第42話 百戦錬磨のアルマジロさん。
【連ね谷】のダルトンさん。
ロロンの出身地【跳ね橋】よりも帝国にほど近い所に住んでいる部族出身。
14差の時、見聞を広めるために旅に出る。
ラーガリで冒険者をして経験を積み、【帰らずの森】外延部に沿って北上、ロストラッドで傭兵になる。
16歳の時には初陣を済ませ、アーゼリオンとの戦いで大いに活躍。
【岩嵐】の二つ名で呼ばれるほどの強者となった。
そのままロストラッドで傭兵を続け、2年前に所属する傭兵団が解散。
かなり愛着があった傭兵団だったため、新たに新しい団に所属する気もなく、再び冒険者に。
冒険者をしながら諸国を旅し、ドワーフの国【ガリル】を経由してトルゴーンに入国。今に至る。
ちなみに現在45歳、アルマードとしてはまだまだ若く働き盛りだそうな。
……というのが、ロロンが噛み砕いてボクに説明してくれた彼の経歴だ。
目の前で会話してたのに2割くらいしかわかんないから助かったよ。
それにしても……
「二ツ名持チナンテスゴイデスネ!」
「じゃじゃじゃ……人族や魔物共を片っ端から叩き殺してただけでがんす」
当の本人は涼しい顔である。
それだけで凄いことなんですけどもね?
行ったことないし行きたくもないけど、【ロストラッド】はどれだけ地獄なんですか。
「【連ね谷】というと……ラングドール様をご存じですか?」
「おお、それは同門の兄弟子でがんす」
「そうでしたか。【大角】閣下が『比類なき勇壮な武人』だと話題にされていらしたもので」
「兄さが……! トルゴーン指折りの武人、【大角】様にお認めいただけっとは……! これはオラも見習わねばいがねっすな!」
イセコさん経由で世間が狭くなっていく……!
いや、でもこんな世界だから強い人ってのは有名になっていくんだろうなあ。
ゲニーチロさん、ロロンの親戚もよく知ってたし。
やっぱりアルマードって強い人がいっぱいいるんだねえ。
それに……
「ごつごつ、ひんやり、おっき~!」『まるで大木よ、大木だわ~!』
「なんとはあ、めんごい子ォらじゃ。こげな街中で妖精で出会うとは吉兆でがんす」
アカとピーちゃんが肩で寛いでいても嫌そうどころか、とっても嬉しそうにしている!
「ス、スイマセン……初対面ノ方ニ」
でも一応お詫びしておかねば!
ピーちゃんはともかく、アカはボクが保護者みたいなものですし!
「なんもなんも、子供は元気な方がええのす。この屈託のなさ……ムーク殿はよい親分なのでがんしょう」
「ソンナ、2人ハボクガイナクテモ、ズウットイイ子デスカラ」
「はっはっは、これはたまげた謙虚。ムーク殿がそのような御仁なればこそ、この子らも底抜けに明るいのす」
「んだなっす! んだなっす! ムーク様は大した親分でやんす~!」
「オゴゴゴゴ」
ロロン! 褒めてくれるのは嬉しいけどマントが! マントがね! 引っ張りまくってるから首がギュウー!?
「はっはっは、良き良き」
ダルトンさんは、そんなボクらを見て優しく微笑んでいた。
……首が! 首が~!
たすけてイセコさん! ロロンを止めておくんなまし!
・・☆・・
「おお、これはいい宿だなっす」
「イイトコロデスヨ」
あれから宿に戻って、今は食堂で寛いでいる。
ダルトンさんも一緒だ。
彼、今日この街に着いたばっかりらしい。
宿を探していたので、紹介することにしたんだ。
だっていい人だし。
「ももも……ロロンの種族の男は大きいのナ~」
「ダルトンさは特に大きいでがんす。じっさまと同じくらい大きいのす~」
お土産のケバブモドキを頬張っているアルデアに、ロロンが説明している。
ロロンのお爺ちゃんも大きいんだ……
ボクが今まで出会った人の中で一番大きいもんね、ダルトンさん。
2位はゲニーチロさんかゴウバインさんだろうなあ。
ちなみに食堂にいるのはボクら4人だけ。
アカとピーちゃんはお空のお散歩で、イセコさんは衛兵と話すことがあるって出かけて行った。
デルフィネさんたち? 相変わらず筋肉痛でダウンとのことですよ。
大丈夫かな……? 朝の感じだとちょっとはよくなってるみたいだけど……
「ネエアルデア、デルフィネサンタチ……コノ国出タ後大丈夫ナンカナ?」
「む……」
ケバブを飲み込み、腕を組むアルデア。
その顔はむむむ……って感じ。
「……それは私も考えてたのナ。まさかあの2人があれほど貧弱だとは思わなかったのナ」
「じゃじゃじゃ……確かに」
ロロンもコクコク頷いている。
だよねえ、どうしよ。
そらんちゅの追っ手はこの国を出たら大丈夫らしいんだけど……その先の道がねえ。
だって魔物は出るし、盗賊なんかも出るかもしれない。
トーラスさんは精霊魔法が使えるらしいけど、ぶっちゃけそれ以前の問題でござるよ。
「【ガリル】経由で【ヴァロラ】へ行くのナ。主な街道を行けば難所はそれほどないが、あの体力だと……」
彼らはドワーフさんの国を横断して、ヴァロラへ行く。
トルゴーンに入った時のボクらみたいに、途中にはガッツリ山登りルートもある。
【ガリル】はドワーフさんの国だけあって鉱石の採れる山も多く、ところどころでは山に登ったり下りたりする必要があるらしいんだ。
まあ、ゆっくり行けば大丈夫だろうけど……魔物とかの存在もあるし……
