近せねばならんので……無理ナ。よって今回は嫌がらせに魔法を放って、囮に徹するのナ」
そうか、彼女の攻撃は確かに鋭いけど……攻撃を出し終えたら動きが止まるし、上空へ退避しないと次の一撃が難しいってことね。
足で槍を使うんだもんなあ……まさかの天敵というやーつですな。
「おやびん、アカ、アルデアといっしょ、おそらいく!」
「ふむ、それならワレも手を貸そうか。速く飛ぶのはいささか得意でな」
アカとヴァルも上空組か……心配だけど、地上にいるよりはいいかもしれない。
『私はトーラスさんたちと一緒にいるわ! 何かあったら念話で知らせるわ! 知らせるわ!』
うん、ピーちゃんはそこがいいだろうね。
結界と逃走が得意だっていつも言ってるから……適材適所だね。
「ムーク様ァ!」「グモモ!」
ロロンが飛びついてきた……目が! キラキラしとる!!
「これぞ名を上げる好機! 我らも武者働きするのす! するのす~!」
「オ、オウ……ウン、頑張ロウ、ネ!」
この子はもう……可愛い子分め!
でもマントで首が締まるのは勘弁しておくれよ~!
「アカも! アカも~!」
助けておくれよ~!
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