第124話
久し振りの夜営で背筋がバキバキに凝り固まったサファイアはテントから這い出しダム湖へ向かって大きく伸びをする。こんな時でもパールは1番に起きていてコーヒーを淹れて待っている。サファイアはポーチからアウトドア用のローチェアを取り出し朝露が残る草の上に置く。
「パールちゃん、今日もトレント中心?」
「その予定よ。出来れば2レベルは上げておきたいわね」
「おはようございます。オークで稼いだ経験値がありますから何とか行けそうですね」
「あ、ペリドットちゃんおはよう」
「おはよう。予定通りなら、ね」
「取らぬ狸の皮算用、ですヨ」
ペリドットに続きアメジストも起きて来た。
「誰かが暴走しなければ大丈夫よ」
「フラグ」
寝ぼけ眼でのそりとテントから姿を現したシトリンが呟く。
「あとはルビーさんだけね」
シトリンの言葉はスルーしコーヒーを温め直すパール。ペリドットはおかわりを貰い体の芯から温める。
そろそろサファイアに起こすのをお願いしようと思った矢先、テントの中から特大のくしゃみが聞こえた。程無くしてルビーが加わり全員が揃った。
ルビーはパールからコーヒーを受け取るとくいっと口に含む。
「に゛ゃ゛~~~~!!」
ケットシー族は猫舌だった。
◇◆◇◆◇
「今日もトレント中心で良いんだな?」
「ええ、お願い。覚えたい技が有るのよ」
「食ってもダメなヤツなのか?」
「下位のスキルは覚えてるから意味が無いわ」
「なら仕方ない。一肌脱ぐか」
そう言ってサーチスキルを発動しトレントを探すルビー。レベル50になりモンスターの名前が表示される様になった為、以前の様に釣るまで判らない、なんて事は無くなった。まぁトレントやサーベルタイガーは潜伏型では無いのでフィールドをうろついていて見れば判るのだが…。
狩りが始まってもサファイアは相変わらず前衛に混ざり頭のおかしい武器を振るい続けている。自分の仕事はこなしている為、パーティの誰も口出しはしないが今回はそれが仇となった。
◇◆◇◆◇
足下をちょこまかと動き回り大ダメージを与えてくるリリパット族、しかも折角弱らせた他の冒険者を簡単に回復させる。
本当に苛つく。そんな相手にはドリルリムのスキルを実行すれば良い。腕から放たれる鋭い指が伸びてリリパット族を串刺しにし瀕死に追い込んでやる。だがこれだけでは気は収まらない。続けてリーフストームのスキルを実行してやる。そら見ろ鬱陶しかったリリパット族は動かなくなった。良い気味だとほくそ笑む。あとは1匹ずつじわじわ弱らせるだけだ。松ぼっくりボムでダメージを与えつつ追加効果で眠らせる。これを繰り返すだけで人間は簡単に死ぬ。相手を蹂躙するのが1番楽しい。力を行使して倒すのは最高に気分が良い。
しかしなんだ? 人間は回復するヤツが倒れると慌てふためきチームワークは崩れるはずだ。なのにコイツらは焦るどころか全く動じていない。
まるでリリパット族が初めから居なかったかの様に連携してくる。いや、確かにこの指はリリパット族を貫いたし、現に自分の足下でプリケツを晒している。
っ! まただ。他を向くとこのエルフ族は強烈な光を発し苛つかせる。後ろからちょこまかと攻撃してくるケットシー族も、遠くからチマチマ撃ってくるオートマタ族も気に入らないがこのエルフ族だけは許さない。
アレを使うには少し溜めが必要だがそんな事はどうでも良い。1撃で葬ってやる。
◇◆◇◆◇
「来るわよ、皆下がって!」
トレントの溜めを見逃さずパールが叫ぶ。急いでトレントから距離を取りスキルに備えるルビー達。パールはトレントの正面に立ちシェルと魚鱗、そしてハードコクーンのスキルを実行する。限界まで防御力を高めたパールにトレントのスキル・ブランチストライクが襲う。
遥か頭上から振り下ろされた丸太の様な枝を激しく打ち付けられパールは1瞬意識が飛びそうになる。
「かは…っ、危なかったわ」
「パールさん、すぐ回復します!」
膝をついたパールへペリドットが喚んだ青龍の揺蕩う水を使い一気にHPを回復させる。トレントはブランチストライクの硬直で動けない。しかしこちらもサファイアが戦闘不能になっている為、余裕は無い。
ルビー、アメジスト、シトリンの3人で技連携を決めマジックボーナス湾曲を発生させる。
「水と氷ですヨ!」
ペリドットが最後のMPを使いヘルを召喚、アブソリュートゼロで勝負を決めた。
「う~ひどい目にあったよ~」
「ヘイトも考えず突っ込むからだろ」
「そうですヨ。危うくパールも戦闘不能になるとこだったですヨ」
「今のトレントはかなりスキルを使いましたけど何か覚えました?」
