第44話 護衛と技が増えました。
「それでは、ガリルからヴァロラまでの払いは……」
「んだなっす。固定と出来高ば併用しぇば……」
宿の食堂で、トーラスさんとダルトンさんが顔を突き合わせて話し合っている。
よかった、今日はマトモに動けるみたいだ。
「ヨカッタネ、護衛増エテ」
「んだなっす。憂いば少なくなりやんした」
ボクはそれを横目に見ながら、ロロンとティータイムをキメている。
ん~、市場で買った超硬度クッキーが美味しい!
獣人さんの食べ物って基本的に硬いけど、ボクの素敵な四倍歯は楽勝なのだ。
ロロンもバリバリと美味しそうに頬張っている。
お知り合いになったダルトンさんをトーラスサンに紹介。
この国を出た時の護衛について相談した所、彼は即座に快諾してくれた。
思った以上に魔物と遭遇する旅が過酷だって感じてたんだろうね。
あ、デルフィネさんも今日は動けるようになったのでアルデアと一緒にお風呂屋さんに行ってるんだ。
アカとピーちゃんもね。
さぞや女湯が賑やかだと思う。
「ではこのように……」
「えがんす。いやあ、金払いのいい雇い主さんば、大歓迎でやんす」
あ、なんかまとまったみたい。
よかった~……
こっそりアルデアに聞いたんだけどさ、お金の問題について。
どうも、トーラスさんは結構、というかかなり腕のいい職人さんみたい。
木像とかじゃなくて、家具の加工や彫刻が特に得意なんだって。
なので……ちょっといやらしい話、あの若さでお金持ちなんだってさ。
若さとか言われてもボクはいくつなのかわかんないけど、お年は20歳なんですって。
鱗人さんの年齢、全然わからん問題……
『なん!? やらしい話!? もーむっくん! こんな明るいうちから~! もっとしろし!』
誤解です! 誤解なんです!!
『はいムロシャフト様、熱々のケバブサンドをどうぞ』
『むもも~! うんめ~!!』
……ンモ~。
ま、まあとにかく、トーラスさんの経済力はそれなりに凄いらしい。
『ま、及第点ナ』とはアルデアのコメント。
相変わらず厳しい……
「ムークさん、あなたのお陰で心強い護衛を雇うことができました。ありがとうございます」
おっと、考え事してたらトーラスさんが歩いてきた。
嬉しそうだね、いいこといいこと。
「イヤイヤイヤ、ソレハロロンノ大手柄デスノデ? 同族故ノ伝手デスノデ?」
でもダルトンさんのことについてはロロンの功績ですので~?
だって彼女がアルマードじゃないとお知り合いにもなれんかったんですので~?
「ワダスはムーク様の子分でやんす! しからば、ワダスの手柄はすべからくムーク様の手柄でやんす~!」
「エェエ……?」
なんという論法……しかもとんでもないドヤ顔ですね? か、カワイイね?
なので撫でておこうか。
「オオン……ボクニハモッタイナイ最高ノ子分ヨ……」
「はわっ!? はわわわ!?」
ええ、なんでこれはキョドるの?
女心と異世界の動物図鑑事情、それにボクの行く末も何もかもわからん虫でござる。
『無知の知、ですか。哲学虫ですね』
ムチムチ?
『やっぱりただのアホ虫だったし』
うるさいやい!
「はっはっは、おめがたはほんに仲のええごどで。眩しなっす!」
ダルトンさんはとっても嬉しそうだけど、異世界東北弁はサッパリでやんす。
なんかロロンは顔真っ赤ですけども。
「はぁああ~! おしょすいごど~!!」
・・☆・・
「ムーク様! 群れが抜けやんした!」
「バッチコーイ!!」
ロロンの声に続き、草むらが揺れて――
「ガルゥウウアッ!!」
10メートルくらい先に、草原狼が飛び出して来た!
なんかちょっと大きい! コイツがリーダーかな!?
「ヌンッ!」
慌てず騒がず、補助翼をフル展開! さらに起動、隠形刃腕ッ!!
足を踏み出すと同時に――アフターバーナー点火!
どん、と体が震えて即座にトップスピード!
「クラエ、新技ァ!」
隠形刃腕を体の側面に! 刃を横に突き出して超振動!
草原狼と交差するように、体の向きを微調整!
あっという間に、間合いはゼロ距離へ!
「ギャンッ!?!?」
ロクな抵抗も感じずに、草原狼は空中で二分割!
よーし、思った通りだ! これ使える!
「次ィ!」
草むらにトツゲキー!
コッチに走ってくる草原狼の群れに、突っ込む!!
「ギャヒッ!?」「ギャバッ!?」「ギャンッ!?」
横衝撃波で微調整しつつ、速度を落とさないように駆け……否、飛び抜ける!
「ガウッ!」「ガルゥッ!!」
ヌヌ! 2匹同時――ならば隠形刃腕を持ち上げて!
