第43話 お胸を借りる子分。
「――【跳ね橋】お家流、ロロン」
左肩を前に出し、足を緩く広げてロロンが立っている。
槍は穂先を下にして、自然体の構え。
「――【連ね谷】お家流、ダルトン」
対するダルトンさんは素手。
ロロンの方を向いて、両手をだらりと下げている。
「がんばえ~! ロロン、がんばえ~!」
『ファイトよ! ファイトよ~!』
ボクは騒がしく可愛い妖精2人を肩に乗せ、ベンチに座って観戦虫と化している。
ここは、リーチミの冒険者ギルド……の、中庭。
冒険者さんたちが体を動かしたり、武器の素振りをしたりするらしい場所。
周囲には興味深そうに見物する冒険者たち。
なんか、端っこの方では賭けとか始まってるみたい。
お祭り好きだな~。
「ロロン、ガンバッテ~!」
ボクが声をかけると、真剣な表情のロロンが一瞬えへへ……みたいに笑った。
カ~ワイイ! ウチの子分カ~ワイイ!
ダルトンさんと知り合って、翌日。
まだまだデルフィネさんたちは本調子ではなく、護衛の話もまだできていない。
適当な依頼でもして小銭を稼ごうか……なんて思っていたんだけど。
ロロンがそれならダルトンさんと手合わせをしてみたいって言ったんだ。
普段は全然ワガママも言わない彼女のお願いは、基本的に全部聞く方針のおやびんです。
「ンナ~♪」
アルデアも横で酔っぱらってるし……まだ昼前でござるぞ?
ちなみに宿にはイセコさんが詰めてくれている。
悪いなあ……
「しぇば、胸をば借りやんす!」「存分に参られい!」
おっとと、始まっちゃった!
「っしぃい――!」
まず動いたのは、ロロン。
予備動作が全然わかんない動きで、姿勢を低くして一気に跳ぶように駆ける。
あ、あの動きはもしや!
「――ちぇあぁッ!!」
地面スレスレの所から、槍が一気に翻る。
体ごとの力を乗せて、ダルトンさんの胸に穂先が吸い込まれて――
「ぬうっ!?」
じゃりん、みたいな音がして、ロロンが跳び下がった。
「『昇竜』、お見事」
……ギリギリ見えたぞ。
ダルトンさんは、向かってくる槍の穂先を右の裏拳で弾いたんだ!
腕しか動かしてないし、あのロロンの突きでも全然揺れてもいない!
……そりゃあ素手で大丈夫っていうわけだよ。
「その若さで良き動きだなっす。ウチの部族のわげものに見習わせたいもんでがんすな」
「……おありがとう、ござりやんす」
防がれるのはわかっていたのか、ロロンは距離を取ったまま今度は槍をゆっくり回転させ始める。
そのまま、間合いを保ってダルトンさんの周りをゆっくり動いている。
次はどう攻めるのかな……
「――っしゃ!」
なんて思っていたら、ロロンの右手がブレた。
それと同時に、また音。
「――ほう、速えっすな」
突きだ。
ロロンは槍を右手で持ち、間合いを詰めずに鋭い突きを放ったんだ!
「まだ、まだでござりやんすッ!!」
今度は連続して突き。
穂先が空気を貫く音が連続して聞こえ――その度に、ダルトンさんのどちらかの腕がブレて空中に火花が散る。
まるでマシンガンだ! ボクなら受け損なって穴あき虫になりそう!
「はぁあああああッ!!」
防がれつつも、ロロンは攻撃の手を緩めない。
こうやって何度も突きを入れて相手を釘付けにする技なのかな?
と、思ったら――
ごう、と豪快な音。
連続した突きを打ち込み続けていたロロンが、突如として槍を振った。
それは、気が付いたらダルトンさんの膝に叩き込まれていた。
「っぐ、ぅ!」
だけど、苦痛を漏らしたのはロロンの方。
とんでもない勢いで槍を叩き込まれたのに、ダルトンさんはまったく動じていない。
防具もない所なのに、見た感じダメージになった様子は見えないんだ。
「『閃華』がらの『微塵崩』、見事。んだども、踏み込みば足らながんす」
何その格好いい技名! そして頑丈すぎるお膝!
アルマードの男性って、鎧着てなくても鎧みたいな体なんだね!
「――なんの、まだまだッ!」
ロロンは全然こたえてないみたいで、嬉しそうに前に踏み込む。
今度は突かずに、槍をギュンギュン振り回しながら。
「えぇえやッ!!」
お腹への突き。
だけども弾かれた。
「ちぇいッ!!」
おお! 弾かれた勢いで回転した!?
ロロンの体が独楽みたいに空中で回る!
「おおう」
槍の尻尾? の部分が、ダルトンさんの首に叩き込まれた。
うわわ、なんかタイヤでも殴ったみたいな鈍い音がする!
そしてほんのちょっと、ダルトンさんの体が揺らいだ!
すぐに着地したロロンの回転は――まだ止まらない!
「――はああああああああああぁあああああッ!!」
な、何が起きてるの!?
ロロンが甲羅を下にして、ブレイクダンスみたいに高速横回転してる!?
そして突き出された槍は、ダルトンさんの体の至る所に連続して叩き込まれてる!
