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第9話「美羽の兄貴」

読んで頂きましたら、高評価とコメント、ブックマークをよろしくお願いします。

 美羽の自宅に上がるのは少しずつ慣れた。今では三人に溶け込めているような実感を覚える。


 綺麗な廊下を抜け、一枚の扉を越えると、少し散らかったリビングに踏み込んだ。俺は唖然としてしまうが、他の二人は何だか優しい言葉を掛けていた。


「また徹夜したんだね? 美羽は偉いよ!」

「本当に美羽は褒め物だよな」

「えへへ。ありがとう」


 一瞬、照れ笑いを浮かべる美羽。素直に喜ぶ表情は人並み以上の魅力があった。ついつい翻弄されそうで、じっと視線を向けることが出来ずに逸らしてしまう。


 取り敢えず片付けを手伝い、すぐ作業を開始した。最近は会議が立て続けにあって、今度からは作業に取り掛かる時期だと四人で意見が出る。


「じゃあ、各自で作業するので良いな?」

「俺は構わない。もう話し合うことがない以上は、幾ら繰り返しても意味ないだろ」

「とにかく作業開始ってことで!」


 話が纏まって、いよいよ作業を始める。


 俺は基本的に小説版を手掛ける予定だ。他の三人は漫画を描き、“小説と漫画”に分けて販売しようと考えていた。どちらか好きな形式で読んで頂ければ、わざわざ好きな作品を好んでもない方で読む必要がなくなる。


 物語のベースは俺に担当が任された。まずは一筆してみて、内容を固めていく。それを彼女たちが一連の漫画に仕上げる方針だった。


 その間、三人はキャラクターデザインを進めている。偶に四人で確認し合って、より各自が認めるデザインに仕上げようとした。


 俺はプロット作成に入り、ひたすらキーボードを打ち込む。パソコンに集中し、頭の中でプロットを練り上げていく。


(主人公はモブで陰キャ男子、さらに二次元オタクの森橋雄也。雄也は日本でかなり有名なアーティストの一人息子って感じか?)


 主人公が“森橋雄也”で決まる。陰キャ男子とオタクと言う設定はマッチしやすい。ラノベ主人公としては持って来いのキャラ属性だと思う。


 次々にキャラ名と主な属性を練った。とにかくざっと作った登場キャラからプロット作成する。


 しばらくパソコンとの睨みっこが続いた。着実にプロットが仕上がっていく最中、完成する間際に智子から買って来て欲しいものを尋ねられる。


「私、疲れたから気晴らしにコンビニ行くわ。三人とも買って来るものとかない?」

「私はコーヒーが飲みたい。いつも飲んでる奴で良いよ」

「私には新作スナックで。あれは食べてみたかったんだよねぇ〜」


 二人が買う物を注文し、残ったのは俺だけ。そもそも俺が買わせに行くなんて本来はあり得ない話だ。自ら進んで買いに行かないのは性に合わなかった。


 俺は立ち上がる。買い物を交代しようと名乗り出た。三人は意外な表情で、こちらを見つめる。


「俺が行くよ。智子は留守番しててくれ」


 思い切った行動に智子は目を丸くする。ただ、一つ理解していなかった部分を智子に指摘された。


「留守番も何もないでしょ。気晴らしだってば。留守番してたら意味ないじゃん」

「あ、そうだった……」


 恥ずかしくて視線が合わせられない。けど、智子から告げられた一言で、後悔は消し飛んだ。


「でも嬉しいなぁ。今まで会って来た中には、買い物を引き受ける奴なんかいなかったし」

「他にも男とつるんでたのか?」

「いや、中学時代に生徒会役員で集まった空間だったかな? あの時、何か買い出しを頼まれた時を思い出したんだよ。あの場面で一人だけ買い出し行ったの懐かしいかも」


 さり気なく意外な事実が発覚する。俺には智子が生徒会役員なんてやっているイメージがなかった。けど、彼女がここで嘘を吐くようなことはしないと踏んで信じることてみる。


 結局、俺は智子を連れてコンビニまで徒歩で向かった。外は夕焼け空が広がっており、今日の活動も引き上げる頃合いが近付いて来る。


 智子はスマホで音楽を聴いていた。無線のイヤホンに繋げているため、線が引っ張られて落ちるこもない。最近はよく使用されるアイテムだが、俺はあんまり気にかけて来なかった代物だ。


「ねぇ、猛雄? 猛雄はアニソン好き?」

「あぁ。もちろん好きだけど。ってか、ボカロとかも好きだわ」

「そっか。やっぱりオタクなんだな。私と好みが一緒だ」


 きっとサークルを組む前提に入りそうな点だと思った。俺が執筆する作品がアニメから来るものなら、高確率でアニソンがセットでも可笑しくない。アニメ好きなら曲もセットで盛り上がりたい奴らが多いような感じはしていた。


 やはり、バトル系とラブコメ系でイメージ分けすると盛り上がる。アニソンは見せどころによって、雰囲気を爆上げする要素が強かった。それだから曲はセットにしたくなるものだと思う。


