第52話 夢だけど! 夢じゃなかった!!
『棍棒って……ヴァーティガのこと?』
なんか、内緒話的な感じなので念話に切り替える。
ボクにスキルは生えてないけど、ラーヤにはあるからね。
『そうそう、その棍棒さんのことよぉ』
空気を呼んだのか、ラーヤも念話で返してきた。
……今更だけど、この個室サウナ暑いな……失神するまでにお話って終わるのかな?
内緒っぽいから外に出ることもできないし――あ、なんか急に涼しくなった!?
『うふ、風の魔法をちょいちょいとねぇ♪』
『はえーすっごい……何でもできるなぁ』
そういえばラーヤ、前に悪臭ガードに風を使ってたなあ。
やっぱりこの人凄いや。
『さてと……これでお話できるわねぇ。今、棍棒さんって出せるぅ?』
『うん、マジックバッグはボクがいつも持ってるから……』
腰にくっ付けといたバッグから、ヴァーティガを取り出す。
街を歩く時とかは隠形刃腕の収納場所に入れてるけどね。
ちなみに戦う時はうんと小さくして首元か延髄のあたりにペッタリさせてるんだ。
前にクソ人間の自爆で胴体なくなったことがあるから、念の為にね。
まあとにかく、ヴァーティガを出した。
……今更だけど『なんじゃこれアッツ!?』とかビックリしてないかな?
『はい、これでいい? ……あ、触ってもいいよ』
許可出しとかないとラーヤがビリビリするかもしんないし。
『ありがとぉ♪ ちょっとごめんなさいねぇ……』
ラーヤは肩から飛び立って、立てかけたヴァーティガにそっと両手を当てた。
そして……頬をぴったりくっつける。
熱くないんかな?
『魔法はかけておくから、待っててぇ……しばらく黙るわぁ』
へえ、なんか長いことかかるんだな……
まあ、この状態だと倒れることはないだろうし待とうかな。
……個室サウナで、妖精とはいえ大人? の女性とふたりっきりか……
うわわ、意識したらなんか恥ずかしくなってきたぞ……!
・・☆・・
『おおおおい!? あーしがちょっと縛り付けられてる間に何があったし!? あれ? ひょっとしてちょっとじゃなくて200年くらい経過してたカンジ!? あの、あのむっくんがサウナにオンナを連れ込んどる~!!』
『ちょっと! プライベート空間ですよムロシャフト様! 駄目です! お風呂とトイレは尊重しなければ駄目です~!!』
『だいじょぶだいじょぶ! ちょっとくらいだいじょ――あ』
『 ム ロ シ ャ フ ト ォ … … ‼ 』
『あああ! 壁が! 壁が~!? あああ、お隣様こちらに! この神式業務用冷蔵庫の陰なら安全ですので! お早く!!』
・・☆・・
『……ふぅ、お待たせぇ』
時間にして、たぶん5分くらい。
ずうっとヴァーティガに頬を寄せて黙っていたラーヤが、こちらを向いた。
かなり集中してたみたいだね……
『別にいいけど、何かわかったの? っていうか何を調べてたん? 素材?』
『う~ん……まあ、似たようなものねぇ』
ラーヤは再びボクの肩へ帰ってきた。
そこ定位置なんだ……落ち着かない! なんかアカと違う! 言わないけど!
『あのねぇ、ムークちゃんが戦ってる時に近くにいたって言ったでしょぉ?』
『うん、言ってたね』
『あの時ねぇ、確信したのぉ』
……確信?
『何を?』
そう聞くと、ラーヤは何とも言えない顔をした。
嬉しいような、悲しいような……
『――その棍棒ちゃんの中にねぇ、同族がいるわぁ』
……どうぞく?
同族って言うのは……同じ種族って意味だから……?
え……? つまり……???
『えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!!?』
『まぁ、大きな念話ぁ』
なんとか念話のみで叫んだボクを褒めたい!
大きな念話ってなんですか!?
『え、えええ!? じゃあなに!? ヴァーティガの中に妖精さんが入ってるってことォ!?!?』
『ええ、そうよぉ』
……じゃ、じゃあアレですか!?
ボクは今まで妖精さんの入ったヴァーティガをぶん回して魔物とか人間とかをぶん殴ってたって……ことォ!?
嘘でしょ!? なんて罰当たり……いや、妖精当たり!?
ど、どどどどうしよ……
『あらむっくん。前に夢でヴァーティガさんとお話したと言っていたでしょう? その時に嫌がっていましたか?』
嫌がってなかったけどさ! あれはあくまで夢でしょ!?
それにさ! その時はアレですよトモさん!
ゲームとか漫画にある……武器が意思を持った的な存在だと思ってたから!
まさか妖精さんが入ってるなんて夢にも思わないよ! ヴァーティガもそう言ってよ!
え、えぇっと……とりあえず!
『何故土下座を?』
申し訳なさすぎるので! のーで!!