ペリドットが指折りトレントが使ったスキルを数えながらパールに問う。
「残念だけど、収穫は無しね」
「何を覚えるんだ?」
「ドリルリムの上位版のブランチストライクよ。多分最後に使った大技でしょうね」
「あれか…。パールのHPが一気に減って焦ったよ」
「エクスプロテクションの効果は残ってたからギリギリ耐えられるのは解ってたけれどクリティカルが乗ってたら即死ね」
「揺蕩う水で助かった」
「誰かが戦闘不能になってなけりゃ楽だったはずですヨ」
「そうね、レベリングなんだがらはっちゃけるのは程々にして貰わないと」
そう言って微笑むパール。だが異様なプレッシャーが放たれている。くわばらくわばら。
「MP回復したので強化掛け直ししますね」
「私もやるよ」
サファイアとペリドットは立ち上がりパーティメンバーへ強化を掛けていく。今さら言うまでもないがサファイアは衰弱中、ペリドットのおっぱい枕で寛いでいた。
「ルビーさん、次お願い」
「ん~、近くにトレントは居ないからトラで良いか?」
サーチスキルを使い軽く首を振るルビー。手頃な所にはサーベルタイガーしか見当たらなかった。
「別にトレントじゃなきゃダメって事は無いから好きに釣って良いわよ」
「了解、それじゃ少しデカいアイツを…」
1番近くに居たサーベルタイガーへ狙いを付け手裏剣を構えるルビー。
「待つですヨ!」
「ルビーさん、それレアモンスター!」
慌ててアメジストとパールが止めるが間に合わず手裏剣はルビーの手を離れていた。
「に…逃げるの?」
「無理、サーベルタイガーの足は速いから逃げ切れ無いわ!」
「やるしか無いですヨ」
ルビーを追ってきたサーベルタイガーへ閃光を掛け抜刀するパール。攻撃力の高いサーベルタイガー。そのレアモンスターなのだ、1撃がとてもとても重い。暗闇状態にして受けるダメージを少しでも減らす狙いだ。攻撃はミスを誘えても素早い身のこなしはこちらの攻撃も当てられない。サファイアはさすがに殴るのを諦めペリドットの側へ移動する。
「ティターン召喚、重力波!」
ペリドットが機転を利かしサーベルタイガーを足止めする。チャンスとばかりにルビー、アメジスト、シトリンが技連携を狙う。
「マジックボーナス湾曲、準備するですヨ!」
アダマンブレットを装填したアメジストが叫ぶ。しかしサーベルタイガーは溜めを作った。
「ッ! いけない! 静寂の鐘…」
パールが慌ててスキルを封じようとするが―
―サーベルタイガーは咆哮を実行―
耳を覆いたくなる咆哮に全員が竦み動けなくなってしまった。それどころか自身に掛かっていた弱体も解除されてしまい一方的に蹂躙されてしまった。
◇◆◇◆◇
「すまない、名前をちゃんと見てなかったよ。SABELと思ったらSHOVELだったなんてな」
「スペルも似てるんだし仕方無いわよ」
「けどショベルタイガーってあまり強そうじゃ無いですヨ」
「犬歯がショベルだったら食べにくいよね」
呆気なく全滅させられ、全員仲良く衰弱が治るのを待っている。
「肉塊じゃ無くてミンチだったら食べやすいですヨ」
「げっ、嫌な表現するなよ…」
アメジストの言葉を聞きリアルに想像してしまったのか、ルビーはしかめっ面で上腕をさする。
「サーベルタイガーはリンクしないからレアモンスターを釣らなければ問題無いわ。それよりも今日は無理せず余裕を持って狩りましょ」
「賛成」
「そうですね、レベルは1つ上がってますし明日にはレベル52になるでしょうから」
温かいコーヒーで喉を潤しながらパールの提案を受け入れるシトリンとペリドット。
「けどレベル55にするには1週間くらい掛かりそうだな」
「そうね。けれどそれ以上の経験を積まないと金獅子の君の足下にも及ばないわ」
「確かに…あの人はハンパ無かったな」
パールの言葉にルビーは思い出す。圧倒的な経験から繰り出される冷静な指示。豊富な知識や戦術は一朝一夕で身に付く物では無い。
「リズも黒百合の君だなんて呼ばれてるけど、普段は飄々として掴み所が無くてとても高レベルには見えないのよね…」
「それには激しく同意ですヨ」
「二つ名を持つ程の冒険者もピンキリなんだ」
「リズみたいなのは極々稀よ」
「私も強くなったら二つ名貰えるかな?」
「サファイアには暴走機関車とかがピッタリだな」
「ひどっ、ルビーちゃんそれはひどいよ!」
「それじゃ日頃の行いを改めないとね」
「パールちゃんまで!」
「私もそう思います」
「ペリドットちゃんまでぇ…」
ペリドットにまでツッコミを入れられサファイアは涙目になった。
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