29.予定より早めの
「シュンレン」
「……ん?」
自室で寝ているシュンレンをリュウセイは小声で起こした。リュウセイは勝手にシュンレンの部屋へ入ったことになる。
「えっ、リュウセイ!?」
あまりの驚きについ大声を出してしまった。その口を咄嗟に押さえた。
「ごめん。今頼れるのはシュンレンしかいない」
「は? ……っていうか、あなたの親友がいるじゃない」
「部屋が変わっている。だからわからない」
「あらそう……。で? こんな夜中にどうしたの?」
今の時刻は深夜3時。リュウセイは門番の目を盗んで忍び込むのにかなりの時間を有したのだ。
シュンレンはベッドの上に座り、足をプラプラさせる。
「本部長は何を考えている? 頭がイカれているだろう」
「……あぁ、そうね。薬でもやったのかってくらい頭がおかしいわ。全てはあなたのせいよ」
「え?」
キョトンとした顔でシュンレンを見た。
「信頼していた逸材がいなくなって本部長はおかしくなったのよ。なぜだ、なぜ抜け出した……とね。それで何でかわからないけど、戦争すると決めたのよ」
シュンレンは脚を逆に組直す。
「それで、私達全員に今後の作戦の主旨を伝えてきたの。あと、ほとんどの人は知らないだろうが、道内の地域のほとんどは我々が支配済みだ。とも言っていたわ」
「何だって……? それじゃあ、隣の小樽も?」
「いいえ、小樽はまだだわ。なぜ後回しにしているのかはよくわからないけど、あの3人がいるからって言ってた気がする」
「何だよそれは……。カイザ達が無事なのはいいんだけど、他の地域は取り戻せないのか?」
「私の考察に過ぎないのだけれど、取り戻せると思う。あの3人がやってくれればの話……」
それを聞いてリュウセイは大きく目を見開いた。
「カイザ達ならやってくれる。ここに不満を持っているからな。前にシュンレンが来たときに言っていただろ? ここに来るって」
「言ってたわね」
「早速連絡だ」
「待って」
去ろうとしたリュウセイを引き留めた。
「あくまで私の外見よ?」
「今はシュンレンを信じよう」
一瞬顔を赤らめながらも、シュンレンは一言加える。
「ありがとう。……しかし、これからどう戻るつもりなの? 夜の方が警備が厳しいのよ?」
「それは…………」
言葉が詰まるリュウセイ。あらゆる思考を駆使しながらも、辿り着いた答えは……、
「なんとかして帰る」
これしかなかったようだ。その答えに呆れたシュンレンは、
「全くもう……」
溜め息をひとつついた。
「なんなら日が明けるまでここにいたら?」
「そんな……シュンレンに悪い」
「私はいいのよ。あなたのお陰で眠気が覚めたわ」
「ごめんなさい……」
いいの、いいのとリュウセイの背中をバシバシ叩くシュンレン。
「明日どうするつもりなの? その、カイザだっけ? 本部長のこと伝えるの?」
「伝えるのは携帯で何とかなるから帰らないとして、本部長直々に思考を全て吐き出させたいと思ってる」
「あのお方が言うかどうかよね……」
「なんとしてでも言わせる。頭が狂ってると気付かさせてあげたい」
「ふふ……そうね、その通りだわ。私も本部長の元へ行くわ。あなたより身分が上な私が行けばもっと説得力が増す」
「ありがとう。てっきり俺の事嫌いだと思っていた。ここを抜け出したばかりに……」
「あなたたちの強い意志に私は負けたわ。……立ち話も何だから、座りましょう」
シュンレンはリュウセイをベッドの上に座らせた。この部屋にはベッドと机と椅子くらいしかなく、椅子に関してはひとつしかないので、シュンレンだけが座るのもどうかと思いベッドの上にした。
2人の距離は少しばかり離れている。これが俗に言う心の距離というものか。
「……小樽以外にも無事な所ってあるのか?」
「えーっと、函館と帯広は無事なはずよ。強くて支配できなかったのかしら」
「へぇ……。本当に何を考えてるのか読めないな……」
「私考えたのよ、年齢のせいもあるんじゃないかってね」
ふふふっ、と冗談めかして言った。リュウセイも一緒になって笑う。
「年齢のせいだったら仕方ないのだろうが……違うからな…………」
「私が早くに行動を起こせばよかったわね。申し訳ないわ」
本当に申し訳なさそうに言うシュンレンに対して、全力で否定するリュウセイ。
本部長の言うことは絶対守らなければいけないルールなのだから、何もシュンレンが悪いわけではないのだ。
それに、今からやることは、そのルールを破る卑劣な行為なのだから。
