34.思いもよらぬこと
「旧日本の法則に則ってみましょうよ、戦争放棄……をね」
え? 旧日本? 戦争放棄? なんだそれは。旧って、ここは現日本とでも言うのか。
「はっ。何が戦争放棄だ、笑わせるな。その日本は存在などしないのだからな」
「私は信じてますけどね」
存在しないって何言ってるんだアンタら。俺は黙っていられず、
「ちょっと待てよ!」
思わず反発しようと声を発してしまった。
「どうしたの、カイザ」
「存在しないってなんだよ、存在しないならなぜ俺は今ここにいる? その日本は滅びたから俺はここに飛ばされたのか?」
「カイザ……?」
シュンレンはキョトンとした顔で俺を見る。
「面白いことを言うね、君は! 頭がおかしくなってしまったかな? ママの所へお帰り」
「うるせぇ黙れ! 俺は本当のことを言ったまでだ」
俺への対応が馬鹿にしすぎて俺はものすごくイライラしている。
「あのねぇ君。戦争放棄は架空の設定であるために存在しないんだよ。記憶喪失かい君は」
「この世界の方が架空だと思うけどね。現実じゃモンスターなんて出るわけないんだからな」
「現実? 何をほざいてやがる。お子ちゃまの話はここまでだ。帰れ、作戦の邪魔だ」
セイキは門番に任せて部屋へ入ってしまった。
「あの……」
角から顔を覗かせるのは、見たこともない男だった。
「……ミツル!」
リュウセイはそのミツルという男の元へ走って行った。
「あ、リュウセイいたんだね。皆がリュウセイに会いたいなんて言ってたよ。……まぁ、それは後にして、実はカリヤ君が本部長にお話があるみたいだから呼びに来たんだけど……」
「今は出なさそうだぞ」
「そうだと思ってたんだけど、本部長はカリヤ君を信頼しきってるからもしかすると来るかな~、なんてね」
「なるほど、試してみよう」
「うん、待ってて」
リュウセイとは違って、とても明るくてフレンドリーな性格だ。俺達に躊躇いなく挨拶をしてきた。
ミツルは大きな扉をノックする。「すみません」と声を発したところでセイキが出てきた。
会話は聞こえないが、きっと了承を得ただろう素振りをした。
「こちらです。先に下りててください、追い付きます」
セイキを誘導すると、ミツルはリュウセイの耳元で何かを囁いた。それに頷いたリュウセイを見たあとミツルは本部長の元へ走って行った。
「なんて言われたの?」
「暫くしたらついてこいだって」
「え」
「多分カリヤは本部長に反発する気だ」
「ははっ、1番信頼してるヤツに裏切られる瞬間が見られるのか! 楽しみじゃんか」
本当に楽しそうに言うサーモン。正直言って俺も見たい。
それから5分は待ったであろう。まだ行くのには早いと思うのだが、皆行こうとしている。
逆らう気はないので皆に合わせる。
門番は止める様子もなく俺達を通してくれた。
廊下をずっと渡って階段を降りる。長い階段を降りきったら、また長い廊下を歩く。
廊下を曲がると何やら野次馬が大勢たかっていた。
何とか前へと出たいので人混みの中を掻き分けると、カリヤとセイキが1対1で向き合っている。何を話していたのか、あるいはまだ話始めていないか。
「で、話というのは?」
「はい。あなたの行動について疑問が」
セイキは眉間にシワを寄せてカリヤを見る。
「そうですね……何も害を与えていない人を拐った時から、いや、その前からあなたの事を警戒し始めたのですが、何がしたいのですか? まず、人を拐った後どうしました?」
「………………」
「そうですか、殺したんですか」
「はっ!?」
セイキは何も答えていないのにどうして殺したとわかったのか。
「実は、拐った後を見てしまった方がいらっしゃるんです。ムービーも撮ってしまっています」
セイキは驚きを隠せずにいるだろう。額からは汗が滲み出ているのが見てとれる。
「これを全道に流せばどうなるか……そのリスクを背負いながら今後の活動をしてください。そして最後、私は戦争に不満を覚えます」
「……もういい!」
床をダンッ、と思いきり踏み潰す。
「何ださっきから、どいつもこいつもその話ばかり、嫌になってしまうわ!」
「こちらが嫌になりますよ!」
見た目とはそぐわない声で叫んだ。
「なぜ人同士で争わなければいけないのです?」
「弱い者はいらな……」
「その思考が間違っていると思われます。もう1度考え直していただけませんか?」
言ってる途中でカリヤは真顔でセイキに問う。
「この思考を変える気は更々ない」
セイキはかなり頑固だ。……だが、顔に焦りが見えている。
「私からの命令を聞いてもらえないのは、立場的にもあるのかもしれませんが……今まで私の願いは聞いてくれていたではないですか」