「ムーン……サスガニ【ヴァロラ】マデ護衛スルワケニモイカナイシネ……」
ゲニーチロさんとの約束もあるし、例の異変のこともある。
そこまでずうっと一緒に行ってあげることはできない。
「【ガリル】に入ってすぐに護衛の冒険者を雇うとは言っていたがナ。さすがに2人でずっとというわけではないから……大丈夫だとは思うが、それでもあの体たらくは……むぐむぐ」
新しいケバブを噛み締め、アルデアはまた唸っている。
むーん、どうしたもんか。
「仮に私なら飛んで移動できるが、デルフィネは長距離を飛べるほど鍛えてはいないし……明るいうちだけ飛んで、避難所で毎回休憩すれば……だが体力的に……もごごご」
悩むか食べるかどっちかにすればいいのに……
「んぐんぐ……ぷは。トーラスは軽いし、マジックバッグ持ちだからさほど重荷にはならんと思うが……んぐんぐ」
お酒まで飲み始めたよこの人。
「とりあえず、お二方が本調子に戻られたら相談してみるのす。今はどちらにせよ答えは出ねえでがんしょ」
ロロンの言う通りだね。
ボクたちだけで考えてもどうしようもないし……
とにかく、2人がもうちょっとマトモに戻るまでは待機かな。
「――少し話が聞こえたが、護衛ば探しておりやんすか?」
階段からダルトンさんが下りて来た。
泊まる部屋を確認して戻って来たらしい。
「アルデアさん」
ロロンがアルデアを見る。
教えてもいいかどうかって感じだろうか。
「ふむ……別に里の者以外に聞かれても困る話ではないし……そうか……」
ぽん、と手を打つアルデア。
「実は、腕が立って信頼できる冒険者を探しているのナ。護衛の経験も必要ナ」
ダルトンさん悪い人ではなさそうだし、なによりアカたちが全然怖がらないってことはいい人だろう。
さっき軽く出会いの経緯を話したから、アルデアも話す気になったらしい。
ちょうどいいことに、周囲に人影はなかった。
「そもそも――」
アルデアの説明が始まった。
「――成程、オラとしては問題ねがんす」
駆け落ちのことを聞き終わって、ダルトンさんは頷いた。
話が早い!
「【ガリル】には何度も滞在したこどもあっし、向こうで知り合いも多がんす。護衛専門の伝手もいくつかありやんすな」
おお、しかも有能!
「しかし、話を聞くとダルトンさんは【ガリル】からこちらへ来たばかりなのナ? とんぼ返りさせてしまうことになるのナ」
「なんもなんも。別にこの国でなにかしぇばならぬということもねがんす。しいて言えば荒れておるらしい南部で魔物退治でも……とばかり」
定住先探しとか、旅行目的とかじゃないみたい。
気ままな武者修行的な感じ?
ロロンの『渡世流し』みたいなもんなのかも。
「むしろ【ヴァロラ】は一度腰ば据えて見て回りてえと思っておりやんした。じぇんこばいただきながら物見遊山でぎるとあれば、オラぁなんも文句ばねえ」
「それはこちらとしても願ったりかなったりなのナ! ……だが本当にいいのナ? 駆け落ちの護衛なのだが……」
アルデアの言葉に、ダルトンさんは胸をどんと叩いた。
「若人2人の逃避行をば助け、その幸せの手伝いばするのす。なんの瑕疵にもなりんせん、むしろいづか里へ戻っだ時にいい土産話になるのす! がはは!」
お、おお~!
なんて、なんていい人なんだ!
「ロロントイイ、ダルトンサントイイ……アルマードッテナンテ素敵ナ種族ナンダ……!」
「じゃじゃじゃァ!? わだ、ワダスまで!?」
なんでロロンが振動するのさ。
もうちょっと褒められることに慣れていただきたいものだよ。
『お前が言うなし! あひゃひゃひゃひゃ! うぃっく……トモちんハイボールおかーりー!』
『飲み過ぎですよもう……はい、どうぞ』
『燻製ベーコンが美味すぎんのが悪いし~! あひゃひゃひゃひゃ~!』
シャフさん、日頃のストレスが溜まってるのかしら。
……主にママ関係で。
…………無茶苦茶溜まってそう。
ママってば悪い神様では勿論ないけど……ないけど……ちょっとその、エキセントリックすぎるというかなんというか……うん……
「乗り気なら大歓迎ナ。まあ、当事者がアレだから……すまないが改めて当人たちも交えて話し合う必要があるのナ」
「あいわかった。しぇば、オラは浴場にでも行っで旅の垢をば落としてきやんす」
あ、なんか話が解決したっぽい。
「マトマッタネ~」
「うむ、デルフィネたちが良しとすれば冒険者ギルドで正式な依頼として発注するのナ! んん~!」
アルデアが背中を伸ばす。
うわ、なんかポキポキ音がする!
「いや~! 翼の荷が下りたのナ! アルマードの武人とあれば極上の相手、この先の見通しができたのナ~♪」
そして立ち上がるアルデアさん。
……なんかウキウキしとらんか?
「じゃ、私は飲みに繰り出すのナ! どうせデルフィネたちは今日は使い物にならんのナ~! 留守は任せたの~ナ~♪」
「ア、ウン」
小走りに外へ出ていくアルデア。
……まあ、安心したんだろうな、うん。
「元気になってえがったのす~♪」
ロロンは嬉しそうに左右に揺れている。
……ま、いっか。
問題が一つ片付きそうだし。
「ヨカッタヨカッタ、ト」
「はわわ!?」
とりあえずロロンを撫でておこう。




