16.やる気
近付いてきては恐ろしくなって矢を射つことさえ困難になってしまう。ましてや、動きながら狙うなんていう高度な技術を持っているわけではないので余計恐い。
俺は少しずつ後退りながら心臓を狙い、弦を引っ張る。
俺はこの時、弦を引っ張っていない方の指先が熱くなってきた。予測線まで見えているではないか。
これはチャンス。予測線を頼りに相手の胸、心臓付近を狙い射つ。
矢は青い炎を纏いながら一直線に相手の胸へと突き刺さった。
相手は地面へ座り込んでしまい、ズドンッと大きな音をたてながら少しダウン。
「すごいカイザ! 今の何!?」
「わ、わからない」
本当に今のは何だったのだ? 一瞬の事で全然状況が把握できない。もしかしてフワワの使う竜巻と同じようなものなのだろうか?
「とにかく、今がチャンスだからどんどん攻撃しよう」
「了解」
俺は座り込んだままのモンスターの心臓を狙い続ける。さすがに今さっきのような炎は出てこない。
ずっと太股を攻撃し続けているフワワの何気ない強烈な一撃が相手の怒りを爆発させたのか、雄叫びを上げながら少し短めの腕を振り回す。短めといっても俺達と比べれば愕然と大きさが違うのだが。
フワワは上手く避けたのはいいが、相手はまだ立ち上がらない。フワワにやられ続けている脚が痛むのか? できることならそのままくたばっていてほしいところだが。
「しぶといヤツめ!」
フワワはクロスさせながら扇子を相手に切りつけると、その形に合わせて炎が相手を切りつつも焼き付ける。
また新しい技を覚えたのだろうか。その技は竜巻よりもダメージを与える量が大きいようだ。
「どうだモンスターよ! 私の秘めていた技を……あーっ!」
フワワは相手が急に立ち上がったので直ぐ様逃げる。台詞の途中とか悲しすぎるっしょ。
「カイザ気を付けて! 更に強くなってると思うから」
「わかった」
次の迎撃態勢を取る。態勢を取ったところできちんと戦えるかというとそんなことないと思うが。
相手は雄叫びを上げると、両手から炎が燃え上がる。
フワワは危険を察知し俺を引っ張って木陰に隠れさせた。
警視していると、両手から燃え上がっていた炎が徐々に小さくなり、消えた頃には爪が前よりも鋭くなり、腕には何やら刃物らしきものが付いていた。
「フワワ……」
「あれを私達に倒せって言われても無理そうになってきたね」
トップに会うためだと張り切っていたが、現実は甘くない。素人戦士ではあのでかいモンスターは倒せないのがオチか。
降参すれば物申す権利すら失われてこちらはただの操り人形でしかなくなる。戦士協会の言いなりになるしかない……。
素人にどうやって倒せと。素人に何を求めてるんだ協会トップは。市内で3人でやってけって言ってる時点で頭おかしいだろう。ベテランの1人や2人くらい置いてもいいじゃないか。
町を滅ぼそうとしてるのかお前らは。人口ただでさえ少ない現代の日本なのにこれ以上減ったら国がなくなるだろうが。
俺はたくさんの文句が頭の中に遮った。すごく腹立たしい。
「札幌では、こういう危機的状況に遭ったら救援要請ができるんだって。何か専用のベルを鳴らして」
フワワは隠れながらそんなことを言った。
「でも俺達にはそんなこともできないじゃん」
「いいなと思って」
それを今言うことなのか?
