第6話「悪戯っ子」
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太陽の日差しが照りつける通学路。春だから気温はそこまで高くなかった。しばらくは程よい気温が保たれるなんて天気予報ではやっていたはずだ。
取り敢えず教室の扉を開ける。次の瞬間、俺は何気ない悪戯に引っ掛かった。
頭上から何か落ちて来る。それも白い粉が頭に撒き散らされた。多分、黒板消しだと思う。この手の悪戯は定番中の定番だ。
「って誰がやったんだぁあああああああ‼︎」
「あははははっ! まさか本当に落ちるとは思わなかったぁ!」
「バカ。あれは怒るだろ。知らないぞ」
「だ、だってぇ––––あれ?」
俺は犯人が分かると本人に迫っていく。目の前で停止したら、右の手首を掴んで怒鳴り散らした。
「何すんだよ、こらぁ! 生意気じゃねぇか!」
「あわわわわわ⁉︎ ごめんなさい⁉︎」
彼女は長い艶やかな金髪と幼い顔立ちをしていた。クラス内でも背の順は低い方だと見れば分かるぐらいの低身長である。
確か見た感じ彼女は成川レイラだった記憶があった。彼女は海外で生まれ、こっちに引っ越して来たアメリカ人と日本人のハーフで間違いない。
「ふん! 今度から悪戯は止めろ。先生が引っ掛かったら大変だぞ」
「は、はーい……」
何気にレイラはむすっとした表情を向けて来る。敢えて不満そうな表情には触れず、俺はさっさと席に着いた。必要な荷物を机に入れていたら、レイラが正面から声かけて来た。
「さっきは本当にごめん。ちょっとした悪戯心が抑えられなかったんだ。でも、すっきりしたから問題ない! 引っ掛かってくれてありがとうね!」
「感謝されても嬉しくねぇから。全く、普段からお前って悪戯っ子なのか?」
「まぁ、意外に指摘されることは多いよ。でも、気にしてない!」
もう少し“不味い”と言う気持ちを持った方が可愛らしい気がした。やたらと悪戯されるのは癪に障る。ただ、無邪気さは凄い抜群だった。
一時間目の授業開始。朝っぱらから理科室で実験するとか言い出して不満が募った。そこに隣席のレイラが寄って来る。距離を縮め、ギリギリ数ミリまで迫った。
「おい、狭いだろ。離れてくれ」
「いやいや。そんなに照れなくても良いんですが?」
「は? 喜んでねぇから!」
小さい声でレイラに反発してみた。彼女は目を細め、ジト目で俺を見つめる。
何だか企んでそうな予感が的中するのは辛いことだった。突然、レイラから愛の告白が囁かれる。
「付き合っちゃおう? 尾賀がだいーすきなんだけど?」
「今の時間帯を考えてくれないか? 他を誘ってやれば良いだろ」
「ぶぅ! 何だよ、ケチ!」
いきなり告白して来る意味が分からない。それも授業中にすることじゃないはずだ。本当に迷惑だから止めて欲しかった。
一時間目が終わり、理科室を出て行こうとした瞬間のこと。突然、レイラが腕にしがみついて来た。それも智子が見ている前でされてしまう。
「は?」
「え、ええっ⁉︎ れ、レイラぁああ⁉︎」
「ふふん!」
バカみたいな声が上がる。目の前で智子が凄く苛立っていた。どうしようもなく言い訳を考えてしまっていたら、後から鈴莉と美羽まで目撃する。
その後、俺はレイラに離れてもらった。そこには三人が無理やり引き剥がすのを手伝ってくれる。
「本当に好意はないんだな?」
「は、はい……」
智子から尋問される。そこは殆ど利用されない屋上で問い詰められていた。あんまり智子的には人付き合いを緩めて欲しくないらしい。それは鈴莉も同意を示した。
とにかく俺は好意がないことを明言する。それに対して鈴莉は破った場合の条件を提示して来た。
「私たちと組んだんだから三人の中で一人だけ結婚相手を選んでも良いよ。ただ、ルールが守れないなら選ぶ権利は剥奪するから」
