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第8話「無茶する美羽」

読んで頂きましたら、高評価とコメント、ブックマークをよろしくお願いします。

 休日明け。いつも通りに教室を訪れる。何となく中に入った瞬間、頭の上に黒板消しが落ちて来る。


「いてっ⁉︎」

「げっ⁉︎ 尾賀じゃん⁉︎」

「またなのか、レイラ?」

「ひぃいい⁉︎ ごめんなさぁぁぁい⁉︎」


 俺はレイラにゆっくりと詰め寄り、耳を強く引っ張った。周囲がざわめいたのは俺も分かっている。あんまりよろしくない光景だと言う自覚はあった。だが、どうしても許せなかったんだ。


「いったーい! そんな怒らなくても良いのに〜」

「三度目はないぞ」

「ぶぅ〜」


 レイラは頬を膨らませ、ぶすっと不貞腐れていた。可愛げがあるのは大いに構わないが、良い加減に悪戯は止めてくれなきゃ困る。


 多少は苛立ちが収まり、真っ直ぐ席に向かった。すぐ椅子に座ると、正面から咎める声が掛かって来る。


「尾賀くんってば、暴力はダメだよ! どんな理由があろうとも暴力で解決しちゃいけません!」

「お、牧原じゃん。おはよう。確かにさっきのはやり過ぎたわ。ごめん」

「もう! 尾賀くんは真面目だからなるべく咎めたくないんだよ。凄い偉いもんね?」


 相変わらず豊満な二つの膨らみが目立ってしまう優等生メガネ女子の牧原智美。意外と二次元好きで、オタク女子っぷりはかなり有名だ。


 本人は“好きなものを恥じるべからず”と言い張っている。人にはそれぞれの好みがあるから自分の主観で否定するのは良くないんだと唱えていた。


 そんな牧原から注意されるのは意外である。いてもなら見て見ぬフリする方が印象深かった。よりによって俺に向けなくても良い気がする。


「今後は気をつけてね! じゃあ、話題を変えるけど、久し振りにアニメトークしよっ!」

「急に来たな……」

「しょうがないじゃん。普段は朝から勉強に勤しんでいるせいかアニメトークしてる暇がなかったんだよ!」

「はいはい。少しだけだぞ」

「わーい!」


 牧原は相変わらずアニメが好きみたいだ。こうしてアニメトークする時の表情は幸せそうな笑顔で溢れていた。彼女から創作のヒントをもらうこともあって、かなり仲良くしている。


「最近のおすすめは【根暗ちゃんは闇メイドなんだぞ⭐︎】とか良いかも! 知ってる?」

「あぁ、もちろん。あの作品は中身が神すぎるって話題になったアニメだろ? ちゃんと俺だって見てるよ」

「さすが尾賀くん! 同じアニメオタクの名に恥じないね!」

「それは大袈裟だって」


 本当に牧原はハイテンションで明るかった。普段の真面目キャラをぶち壊す勢いでアニメトークを楽しんでいる。


 だが、楽しい時間もついに終わりを告げる。朝礼を始める予鈴が鳴り響いた。


 いつも通り余裕を持って教卓の前に立つ茂朗先生が朝礼開始を呼び掛ける。


「それでは全員着席できたかな? 今から朝礼を始めるよ」


 そんなテンプレみたいな一言を聞き、今日も学校が始まっていくんだと自覚を持った。


 朝礼が終わり、俺はトイレに直行する。朝礼の後は高確率でトイレに行くことが多く、ここを逃すと一時間目の授業が危うかった。


 トイレまで早歩きで向かっていると、横に可憐な美少女が並んだ。彼女は平然と横並びをキープしながら話し掛けて来た。


「ちょっと冷たいよ。朝っぱらから徹夜疲れで少しでも眠気を取り払おうと頑張った私に一声も掛けて来ないんだからさ」

「悪い。何か気が回らなかった」

「ふーん?」


 何かと不機嫌そうな様子を窺わせるのは美羽だった。やはり、イラストを仕上げるのに徹夜したんだと言う。頑張り屋さんなのは良いが、徹夜するのも無理しないで欲しかった。


「お前って無茶するよな? そんな様子じゃあ俺と初初同人誌制作は心配だよ」

「うるさい。分かってるってば。ちょっと反省してる」

「本当か? 凄く嘘っぽいんたが?」


 俺が告げた率直な一言で、横からチラッと睨み付ける美羽。かなり不機嫌になったみたいだ。後で何か埋め合わせしないと爆発するかも知れない。


 トイレに差し掛かった時点で美羽と別れた。異性同士だとトイレは別々だから一旦離れるのは致し方ない。


 トイレから出ると、先に美羽が待ってくれていた。胸の前で腕組みし、隠し切れていないイライラを態度が示す。


「何だかすまないな」

「良いよ。早く行こ」


 美羽は咎めて来なかった。少し眠そうな表情を浮かべていたのが一番動機としては近しいだろう。


 教室に戻って、美羽は席に着き、机の上に突っ伏した。やはり、眠気には勝てないみたいである。だが、もう少しで予鈴がなってしまう時刻だった。


 仕方なく担当の先生に保健室で美羽を休ませようと決める。


 校内に予鈴が鳴り響き、授業を始める段階に差し掛かろうとしていた。同時に担当の教師が入って来たのを見て、すぐ保健室に連れていくことを伝える。その際に動機は適当に答えて済ませてしまった。


