第127話
GW連続投稿3日目です。
ヴァイトインゼルでの冒険が続きますが、そろそろヒルマウンテンへ舞台を戻したいな~、なんて思ってます。しかしサファイアは思う様に動いてくれなくてストーリー修正に四苦八苦。
今回も馬鹿馬鹿しい冒険ですが最後までお付き合い下さい。
サファイア達は濃霧に苦戦しながら漸くレベルが54へ上がった。昼前になると霧は晴れ真っ青な晴天が頭上に広がった。今後の天候次第ではレベル55も狙える。そんな淡い期待は問屋が卸さなかった。夕方から濃霧に阻まれレベリングが滞ってしまったのだ。
「あー! もう! どうして霧霧霧! 霧ばっかなのさ!」
「ここが霧の渓谷だからですヨ」
「うるさい! そういう正論を聞いてるんじゃ無いの!」
サファイアは地団駄を踏みながら不満を露にする。しかし濃霧によるストレスは全員の精神を蝕みイライラがピークに達しようとしていた。
「明日にはレベル55になるだろうから気分転換にタワーの攻略をしてみない?」
「何それ、面白そう!」
パールの提案に真っ先に喰い付いたのはサファイアだ。さっきまでのイライラはどこへやら、瞳をキラキラさせながらパールの次の言葉を待つ。
「グルックベルクの北に有るタワーよ。何でも最上階から紙ヒコーキを飛ばすのだとか」
「なんか、平和ボケしてそうなタワーだな」
「緊張感ゼロですヨ」
「あら、だったら2人で攻略してみる?」
完全に気が抜けているルビーとアメジストにパールは問う。
「さすがに忍者とドラグーンじゃ無理だろ」
「少なくともヒーラーは必要ですヨ」
「だったら少しくらいは真面目に考えてね」
そう言ってパールはニコリと微笑む。穏やかな表情なのに圧が凄いよ。
雑談でストレスが和らいだ所で周囲が薄暮に包まれるまでの時間狩りの再開となった。メインの獲物、マッドホーンは角、毛皮、肉が素材になり、特に肉は焼いて良し、煮て良しと良い素材だった。
日没後、夕飯はマッドホーンの肉を使ったシチューになった。ぶ厚い毛皮の下にはしっとりとした脂身があり、デミグラスソースで煮込むと脂の旨味が溶け出しソースに深いコクを与える。
ルビーとペリドットはご飯に掛けて食べるのが好みらしい。残ったシチューは鍋ごとポーチに収納する。ポーチの中は時間経過が無く次に取り出した時まで熱々のままだ。
お腹が膨れ食後の紅茶を飲みながらサファイアは渓谷を見上げる。星空は僅かしか見えず殆んどが漆黒に染まった崖が視界を埋める。サファイアの隣で同じ様に見上げていたルビーは早々に飽きてテントの中へ引っ込んだ。
テントの中は快適で、魔法の力でいつも決められた温度と湿度を保ってくれる。パーティメンバー全員が寝ても狭さは感じず、エルフ族が6人入っても余裕だそうだ。だが床は最低限のクッションしか無く、寝袋に入って寝ても翌朝には身体中が痛くなってしまう。
「そろそろ新しいテントが欲しいですヨ」
「そうね、今のテントはアメちゃんと2人で冒険してた頃から使ってる物だから新調しても良いかもね」
「はいはい、だったら花柄のテントが良いな!」
勢い良く挙手してサファイアが提案する。
「そんなテント見た事無いですヨ」
「有ったとしても実用的じゃ無いから買わないわよ」
そして当然の如く却下されてしまう。
「ひとまず明日はヴァイトインゼルへ戻る予定だから雑貨屋にも寄ってみましょうか」
「一回り大きいのが良い」
「シトリンちゃん、それは贅沢だよ…。私達は居候なんだから」
「いいえ、ペリドットさんもシトリンさんも居候なんかじゃ無いわ、とっくにジュエルボックスのメンバーじゃない」
「けど…」
「あまりしつこいと銃殺刑ですヨ」
「ひっ」
「アメちゃん、出来なくても脅さないの!」
ポーチから取り出した銃をペリドットへ向けるアメジスト。勿論銃弾は装填されてはいないのだが…次の瞬間バールのショックペインでスタンさせられた。
「大きいのを買うのには賛成よ。こうやって露天で飲むコーヒーや紅茶も良いけれど、悪天候の時はテント内で飲みたいわ」
「虹の高原では岩で出来た洞が有ったから雨はしのげましたけど、これからはそんな所を見付けるのが難しいかもしれませんよね」
「ここも偶然」
パールも大きいテントの購入には乗り気で、8人用を買えばテント内で湯船に入浴やシャワーは無理でも汗を拭くぐらいなら楽になるだろう。つまりサービスシーンが増えるという事だ。
「……………」
パールが突然腰に着けていた青竜刀の留め具を外し腰を浮かせる。
「パールちゃんどうしたの? モンスターの気配がした?」
サファイアが緊張した面持ちでパールに問い掛ける。
「不埒な思考を感じたのだけど…気のせいみたい」
