第69話 謎虫 vs クソデカタートル。
「デッカ……」
待機場所で待つボクの視線の先に……動く岩山がある。
あれは山津波……ではなく、ディナ・ロータスだ。
まだ距離はあるけど、10メートル超の巨体は距離感がバグる……
「救援は間に合いませんでしたか……距離が半分になりましたら、手筈通りに始めます」
イセコさんが軽く首を回している。
「ムーク様、皆様、討伐を考えずに戦ってください。奴をこの場に貼り付けつつ、時を稼ぐのです……どう遅く見積もっても、半日中には助けが来るでしょうから」
半日かあ……アレ? この世界の一日って何時間だっけ?
『概ね地球と同じですよ? というか……今までこの世界で生きてきたならなんとなくわかるでしょうに』
まあね、確かにそうだね。
おおっと……そうだ。
イセコさんに手を差し出す。
「……イセコサン、クレグレモオ気ヲツケテ。アナタモ、無理シナイデクダサイネ」
すると、彼女はボクの手をガシィ!! って握った。
そして、燃えるような目でこっちを見て……
「ムーク様……はい! 一命を賭します!!」
「違ァウ!?」
やる気になったけど、このベクトルは大丈夫なのかなぁ!?
「ご懸念なく、影衆の『韋駄天』の名は伊達ではありません……!」
なんか格好いい二つ名あったんだ!?
『むほほほ、おひょひょ……ええわええわ、ドンブリメシが進むし~♪』
シャフさんがすごい不謹慎!
人の不幸で飯が美味い的なやーつですか!?
『虫よ、決してそういうわけではありませんが……後でムロシャフトは石を抱かせて湖に沈めておきます』
やめて! やめて~!!
あのね、ママ! ボク頑張るからさ! 応援してね! ね!
『母に任せなさい! 神界の霊気を地上へ送り込んで……なに、駄目? 大地が割れる? まあ、何を言うのです! 離しなさい! 私は母として――』
……愛に溢れてるなあ、ママ。
『ムーク……お主、愛されているな……』
無茶苦茶疲れた様子のヴァルがほっぺをさすってきた。
『あの人は全ての虫人にああだから……』
『……世界は広いな、ムーク』
ボクらは合わせて溜息をついた。
「それはそれとして腹が減ったぞ、ムーク」
さっき食べたでしょヴァル……
「ハイドウゾ~!」「はもも……美味い」
でも食べさせる! 干し肉を!
「おいし、おいし!」
『避難する前に食べておくわ~!』
アカとピーちゃんにもね!
・・☆・・
「オーム・スカーダ・テーゼン……スヴァーハ!」
イセコさんが詠唱すると、両足に魔力が渦を巻いて集まった。
おお……いかにも足が速くなりそうな魔法!
「では参ります――ッ!!」
どおん、と地面が弾けた。
と思ったら……イセコさんはもうだいぶ先の方まで走ってる! ハヤイ!
まさにニンジャだ! 姿勢を低くして、上半身が一切ブレてない不思議な走り方!
「よし、では我らも行くのナ!」
「あーい! いてきま、おやびーん!」
「晩飯は肉がいいな」
アルデア達もあっという間に斜めに飛び上がって空に消えていく。
ヴァル、生身じゃないから気楽なもんだねえ……アレ!? そう言えばあの子戦えるんだっけ!?
今まで食っちゃ寝しかしてなくない!?
『むっくんには言っていませんでしたが、彼女と個別で話した時にそこそこだと言っていましたよ』
内緒念話してた!? まあ、戦えるならいいか……ホログラムみたいな存在らしいのに、マルチな才能だなあ。
「ジャ、ボクハ左カラ回リ込ムネ。ダルトンサン、ロロンヲオ願イシマス」
「お任せくなっせ、オラなら直撃1回はブレスに耐えられると思いやんす。大船さ乗ったつもりでいてくださっしゃい」
生身で耐えられるんだ……スゴ。
イセコさんが正面から、アルデア達は上空から。
そしてボクは左からで、ダルトンさんたちは右からだ。
「ムーク様、お気をつけて!」
「ウン、キミモネ……行ッテキマス」
槍を持って目を輝かせているロロンを撫でた。
うーん、今日もフワフワ!
「はわわぁ……! は、はいっ!!」
「はっはっは、わげものはえがんすな~!」
ダルトンさんが爆笑しているのを見つつ、ボクも走り出す。
さあ! イクゾー!!
「――グロオオオオオオオオ! ゴオオオオオオオオオオッ!!」
まだ距離はあるのに、ディナ・ロータスの声がビリビリ響く。
亀語はわかんないけど、とにかくマジギレしてるのはわかった。
子供殺されてるしね……そこだけは同情するけど、悪いのはうんちヒューマンなのでそっちを恨んでください!