「起きてサーモン」
朝9時を回ったところ。電車に乗ってる俺達はそろそろ札幌に着く頃なので、ひとりだけ寝ていたサーモンをフワワが起こした。
「んあ……?」
「そろそろ着くよ」
「あー……おけー」
大きく伸びをするサーモンを横目に、俺は寝るのが早いと思った。帰りに寝るのはわからなくはないのだが。
アナウンスが札幌に着くと流して数分後、駅に到着。
外へ出た俺達は真っ先に背伸びをした。座っているだけなのに疲れるとはどういうことなのだ。
「よく寝た……と思いきや、あまり気持ちよくなかったー!」
「何なのそれ」
朝からテンションが変わらず高いサーモンに対しての俺のテンションの低さ。
サーモンは乗って数分後に寝始めたので、今後は眠いという言葉など発しないだろうと予想。ずっと元気に過ごしそうだ。
「さてと行くぞ」
それぞれの荷物を持っていざ協会本部へ。
テレビ中継とかされてるのかな、と楽しみにしているサーモンとフワワ。
駅からそう遠くないらしく、徒歩で行けるような距離だと言う。
「あれだよん」
サーモンが指したのは明らかに目立つ建物だった。真っ白な壁にゴールドのラインがかっこよく引かれている、高級そうな建物。
中を覗いてみると、コの字になっている建物の形の真ん中のスペースには噴水が2つに木が建物の周りにびっしりと。花も多く植えられており、とても華やかな作りになっている。
「どうやって入るの」
「さりげなく入れないかなぁ?」
「さりげなく入れるなら門番もいらないよね?」
初っ端から詰まる俺達。普通に入れると思っていたので、まさか門番が立っているなど思いもしなかった。
「どうすんのサーモン?」
「ホント、どうするのサーモン」
「いや……全部俺に押し付けるんじゃねぇよ!」
結構響く声でサーモンが答えた。それに気付いてしまった門番がこちらへ歩いてきた。
「どうされました?」
「えっ? いや、あの……」
さぁ、どう嘘をつくサーモンよ。全てはお前に掛かっているぞ……。
「えーっとぉ、け、見学に参りました……」
はっ!?
予想外の返答に俺もフワワも目が点になってしまった。
まず入れてくれないだろう、こんな弱っちい俺達を。
「見学ですか。朝早くからお越しいただいて光栄でございます。本部長殿にお話をつけますので少々待たれてはいただけませんか」
「は、はい……」
「では、門の前でお待ちください」
門番は中へ入り、急ぎ足で建物の中へ入っていく。
「ちょっとサーモン」
もうひとりの門番に聞こえない程度の音量で俺はサーモンに話しかけた。
「何で見学なんだよ! 入れてもらえるわけないだろ! 特に俺は!」
「仕方ないだろうが。他に思い付かなかったんだから」
「だからって……」
また無駄な緊張が走ってきたではないか。俺だけ取り残されるだなんてごめんだ。
「私も入れる自信ないなぁ。サーモンみたく神業使えるわけでもないし」
「そうだよなぁ。あいにくサーモンだけになるかもな」
「えっ、それは心細いんだけど!?」
「お前が勝手に無謀な嘘をつくから悪いんだろ」
「そうだ。もしサーモンがひとりになっても私ら知らないよー」
「うわー。皆酷いわー」
もうひとりの門番に怪しまれていないか心配になりながらも、本部長に話をしに行った門番を待つ。……待つと言っても完全に話をしていたが。
「私がもし通ったとしてもカイザ通るかな」
「通らなさそうだよな。でもさ、カイザひとりいなくたって何とかなるっしょ」
「ちょっと」
それはそれで酷すぎやしないか? 確かにその通りかもしれないが。
「カイザ残った時は……別ルートでも考えてるといいさ」
「そうだね、それがいい」
「俺にそんなことできると思うなよな」
何が別ルートだ。どうやって探せばいいのだ、こんな柵と木に囲まれた所のどこにルートがあるっていうのだ。
「俺の心配よりもさ、ここ入れなかった時の事も考えろよ」
「確実に俺は入れるからいいとするじゃん。心細いけども。けど、フワワがボツになればカイザとフワワは協力して別ルートを……」
「結局別ルートかよ!……まぁ、それしかないだろうけども」
はぁ……と溜め息をひとつ漏らしてしまった。
「ま、入れるっしょ。見学するだけなんだからよ」
俺とフワワの肩をポンポン叩きながら言った。
……その自信を俺にください。
遅れましたすいません
ここからがあれっすね、盛り上がりが凄くなるかもしれませんね……って言っておきながらそうじゃなかったらごめんなさい