恐々…。あまり邪な事を考えるのはよした方が良いみたいだ。パールは何事も無かった様に座り直すとポットに残っていた紅茶を自分のカップに移して飲み干す。
「ミーはそろそろ寝るですヨ」
スタンから回復したアメジストはよろよろとテントの中へ入って行った。そしてそれに続くシトリン。
「ところでパールさん、奇襲戦の時のポーション、いったいいくらで出品したんですか?」
「これだけよ」
そう言ってパールは指で金額を示す。
「うわぁ…」
「そ、それってエーテルより高いじゃないですか…」
その金額にサファイアもペリドットも目眩を覚えた。しかもそれが売れているのだからなお質が悪く恐ろしい。
「ホントならハイエーテルとかも出品しておきたかったんだけどね…リズに止められたわ」
さらに恐ろしい事を言い出したパール。悪戯っぽくペロリと舌を出す仕草をするが、可愛さよりも恐怖心が勝り笑えない2人。
高レベル冒険者は奇襲戦の情報が優先的に回ってくる。そんな情報をパールに与えてしまったのは間違いじゃなかろうか。
「アメちゃんの弾丸の事もあるしお金が有る事に越した事は無いわ」
「どうしてアメジストさんの弾丸はアダマンタイト製を使ってるんですか?」
「それはアメちゃんと冒険していた頃はモンスターを少しでも早く倒す必要が有ったからよ」
「殺られる前に殺る。だね」
「そ、だから高価な弾丸を手に入れる為、合成にも手を出したし、競売で安く買ったり高く売ったりすテクニックを身に付けたって訳よ」
「2人で冒険する大変さは私も解ります。シトリンちゃんが耐えて攻撃してるのを私はずっと回復してましたから」
その言葉にパールは2人を助けた時を思い出した。モンスターの群れを引きながら救援要請出してたっけ。思わずクスリと笑みがこぼれる。
「パールさんとサファイアさんはどうやって知り合ったのですか?」
そこでサファイアとパールは顔を見合わせる。問われて初めて話した事が無かった事に気付いたからだ。
「私とルビーちゃんがこの世界に来てすぐにパールちゃん達と出会ったんだ」
「モンメでヒルマウンテンへ向かって走ってたらいきなり目の前に飛び出すんだもの。止まりきれずに撥ねてしまったの」
「ひぇ…」
パールの言葉にペリドットは青ざめる。
「だってキューニィが可愛かったんだもん」
「結構な勢いでぶつかったのにサファイアさんって無傷だったのよ…信じられる?」
「え? ノーダメージだったんですか?」
「可愛いキューニィに撥ねられても平気でしょ?」
何がおかしいの? と言いたげにサファイアは首を傾げる。パールとペリドットは顔を見合わせ、サファイアさんだしね、と言う結論に至った。
暫く雑談は続きサファイアが大きなあくびをした所で話は打ち切られ全員がテントへ入った。それを待っていたかの様に辺りは濃霧に覆われテントを包み込んだ。
◇◆◇◆◇
翌朝は青空が広がり視界は良好だった。ルビーは前日の遅れを取り戻そうと必死に釣りを続けた結果、夕方には全員がレベル55へ上がった。
「今からだとヴァイトインゼルまでは戻れないですヨ」
「かと言ってグルックベルクも無理そうだし、仕方ないから今夜はヴェストアルティケルに泊まりましょ」
パールの提案に全員が従いヴェストアルティケルへ向かった。
酒処のヴェストアルティケルは様々なお酒が揃っている。しかし今回は逗留する訳じゃ無いので呑み比べなんて以ての他だ。ごねるルビーとシトリンに瓶1本で黙らせるパール。これ以上は自己責任、サファイアのキュアも無しとまで言われてしまうとその案を呑むしか無かった。
「ところで、結局明日はヴァイトインゼルとグルックベルクのどっちへ行くんだ?」
グラスに注がれたお酒をチビチビと呑みながらバールに聞くルビー。
「タワーへ向かうならグルックベルクなんだけど、競売所の動きはヴァイトインゼルの方が活発なのよね」
「けどヴァイトインゼルで出品してしまったら落札金を受け取りにまたヴァイトインゼルまで行かないとダメなんだろ?」
「そこは問題無いわ。競売所は魔法で各地と繋がってるからどこの競売所でも落札金を受け取る事は可能よ」
「すっこい便利なんだね!」
「けど、そんなシステムがあるならどうして競売所全体で取り扱ってる物を共有しないんだ?」
「良い所に目を付けたわね。良いわ、私が教えてあげる」
パールの変なスイッチを入れてしまったようでルビーは心の底で反省する。しかしそんな事をしても後の祭りだ。ここからパールの談義が幕を上げた。その内容はまた別の機会に。
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