第56話 トルゴーン北端を目指して。
「出発~!」
「しゅっぱつ! しゅっぱ~つ! あははぁ!」
肩に乗ったアカが、楽しそうに拳を突き上げている。
「いい天気でやんす~!」
『空気が澄んでるわ! とってもいい気持ちだわ~!』
ボクの横にはロロン。
そして、その頭の上にはピーちゃんがいる。
「頑張りますのでよろしくお願いします! ムークさん!」
「が、頑張って歩くのナ!」
やる気十分、って感じの護衛対象であるトーラスさんに、デルフィネさん。
「本当に頼むのナ~?」
アルデアは、その後ろでジト目をしている。
……大丈夫なんじゃない?
この前も歩くだけなら頑張ってたし。
「まあ、様子ば見ながらゆるゆる行きやんしょ」
最後尾のダルトンさんが、柔らかく微笑んだ。
イセコさんは例によって先の偵察に出ているので、別行動。
いやー、気が付けば結構大所帯になったなあ……パーティっていうより、隊商ってかんじ。
何の商売もしてないけどね~。
・・☆・・
ヴァーティガに妖精さんことヴァルがINしていたことが発覚して、3日後。
ボク達は、とうとうリーチミを出発することにした。
トーラスさん達は、前回デロデロに疲れ果てたことを反省したみたいで……ボクらが依頼やらなんやらで外出中に、街中で旅用の装備を買い込んだりしていたみたい。
ボクも覚えている『健脚のタリスマン』とかね……カマラさんを思い出すなあ。
これで、あんまり疲れずに歩けるといいけども。
ポチくんたちにも挨拶したかったけど、依頼で不在だったから仕方ない。
またどこかで会えるといいねえ。
ちなみに、ラーヤは本来の目的である小さい? 妖精さんたちの保護活動に戻って行った。
なんでも北部は大体終わったから、これから南部を確認してマデラインに行くんだって。
さすが、ワープを駆使できる妖精さんは行動が素早いですなあ。
そしてボクらは宿屋のお姉さんたちに惜しまれつつ、朝早くに出発することにしたんだ。
あ、もう一つちなみのヴァルなんだけど……
「おねーちゃ、げんき、げんきぃ?」
「――うむ、気にするな。ここは居心地がいいゆえな……ふあぁ」
マントの内ポッケに潜り込んでウトウトしています。
「ふふふ……何もせずに寝ていられるという贅沢を噛み締めておるのよ……」
「ほえ?」
アカにはまだわかんないかな~? ボクにはちょっとわかるけどもね。
……ああ、ヴァル?
なんかねえ『もう実体化しちゃったからいいや』的な感じのことを言って……今に至る。
実体もあるし、ボクをぶん殴れる彼女だけど……ヴァーティガの中の『本体』とリンクはしていないらしい。
だから、思う存分振り回して大丈夫だって太鼓判を押されました。
……未だに違和感はあるけども。
あと、ヴァルとヴァーティガは分けて考えることにしました。
こうして分離? もできるし。
他の皆には『ヴァルはラーヤの友達で、避難活動の手伝いが終わって暇だから旅に同行する』と説明した。
なんかボクにはピンとこないけど、妖精ってのは『気まぐれ』っていうイメージがあるみたいで……快く許可をしてくれた。
まあ、妖精が幸運を呼ぶっていう話もあるみたいだしねえ。
ボクの仲間はみーんないい人で素敵だねえ。
『ねえヴァル、ずうっと出てて大丈夫なん? あの、消耗とかせんの?』
そう念話で問いかけると、面倒くさそうに半眼で見てきた。
『……そんなことか。今までに大気から貯め込んだ魔力があるからな、さほど長くはないが……そうだな、200年ほどは大丈夫だ』
さほど長い! ボクの獲得するであろう寿命よりも長そう!!
……まあ、それだったらいいか。
『出てしまったものは仕方がない。これからは思う存分お主にたかることにするぞ……ワレを好きに使えるのだ、それくらいの対価はあってしかるべきだろう?』
『ああ、それは全然いいけど……アカもお姉ちゃんができて喜んでるし。別に何かしろ~! って言う気はないから、ゆっくりしてて』
この人、洞窟で何百年もほったらかしだったんだもんねえ……それくらいはね、OKすぎますよ。
『ふふん、わかっておるなお主……優しさは戦士にとっても重要だぞ……うむむ、眠い』
なんかちょっと嬉しそう。
ヴァーティガには今まで散々お世話になったからねえ、恩返しせんとねえ。
「ヴァルはよく寝るのナ。そこはそんなに寝心地がいいのナ?」
「暖かな陽気に包まれ……ユラユラ揺れて……なんとも極楽よ……ふわぁあ……」
「ムムム……私もムークにおぶさって寝てみるかナ?」
なんでそうなるの、アルデア。
「大キイ子ハ無理デス~」
おも……くはないけど! 魔物とか出てくると大変でしょ!
前に酔いつぶれた時には背負ったけどさ。
『なんこれ……メイヴェル様との無制限一本勝負3日間耐久から帰ってきたらむっくんの仲間にあのナイスバディ妖精が加わっとるし! はー! むっくん! あーしがいない間にねんごろねんごろしたんか! したんかもごごごごごご』
『カスタード入りの回転焼きもしくは大判焼きをどうぞ』
『うんっま! うんっま!』
ありがとうトモさん!