「それとこれとは別だ。早く持ち場へ……」
「懲りないジジィだな!」
野次馬の群れの中から声が聞こえた。声の主は群れを掻き分けてズカズカと前へ出るとセイキの前へ立つ。ここの住人なのかと疑うほどのチャラさで、ピアスは耳にも唇にも空けており、髪の毛は勿論金髪。髪は上に立っており、一層怖さを際立たせている。
「どうせその考えは愛しの奥さんが考えたんだろうがよ、わざわざ乗っかることはねぇだろクソジジィ」
「奥さんは関係ない! 私もこの話は賛成しているんだ、妻のことは触れるな」
「ふーん?」
一層焦りが増したセイキ。これは嘘もついているのではと思ってしまうが。
「なぜこんなに人がたかっている、早く散れ」
「これはアンタの敵ッスよ皆」
え!? という顔でセイキは周りを見渡す。
「こんだけ敵がいるんだ、その戦争は止めろ。ましてやアンタの可愛い弟子までもが否定してるんだ、本当に止めちまえ」
暫しの沈黙の後、
「そ、そうだ! 止めろ! 早く止めろ!!」
「俺も止めた方がいいと思う」
「私も!」
野次馬達がチャラ男に乗り出した。
その声を聞いたセイキはパニックに陥ったのか、突然しゃがみこんだ。
「ヤメロ……」
小さくそう呟き、耳を手で押さえた。体は小刻みに震えており、これは答えられる状況ではないかと思える。
「はい静かにぃー!」
サーモンが人差し指を立てて上へ突き上げた。
「こんな状況じゃ喋りたくても喋られないぜ皆。一旦静まって答えさせてやろうぜ」
サーモンの掛け声で一気に静まり帰った。
「ほら本部長さんよ、思ったことでも言いな」
「……っ」
セイキはサーモンを睨み付ける。何も悪いことはしていないとは思うのだが……。
「嫌味か貴様」
「え? とんでもございません。あなたのためを思って言ったまでのこと……」
「ほざくのもいい加減にしろ雑魚めが!」
力いっぱい出した声で再び場を静かにさせた。
「今更敵に回ったところでもう遅いんだよクズ共め……もう今から戦争始めろ言われたら始められるんだよ!」
セイキは背中に吊るしてあった鞘から剣を出した。それを構え、ミツルに向けた。
「お前から死んでもらおうか」
「……挑むところ……」
「ちょっ、待てって」
俺はいてもたってもいられなくなり、つい前に出てしまった。セイキよりもミツルよりも遥かに弱い俺が何をできるというのだ。
何もできないわけでもないと信じて、とりあえず反発してみよう。
「おかしい、その考えはおかしい」
「黙れ雑魚。お前から殺してやろうか」
「ちょっと待てって!」
剣を振り降ろしてきたので咄嗟に腕で守る。容赦なく切られた腕からは大量の血が溢れ出てきた。かなり痛い、泣きたくなるほど痛いが、ここで泣くわけにもいかず、泣きたいのを歯を食い縛って我慢。
「カイザ大丈夫!?」
「カイザ、もうこれは本部長を殺すしかない。犯人は処刑だ」
「何で!? 俺達が処刑するのかよ!?」
「ここの決まりだろう?」
あっ、そうか。俺のいた世界とここの世界のルールは違うのか……。
俺は自然と弓を構えていた。もう、いけないことだとも思わずに、何も考えずにセイキに矢を向ける。
「ほう……いい度胸じゃないか」
「死ね」
距離はそんなにないので当たると思い、矢を放った。
距離も近いせいか、スピードが凄まじく速い。今までにないスピードだ。
矢は曲がることなく一瞬にしてセイキの心臓を貫いた。
声も出さずに床に倒れ込んだセイキからは大量の出血。血が床に広がった。
俺の頭の中は真っ白だ。どうすればいいのかわからずただ呆然と立ち尽くす。
「本部長を処分しろ!」
合図を出した誰かが中心となって数人がかりでセイキを持ち上げた。そのままどこかへ連れ去っていく。
「大丈夫かい?」
声を掛けてくれたのはミツルだ。俺は頷き、そのままフワワ達の元へ戻る。
「皆は撤退、ここの掃除は掃除班に任せた」
ミツルが仕切ると、一斉に動き出した。俺達も動かなければと思っていた時、リュウセイの親友であろうミツルが俺達に声を掛けて外へと誘導した。
外へ出ると、第1に思ったのは空気がすっきりしてるなと。建物の中は何かとどんよりしていた。
「何かすごいことに巻き込んでしまって申し訳なく思っています」
「何を言ってるの。私らもこれを予想してここへ来たのよ。……まぁ、人を1人殺すなんて思ってもいなかったと思うけど」
「そうか……殺すのは仕方ないからもう忘れないといけないんですが、自分1つ気になった事があるので聞いていいですか、君」
君の正体は俺だった。ミツルは俺を見てこう言った。
「君は……異世界からやって来てますよね?」
そう言った途端、皆が驚いた。
わけわからなかったらすいません