確かに羨ましいが今はそれどころではないだろう。相手をどうするかが先だ。
「サーモンはパトロールでここ回らないのかな」
「え?」
「ここ回ればサーモンも来るじゃない」
「なるほど」
そんな偶然あったらいいけど。
そんな事を考えながら俺達は喋っていると、相手モンスターが口から火を放ってきた。
危険を察知したフワワはまたもや俺を引っ張って森への出口へ急ぐ。
「あいつどうすんの!?」
「今はそんなこと考えてる場合じゃなさそう。山火事ならぬ森火事になっちゃう!」
そうか、相手は俺らに火を放ったのだから木には絶対火は着いただろう。
「でも、放たれた火が激しく燃えて森全体が焼ければあいつも自滅すると思うの。炎で死んだらの話だけど!」
なるほど。火を放ったのはいいがそういうリスクもあるのか。そこら辺の知識はさすがにモンスターにはあるわけないか。
このまま馬鹿みたいに焼け死にすればいいのだが……。
焼けたのを想定して事を進めようとすると、とある疑問が生まれる。
民家にも火が移ったらどうするんだろうか、と。
まさかこんなもので死者を出すわけにもいかない。
仮に民家に移らなくても、そのあとの処理は消防隊でも追い付くものではないだろう。森の面積が広すぎるのだから。
1日で火を消せるものではない。2~3日はかかるのでなないかと思う。
そんなリスクを考えるとモンスターの暴走を止めた方が……と思ったが、もう出遅れなんだった。
とりあえず森の外へは出た。
「カイザ、消防署に連絡してきてもらえる? どっかから電話借りて」
「え、俺?」
「うん。私が行ったら、もしこっちにモンスター来たら相手できる? できないよね」
「そうだね……行ってくるわ」
この際恥ずかしいとかそういうものは全て捨て去らなければならない。自宅訪問して電話を借りるなんて行為死んでもやりたくないと内心で思ってしまっているがそんなこと言ってる暇など微塵もない。
俺はとにかく近くにあった家を訪問。事情を話せば絶対に了承してくれるはずだ。
家のインターホンを押すと中からチャラそうな女の人が出てきた。よりによってこんな気の合わなさそうな人が出てくるなんて。
了承貰えるか心配になったが、女の人が「何の用で?」と言ってきたので事情を話して「電話を貸してください」と一言言うと女の人はあっさりオッケーしてくれた。
電話の元へ案内してもらうと、早速消防署へ連絡。女の人に申し訳ないのでそそくさと用を済ませてこの家を出ていった。
「フワワモンスターは?」
「まだ来ない」
真っ先にフワワの元へ向かった俺は聞いた。モンスターが来ていないのは幸いだが、まだ油断は禁物。
「どうする……この燃えようは」
フワワと俺は同時に上を見上げる。
炎が高くまで燃え上がっている。きっとこのあと横に一気に広がるに違いない。
大事になる前に消防隊が来てくれれば……。
「火事だああぁぁぁ!?」
急に男の人の声が聞こえた。まだ住民はこの事に気付いていなかったよう。
男の人の大きな声で次々と人が出てきた。出てきては叫んだりなんなりとパニック状態になってしまっている。
「ど、どうするのあの住民達」
「どうしよう……。今住民構って森からモンスター出てきたらすぐに対処は難しくなるし……」
フワワは必死に策を考えていると、
「おい、君達!」
「はいっ」
フワワがさっと後ろを振り向いて応答。
「あれどういう状況だ!? お前ら何したんだよ!」
「あの……私共の戦力不足でモンスターがその……」
「この出来損ないめ!」
とある住民が活を入れていた。
フワワも俺もうつ向いてしまう。
「お前らは戦士失格じゃないか? モンスターもろくに倒せないで戦士なんて語れるか!」
「いやでも、あんなでかいのはさすがに……」
「言い訳無用、お前らに力がないから倒せないだけ。都会にいるベテランにならなければ戦士なんて呼べやしねぇ。お前らにみたいな弱っちぃ奴等が何でここに来た? 倒せるとでも思ったのか?ベテランに頼めよ!」
住民である男の人は怒鳴り口調でフワワと俺に向かって言いつけた。
俺はいろいろと反論をしたかったが、フワワは冷静になって答える。
「確かに、私共は戦士と語れるほどの戦力など微塵もありません。今森の中にいるモンスターもでかくて強いですが、きっとベテランにとっては雑魚でしかないと思うのです。なので、私共から救援要請を出したところで来てもらえないと思います」
「なんだよそれは……。助けが来ないってどういう事だよ!?」
助けが来ないのは致命的だ。誰もが怒りを覚える内容だろう。なので男の人の反応は間違っていない。
「私共は協会から見捨てられていると思うのです。なぜなら、ここ小樽にベテラン戦士の1人や2人も置いてくれず、私共だけでやっていけるだろうと勝手に判断されて……」
「何だよそれはよ! 結局はお前らが弱いから見捨てられてんじゃないのか?」
「でもそうだとしたらこの市は確実に滅びると思うのですが……」
「望みのある所にしか強い奴は来ねぇんだよ。弱い奴は弱いままなんだよ。これが掟なんだよ! 社会でも人間関係でもなんでもそうだ……金持ちには良いものがあって、貧乏人にはちっぽけなものしかない。有名企業はどんどん繁盛するが無名企業はなくなるばかり」
もっともな意見だった。
協会がベテランを寄越さないのはそのせいなのか? でも、協会側は俺達ならできるって言ってベテランをこちらに寄越さなかった。それはサーモンがいるから?