「本気で制限するのかよ。別にイチャイチャ目的なんて言う願望は持ち合わせていないが?」
「念の為だよ。一応約束が破られないためにもルールはあった方が良い」
ルールを作るとか徹底した判断力は鈴莉が一番長けている。実際に鈴莉としては俺と交際しようか検討しているからこそ、他の女子に靡いて欲しくないらしい。
取り敢えず次は体育の時間だから三人と別れた。話は勝手に進めるらしく、俺は特に入っていなくても決定する余地があるみたいだ。
(何だか不公平な気もするが、三人から一人だけ選択して嫁さんに出来るのか。まぁ、考えようだけどな)
体育館に向かいながら歩み進める。まだ時間的に余裕があるから間に合うだろう。
すでに廊下は急足が目立った。授業に間に合わせようとする意識が促しているんだと思う。みんな成績だけは落としたくない奴らが多いから当然だ。
体育館に到着。無事に時間は守れたのを時計で確認した。後は授業に使う道具を準備するだけだと行動に移す。最悪自分だけが動いている点は気にしないでおいた。
「よーし! それじゃあ体育の授業を始める。前々から準備してあった道具は誰がやってくれたのかな?」
体育教師の質問に対して正直な行動を取る。黙って挙手すると、体育教師はもの凄い評価してくれた。
お昼休みの時間。何故か鈴莉が図書室の席を人数分確保して待っていた。それには大いに感謝している。
普段から手料理を嗜む俺は自前の弁当箱を用意するのが日課だ。それを見た三人は改めて感心したような態度を取った。
「猛雄って料理上手いよな? 意外だわ」
「本当に料理してんのは感心するかも。それだけのスキルがあれば婿入りは申し分ないよ」
「全く。アピールは万全ってことか」
三人が含んだ一言には結婚を前提に考えているのが窺える。そもそも俺は三人から選ぶとは一言も言っていなかった。以前の話も了承前から決まってしまっていたのは気がかりだ。
三人が注目する中、堂々と弁当箱を広げる。広げた弁当箱に詰められた料理は、まさしく熟練度を疑わせない力があった。
「味見しても良い?」
「別に構わないけど。ただ、先着二名だけ」
「は? 一人だけ余るじゃん」
「仕方ないだろ。俺の弁当がなくなっちまう」
黙って三人は顔を合わせる。一言も交わさずに決めたことを智子が代表で提案して来た。
「じゃあ、明日は三人分よろしく。まぁ、味見する分だけ別で作って来てくれれば良いかな?」
「は? 随分と面倒くさい注文をよこして来やがったわ。マジで怠いんだけど」
「文句言うな。黙って作ってくれば良いの!」
そう言いつつも許可なく唐揚げを摘んで食べる鈴莉。それを見ていた二人が鈴莉だけはズルいとか言って唐揚げを一個ずつ持っていきやがった。
昼食後。三人から唐揚げを全部持って行かれて肉が食えなかった。もはや、適量しか持って来ていないって言うのに三人は身勝手すぎる。
すると、通り過ぎたレイラが後ろから抱きついて来た。
「どーしたの? 何だか元気ないねぇ!」
「うわっ⁉︎ な、何だ⁉︎ いきなり抱きつくなよ!」
「だって元気なさそうなんだもん!」
レイラが構って欲しそうな甘い声で理由を述べる。その光景を見ていたクラスメイトの男子たちが黙って通り過ぎていった。
その後、三人から尋問を受ける羽目になる。目撃していた男子たちが告げ口した結果だ。やはり、口止めされていない奴らからすれば他言するのも無意味らしい。
「で、レイラちゃんから抱きついて来るんだ?」
「はい……」
「一時間目が終わった時も腕にしがみついてたっっけか? あれは迷惑かも知れないなぁ」
「ちょっと注意して来る」
凄く不穏な空気だったが故に俺は止められなかった。正直、レイラを注意しても大概は予想通りの返事しか待っていない気がする。
