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第57話 ネタバラシ虫。

「しぇば、オラは向こうを」


「ハイ、オネガイシマス」


 すっかり暗くなった中、ダルトンさんが歩き去っていく。

ここは、街道からちょっと横に入った……広場?

あいにく休憩所はないので、旅人が野営した形跡のあるここで寝ることになった。

もう夕方に差し掛かってたしね。


 それから皆で晩御飯を食べて、ちょっと話した後……就寝することになった。

女性陣はテントで、そして男性陣は寝袋だ。

まだ寒くない時期だから、焚火の熱で大丈夫。


 護衛対象のトーラスさんは寝てもらっている。

ボクとダルトンさんがまず夜警で、後でロロンとイセコさんのペアに交代することになってるんだ。

野営って楽しくって好きなんだけど、この見張りが緊張するのよねえ。


「ふむ、いい夜だな」


「ソダネー」


 マントの首元からひょっこり顔を出すヴァル。

『女の肌に不用意に触れるな』ってぶん殴られたけど、彼女からくっ付く分には大丈夫みたい。

……女心となんちゃらら、ってやーつかな。


「寝ナクテイイノ?」


「お主の所のアカはともかく、ワレは完全に気分で寝たり起きたりするのだ。昼間は思う存分満喫したのでな、夜警に付き合ってやろう」


「アリガタイ」


 1人だと寂しいからね。


『ひとり~……?』


 やだなあトモさん! 忘れるわけないじゃないですか!?

いや~ボクってば幸せ者だなあ! だなあ!! 


「どうしたムークよ、眠いのか?」


「ダイジョブ」


 いかんいかん、しっかり警戒しないと……一応魔物避けの魔法具は置いてるけど、油断は禁物だからねえ。


「そうか、それならいい。しっかりワレを握っていろ」


「言イ方ァ……」


 間違ってはないけどさあ、ソレ。

なーんか落ち着かない。

頼りにしてるし、今までに大分助けられたけども……

本人? に影響はないって言っても、妖精さん入りの棍棒をブンブン丸するのはね……慣れるしかないけども。


「ヨッコイショイ」


 暗視を起動。

さっきまで薄暗かった視界が、緑色のSFめいたモノへと変わる。

うーん、ボクのお目目って便利。

好奇心から昼間に起動したときは死ぬかと思ったけど。


「ほう、目に魔力を送っているな……暗視か? 最低限の備えはしておるらしい」


「ソリャアネ」


 緑色の視界には……特に異変はないかな?

あ! 熱源反応! あの大きさは……たぶんネズミだな。

この世界には魔物がいるから小さくても油断はしないぞ!

……ムム、逃げてった。

魔物避けが効いたのかしらね。


「肩を借りるぞ」


 ヴァルがマントから出て、肩に座る。

夜風に黒髪がなびいてとっても綺麗。

ボクには存在しないモノなので羨ましい限りですわ。


『ねえヴァル。そう言えば聞きそびれてたんだけど……あの黒い魔物が出てくる期間ってどんくらい?』


 内緒話なので、念話。

コッチの方が詳しく話せるってのもあるけどね。


『ふむ……只人の感覚は我々には短すぎるが……ううむ、おそらく1年を超えることはあるまい。恐らく半年と言った所か』


 超今更なんだけど、この世界も1年は12カ月あるんだ。

四季とかは国や地方で微妙に違うけど春夏秋冬もある。


『へえ、意外と短いんだね』


『魔力大河は巨大で、そこに流れている魔力も膨大だ。いずれは正常な魔力が流れ始め、この異変は終わる……だが、終わらせる手段はないぞ? 古来より、この期間はひたすら耐えるだけだ』


 それはそれでキツイものがあるなあ。


『我々には少し縁遠いが、あの魔物は倒しても金になるわけではない故な。疲弊する兵が多かったと……記憶しているような気がするぞ』


 あ~、ブラック魔物って強いけど買い取り不可だったもんね。

手間賃はギルドから貰えたけど……国全体としては経済活動に支障がでそうだ。

妖精さんたちには貨幣文化がないから、そこに関しては大丈夫だけど……モグモグされるリスクの方が大きいしね。


『東と北のクソヒューマン国家でもこの異変って起こってるんかな……それならそれでいい気味……でもないや、上がクソでも末端の人たちは可哀そうだし……』


 前にバレリアさんが『貴族の子供は洗脳教育されて人族至上主義になる』って言ってたのを思い出した。

なら、下々っていうか平民さんたちはまた違った感じだろうし……


『ぬ、その2国ならなんとなく見知っておる。確かに上層部は滅んでしかるべきであるが……民はな、全てが邪悪というわけでもあるまい。あの国には同族もいくらかおるようではあるし……全て滅べと言えぬのが、ちと残念だ』


 やっぱりそうよね。

王様がいくらカスでもねえ、下々さんたちも同じじゃないだろうし。

っていうか全部アレだったら国として成り立ってないだろうし……


『認めがたいことではあるが、あちらでも虐殺なぞはされておらんだろうし……』


『あ、そういうのってわかるんだ?』


 腕を組むヴァル。


『ああ、妖精が寿命以外で死ぬとすぐにわかるのだ。寿命で死んだ場合でもわかるが……その場合とは反応が違う。これは、魔封じの結界などでは防げぬし、我ら妖精以外には感知できぬ……なので、無体な扱いはされておらん』


 なるほど……

前にトモさんが言ったみたいに、『珍しいペット』扱いなのか。

ううむ……こうしてしっかり意思疎通できる相手をペット扱いか……ボクには無理だね、無理。


『あ、そうだ。それはそれとして……ラーヤが避難させてる妖精たちってどこ行くの?』


 どっか遠い所に避難所でもあるのかな?