そんなディナ・ロータスだけど……ボクとは違う方向に吠えて、腕を叩きつけた!
そこにはイセコさんらしき影がいたんだけど――いない! 一瞬で別の場所にワープした!
あれはラーヤが使ってたワープじゃなくて……幻惑魔法ってやつか!
「――ッ!?!?」
あ! ディナ・ロータスの顔面が爆発した!?
怪獣みたいな顔には傷一つないけど……イセコさんの魔法かな?
ともかく、彼女が注意を引いている間に――接近!
軽くジャンプして、アフターバーナー点火!
「ングゥ~……!!」
地面スレスレをカッ飛ぶ、ボク!
殺人的な加速だ! ってやーつ!
うわわ……近付いてきたけどほんとに大きい!
ビルみたいな足には、硬そうな棘が無茶苦茶生えてる!
ええと……関節を、狙う!
「『我ガ剣ハ』――!」
ヴァーティガに魔力が宿り、蒼い輝きが視界に写る!
「『牙ナキモノノタメ』――!!」
それを両手で握って――補助翼操作! 急上昇!
足首を跳び越えて、膝っぽい所へ――!!
「デエエエリャアアアアアアッ!!」
振り、下ろす!!
棘を砕きながら、ヴァーティガは膝にめり込――ま、ない!?
なんって硬さだ!? ミッチミチに中身の詰まった鉄の塊を殴ったみたいな感触だ!?
これがディナ・ロータス……! こんなんをサクッとコロコロできるトキーチロさんはなんなんですか!
「ナラバ何度デモ――!」
棘は砕けたんだ! ヴァーティガは通用する!
それなら膝がハンバーグになるくらいぶん殴っちゃるぞ!!
前足! いただき~!!
「ヌゥウウ――!!」
魔力おかわり! まだヴァーティガの光は消えてない!
二撃目を喰らえーッ!!
「ゥオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!」
振り下ろすたびに棘は砕け、空中に散らばる。
足の方は相変わらずだけど、何度でも! 何度でもぶん殴って――
『――むっくん! 緊急回避! 上方向!』
「グガアアッ!?!?」
トモさんの声に従って衝撃波で飛び上がった、けど!
ボクが、ボクが砕いた棘が空中で反転して――突撃してきたぁ!?
ちっくしょう! ボクの左つま先が砕けた!!
「ヌ! グ! ガッ!!」
その後も次々と飛んでくる鋭利な棘を、躱して、ぶん殴って、躱して――いったん後方へ離脱ゥ!
トモさんトモさん! なにアレ!?
『自動発射式の迎撃攻撃のようなものです! 外敵に対し、無意識で射出されるようです! 今計算しましたが、一回反転して襲ってきたら魔力は切れます! 一回は躱して! むっくん!』
アイヨ~!!
これだけ距離を取ったら大丈夫! 余裕をもって回避できる!
今まさに飛んできた棘を避けて――
「オカエ、シ!!」
返礼品に三連パイルを、どうぞォ!!
発射されたボク由来の棘は、迎撃用の棘を砕き散らして貫通!
さっきぶん殴った膝に命中して――弾かれた! 知ってた!
地面に着地したボクに、次々殺到する棘ミサイル!
そんなもん横スライドで全部避けたるわい!!
『――むっくん! 振り下ろしが来ます!』
――は?
「グゥワッ!?!?」
棘に気を取られてたら、足が思いっきり地面に叩きつけられた!
大質量の踏み付けは、地面を陥没させて――ボクに、衝撃波を届けた!
ヴィラールさん特製の結界は仕事をしてくれたけど、衝撃まではどうにもならん!
吹き飛ばされ、転んで動きの止まったボクに――無数の棘が飛んでくる!
衝撃波は間に合わない、なら――魔力を! 魔法具へ!!
身を縮めたボクの正面に展開した結界が、空中で棘を受け止めて砕きまくる!
ありがとうヴィラールさん! 買ってよかったよ、これ!!
その隙に耐性を立て直して――後方へ離脱!
「『汝ガ怨敵ハ、眼前ニ在リ』!!」
ついでに、これも!
「『吠エヨ! ソノ名ノ如ク!!』」
ヴァーティガ、ビームッ!!
虚空を切り裂いたビームは殺到する棘を消し去って――膝に命中!
ホースで水を岩にかけたような感じで、空中に飛び散った! 知ってた!!
「オノレーッ!!」
『むっくん、焦らないで! あの棘は再生できないようです……このまま距離を取って躱し、止んだら近接で砕いてのルーティンですよ! まずは迎撃装置に対処するのです!』
はーい! 女神様!!
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