17.さすらいの勇者ならぬ戦士
降りてきた相手モンスターは俺達を見下ろす。
息をするたびに口から炎がちらちらと出てくる。
「フワワは気を付けながら接近攻撃してて。気を引くのも忘れずに」
「うんっ」
「俺とカイザは遠距離攻撃を中心に。いざとなればカイザも接近な」
「う、うぃーす……」
とりあえずの指示は受け取った。いざという時に俺が接近していいのかは謎だが。
「ほら、いけっ」
サーモンの合図と共に相手モンスターへ一斉攻撃開始。
フワワは軽快なステップで相手へ突撃し、サーモンはスナイパーで的確に攻める作戦、俺は慣れない弓での連射攻撃。
さすがはサーモン。慣れているし強いせいかスナイパーの細い銃弾でも相手へかなりのダメージを喰らわせている。
フワワはというと、所々でつまずいている。詳細はわからないが何かに苦戦してるのは見てとれる。
俺もできる限り矢を射つがいつもしつこいけど、本当にダメージ減ってるのか。
俺はサーモンに聞いてみることにする。
「サーモンちょっといい?」
「何?」
「俺の攻撃って相手に効いてるの?」
「うーん、そのレベルの弓だとそんなに効いてない」
「はっ!?」
衝撃的発言を言われた。
それでは射ってる意味がないのでは……。
「お前は今は射撃練習を兼ねてるだけで、ダメージは……」
「そんなんでいいのかよ!? それに最近この弓買ったばかりなのに」
「だって、初心者にいきなり強い武器持たせても武器が言うこと聞いてくれないから」
「はい?」
武器に言うこと聞く、聞かないがあるのか? 動物じゃないんだから。
「いいから今は射撃の腕を上げるのに専念しろ。上がればそれに応じて強い武器持てるんだから」
「…………わかったよ」
渋々俺は意味のない……わけでもない射撃をする。
相手はフワワを無視して民家へと足を進めた。
「フワワ行かせるな!」
「わかってるけどっ」
あんなでかいのをどうやって止めればいいのか、フワワも混乱してるに違いない。
止めることはできず、相手は容赦なく家を踏み潰す。家の中には誰もいないと思われるからまだ安心。
ズカズカと歩き続ける相手にフワワは一生懸命攻撃を続けるが一向に止まってくれない。
そこでサーモンがマシンガンに持ち変えてモンスターに近付いて攻撃を始める。
住民や消防隊達はもうこの場にはいなくなっていた。まだ消されていない炎は民家にも広がり、一気に燃え広がってしまっている。
「フワワ、あいつを炎の中にでも入れてみよう」
「どうやって?」
「自然な流れで!」
「えぇ!?」
自然な流れとか上手くいくのか。サーモンは適当にものを言ってるんじゃないかっていつも思う。
「ギリギリまでフワワはあいつを誘導してて」
「熱い」
「燃えない程度に……」
まんまとついていくモンスターを誘導しながらサーモンはここだという所でフワワを引っ張った。
モンスターは炎の海に足を踏み入れてしまい、モンスターを炎が一気に包んだ。
モンスター付近は焦げ臭くなり俺達は一旦モンスターから離れることに。
ある程度離れた所で様子を見ることに。
塵になってなくなるのではないかと思うくらい燃え盛り、空高くへと煙が立つ。
「早く死んでほしい……」
「本当な、早く死ねや」
「あのレベルなら炎で死ぬとは思うんだけどなぁ」
ただひたすら死ぬことを願うフワワと俺。
まだモンスターの形は保たれている。
「塵になるのにどんくらいかかるかな」
「30分もかからないとは思う」
「30も充分長いわ……」
生き物が燃え尽きる時間など知らないが、死ぬならいつでも待てる気がする。
モンスターと一緒に民家は全て燃えて一面赤景色。少し離れていても熱さが伝わってくる。
「帰りたいよ俺……」
「こいつ倒さないと依頼達成できないだろ?死ぬまで見届けないと」
ただただ燃えるのを見てなければいけない辛さ。生き物が死にゆく姿を見届けることなんて人生の中で経験する者など数えるくらいしかいないだろう。
炎が燃え盛る中「グワアアァァァッッ」と叫び声が聞こえた。
まだ死んでなかったのか。
炎が一瞬風によって消え、モンスターが姿を見せた。そのまま羽根を広げて飛び上がりまたもや俺達のところへ飛んできた。
炎は再び燃えて、モンスターをいい感じにかっこよく見せている。
「しぶとい奴め……」
「どうすんのサーモン?」
「死んででも殺るしかない」
ショットガンを手に持ち、なるべく近くに寄って撃つ。
フワワも攻撃し始めた。相手に炎が少し付いていて近寄り難いがそれでも攻撃しなければ倒せない。
俺も攻撃するがダメージが全然減ってないことを考えると射つのも馬鹿馬鹿しくなる。
俺は腕が疲れたので少し攻撃を止めたその時、後ろから「大丈夫?」と声が掛かった。
