第123話
翌朝、清々しい気分で目覚めたパール。日課となったコーヒーを淹れ皆が起きるまで本を片手にゆったりと過ごす。
コーヒーの香りに釣られて目が覚めるのがサファイアとペリドットだ。「おはよう」と短く挨拶し再び本へ視線を戻すパール。椅子によじ登ろうとするサファイアを手助けしたペリドットは自分も椅子へ座りコーヒーカップを手にしゆっくりと口へ運ぶ。サファイアはミルクたっぷりのカフェオレにし満足そうに飲み始める。
次に起きるのはアメジスト。オートマタ族に睡眠が必要なのか、付き合いが長いパールにも判らない。寝ぼけ眼で鼻をヒクつかせながらベッドから這い出て来るのはシトリンだ。耳がピンと立っている、今日は調子が良さそうだ。
未だベッドの住人なのはルビー。布団を蹴飛ばしおへそを丸出しにしていびきをかいている。そろそろ起こさないと予定に支障をきたす時間になりつつあるので、パールはサファイアに目配せしルビーを起こす様に伝える。こくりと頷きを返しサファイアはルビーのベッドへ。
「ルビーちゃんっ、朝だよー!」
獣人の中でも極めて聴力が高いケットシー族の耳元で大声をあげるサファイア。容赦無ぇな。
「に゛ゃ゛~!!」
文字通り飛び起きるルビー。30センチくらい飛び上がったぞ。サファイアは急いでパールの後ろに隠れる。
「サファイア、何しやがる!」
怒り心頭でサファイアを探すが、見付ける前にパールと目が合った。
「おはよう、良く眠れたかしら?」
にこりと微笑むパール。しかしその笑顔には「早く起きないともっと酷い目に遇わせるぞ」と、無言の圧があった。
すっかり冷めたコーヒーを一気に煽り胃に流し込む。苦さに顔をしかめながら着替えを始める。
寝間着を脱ぐと巨乳と言って差し支えの無い乳房がたゆんと揺れる。起きるまでは遅いが、起きてしまえば誰よりも行動が早いのがルビーだ。パールも空のコーヒーカップを集めトレーに乗せる。他のメンバーは姿見が備え付けられたクローゼットの前で着替え始める。
羞恥心が皆無に等しいサファイアとアメジストは気にする事無く(胸も無く)テキパキと着替えていく。一方でペリドットは背中を丸め服で前を隠しながら恐る恐る着替えている。そんな様子に気付いてしまったのがサファイア、アメジスト、シトリンだ。お互いアイコンタクトでペリドットの着衣…脱ぐ必要の無い下着まで脱がされすっぽんぽんだ。
「ここまでする必要あるんですかー!」
ペリドットの意見も尤もだ。理由も無く全裸にされてしまったペリドット、わなわなと震え今にも3人に拳骨を落としそうだ。ルビーは我関せずを貫き事態を収束させようなんて意思は感じられない。
「3人はお仕置きね」
「厳しいのをお願いします!」
パールの提案に涙目で懇願するペリドットだった。
◇◆◇◆◇
ヒルマウンテンへの道のりをヴェストアルティケルまで戻りそこから北上すること1刻、サファイア達はダムの湖畔へ来ていた。近くには小さな集落があり森林に囲まれたのどかな場所だ。
広場を見付けキューニィから降りて、焚き火を中心に車座になり紅茶で喉の渇きを潤す。
「少し休憩したら森へ入るわよ」
「今日のモンスターは魚じゃ無いの?」
サファイアはパールに問い掛ける。ダム湖に来たので水棲モンスターがターゲットだと思ったのだろう。
「樹よ。トレントを狩るわ」
「前に戦ったゴボウみたいなの?」
「あれよりずっと大きいヤツよ」
「どんなのだろ…ペリドットちゃん知ってる?」
「知りません、見れば解るんじゃないですか」
そう言ってプイとそっぽを向くペリドット。まだ怒ってるみたいだ。ちらりとアメジストとシトリンへ視線を向けるサファイア。2人は肩を竦めるしかない。たっぷりパールからお仕置きされたのだが許して貰え無いのでおっぱい枕はお預けだ。
「樹が相手って事は火が弱点だよな」
「ええ、そうよ。だから炎の鎧が必要なのだけど…。ペリドットさん、そろそろ許してあげない?」
パールは優しくペリドットに語り掛ける。
「…次したらブリザードの刑ですよ」
そう言ってにこりと微笑むペリドット。
「わかった、もうしないよっ」
言うが早いかサファイアはペリドットの膝に乗り豊満な乳房へ頭を預ける。
「もう、現金なんですから…」
えへへと笑うサファイアの頬っぺたをつねり左右へ引き伸ばす。涙目になるがこれで許して貰えるならとサファイアは耐えた。
「それじゃそろそろ行くわよ」
焚き火の火を消し立ち上がるパール。サファイア達もそれに続く。
◇◆◇◆◇
木がまばらに生える森へ入り少し歩くと前方に動く物を見付けた。
「あれがトレントか…」
「うぇぇ、気持ち悪いよぉ」
動く物の正体、それこそが森の主トレントだ。ルビー、パール、ペリドット、シトリンが手を繋いでようやく抱えられる程太い幹。それを支える根っ子の様な足。巨体には似合わない枝の様な腕と指。そして幹の真ん中には人の様な顔があった。
