18.目標とは
日中の大惨事から数時間後、日も落ちてすっかり暗くなった午後7時頃。
俺とサーモンの間では無名戦士の話題で持ちきりだ。
フワワはというと、今はお風呂に入っている。
「あいつ何ですぐ消えたんだろうな」
「名前も言ってくれなかったんだよ、名乗る必要ないって言って」
「充分名乗る必要あるわこんにゃろう。これからお世話になりそうなのにな」
「ホントだよ。あの人に聞きたいことたくさんあるしさ」
「意味深なこと言ってたよな。戦争とか支配とか」
「そうそう。めっちゃ気になる」
日本は戦争放棄をしたんじゃなかったのか?
しかも国内で争うなんてもっての他。国内が騒動を起こすに違いない。
しかし、なぜ底辺戦士を残さず殺さなければいけないのか。そこにずっと疑問を覚えている。
今は少子高齢化が進んでいるはずだが、これは後々活躍するであろう子供たちを殺してるのと同じことを言えるのではないかと思うのだ。
底辺戦士だって訓練すれば必ずと言っていいほど強くなって活躍できるのだから残しておくべきなのではないか、と。
そこんとこも踏まえて協会トップに物申すつもりではいるが。
「あと、お前らも無謀な事考えてたよな? 許したけども」
「え、何?」
「協会に乗り込もうとしてるんだろ? やっぱり馬鹿だと思う、お前ら」
「いや、世界最強になりたいとか言ってるヤツに言われたくないんだけど」
「それは立派な夢だろうがよ。……まぁ、最強になれば協会に入ることは許されるんだけどな」
「え!?」
聞き捨てならない言葉を耳にする。
「協会に入れるの?」
「ある程度の実力が認められれば相手からお誘いが来るんだわ。俺達も相手側に目をつけられてるみたいだから望みはある」
「いや、誘われてもそこで戦士として働かないけどな。ブラックな場所みたいだし」
「俺もそこで働きたくない。収入はいいけどね」
収入がよくても考えが悪ければ入る気など失せるに決まっている。無名戦士の言うことが本当ならばの話だが。
「俺世界最強にならなくても協会に行って文句言い付けに行くし。フワワもその気でいるし」
「フワワもそうなんだもんな……。俺恐ろしくて乗り気になれないわ」
「なら来なくてよろしい。俺よりクズと見なす」
「カイザよりクズって相当クズ……」
「あぁん?」
俺はどんだけクズだと思われてるのか。
ノリの悪い絡みづらい人間だとは承知してはいるが、自分と比べたのが馬鹿だと後悔してしまった。
「俺も乗り込むわ、解せないから」
「その意気だっ」
サーモンも了承してくれて一層安心してきた。
「あの無名戦士も参戦してくれればなぁ」
「あいつは単独行動を望みそうだな。俺らみたいなヤツには従わない、とか言いそう」
「あー……そういうメンドイヤツか」
実際にはわからないが、あの一切笑わなさそうな顔とやる気の無さそうな声を聞く限りそういう解釈をしてしまう。ノらない性格と。
その後から話が脱線して人間の性格について語り始めた。今のノり気ではない性格からノリノリの性格まで、いろいろ討論した。
熱く語っている最中ドアの開く音がした。俺とサーモンは同時にそちらを見やるとフワワの姿があった。
「気持ちよかったー」
「ちょっ……フワワちゃん?」
「うん?」
俺とサーモンはバッとフワワから視線を逸らして後ろを振り向く。
「その格好はどういうつもり!?」
「その格好…………ふぁ!?」
今どういう状況かはわからないが、今は確実にフワワはタオルを体に1枚だけ巻いた姿で立っている。
「あっ、これはっ、その、実家にいる気分でお風呂から上がってきちゃって……それでっ……!」
「わーかったから! 早く着てきなさい!」
「はいぃー!」
目のやりどころに困った、今のは。
ここに暮らし始めて日が浅いから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが、そこら辺は意識するものなのではないかと思う。これでタオル落ちちゃって見られた、とか言われても責任など取れない。
「フワワド天然過ぎるでしょあれ」
「天然か……あれは……」
もはや天然とは何かわからなくなってきた。
にしてもエロい体だった。服来てても胸のでかさは尋常じゃないとは思っていたが、タオル1枚になると尋常を通り越してもうヤバかった。谷間まで見えるのだから。