「それ何聴いてる?」

「ん? これは【青春ラブインパクト】って言う曲だよ。これ知ってた?」

「もちろん知ってるわ。最近では超人気ラノベが原作のラブコメじゃん。あれは有名だよな?」


 どうやら智子とはアニメトークの相性が抜群かと思うくらい噛み合う。もはや、俺たちでサークルを組んだのは間違いなかった。


 いよいよコンビニに到着。自動ドアを通った先で意外な人物と遭遇した。


 ピンク色のパーカーを着たレイラと鉢合わせる。片手にレジ袋を下げ、飴玉を咥えていた。


「あ、尾賀じゃん⁉︎ 奇遇だね! って、黄澤さんが一緒なんだ……」

「どうも。凄い猛雄のこと気に入ってるんだな?」

「別に面白いから揶揄ってるだけ。そう言う黄澤さんだってお気に入りなんでしょ?」


 レイラは俯き気味で尋ねる。それに智子は堂々と返事した。


「うん。だって、将来は旦那さんになって欲しいからさ」

「は? ダイレクトに答えてやがる。まぁ、私は関係ないけど」


 レイラがそっぽを向き、何だかもどかしそうな感じが表情で分かる。何かと智子の発言が気に障るみたいだった。


「じゃあ、またな? 俺たちはコンビニに用があるからよ」

「うん。バイバイ」

「じゃあな!」


 俺はレイラと別れ、店内に踏み入れた。中はあんまりお客さんが窺えない。今思えばコンビニは混雑するイメージが全くなかった。


 取り敢えず二人で買うものを取ってカゴに入れていく。智子は二人から頼まれた品を取り、俺が持つカゴに放り込んだ。


 俺は自身が飲む奴だけ手に取った。お会計は別で頼もうと心に留めておく。


「ごめん。ちょっとトイレ行って来るわ。先にレジ済まして外で待っててくんない?」

「了解。ここは任せろ」


 智子は急足でトイレを目指す。それを最後まで見届け、レジに並んだ。前には一人だけ並んでおり、レジが済んで抜けていくのは案外時間を掛けなかった。


 取った商品をレジに通すと、お会計は俺が財布から支払う。これを全部担うとしたら、負担が大きいことに悩んだ。けど、感謝のついでに奢りたい気持ちは強い。


 会計を済ませて、外で待っていた。すると、戻って来た智子が支払った金額を尋ねて来る。一応教えておくと、智子は自ら余分に出した金額を返そうと手のひらに乗せて差し出す。


「これくらいかな? 余分に出してくれたの返すわ。良いから受け取って」

「別に要らないよ。偶には奢るのも悪くないと思ってさ」

「は? まだ奢って欲しいとか思ってないし。余計な気遣いは要らないから。さっさと受け取ってくんない?」


 智子に強く言われ、受け取らざるを得なかった。そこで受け取らなかったら、口論に発展してしまう気がしたんだ。それに“まだ”の一言は未来で望まれている証だろう。なら、今の気持ちは将来に託そうと思った。


 智子と拠点に帰って来ると、二人が玄関先で出迎えてくれる。何やら良いことがあったのか二人はニコニコだった。


「どうかした? 二人とも変だけど?」

「別に」

「ただ、何もなかったって言ったら嘘になるかも」


 二人が勿体ぶって話そうとしてくれない。そこで中に入ってみると、何やらデカい段ボール箱が三つ置いてあった。


「これ何?」

「それ最新型のパソコンだよ。お兄ちゃんが送ってくれたんだよ」

「えっ⁉︎ 美羽の兄貴から⁉︎ めっちゃヤバくない⁉︎」


 そこには三箱ほど積まれており、最新型パソコンが三台も送られて来たことになる。


「ええっ⁉︎ 最新型が三台⁉︎ 美羽のお兄さんって金持ちじゃん⁉︎」

「まぁね。相当なゲーム好きで、配信活動なんかにハマって現在チャンネル登録者数が九十万人はいるくらいだから凄いかも」

「き、九十万人⁉︎」


 そんな数字を耳にした瞬間、俺は頭がパンクしそうになった。俺とは比べ物にならない実力を有するお兄さんに嫉妬してしまう。


 そんなお兄さんの名前が気になり、思い切って尋ねてみた。すると、驚くべき事実が発覚してしまったのである。


「兄貴の名前は“海麗星太郎”って言うんだよ。あいつは女の人からモテモテで、一途に愛している彼女さんも困っちゃうような奴なの。全く、少しぐらいは身だしなみなんか欠ければ良いのに」


 星太郎と言う名前なら聞いたことがある。それは三年前に身バレした超人気インフルエンサーの名前だった。確か【流星将軍】と名乗ってバズった配信者だった気がする。


 そんな人が兄貴だと知って、もの凄い恐縮してしまった。彼ほどのユーモアとコミュニケーション能力は他にいないと騒がれるくらい天才的な人物だった。


「そうそう。今こっち向かってるらしいよ」

「はぁ⁉︎ お兄さん来るのぉおおおお⁉︎」

「止めたんだけどさ。聞かなくて押し切られちったんだよ」


 何と智子の自宅に星太郎さんが向かっているみたいだった。まだ時間的に余裕があり、会ってから帰宅するのも悪くないかもと考える。


 その思考中にインターホンが鳴った。まさか今到着したなんてことがあるのか疑ってしまう。


 真っ先に鈴莉が出迎えた。扉が開いた先に待ち受けていた人物は、まさしく“星太郎さん”本人みたいだ。


「やぁ! 元気してたか!」

「はぁ? バカ兄貴は来て欲しいとか頼んでないし。さっさと様子が見れたら、帰れ」

「釣れないこと言うんだな? せっかくパソコン買ってあげたのに」

「今使ってるパソコンが勿体ないだろうがぁ!」


 すかさず美羽が怒鳴り散らす。空気が読めていないことに呆れる智子たち。


「お、君が例の新人かい? 僕は海麗星太郎って言うんだよ。これから美羽をよろしく頼む」

「は、初めてまして! 尾賀猛雄です。よろしくお願いします!」


 何だか自分まで緊張して来た。あの超有名人と話せる日が来るとは思ってもない話である。


 少しだけ星太郎さんがリビングにお邪魔していくみたいだ。星太郎さんから追加でお土産を渡された美羽は大いに呆れていた。

読んで頂きありがとうございました。

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