第53話 フェアリーテイル入りま~す。
「生まれたての妖精はなんと可愛らしいものだな。真っ直ぐに育っている……お主の教育の賜物という奴か」
「イヤイヤソンナ……アカハ世界一カワイイ妖精デ、世界一カワイイ子分ダカラネエ。元々ソウダヨ」
「んっふっふ、『見知って』はいたが……たいした親分振りだな、ムークよ」
「ねぇ~? とっても仲が良くって素敵だわぁ♪」
ボクと、ラーヤと、それからヴァーティガ……じゃなくって! ヴァルナディーナことヴァル。
ボクらは寛ぎつつ、話している。
場所は、宿屋1階の食堂。
すっかり夜で、周囲は真っ暗。
テーブルに置いた魔導ランプの灯りの中で、ラーヤとヴァルの髪は神秘的に輝いている。
金色と黒で目が楽しい!
サウナで会った、というか出てきたヴァルと一緒に宿屋に帰った後だ。
アカは新しい妖精に興味津々で、ピーちゃんと一緒に大はしゃぎ。
ラーヤや皆も交えて、和やかな夕食になった。
その中で、ヴァルは『ラーヤの知り合いで、今回の妖精の避難活動を手伝いに来た』ということになっている。
……まあね、ヴァーティガの中身です! って言うより信じやすいからね……
そんなわけで、ボロがでないかとヒヤヒヤのボクを尻目にヴァルは上手く立ち回った。
考えてみたら、無茶苦茶長生きさんなんだからそれくらいの経験はあるだろうねえ。
生後一年未満虫が心配することではなかったわい。
で、今。
なんでみんなが寝静まった深夜にこうしているかというと……ボクに対する諸々の、説明のためだ。
だってあのままサウナ内で延々話し合ってたらさ、絶対ボクが中でぶっ倒れてると思われるじゃん。
店員さんとか超来ちゃうじゃん。
そしてその結果美女妖精2人とサウナしてるボクが見つかるわけじゃん?
ボクが死ぬじゃん? 社会的に。
というわけで……ヴァルはラーヤのお友達を名乗りつつ、乗り切ったってわーけである。
『でも大丈夫かな。イセコさんってば凄腕のクノイチだからバレない?』
「大丈夫よぉ。私の結界ってちょおっと凄いんだから」
ボクの念話に、ウインクで返すラーヤ。
この場にはなんかすごい結界魔法が使ってあって、たとえこの場に誰かがいてもそれに気付かない……というものらしい。
意識できないようにするというか、存在を消すんだってさ。
それに、音も光りも漏れないという素敵シールドというわけですよ。
『むっくんは粗忽者なので忘れているかもしれませんが、ラーヤさんの魔法の発動は女神である私にも関知できないようなレベルなのですよ? 今は位階もかなり上昇しましたが、それでもわかりません』
ボクは粗忽虫でございました……!!
『……で、中断してた話だけども。いい? 正直ボクはもう何が何だかわかんないよ……まずさあ、ヴァーティガとヴァルは別物? 別人? なの?』
わからなさすぎてもう逆に冷静まであるよ、ボクは。
「ふむ……お主とは夢という形で邂逅したが、あの場では時間も限られておったし……覚醒したお主が全てを忘れているという可能性もあった。なので、あの場では特に訂正はせなんだか……」
腕を組むヴァル。
……あ、今更だけど服は着てます。
黒い布を体に巻いた感じで。
なんだっけ、古代ローマ的な人がやってた……ドーガ?
『惜しい! トーガ、ですよ』
トモさん補足が冴えわたるなあ……そうそう、それそれ。
「……聞いとるのか?」
「アッハイ、スゴク聞イテル」
やっべやっべ。
トモさんとの会話中は周囲への反応がおろそかになるからな……
「まあ、よい……結論から言うぞ? ワレはヴァーティガでもあり、ヴァルナディーナでもある」
……?
どゆこと?
「間の抜けた顔だのう……そもそもであるがな、この体は実体ではない。ワレの本体はヴァーティガの深奥……そこにある結晶なのだ」
『えっ嘘? じゃあ今のヴァルは幻覚……?』
すっごいリアルだけどなあ?
ほっぺも……うん、プニプニだ、プニプニ。
「ほまにゃむ、ももも……無遠慮に女の体を触るな!」
「――ギャイン!?!?」
……感触ありますが?
ほっぺの感触もあったし、何より今ボク思いっきり蹴とばされましたが???
しなりが効いていてすごく痛い! このサイズなのにアルデアキックに勝るとも劣らない!
「……今のはワレの説明が悪かった故、許してやる」
「蹴ラレタンダケド……」
「ふん、不躾にワレの頬に触れたのだ。本当ならば首を飛ばしている所だぞ」
……凄く許されてる!
無事でよかった! むっくん・ヘッド!
「話を戻すぞ……ワレの本体は結晶だが、その気になればこうして肉を持って外に出ることができる。だがあくまでもコレは仮初の体……この身は何をされても滅ぶことはないが、結晶を砕かれるとワレは死ぬ……試してはいないが、『わかる』」
「フムフム……」
実体化機能付きのホログラムみたいな感じ?
流石は異世界……ファンタジー要素はもうお腹いっぱいですのよ。
むしろボクにしてみたらファンタジー通り越してSFなのよ。
『そうなんだ……あのさ、そもそもなんでヴァルはヴァーティガに組み込まれてるの? なんかの罰とか呪いで封印された……とか?』
一体全体何したら妖精をパーツに武器を作るのさ。
古代エラム魔法帝国は鬼畜国家ですか???