当たれば逆回転し、それがまた当たれば逆回転――って感じで、なんか、ピンボールみたい!
摩擦とかで減速してる様子がまるでないよ!?
『ロロンさんの背中の甲羅に魔力が込められています。それで回り続けていられるんでしょうね……それにしてもなんてバランス感覚でしょう』
ほんそれ! ウチのカワイイ子分すっごい~!
「――お見事ッ!」
全身をぶん殴られながら、ダルトンさんはニッコリ笑っている。
怖すぎ! 全然効いてないんだ!
「なるほど、この腕前ならば『渡世流し』の許可ば出ようものでがんす」
あの、現在進行形でボコボコ殴られてるんですけどダルトンさん……
「ぬんっ!!」
オワーッ!?
ロロンの槍の穂先を――噛んで止めたァ!?
そしてそのまま……ダルトンさんが首を振る。
「んなッ!?」
それだけで、ロロンは吹き飛ばされた。
……ダルトンさんは、槍を噛んだまま微動だにしていない。
ロロンが槍を、離しちゃったんだ!
「――えやッ!!」
ロロンは吹き飛ばされながら、両腰の解体用ナイフを同時に放った。
それは、鋭く回転しながらダルトンさんの頭に向かって飛び――額のヘルメットみたいな装甲に当たって弾かれる。
今、絶対切っ先から接触したのに! なんて硬さだ!
ダルトンさんは槍を吐き出して――軽く踏み込んで、右拳が、ブレた!
「っが!?!?」
ボッ! みたいな凄い音がして――ロロンが広場の端までさらに吹き飛ぶ!
あれは、いつだったかゲニーチロさんがやった空気ぶっぱ張り手!?
「じゃじゃじゃ……背で受け流すどは、見事!」
よろ、とロロンが土煙の中から立ち上がったのを見てダルトンさんは笑う。
「しぇば、槍をばお返しいたしやんす!」
次の瞬間には、ロロンの槍がとんでもない勢いで投げられた。
それは高速回転しながらロロンに向かって飛び――彼女は背中でそれを受け、斜め上に勢いを殺しつつ弾く。
「――参りやんした!」
落ちて来た槍をキャッチしたロロンは、そう言って頭を下げた。
お、終わったのか……ぷひぃ、息するの忘れるところあった。
あ、元からボク呼吸してないんだった。
「いやあ、返す返すも見事でがんす。まさが『流転轟雷』をばその若さで使いこなすとは……!」
「じゃじゃじゃ……んだども、まだ勢いば完全ではながんす。お相手、ありがとうござりやんす!」
ロロンは汗だくで、肩で息をしている。
対するダルトンさんは涼しい顔で、息も乱れていない。
これが経験の差ってやーつか……
「なんのなんの。おめさまが【連ね谷】ば来るこどがあっだら、わげもの共は揃って血ば吐き散らかすの……まんず間違いなぐ、相手にならね」
「じゃじゃじゃ……!」
ロロン、とっても嬉しそうだな~。
同年代じゃ敵わないよ! ってお墨付きされたようなもんだもんね!
「凄イネエ……」
「あの御仁がとんでもないのは当然だが、ロロンの方も凄まじい動きだったのナ……」
見物人たちの歓声が響く中、ボクとアルデアは感心しきりです。
「ふむ、ロロンさだげに技ば出させるのでは忍びねえの。オラも見せでおくのす」
上機嫌そうなダルトンさんは、後ろ腰にマウントされた槍を引き抜いた。
……いや、アレ槍じゃないな!?
ダルトンさんが持っているのは……槍を3つに分解して鎖で繋いだような武器!
わー! アレだアレ、中国拳法の強い人が使うような武器!
ええっと……ヌンチャク?
『それだと長すぎです。アレは三節棍と呼ばれる武器ですよ、恐らく』
そうそれ!
はえ~……しかも二刀流だ!
「オーム・バザン・ヤグン・スヴァーハ」
ダルトンさんが詠唱すると……その両端に土の刃が生えた!
そして――
「ぬおうりゃああああああああああああああああああああああああああッ!!」
土の刃が生えた瞬間、消えた。
いや、消えたんじゃなくてダルトンさんがとてつもない勢いで腕を振り回したんだ!
刃と三節棍の残像が球形を描き、彼の姿は一瞬で見えなくなった。
ま、まるで土色のバリア! バリアだ!
結界魔法と違って踏み込んだだけでみじん切りにされそう!!
しばらく残像は止まらず、その形だけが変わっていく。
真円、楕円、かと思えば突きや払いの形になる。
暴れ回る両端を、片手で制御しつつそうやってるんだ……すご!
「つ、【連ね谷】お家流……奥伝『流刃円舞』! す、凄まじいのす~!」
さっきまでの疲れが吹き飛んだように、ロロンは目をキラキラさせながら喜んでいる。
いいな! みんな格好いい必殺技あっていいな~!
『むっくん・キックがあるじゃないですか』
技としては格好いいけど名前が可愛いのよね~?
ダルトンさんが技を終えると、周囲やロロン、そしてボクらは惜しみない拍手を送るのだった。
あんな人が護衛なら、デルフィネさんたちは絶対に安全だね~!