「ごめんなさい2人共」
部屋着に着替えて戻ってきたフワワは謝罪と共に俺達の近くへ座った。
俺達はテーブルは囲んでおらず、テーブルの隣に2人並んで座っていた。
「同じ過ち繰り返さないでよ?」
「はい……」
「しかも男だからね? 相手は」
「そうでした……」
フワワは反省の色を見せている。フワワの性格がドギツい性格ではなかったのがよかったと思う。大抵なら自分が悪くても逆ギレしそうだから。
「っていうか、脱衣所で着替えないのフワワは?」
「自分の実家に脱衣所なんてものはなかったからいつもリビングで着替えてたから……」
「ないのか……。次からはそこで着替えなよ?」
「うん」
そういえば俺の家も元々脱衣所なかったな。後から風呂場を改築して新しくできた。
「あっ、そうそう。依頼の紙を見てたらモンスターの卵見付けましたってやつがあったんだけど……」
フワワはそう言ってその依頼書を持ってきた。
「ほら」
「本当だ……」
「これヤバくね?」
このまま放置していればいずれ卵が孵化して暴れだしてしまいそう。育て親がどうこうできる問題ではないのだから。
「これ明日行くか……。ちゃんと住所も書いてくれてるし」
「孵化しないことを願おう」
「卵って私らが取りに行かないと駄目なの? 専用の何かいないの?」
「あ、そうか。業者に向かわせればいいんだわ」
モンスターの後処理するのは俺達ではなく専門の業者。きっと卵もそこで何とかしてくれるってわけか。
サーモンは連絡するわ、と言って受話器が置いてある方へ向かう。
「うおっ!?」と突然情けない声で転びだした。
俺がそこら辺にポイと投げた鞄がサーモンの足に引っ掛かって転んでしまったのだ。
これは俺が悪いが笑うしかない。フワワも隣で笑っている。
「笑うなお前らー! これカイザのだろ!? 何でこんな所に置いてんだボケェー!」
その鞄をサーモンはバンバンと床に叩き付ける。
俺は「止めろ止めろ」と言いながら鞄を回収しに行った。
気を取り直したサーモンは再び受話器の方へ向かう。今度こそは辿り着けた。
「あの転び方はお笑い芸人も夢じゃなさそう」
「それな」
笑いながらそう会話した。
笑い疲れていい感じに眠気も来た頃。就寝時間になったので俺は床に就く。
思い出し笑いもしながらも目を瞑り、自然と落ちるのを待ちながら数分間を過ごす。
落ちたな__と思ったその時、突然金縛りが俺を襲ってきた。疲れてるのかと思い無理矢理解こうとするが体が言うことを聞いてくれない。
「カイザ」
耳元から囁くような声が。
「今からお話をしようか」
苦しいのに話なんて聞いていられるか、と思ったがそのまま話を続けられた。
「この世界のヒントをあげる」
声が出ないので聞きたいことも何も聞けず少しやましい気持ちになりながらも聞く。……聞くことしかできないから。
「前にカイザは実家へ帰ったよね? まぁ、家族なんているわけないけど」
目線だけは動かせるようなので動かしてみると黄色い髪の毛の女の子が隣で横になっていた。きっと最初に出会った女の子だろう。
にしても怖い。誰かわかってても怖い。
「ここは夢でも何でもないからね。現実世界でもない。だから親はいるわけない。じゃあどこか? それはあなたがこの世界をクリアしてからわかることですよ」
横目で見てるから表情などはどうなってるのかわからないので何とも言えないが、微笑んだのは確かだ。
女の子に気を取られていたら突如金縛りが解かれた。解放された俺は直ぐ様隣を向くと、もう女の子姿はなかった。
「なんだよクリアってよ……」
全然ヒントになってないと思うのだが。
気持ちがすっきりしない。今後この事を引き摺って過ごさなければいけないのか。そう思うと苛立ってくる。
益々謎が深くなってきたではないか。
何をクリアすればいいのか? 最終目標は何か。サーモンもフワワも同じ目標を持っているのだろうか? だとすれば話は早い。2人に聞けばいい事だから。
もし違ったら? その時はどうすればいいのだ。俺は今何のためにここにいるのかわからない。今は協会に乗り込む事だけを考えているのだが。
これはただの私事に過ぎない。自分がしたいと思ってやろうとしてる事なのだから。
わからなくて眠れもしない。考えれば考えるほど目が冴えてきてしまう。
とりあえず明日サーモンとフワワに戦士になった理由でも聞いてみよう。