「よっこらしょっ!」


 ふらつく美羽を支えながら保健室に入る。すぐ保健の先生が要件を聞いて来た。


「どこか具合が悪いんですか? 海麗さんは体調が悪いみたいですけど?」

「ちょっと相当な寝不足みたいで、少し寝かせてあげてくれませんか? 見ていると凄い危なそうで心配だったんです」


 事情を簡潔に伝えると、保険の先生から返事が来る。それはとても安心するような内容だった。


「分かりました。しばらく保健室のベッドで寝かしておきますね? しっかりと担当の先生には伝えておいてください」

「ありがとうございます。では、失礼しました」


 美羽を置いて保健室から立ち去った。ぐっすり眠れていれば良いと思いながら教室を目指していく。


 あの後、三時間目には美羽が完全発揮した。もの凄い機嫌が良さそうで、かなりの安定感を窺う。それ以降は美羽が困るような素振りは見掛けなかった。


 放課後の下駄箱。先に美羽と生徒玄関を出た辺りで待っているように鈴莉がお願いして来た。途中の自動販売機で俺はミネラルウォーターを買っておく。おまけに三人の分まで好きそうな飲み物を買ってから目的地に向かった。


 そこに一番乗りで待機していた美羽を見掛ける。遠くから声を掛け、近くまで近寄った時に思い切って告げた。


「お待たせ、美羽! 保健室のベッドでよく眠れたか?」

「あ、猛雄だ。連れて行ってくれたお陰で、無事に疲れは吹っ飛んだかも。今後は注意しようと思った」


 美羽はニコニコと笑っていた。そこに疲れが取れていることが分かって安心する。


 それよりも改めた側から言っちゃ悪いことを告げた。一人で抱えるのは少し心配だったから、一応声を掛けてみる。


「そんなに大変なら二人を頼るのも“バランス”だと思う。だから、一人で抱え込まないで、他に頼ってしまうのもチームワークじゃないか?」

「……ふふっ。猛雄はそこまで心配してくれてるんだ? ちょっと得した気分かも」


 美羽は頬を赤らめ、後ろで手を組んだまま、俺に微笑み掛ける。何だか美羽が向ける眼差しには“魅惑”を孕んでいた。それを向けられると困惑してしまう。


 つい視線を逸らし、回答に迷った。しかし、俺が迷った末に出した回答は、何だかんだ言って美羽をエスカレーターさせる内容だったかも知れない。


「美羽の笑顔は素敵だよ。朝みたいに疲れ切った姿も努力が滲んでいて悪くなかった。けど、余裕を持って笑ってくれる方が俺としては有り難いかもな」


 多少の羞恥心に構わず、本音を告げてみた。そんな回答に対し、美羽はあからさまな返事をする。


「やっぱ猛雄は気遣い上手だね? そこんとこ見直したわ。猛雄だったんなら、私が素敵なお嫁さんになっても良いよ」

「……え?」

「にひぃ!」


 美羽が悪戯っぽい笑顔を向け、じーっと澄まして見つめて来た。もの凄い魅力を孕んだ表情に視線が釘付けになってしまう。


「どうかした? ちょっと顔が真っ赤じゃん。もしかして私のせい?」

「いや、何でもねぇから」

「ふーん」


 徐々に美羽が近寄って来る。思わず後退するも、美羽の方が迫るのが早かった。いきなりバッと胸元に飛び込み、キスを強請る。


「チューしたい。だめ?」

「だ、だめに決まってんだろ」

「そっか。釣れないね?」


 そのまま腕を俺の背中に回し、ギュッと抱き締めた。頬を若干胸の下に押し当て、すりすりと擦って来る。


「おい、頼むから離れてくれ……! こんなとこ見られたくない……!」

「もうちょっとだけ。お願い……?」

「は、早くしないと二人とも来ちゃうから!」


 最後のお願いで、スッと美羽は離れていく。少し距離を置き、再び向かい合った。その時の美羽は何だかご機嫌を損ねる。


「はぁ。満足させてくれないのは、大きな罪だよ。全く猛雄は分かってない。それでも私は猛雄に尽くしたい。だから、あんまり拒んじゃ嫌だよ。今から約束して欲しいな?」

「な、何を?」


 その場でクルッと一回転し、正面向きに直った美羽が言い放った。


「いつか頃合いが来たら、絶対に結婚しよう!」


 もの凄い衝撃が心を突き抜ける。俺の心を容赦なく射止め、手に入れようとする気持ちが深く伝わった。もはや、美羽から目を離せなくなる。


「やっぱり二人が気になるか? そうだよね。だって、二人とも超絶可愛くて、私に劣らない女の子だから分かる」


 真剣な眼差しで、じっーっと見つめ、明るく望んで来た。


「婚約者は私を選んでね? 頑張った分だけ私たちはしっかりと絆が深められるからさ」


 少しだけ後退りし、急に美羽は後ろの二人に呼び掛けた。どうやら二人が来てしまったらしい。


「おーい! 二人ともお待たせ!」

「まさか抜け駆けとかないよな?」

「ないってば。そんな薄情じゃないからさ」


 さっきと違ったことを言っている。それだと俺は“薄情な奴”と認識するしかなかった。


 無事に二人が合流できた時点で、俺たちは美羽の自宅を目指す。

読んで頂きありがとうございました。

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