俺は振り向くと完全なる装備を装った男の姿。いかにもベテランって感じ。
「えっと……?」
「俺は救援に来ただけの者だから名乗る必要もない」
「そ、そうっすか……」
名乗っても忘れるだけだからいいかな、と思ったが少しつっかかる言葉が聞こえたのを俺は逃さなかった。
「そうっすかって言ったけど、救援に来てくれたんですか!?」
救援など来ないと思っていた矢先、まさかの救援に来てくれたなんて。
「うん、札幌でも噂が立ってるよ、小樽で巨大モンスター出現って。皆ここにはたくさん戦士いると思って誰も助けに来ないんだよね、今までよく頑張ったよ君た達は。後は任せて」
札幌の小樽に対する偏見に苛立ちを覚えるが今はとりあえず押さえておこう。この人にはいろいろ後から聞けばいいだけ。
無名戦士はサーモンとフワワがモンスターと交戦してる間を割って入って鞘から大剣を取り出した。
身長の8割を閉めているその剣を両手で持ち上げ潔くモンスターへ切る……と言うより叩き付けた。
モンスターは頭から大量の血を流し地面に座り込む。
次に座り込んで低くなったので狙いやすくなる。飛び上がって大剣をモンスターの胸に突き刺す。長いのでかなり奥へと刺さっただろう。
剣と皮膚の間から思いっきり血が吹き出る。
そしてあっという間にモンスターは横へ倒れた。
遠くから見てた俺は聞こえないが、無名戦士はフワワとサーモンに何か話してるよう。
話が終わったのか無名戦士とフワワとサーモンは俺の所へと向かってくる。
「無事倒したよあのモンスター」
「あ、ありがとうございます……」
「にしても戦士協会もどうかしてるね」
大剣の先を地面に付け、金属音が鳴る。
「トップは何だか知らないけどここを嫌ってるよ、多分」
「マジすか」
そうか、サーモンはまだ詳細を知らないのか。
「ここに戦士を増員させようともしないんだよ。ここには君達3人でやっていけるって言って」
こそまでは聞いた話と一致している。なぜこの人が知ってるのかはわからないが。
「でも違うんだよ。トップは北海道全域を支配しようとしてる」
「え?」
驚愕した。何を考えているのやら。
「戦争を起こそうとか考えてるみたいだけど、そんな大事にはしたくないから都会からの戦士増加を止めて弱い戦士を減らす。いなくなったところで強い戦士を大量に送り込んでここは札幌のものだと思い知らせる。馬鹿だよね、弱い戦士減らして何するんだか。ならそのまま強い戦士送れよって思うよね」
「確かに、弱い戦士を減らす必要性は全く感じられないわ」
サーモンに同意。戦士が過疎ったらどうするんだよ。
「とりあえず田舎はこれで支配完了する。都会はベテランが多いから手強い。ベテランを減らすわけにもいかないから何とかして交渉するみたいなんだよね。馬鹿すぎるよね、ベテランには媚を売ろうとか考えてるクズな」
一通り話した後で無名戦士は咳払いをする。
「俺この考えが気にくわない。君らもそう思うでしょう?」
俺達はこくりと頷く。
「だから俺はもう札幌には帰らない。都会なんざもうこりごり。小樽も都会なのに田舎扱いする神経がわからないし」
「帰らなくていいの?」
「俺1人欠けたところで気付かないよあのアホは」
「アホ……か」
「俺しばらく小樽に居座るよ、どこかで会ったらよろしく」
俺達に手を振って無名戦士はこの場を去った。
「あの人いれば俺達も少しは楽になるかもしれないな」
「…………あ、受託所の依頼全部俺らが持ってるんだった」
「はい?」
驚いた顔を見せるサーモン。事情を話していなかったのでこの場を借りて話すことにする。
話終えてからサーモンに「何やってんの」と呆れられたが自棄になってやってしまったからやり遂げなければいけない。
「少しくらい戻していけば?」
「いや、それは嫌だ」
「私も戻したくない」
「そうか……」
ならいいですよと言いながらサーモンは、
「この火はどうすりゃいいのさ」
今目の前にある問題を指摘。これはまた消防を呼ばなければいけないのか、逃げた消防隊はどこへ行ったのか。
「119番するか」
サーモンは自らの携帯を取り出して消防へ連絡。
駆け付けた消防隊により消化活動が行われた。
死体と化したモンスターは専門の業者が回収にやって来た。業者曰く燃やすそう。
火は消防隊に任せて家へ帰り、俺はテレビを点けた。たまたま点けたらニュースがやっており、今さっきいた場所の火事についてのニュースがやっていた。
「今日中には消せないんだな」
「あれは無理だろうね」
「うん」
テロップにも今日中には消せない模様。と書いててある。
復興作業で忙しくなりそうだ。何より、死者が出なかったのが不幸中の幸いだろう。