「目があるって事は視覚感知か?」
「いいえ、聴覚よ。先制の不意討ちは成功しないから気を付けて」
「あんなバカデカいヤツに近寄りたく無いね」
音を立てない様にそっと近付き、射程ギリギリの距離から手裏剣を投げるルビー。ギロリとルビーを睨み付けズシンズシンと大地を震わせ迫って来る。
急いでルビーはキャンプ地まで引き返しトレントを誘導する。全員が範囲内に居るのを確認しサファイアはエクスプロテクション、ペリドットは炎の鎧を掛ける。
「すっげぇ睨んでくるけど、コイツホントに聴覚感知か?」
「嘘だと思うなら次に釣る時は背後に回ってみなさい」
そう言ってサウンドハラスメントでヘイトを稼ぐパール。
「サファイア、早く侵食・深淵をくれ」
「今するところ!」
モンスターと言っても元が樹の化け物だ。ルビーの片手刀では皮しか斬れず、シトリンの打撃もあまり効果が無い。パールは火属性のスキルでトレントのHPを削る。
「硬い」
その巨体故シトリンは関節を極められず苦戦する。
「だったらこれだ、火遁円舞!」
ルビーの放った火遁円舞はトレントを包み螺旋を描き燃え上がる。しかしそれも表面が焦げただけですぐさま鞭の様な枝が襲って来る。すんでの所でそれを躱し反撃する。
「イフリート召喚! インフェルノバーン!」
炎の王が吐き出した灼熱の炎はトレントを後退させ頭に残っていた葉っぱを燃やし、まるで巨大な松明になった。
「単発じゃ効果薄いですヨ! 技連携を!」
その言葉に体が反応した。
背後からの不意討ちに乗せた蛇咬双牙。氣を脚に集めた三段飛燕脚。一気に懐へ飛び込みフルパワーで棍を打ち付ける地獄の痛み。渾身の力を込めて銃床でトレントを殴り上げ空中で撃ち抜くラストシューティング。高速で回転し斬られた事を気付かせない円陣剣。そして頭のおかしい武器による天罰降臨。
マジックボーナス光、それは光、炎、風、雷の属性魔法及びスキルへボーナス係数を掛けたダメージを与える。連携を行うウェポンスキルが多いほど属性攻撃の受付時間は長くなり、詠唱の長い魔法も決め易くなる。
「極光!」
「火遁円舞!」
「フレイムキャノン!」
「インフェルノバーン!」
一気呵成に攻め立て勝負を決める。トレントはその場に尻餅をつきすぅ…と消えた。
「ん? 何か経験値多くないか?」
普段より多い経験値にルビーは疑問に思う。
「大型モンスターだからボーナスが付くのよ」
「それってすっごいお得じゃん。もっと狩ろうよ!」
「サファイアさん落ち着いて。極光の消費MPも馬鹿にならないのだから通常のモンスターも混ぜながらにするわよ」
「あとトレントは個体数が少ないですヨ。集中して狩るとすぐに居なくなって再ポップに時間掛かるですヨ」
「さっきサーベルタイガーや森ウサギを見掛けたからそいつを混ぜようか」
そう言ってルビーはサーチのスキルを使いモンスターの位置を確認する。
2刻ほど狩りをすると空腹になったので遅い昼食を摂る。メニューはサーベルタイガーのステーキだ。
「筋ばってて硬いかと思ったけど意外に柔らかいな」
「普段食べてるのが森ウサギだからでしょうか?」
「冒険者を食べて無い事を祈るわ」
「パールちゃん、それ冗談になって無いよぅ」
想像してしまったのかサファイアは顔を歪ませる。微妙な空気にしてしまったお詫びにパールは取って置きのコーヒーを淹れて場を和ませる。お腹も膨れ空腹のバステも消えたので狩りを再開する。
◇◆◇◆◇
「トレントのボーナスがあるっつっても中々レベルは上がらないな」
「これまでのペースで上がってたらすぐにレベル100に到達してしまうもの。運営としてはもっと苦労させて時間を稼ぎたいのが本音でしょうね」
ルビーの言葉にメタな返しをするパール。尤もその通りなのだがもう少しボカしてほしいと思ったルビー。
夕闇が迫って来てサファイアがそろそろヴェストアルティケルへ戻ろうと提案するが、パールはこのままダムまで戻ってキャンプする事を告げる。
何でもこのダム、広場にキャンプ施設があり一般人にも開放されているのだ。
「しばらくお風呂はお預けかぁ…」
伸びをしながら地面に横たわるサファイア。頭上に広がる星空はヒルマウンテンやヴァイトインゼルで見るのとは星の数が桁違いだ。
「おい、サファイア、星を見るのは後にしろ。今は飯作るぞ」
パールとペリドットから指示を受けルビーとシトリンは必死に動き回る。姿の見えないアメジストはと言うと、岩陰に隠れ銃の整備をしていた。ヴァイトインゼルで買ったのが余程気に入ったと見える。
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