肩の上で関節を固定! 高速横回転! 刃の軌跡がヘリコプターみたいだけど、浮力は一切発生しません!
「クタバレー!」
「ッバ!?」「ッギ!?!?」
ばちゅん、と空中で草原狼はハンバーグに!
無茶苦茶顔と体に破片が降り注ぐ! むわー! 美味しくなァい!!
後続はナシ! 着地&足パイル展開!
地面を豪快に削りながら、むっくんピックが冴えるボク!
「……ヨシ!」
振り向きつつ、草原狼が全員成仏したのを確認!
いいねいいね、この新技!
名付けて……『むっくん・辻斬りアタック』!
突っ込む速度と隠形刃腕でサクッとバラバラにできるし、魔力もそれほど使わない!
こーれは中々素敵な技ではないですか?
『そうですね、むっくんのネーミングセンス以外は有用な技です』
『まずむっくんが含まれる時点でね~? カワイイ系になっちゃうし~?』
女神様たちがひどい!
もっと褒めて伸ばして、お願い!
「すんばらしき技の冴えでやんす! 脱帽でがんす~!」
お目目キラキラぴょんぴょんロロンが癒しですね。
とってもカワイイけど、槍に突き刺さった狼を抜いてからやってはいかがかな?
あっ、振動で首がモゲた! 猟奇的!!
「ひ、ふ、み……いい稼ぎになりやんした!」
「ダネー、臨時収入ダ」
ロロンが剥いだ草原狼の皮をクルクルまとめている。
しめて16匹! いやー、そこそこの群れを見つけてよかった!
討伐部位の牙も取ったし、晩御飯代くらいにはなるかなあ。
ここは、リーチミの東にある草原地帯。
ボクとロロンは、ティータイム後の腹ごなしに軽い依頼を受けていた。
『草原狼の討伐』をネ!
「暗クナル前ニ帰レソウダネ」
「んだなっす!」
ロロンがまとめた皮をバッグにポポイポイ。
いやあ、お金も稼げて新技も開発できてよかった。
ヴァーティガやパイル以外に仕える手段は多い方がいいもんね。
……隠形刃腕、おフィギュアの作成以外にほとんど使ってなかったし。
皮を剥いだ遺体は深く埋めたし、ゾンビウルフの発生はないだろう。
ロロンに聞いたけど、町の近くの依頼でコレをちゃんとやってないと最悪罰金刑もあるらしいし。
ぶるる、罰金コワイ!
「ジャ、帰ロッカ! 街ニツイタラオ風呂ダネ~」
「働いた後の湯ば、格別でやんす~!」
ふふふ、ウチのパーティはみんなお風呂好きでよかった。
清潔、大事!
『ロロンちゃんと混浴するってマ???』
『はいムロシャフト様、出来立てのチミチャンガですよ』
『ふっももも……ピリ辛!』
幻聴だと思いますよ、ハイ。
まったくもう……ロロンがそんなことするわけないじゃんね。
いくらボクが甲殻ボディだって言っても、男女が一緒にお風呂に入るなんて夫婦くらいしかせんでしょ。
親分子分なんだからさあ。
『もももむ……コイツほんま……もももも』
『もう慣れました、はぐはぐ』
すっごい呆れられてる気がする虫ですが、気にしたら負けだと思いますよ。
「あ、ムークさん! ロロンさーん!」
……ムム?
草原の向こうから誰かが……あ。
「ポチクン!」
柴犬系獣人のポチくんじゃないか!
大きな背嚢を背負って、手を振りながら歩いてくる。
あれれ、今日は一人なんだ?
奉仕依頼っての、終わったのかな?
「奇遇ですね!」
「じゃじゃじゃ、今日はお一人でやんすか?」
ニコニコで近付いてきたポチくんに、ロロンが声をかけた。
「はい! ヴィクセンさんたちは予定があるらしくって……見習い用の採取依頼を受けたんです! 1日で帰ってこれる距離じゃないと駄目だって言われました」
「ホホーウ……随分採取シタンデスネエ」
近付いて分かった。
ポチくんの背嚢からすっごい草の匂いがする! 青臭い!
「【ヨコモ】っていう傷に効く薬草なんです! ちょうど群生地を見つけて……へへ、儲けました!」
ドヤ顔のポチくんだ。
それは運がよかったねえ。
「これで鎧が新調できそうですよ! へへへ」
「エ? 今ノ鎧ハ?」
見たところちょーっとくたびれてるけど、そんなに悪くなさそうなのに。
「ああ、これはギルドにお金を払って借りてるんですよ。駆け出し用のサービスですね」
「じゃじゃじゃ、それはなんとも優しい制度でやんす」
「ネー」
そんなことを話しながら、なんとなく一緒に帰ることになったのだった。
……このモフモフ尻尾、アカが見たら突撃するんだろうなあ。