……3日間も戦ってたんだ、シャフさん。
わかってるような気がするけど……結果は?
『むぐむぐ……気が付いたら岩山にめり込んでたし! やっぱあの人パねーし、ヤベーし!』
……そうなんだあ。
・・☆・・
「ドデスカ?」
「はい、大丈夫です! 今回はより入念に準備をしましたので……!」
「私も歩くのに慣れてきたのナ、もう迷惑はかけないのナ!」
朝に出発し、『北端街道』を歩くこと目測数時間。
休憩場所にたどり着いたトーラスさんたちは、前よりも余裕がありそうに見える。
タリスマンとかの効果に加えて、心構えも違ってるからだろうかな~?
「昼食は消化にええ野菜多めで作るのす! ごゆっくりなさっておりやんせ~!」
ウキウキで鍋をかき混ぜるロロンも嬉しそうだ。
「ナナン……ナナンナ……」
「うむむ……やわらか……ううむ……」
アルデアは適当な草の上に敷物をして夢の中。
ヴァルも、母性の谷間で夢の中である。
……アカもピーちゃんもやってたけど、寝心地は良いんだろうね。
しかし平和平和、平和って最高。
道中も魔物出なかったし、このまま行きたいねえ。
あ、アカとピーちゃんは昼食前の空中散歩です。
ダルトンさんは周囲の見回りに行っていて、いない。
あの人って自然体に見えるけど、たぶん微塵も油断とかしないんだろうな……見習わなきゃ、ボクも。
ボクはといえば、適当な切り株に腰かけて木工虫なう。
かりかり、しゃっしゃ。
『おー! あーし! あーしじゃんそれェ!』
そうです、シャフさんです。
女神像をしっかり見たからね、忘れないうちに彫っておこうと思ってさ。
リアル頭身をしっかり作ったら、次はSDシャフさんの制作に移る予定なのよ。
『うむむむ……顕現できない我が身が恨めしいです!』
それはごめんね、トモさん。
ボクも頑張って進化するからね、もうちょっと待ってて。
いつになるかはわかんないけど……
『その思いにトモさんポイントを進呈しましょう、うふふ』
やったね! 謎じゃないけど使い所がわかんないポインヨがまた増えた!
『シャフさんポインヨが一定数溜まったらウチとこのドスケベ神官派遣しよっか?』
ノウ! ノーサンキュー!!
『据え膳食っとけって~? 性格も体も最高で最強よ~?』
いいから! 今はそれどころじゃないから!
まずは当面の目標を完遂せんとあかんのですよ!
『(ちゅーてもね、トモちん。むっくんの性格と行動から察するに……あれよ、どストライク認定されるかもしれんのよね)』
『(惚れられる所までは責任が持てませんね、ええ。むっくんはボケボケのポヤポヤですが、行動力もありますし外見も……まあ格好いいので……ある意味劇薬ですよ)』
『(それな~? イセコちゃんよろしく撃墜されるかもわからんね~?)』
……?
なに、内緒話でもしてるのかな?
まあいいか、静かになったし。
「ムーク様、戻りました。この先にも主だった棄権はございません……いても森狼かコボルト程度でしょうか」
虚空からイセコさんが出てきた。
偵察助かるなあ……駆け落ちの護衛も手伝ってくれてるし。
「オツカレサマデス。コレ、果実炭酸水ト甘イモノデスヨ~」
もうそろそろ帰ってくるだろうと思ってたから用意してたんだよねえ。
バッグの中には食料も甘未もどっちゃりありますのよ!
『それに雑草も』
捨てなきゃ! 捨てなきゃ!!
「あ、ありがとうございますムーク様……いただきます!」
むう……お友達になれたと思ってるんだけど、イセコさんとはまだ距離を感じるなあ。
これからもっと仲良しさんにならないとねえ。
『むほほ、よきよき……』
シャフさん仕事大丈夫なん?
『あーしはどっかのママと違って仕事量そんなでもないし~? デキるキャリアウーマンって呼んでもいいし~?』
まあ、困ってないならいいか。
トモさんの部屋がどんどん料理屋さんになっていくけども。
『いいんですよむっくん。私もどんどん料理が好きになってきたので……やはり、食べてもらうことが上達のコツですね』
ふむん、トモさんが楽しそうだとボクも楽しいや!
「これは慈愛の女神ムロシャフト様ですね……む、ムーク様はこのような体系がお好みですか?」
じいっとシャフさん木像を見つめているイセコさん。
ふーむ……
「女神様ハ皆オ綺麗ナノデ、イイ木像ヲ作ル腕試シニ丁度イインデスヨ。ドンナ体系デモ気ニハシマセンケド」
おっぱい星人虫認定されたらちょっと困る。
具体的にはアカの教育に悪いですので~?
「そ! そうですか……ふふ」
あれ、なんかイセコさん嬉しそう。
なんかイイコトあったんかな~?
「たろいま! たろいま~!」
『戻ったわ、戻ったわ~』
あ、アカたちの帰還だ。
「オカエリ~。何カアッタ?」
「へーわ、へーわ!」『ポカポカ陽気で素敵よ、素敵だわ! ムークさんの肩もポカポカで素敵よ!』
直射日光で温まったからねえ。
さーて、そろそろお昼ご飯もできたかな~?