まずはそっと肩のラーヤを降ろして……! こうするゥ!!
『ラーヤごめんなさい! ヴァーティガごめんなさい! 許してください何でもしますからァ!!』
『あら、あらあらぁ? ムークちゃんどうしたのぉ?』
神聖虫土下座してるから見えないけど、ラーヤが物凄く慌ててる気がする!
『だってだって! 妖精さんをぶん回して戦ってたんだよボクはァ! とんだ鬼畜虫だよ! ド変態虫野郎だよ! 知らなかったとはいえ申し訳ございませェん! ハラを斬りますゥ!!』
『あ、あらあらまあ、ど、どうしましょ? ムークちゃん、あの、とりあえず頭を上げてぇ?』
ラーヤがとってもオロオロしているけど、ボクは何も言えねえ……!
『ねぇねぇムークちゃん、私も『その子』も全然怒ってないのよぉ? 大丈夫よ、大丈夫なんだからぁ』
なんか頭を撫でられている気がする。
……ムムム?
『『その子』? って……ヴァーティガ?』
意思疎通できてるの?
『そうよぉ……うん、この場でやった方がいいわねぇ』
土下座状態で頭を上げると……ラーヤはヴァーティガの横で立っている。
そして、表面に手を添えて……なんか光った! 眩しい!?!?
っていうかやるって何を!? ボクの処刑!?
『――ふん。まだ姿を見せてやるつもりはなかったのだがな』
光が収まると……そこには、1人の妖精が浮いていた。
ヴァーティガの横にフワフワって。
『――こうして面と向かうのは初めてだな、ムークよ』
その妖精は、黒くて長い髪を生やしていた。
とっても艶やかで……超長い。
だって身長よりも長いもん、滅茶苦茶ロングヘア。
『ははは、虫人の癖になんという阿呆面だ。初対面だが、夢で見知ってはいたというのになんだその面は』
濃い目の褐色肌の妖精は、そう言って笑った。
なんか……ワイルド! アカともラーヤとも違うタイプ!
目も赤くて綺麗! ルビーみたい!
背中には黒い羽が2対生えてる……黒曜石みたいな輝きの、鋭利な結晶の翼だ。
格好いい! なんかロボットみたい!
『えぇと……ヴァーティガさん、ですか?』
『なんだ、他人行儀だな……ぬ、なんだその布は』
ボクはそっとタオルを差し出した。
『服着て! お願いだから服着てェ!!』
……ヴァーティガは、すっぽんぽんだった。
しかも、ラーヤよりも大人だった。
ナイスバディだった。
『誰かに見られたらボクが投獄されちゃう! お願いだからこれ巻いてェ!!』
ヴァーティガは、きょとんとした顔をした後……タオルを受け取って爆笑した。
『はははは! なんだこやつ! 言うに事欠いて服を着ろか! はははは! はははァ!!』
念話で爆笑なんて器用ですねェ!!
でも笑うとちょっと幼く見えるな……ナイスバディだけど!
・・☆・・
「おお、お主がアカだな」
「ふぇえ? だれ、だぁれ?」
アカがきょとんとしている。
「蒸し風呂から出てきたら妖精が増えているのナ……何の手品なのナ?」
サウナで酔いを醒ましたらしいアルデアは、首をひねっている。
「じゃじゃじゃ……! 神々しきお姿でやんす!」
ロロンは目をキラキラさせて……一瞬で目が曇った! なんで!?
「だ、だだだ、だども……何故、男湯から? ま、ままままさか……ムーク様と、はだ、裸の付き合いをば……!?」
あっ駄目だロロンそれ以上いけない!
ここはサウナを出た後の休憩所! ボクが公衆の面前でド変態虫認定をされてしまう!!
「お主は何を言っておるのだ? ワレはラーヤルーラに呼ばれて先程転移したのだぞ? 虫人とはいえ、男と蒸し風呂を共有なぞせぬわ……ワレも女の端くれである」
ヴぁ、ヴァーティガさん! ありがとォ!!
「しょ、しょれは! ムーク様ァ! おもさげながんすゥ! ロロンは、ロロンは最低のアルマードでやんすぅうう!!」
「モゲーッ!???」
ロロンは顔を真っ赤にしてボクにタックルした後、その場で丸くなった。
行動のすべてが急! 急!!
「ははは、ロロンは慌て者なのナ。こいつにそんな度胸なんてあるわけないのナ~?」
アルデアがひっどい! けどこの場では助かるゥ!!
「ねえねえ、おねーちゃ! おなまえなに? なーにぃ?」
ちょっと呆けていたアカは、すぐにヴァーティガに近付いてその周辺を旋回している。
謎ダンスで。
かわいすぎんかこの子。
……名前! 名前!?
やばい、このままだとバレちゃう! だってこの子の名前はヴァーティガ――
「――我が名はヴァルナディーナ。長いのでな、ヴァルでいいぞ」
……ヴァーティガ、じゃないのォ?