「ええっ⁉︎ 尾賀くんにくっつくなだとぉ〜!」
「そうなの。あいつは私たちが独占してるからさ。悪いとは思ってる」
「うわぁ。それって単純に自分たちの作ったルールでしょ? 原則くっつけない法律は存在しないんだけど?」
やっぱり予想は的中した。レイラは接してみると分かる通りの性格だ。あれは素直に聞き入れるはずがない。
しばらく口論が続き、最終的に決着はつかなかった。双方が了承する気配もなく、話は持ち越しになってしまう。
(自分を女子が取り合うのは男が夢見る展開だったはずだ。それが現実は怠いとしか言いようがないかもなぁ)
先に校門で待機を命じられていた。ちゃんと言われたことを守ると、偶然にも珍しい女子二人が通り掛かる。その片方が挨拶して来た。
「あ、猛雄じゃん! ばいばーい!」
「随分と珍しいな。結花ともう一人は……」
「思い出さなくて良い。別に記憶されていなくても困らないから」
「凪は相変わらずだなぁ……」
普段から凪は素っ気ない性格が目立つ。彼女と知り合ったのは小学三年生の頃だった。当時は互いに同じ班を作ることが多かった時期だったと思う。今では考えられないほど、お互いは仲良しだった気がした。
「二人ともまたな! 気をつけて帰れよ」
「うん! 猛雄も気をつけてね!」
「……ふん!」
凪だけが好意的じゃなかった。それも当然だと過去を振り返れば理解できる。あの一件から俺たちはすれ違ったんだ。それは思い出さないようにしていることだった。
後から三人と合流する。何やら大荷物を抱えているのが分かる姿に疑問を抱いた。殆どがポスター類で、何に使うのか尋ねてみる。
「それ何?」
「え? 即売会で同人誌宣伝用の白紙ポスターだよ。もらって来た」
「意外に頼めばくれるんだよ。凄い余ってるらしい」
学校側から白紙ポスターを頂けるとはラッキーだと思った。やっぱり出費は出来れば抑えたいのが常識である。それを踏まえるて頂いたことに感謝したかった。
今日は海麗宅にお邪魔する。美羽はあんまり俺だしても上がって欲しくないとか言っていたのが気になった。けど、結局は上がらせて頂いている時点で気にするのは不要だろう。
ただ、入ってみたら何となく理由が分かる光景があった。かなりリビングが散らかった状態で放置されている。これだと男子を上げたくないのは当然だった。
「今から片付ける。空いてるとこ座っててくれるかな?」
「やっぱり忙しいでしょ? 最近は布団に入ってないらしいじゃん。本当に一人でやるの?」
「うん。一番頼れるのは私だからやりたいの。我儘だと分かっていても譲れない」
どうやら聞いた話によると、美羽は夜遅くまで宣伝イラストを制作しているみたいだ。本来は宣伝イラストなら三人で協力した方が早い。けど、美羽は自分だけでやらせて欲しいと頼み込んで来る始末だと聞かせてもらった。何かと抱え込むタイプだと二人は思ったらしい。
「せっかくだし、猛雄に見せてみたら?」
「それ良いかも。ちょっと待ってて」
すぐ美羽は宣伝イラストを取りに行く。二人はやれやれと言ったような表情で見送っていた。本当に三人は仲良しだと感心する。
美羽が描きかけの宣伝イラストを持って来た。それを俺に広げて見せる。
「どう? 上手く描けてるつもりなんだけど」
「やっば⁉︎ 上手すぎるだろ……」
そこで目にしたのは男女が一人ずつ描かれたイラストだった。次に出展する作品の登場人物らしい。それも二人が織り成す青春ラブコメディだと教えてくれた。
何だか本格的に三人と同人誌制作に取り組むのが楽しみである。俺はワクワク感を抱きながらサークル関係を壊さない努力をしようと誓った。
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