いやしかし、サーモンもサーモンでベテラン粋には達してない。素人の中のトップというべきか。
今サーモンが来てモンスターと太刀打ちすれば勝てたりとか?
そうすれば俺達でやっていけるという確証は得られなくもない……と思われるのか?
「だからだな……」
男の人は真っ直ぐな瞳で俺達を見ると、
「底辺は自分で努力しなきゃならねぇんだよ。何したって誰もついてはくれない……お前らだけでベテランになって見返せばいい話だ」
自分達でベテランになる……か。
ベテランになってから協会に文句を言いに行けば更に説得力が増すと思えるが、ベテランになるために頑張ってる間にこの市がなくなったらどうしよう。
「誰も強い者がいないのに強くなれるでしょうか……」
「“なれるんでしょうか”じゃなくて“なる”んだよ。誰もついてくれないんだから。それに、俺は自分1人で強くなった方が尊敬するがな」
おっかない人かなと思ったがそうでもなかった。
「だから頑張れ。俺はお前らがベテランになれるって信じてる」
応援までしてくれて。
こんなこと言ってもらえば更にやる気は増してくる。
俺はベテランやら最強やらなれるわけないって言ってやる気がないとサーモンに散々言ってきたが、俄然やる気が出た。
ベテランにならないと協会トップに何も言う権利が与えられないと言うのなら。
「応援感謝します」
俺とフワワはお礼を言うと、ちょうど消防隊が駆け付けてくれた。
「やっと来た……」
「来たのは良いけど、この火はどうやって消すんだろう」
見ればほぼ全体に燃え広がっているでなはいか。
異臭も漂ってくる。これでは一酸化中毒で死んでしまうのではないか?
そう思ってた時、消防隊から避難の指示が。
メガホンを持って急遽住民に呼び掛けを始めた。
「あなた方2人も避難を」
「いや、でも中にモンスターが……」
「今は自分を大事にしましょう」
そう言われ俺達は一旦下がる。
「きぃゃああぁぁぁぁ!」
向こうから聞こえた声の方を見やれば家が燃えている。このままでは次は家全部が燃えてしまう。
消防隊員は木と家に分けて消火活動を始めた。家を訪問して残ってる人がいないかも確認してるようだ。
「よぅ」
肩をポンと叩かれたので後ろを振り向いてみるとそこにはサーモンの姿。
「サーモン! 今大惨事なんだよ」
「遅いんだよ来るの」
「本当に大惨事だな……何あった?」
「モンスターと戦ってたんだけど、強くて倒せなくて……相手は火を吹いてきてさ、火が木に燃え移ってこの様……」
「なるほどねぇ」
うーん、と少し考える様子を見せるサーモン。
「燃えてなくなればいいのに」
「それ俺らも思ってた」
「けど、そうはいかないみたいだな」
「「え?」」
俺とフワワは声を合わせて言った。
サーモンが空に指を指したので俺達も見上げると今まで戦ってたモンスターが飛んでいた。
「うそだ……」
「こっち来るぞ!」
モンスターは勢いよくこちらへ飛んでくる。あの大きさなら近くの家1つや2つは軽く踏んでしまいそう。
「何か飛んでくるぞ!?」
消防隊員達も気付いたようで消火をしていた手を一旦止めて逃げ出す。奥の方で消火をしていた消防隊員はギリギリまで火を消し続ける。
今ならサーモンもいる。さっきよりはもっとダメージを喰らわす事も可能かもしれない。
「あのくらい倒してやるぞお前ら」
ドスンッと地に着地したモンスターを相手に俺達は武器を構える。
サーモンのいる安心感とやる気が満ち溢れて今ならいける気がする。
文章に気を付けたつもりだけど変わってないな