ただそれだけを考えて再度目を瞑った。
「フワワっていくつ?」
「私? いくつでしょう」
朝8時、カイザがまだ起きていないので2人で何やら会話を。それは年齢についてだった。
お互いの年齢を知らないと気付いたサーモンは今こうして聞いているのだ。仲間なんだから知ってて当然だから、とのこと。
「俺前から思ってたけどさ、多分16歳くらいだと思うんだよね。それか17か」
「え、そんな若くないよ」
「は!?」
サーモンは大きく目を見開いて驚いた。
「そんな驚かなくても。もうちょい上だよ」
「はぁ~? お前高校生くらいじゃないのか」
「うん、私ちゃんと高校行ったもん」
「嘘だろ?」と言いながら顎に手を当て考える。
「19?」
「違う」
「えぇ……」
再度考え込む。「じゃあいくつだよ~」と頭を抱えながらいる。
「20?」
「いいや」
「21」
「正解!」
「うっそ!?」
もう当てずっぽうに攻めた。
攻めたのはいいが、顔のわりに年齢を食ってたのがここ1番の驚き。
「フワワって21なの!?」
「うん。短期大学も卒業したんだよ」
「顔幼いね」
「よく言われるよ」
「ほぉ~」と感心しながらフワワの顔をまじまじと見つめる。
「そんなに見られても……」
「あ、ごめんごめん」
フワワの顔から目を逸らす。
「マジか、意外」
「えへへ。サーモンはいくつ?」
「俺? んじゃあ俺の年齢も当ててみそ」
フワワもサーモンと同じように顎に手を当て考える。人は考えるとき顔に手を当てるのは変わらないのか。
「23!」
「おしい!」
「えぇー?」と言いながら次は、
「25!」
「そうそう、正解!」
「いぇーい!」
すぐに当てられたのが嬉しかったのか万歳をした。
「サーモンは若そうに見えるよ」
「やったね。老けて見えてなくて」
「……そういえば、カイザはいくつだろう?」
「そういえばだな本当に」
サーモンの考えでは、カイザこそ16じゃないかと予想した。それにフワワも納得した。
「フワワよりは若干幼いし」
「私も幼く見える。まだ発展途上だと思う」
2人はお互いの意見を尊重しながら年齢を予測し終えると、タイミングよくカイザが下りてきた。
ガチャとドアを開けると、サーモンとフワワはなぜかスタンバっていた。
「何……?」
俺はそう聞くと、2人揃って声をあげる。
「「年齢いくつ?」」と。
「年齢? 16だけど……」
「ほぅら見たかフワワよー! 俺達の予想は当たっていた…!」
「やっぱり子供だねカイザは!」
「は?」
俺は状況が飲み込めずにいる。何が予想だ、何が子供だ。何の話をしてるんだお前らは。
「おっと失礼。今年齢当てクイズをやっていましてだねぇ」
「そうなんですよ、で、私達は見事カイザの年齢を一発で当てる事ができたのですよ」
しゃべり方が妙にイラッと来る。
「あっそう……」
俺は適当に流した。
その後、ふと昨日の事を思い出した。
「それより2人とも聞きたいことあるんだけど」
「何かね?カイザくん」
「何でも聞きたまえ」
「そのしゃべり方止めろ」
そして、コホンと咳払いをして言う。
「2人は何で戦士になったの?目的は?」
「目的……か、考えてなかったな」
「うん。私は兄に憧れただけで目的は……。兄みたくなることかな?」
「なら俺は世界最強だわ」
2人とも意見がバラバラ。
「戦士ってなろうと思えばなれるもんなの?」「なろうと思えばって、お前は何で戦士になったんだよ?」
「いや俺は……」
そういえば俺は2人に話していなかったな。俺が小樽に来るまでの経緯を。
だが、それを話して信用してもらえるかっていうとそうでもないと思う。2人にとってのこの世界は現実世界になるわけだから、「違うところからやって来た」なんて言っても信用してくれないだろう。
俺ももし現実世界にいてそんなこと言われたら信じない。
これは話すべきなのか否か。
俺にとって信頼できる仲間たちだから話しても構わない……とは思うのだが。信用してくれなかった時の事を考えると虚しくなる。
「カイザ? どうしたの?」
「あ、あぁ……」
俺は頭の中で考えすぎて端から見たらボーッとしてるように見えたようだ。
「俺は……」
意を決して言うことにしよう。だって、いまこうしている事が事実なのだから。
俺は拳を握り締め2人を向く。
まだまだ終わらない