『ああ、あれは【淡いの狭間】という場所に連れていくのだろうな』


 あわいのはざま?


『この世界であって、この世界ではない場所だ。エルフどもの国に少し似ているが……此度の騒動の余波を受けぬ所だな。長くいると弱い妖精にはそれはそれで悪影響があるが、1年少々では問題あるまい』


 ほーん、ほんほん。

よくわかんないけど、それなら安心だ。


『アカはお主と共に数々の戦いを潜り抜け、幾度か姿を変えておる。アレならば不浄の気にも当てられまい……意志が強く、聖を愛し邪を疎む本能がある。そのように心配せずとも大丈夫だ』


『そっか~……よかった! お互いに虫だった時から一生懸命生きた甲斐があったよ、うん』


 ムムム?

なにヴァル、こっちを見て。


『……なるほど、虫人らしからぬ男だと思うておったが……そういうわけであったか』


 あ。

そっか……ボクが虫出発だって言ってなかった!


『粗忽虫!』


 ごめんなさい!!


『ふむ……周囲に魔物の気配はない、な。ムークよ、これからも長い付き合いになるのだ……ここらでお主のことをしっかり聞いておきたいものだな、んん? 隠し事はナシだぞ?』


 お、おお……ねえねえトモさん! どうしよ!


『まあ……問題ないでしょう。妖精相手ですし、いつかはアカちゃん経由でバレるでしょうね』


 あ、そっかあ……アカも成長してるもんね。

んでんで、転生者ってことも話していいよね?

今までヴァーティガ(ヴァル)には大変お世話になったしさ……なかったらボク死んでると思うし。

隠し事とかは少ない方がいいと思うんよね、ヴァルとしては知り合ってすぐだけど……ヴァーティガとは長い付き合いだもん。


『それも含めて問題はないでしょう。むっくんの粗忽ゆえのことですが、まあ……』


 粗忽が憎いや。


『ぬ、嫌なら無理にというわけには……』


 おっと、何か勘違いしたヴァルがほっぺをさすってきた。

こしょばい。


『ああ、ごめんね。ちょ~っと込み入った話だから整理してたんだよ……じゃ、そもそもはね~……』


 なんとか整理をつけて、ボクは口を開いた。



・・☆・・



『なるほど、なるほど……お主のどこか浮世離れしたモノの知らなさはそういうわけだったのか……』


 ちょっとだけ長い語りの後。

暖かいお茶を飲んで、ヴァルはため息をついた。


『しかし、転生者とはな……』


『自分て言っておいてアレだけど、よくスッと信じたね?』


 おお、ジト目が返ってきた。


『異常な回復力、一晩眠るだけで形の代わる進化、それに魔石を喰らって魔力を回復するとなると……むしろ女神の加護でもないと信じられぬわ。そうか、お主が時折虚空を見つめて黙っておったのは……女神と交信をしておったからか』


 わー、すごい理解力。

あっという間に結論にたどり着いちゃった!


『――そう言うことです、ヴァルナディーナさん。私は女神トモと申します』


『――おお、これはお初にお目にかかる……以後、お見知りおきを』


 流れるようにトモさんと挨拶!

念話の生えてる人はスムーズでいいねぇ!


『こちらから話しかけるのは簡単ですからね。ヴァルさんの素養はアカちゃん以上ですし、事ここに至っては円滑な人間関係のためにこうした方がいいでしょうし』


『ふむ、ワレとて女神との付き合いは初めてではあるが……随分と話しやすいお方だな。なるほど、ムークが生きて来れたわけだ』


 ボクもちょっとだけ! いや結構頑張ったけどね!

それでもトモさんがいないと野垂れ死にインセクトだったからねえ、そこは正直にありがとうですよ。


『ふふふ、それは嬉しいことです……それではこれからもよろしくお願いいたします。個別で相談をすることもあるかと思いますので……主にムークくんの女性関係への機微の無さなどで』


『ああ……うむ、それは……そうですな。いくら生後1年未満とはいえ、この図体でアレは……』


 ちょっと! なに2人して呆れてるの!!


『そんなにボクはアレですか!?』


『――当たり前であろう?』『――是非に及ばず、ですよ?』


 ぎゃふん。

ぐうの音も出ない断言ですこと……つら、つらたにえん。

夜警しながら横になっちゃいそう……


『しかし、お主は面白い奴だな。ふふふ、表に出てきて正解だったやもしれぬ……ははは、拗ねるな拗ねるな』


 ほっぺをプニプニせんといて! せんといて~!


『ファイトですよ、むっくん』


 だから何を!?


『あ、真名は内緒にしておきましょうね?』


 それはわかりました……それで何をファイトするんですか!


『あらあら、仕込んでいた鶏がらスープの様子を見に行かないと……あらあら』


 ンモ~!!

トモさんの意地悪! 意地悪ゴッデス~!


『ムーク、ムークよ』


 なんですかヴァルさんや。

そんなにニヤニヤして。


『しばらくは退屈せずに済みそうだ。礼を言うぞ』


 ……まあ、いいか。

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― 新着の感想 ―
是非も無し!
更新ありがとうございます!粗忽虫の出番が多いwヴァルさんいいなぁ。ムッくんは人運はカナリいい。所でトモさん。鶏ガラスープ、アッサリ鶏醤油ラーメンでしょうか?激しく食べたい!
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