第7話「久々の会話」
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現在、海麗宅で会議中。飲み物を頂きながら話し合いは進んでいた。
「絶対に“ロリ属性”と“お姉さん属性”は兼ねるべきだと思う。ここは小説家として推したい」
「それ個人の性癖でしょ? 女子と会議する時に本性を見せないでよ」
「そんなんじゃあ創作できないだろ! 何のために俺は来たんだよ!」
「冗談冗談。怒らないでってば」
智子が起こり出した俺を宥める。最初から冗談は止めて欲しかった。真剣に取り組んでいる者を侵害する行為だ。
とにかく会議は真面目に進められた。三人からも意見が飛び交い、置いて行かれないような努力をする。
四人で出した意見はパソコンに纏めた。今度の同人作品は四人で共同制作する予定だから緊張している。
「じゃあ、メインヒロインは“ロリ幼馴染み”と“巨乳学級委員長”を中心に進める感じかな?」
「この属性は良いだろ。やっぱりオタクが求める最高傑作には不可欠だと思ったんだよ」
「さすがに創作活動してれば掴める感覚だね」
三人は満足そうな表情を浮かべる。中々自分も捨てたもんじゃないと言う自覚が芽生えた瞬間だった。
俺は美羽の入れてくれたコーヒーを一口飲み、簡単な感想を述べる。
「このコーヒー美味いな。どこの奴なんだ?」
この時、何気ない質問が驚愕する回答を拾うことなど想定していなかった。質問に対し、美羽が率直な回答を提示する。
「コーヒーショップの三番目ぐらいに高い奴だけど? やっぱり高級そうな奴は買ってみたくなっちゃうんだぁ」
「––––はぁ⁉︎ 三番目に高い奴なのぉ⁉︎」
「そんな驚かなくても良いのに。大袈裟すぎる」
にんまり笑顔を作った美羽は反応に満足していた。そこまで驚かれるのは彼女も奮発して良かったことだろう。
すると、鈴莉が横から口を挟む。美羽だけ堪能する事態は黙っていられなかったらしい。
「そう言えば猛雄って【口溶けチョコ太郎】とかつまんでなかった? あれ一箱千六百円するんだよ? 確か中身は六袋しか入ってないの」
「なっ⁉︎ 男の客人に贅沢なもん出すなよ⁉︎」
「武生は客人じゃない。歴としたサークルメンバーだろ。そんな贔屓目で見るなって」
何だかんだ言って三人とも優しかった。こんな俺を誘ってくれた時点で感謝し切れない。これから彼女たちに恩返しする上で、同人サークルの知名度を上げたかった。
とにかく会議は進み、制作開始予定日を決める話に移る。そろそろ帰宅する時間も近いので、手っ取り早く決められるように努力した。
「じゃあ、制作開始は一週間後。それまで各自準備を進めるので決まりました。今日もお疲れ様です」
「お疲れ〜。今晩は泊まってくね〜。一緒に風呂でも入ろ」
「猛雄が聞いてる前では平然に言うの止めないかな? 私たちが困るんだけど」
「悪い悪い。次から気をつける」
もう三人は男を混ぜた環境に慣れ始めた頃だと思う。俺も大分慣れたせいか、昔と感覚が違っている実感を覚えた。これも運命なんだと受け入れる方向に向かう。
「明日は休日だから来たいなら来れば? もちろん明後日は訪問確定日だからよろしく」
「了解。これから伝説として語られるような同人作品を世に送り出そう。俺は全力を尽くすからよろしく頼むわ」
「こちらこそ。私たちに出来ることがあれば協力するよ。だから、頑張ろうね!」
「おう!」
俺は幸せ者だ。こんな運命に導かれるとは思っていなかった。この先で待ち受ける未来をもの凄い期待したのは初めてかも知れない。心の底からやる気が溢れ出した。
帰路に着くと、盛り上がっていた環境から一変し、場違い感を覚える。何だか静か過ぎることが不自然に思えてしまう。あんな明るい環境で過ごしていたら、無理もないのが当たり前だ。
もうすぐ自宅に到着するところで、意外な人物と鉢合わせる。
「あ、凪じゃんか」
「げっ、猛雄かよ。マジで最悪なんだけど」