「ふぅむ……」
ヴァルはテーブルの端に腰かけて、ボクがお茶うけに出した硬い獣人クッキーをバリバリ食べた。
歯が丈夫ですねえ……
「ヴァルナディーナ? ムークちゃんは大丈夫よぉ? 私が言うまでもないって、わかってるでしょ? あなたも」
「……むもも、めめめめ」
……飲み込んでから喋ればいいんでないのかな?
長いことヴァーティガの中にいて……お腹空いてたんかな、ヴァル。
「んぐ……ムーク、飲み物を」
「ハイハイ」
果実炭酸水を小さなコップにトクトク。
アカ用に作りまくったから在庫は山ほどあるのだよ!
「んく、んく……ぷは! 我が身に不満はないが、本体が飲み食いできぬのだけが残念だ」
結構な食いしんぼさんなのかもしれない、この子って。
「さて……ムークよ。そもそもの出発点が違うのだ」
『出発点?』
「ワレはな、妖精の身でそのままヴァーティガに組み込まれたわけではない……先に、結晶の状態だったのだ」
……ええと。
『妖精さんって何かがあると結晶になっちゃうん?』
生き物としてユニークすぎ……!?
――その時、むっくんに電流走る。
『ちょっと待って!? じゃあウチのアカもそうなるかもしれないってことォ!? やだやだ! そんなのやだ~!!』
あの天真爛漫でカワイイアカが石になっちゃうなんて!?!?
病気か何か!? やらいこっちゃすぐに調べて対応しないと!!
「――落ち着け粗忽者」「――キエフ!?!?」
ヴァルパンチが! ヴァルパンチが顔面に! ほっぺたちょっと割れたァ!!
「落ち着いたか?」
「スゴク落チ着イタ……」
頬が割れたけど……
「こほん、これから話すことは妖精族の根幹にかかわること故……決して口外するでないぞ」
「それだけはお願いねぇ、ムークちゃん」
ラーヤがヴァルの横で、手を合わせて首をかしげている。
「――約束スル。ナンナラ、コノ首ヲ賭ケテモイイ」
妖精の秘密なんでしょ。
アカのおやびんたるボクが……そんな約束を破るわけがない!!
ここだけは胸を張れるネ!
「ふん……まあ、よかろう」
何が良かったのか、ヴァルは話してくれるみたい。
「あら~♪ いい子、いい子ぉ♪」
ラーヤは嬉しそうに肩に飛んできて、頬を撫でてくれた。
あったけぇ……ヒビも治っていく……!
ナンデ!?
「お主は【ミュディオ鉱】という名を聞いたことがあるハズだ、ムーク」
お、お~……?
あ、確かに聞き覚えがある可能性がなきにしもあらず……?
『お馬鹿虫……フルットのゴゴロンさんが言っていたでしょう? ホラ、鑑定してくれたドワーフさんですよ?』
あ~! 思い出した! 完全に思い出した!
あの人でも話にしか聞いたことがないって言ってた……超絶珍しストーン!!
そういえばヴァーティガの奥にあるって話だったけど……
「……思い出したようだな。 エルフやドワーフたちにミュディオと呼ばれている鉱石……それは、我ら妖精の古き言葉でこう呼ぶ……【ラール・プロクマ】、お主らの言葉に訳せば【命の結晶】とでも言おうか」
一呼吸置くヴァル。
彼女は炭酸水をもう一度飲んでから、口を開いた。
「――ソレは、天寿を全うした妖精の、成れの果てだ。我々は無から、現象から、もしくは既存の生き物から産まれ……やがて、ソレに至る」
……つまり、妖精さんは寿命で死ぬと結晶になっちゃうってこと?
そ、そっか……それならアカがすぐさまストーンになっちゃうのは無しってことね……安心した。
『じゃあ……ヴァルって幽霊なん? だって死んで結晶になったんでしょ?』
「そこが難しい所なのだ。正直、ワレにも何故こうして思考できているのか皆目見当がつかん」
ヴァルは腕組みした。
「そうなのよぉ、私もビックリしちゃったのぉ。私達は結晶になったら、あとは長い長い時間をかけて大気に溶けていくのよぉ? そして、いつかまた新しい妖精になって産まれてくるのぉ」
「ソウナンダ!?」
輪廻転生ってやーつかな?
「私も、結晶になった方々は何度か見たことあるけどぉ……ヴァルさんみたいな存在は初めてなのぉ」
ラーヤも知らないんだ……それじゃ、ボクにわかるハズがないね。
……あ。
トモさんトモさん、このことって詳しく……
『――開示することができない情報です』
……答えはあるけど、教えられないってことね。
神様たちの情報でもロックがかかってるんだから……なおさらわかんないねえ。
『つまりヴァルは、結晶の状態でヴァーティガに組み込まれたってわけか……その時のこととか覚えてる?』
ヴァルは苦笑いをして首を振った。
「無理な話だ。自分が死んでおった間のことも、それどころか死ぬまでのことも覚えてはおらん……ワレが覚えているのは、精々ここ300年ほどのこと。それも、ハッキリと物を考えられるようになった時には……ほれ、お主と出会ったあの洞窟におったのだからな」
「スゴクカワイソウ……」
物心? ついた時から洞窟に何百年なんて……ボクなら発狂ものですわ。
「妙な感覚だけがあるのだ。先程話したような物事に関する知識だけは豊富にあるが、それを見聞きした記憶がないのだ。どうやら『生前』のワレは随分と博識な妖精であったらしい」
あ、ボクと同じ感じなんだ。
エピソード記憶がないのね……
「まあ、こうして顕現してしまったのでお主とは……」
くぅう、と可愛い音がした。
これは……アカからよく鳴る音!
「……腹が減った、もっと何か食わせろ」
ヴァルの褐色のほっぺたが、桜色になっていた。
こういう所はアカみたいでカワイ――
「――イダァイ!?」
ヴァルパンチが! 眉間に!!
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