「そんな嫌がらなくても良いだろ。俺たちって結構仲良しだったじゃん。覚えてないのか?」
「全然記憶にない。ってか、猛雄って誰だったっけ? いきなりド忘れしたわ」
「おい! それはさすがにない!」
何となく普段より愛想良く話せている気がする。本来なら突き飛ばすような一言が頻繁に突き刺さっていた。けど、今は真正面かは話せている。
(何かの気まぐれだったりするのか? こいつが真面に話す機会とかなかったし、いつもトゲトゲみないな発言で突き放すのが日常だったからな)
ふと、違和感を覚え、疑問が浮かぶ。凪に限って距離を空けるのは何かしら理由があるんだろう。ただ、彼女から理由とか告げてくれたことはなかった。
こうして意識しながら対面するのは久々かも知れない。どんな理由で凪が俺を嫌悪しているのか謎すぎて考えもしなかったことだ。
「猛雄って、こんな時間に出歩いても大丈夫なの? 両親は何も言ってくれないんだね?」
「別に言われない訳じゃないよ。俺を信じてくれているからこそ、何も言わずして見守ってるんじゃないか?」
「はぁ? 都合良すぎでしょ」
久し振りに鼻で笑った凪。やはり、いつも接する凪と異なる感じが抜け切らなかった。少しは凪も解放された状態だと考える方が無難かも知れない。
「あ、そう言えば一つだけ報告しておくわ」
「ん? 何の報告なんだ?」
一呼吸を置き、凪は思い掛けない一言を告げて来る。
「私、Vtuberになるの。ちょっと自分らしくない道を辿ってみたくなったわ。別に目立ちたいとかじゃない。何となく稼げそうだから挑戦してみようかな、って」
「はぁ⁉︎ あの凪がVtuberぁぁあああ⁉︎」
思わず大声を上げてしまう。それは絶叫に近かった。そもそも凪がVtuberに興味があったなんて初耳である。
人は知らず変わっていく生き物だ。どんな理を持ってしても変化なき世は訪れない。それに準ずるかのような宣言だった。
黒い長髪が風に揺れる。心地良い風が吹き抜けるタイミングとしては絶妙だった。いきなり意外な夢を告げる凪をどう見てやれば良いのか迷ってしまう。
「まぁ、そんな感じよ。じゃ、行くわ。長話もいい加減に切り上げて、さっさと宿題やらなきゃ」
「ちょ、ちょっと待て! 一つだけ言わせてくれ!」
「何? 言うなら簡潔に一言でどうぞ」
俺は軽く息を吸って、正直に抱いた気持ちを吐き出した。
「お互いに頑張ろうな! Vtuberになるんなら応援するわ!」
「……そう。それはありがとう。じゃあ、またね」
凪は一言だけ感謝を述べ、立ち去る足を動かし始めた。すぐ隣を横切って、凪がさっさと帰路を辿る。
引き留めはしなかった。特に引き留めたい事情があった訳じゃない。Vtuberを夢見るのも凪の勝手だから目指すのは賛成だった。
複雑な気持ちを抱えながら自宅に着く。帰って来た俺に、わざわざ母さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。最近は出掛ける機会が多くなったんじゃないの?」
「あぁ。ちょっと友達が話したいらしくてさ。あんま気にしなくても大丈夫だよ。何かトラブルがあった訳じゃないし」
「そう。それなら良いけど」
俺は真っ直ぐ自室に向かった。久し振りに凪と親しげな会話が交わせて、内心が不思議な感覚に囚われてしまっている。だが、あんまり悪く思っている訳でもなかった。
俺は部屋に入ったら、すぐ机のパソコンに向かう。迷わず起動させ、立ち上がった画面から小説投稿サイトにアクセスした。
何だか妙に執筆したい気分だ。執筆ページに移ると、キーを打つ指が動き出す。素早くキーが打ち出されて、画面に文章を打ち込んでいく。
謎に執筆したい衝動に突き動かされながら作品を進めていた。今日は特に調子が良さそうである。
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