第4話「茂朗先生のアドバイス」
取り敢えず呼び出された理由は理解した。それと愛乃が守って欲しい秘密があることも分かったつもりだ。それを踏まえて話し合わないといけない。
「まぁ、何となく事情は分かったけどさ。俺に出来ることなんて少ないんだよなぁ。それでも力になれるなら愛乃の味方しても良いかも知れない。と、とにかく––––」
「尾賀ぁあああああ‼︎」
「––––なっ⁉︎ い、いきなり何だよ⁉︎ 抱きつくなってば⁉︎」
「だってぇ嬉しかったの! 私なんて過去は暴力女だったからぁああ!」
喜びのあまり抱きついて来た愛乃を懸命に引き剥がす。少し落ち着かせてから先について話しようと約束した。愛乃は瞳をキラキラさせながら頷く。
朝礼が始まる前に二人で着席を済ませた。教室に入った瞬間から三人ほどの鋭い視線を感じのは気のせいだと言い聞かせている。
そして朝礼後。即座に三人からトイレ前まで呼び出された。非常に怖い顔で智子が睨みつけて来る。そこで鈴莉が本題に入った。
「ごめん。今日は朝から時間通りに登校したんだよね。なのに、目的の猛雄が教室にいなかったんですけどぉおお‼︎」
「お、怒るなよ。俺だっていない時ぐらい––––」
「問答無用ぉおおお‼︎ 今ここで粛清してやるぅうう‼︎」
「うわぁああああ⁉︎」
鈴莉は俺の両頬を摘み上げる。当然ながら女子から摘まれるなど未経験だ。それ故に女子の指が触れる感覚は羞恥心
を掻き立てた。
どうやら満足して鈴莉が頬を離す。無理に摘まれたせいで頬がジンジンしていた。鈴莉は満足げに胸を張ってみせる。だが、肝心の胸はそこまで大きくもなかった。
それより見ていた二人が笑いながら注意して来る。それは三人の機嫌を窺って生きるような内容だった。もちろん即否定する。
「私たちとはサークル仲間じゃない。けど、今後は良好な関係を築き上げるのは必須なの。だから、猛雄は私たちを教室で待つ義務がある、んだよねぇ」
「な、何故? そんな義理はないだろ」
本当は本音を晒すのは危ないことぐらいは分かっていた。でも、三人の
「何か言ったかなぁ?」
「い、いえ。何も言ってません……。ただ、俺だって他との人付き合いがあるんだけどな」
ちょっと困ったような表情で理解を求めてみる。意外に三人でも人情があれば引っ掛かるだろうと踏んでいた。しかし、現実はそんな甘くなかったみたいだ。
「可哀想なフリしてもダメだからな。猛雄は魂胆が見え見えだってば」
「よく見抜けるな。何か恥ずかしいんだけど」
「ぷぷっ。でも、可愛かったよ? 凄く必死だったから手放せなくなっちゃった」
「何でだよ、逆効果じゃん」
散々怒っていたはずの鈴莉は悪戯っぽく笑みを浮かべる。何とも図々しくて嫌ったらしい笑顔なんだ、ウザ過ぎてすぐ立ち去りたくなった。
けど、その裏腹には少し喜びが隠れている。それは絶対に悟られたくない気持ちだった。揶揄われたくない思いが募った結果である。
「そろそろ教室に戻らないと授業遅れるかも」
「あ、もうそんな時間? 急いで戻ろうか」
「マジか。話し込んだせいで準備が整ってないぞ」
俺たちは急遽教室を目指して走り出した。だが、途中で思わぬ壁にぶち当たる。
「こらっ! そこの四人とも止まれ!」
「げっ⁉︎」
「あちゃ〜」
丁度、走り出してすぐに声が掛かった。それも凄く聞き覚えのある最悪な声に呼び止められてしまう。
振り返った先に仁王立ちで立ちはだかる生徒指導担当の傘切麻耶先生が視覚に入った。見み感じ廊下を走ったから呼び止められたのは十中八九間違いじゃない。これから怒られたら授業は間に合わないだろう。
「か、傘切先生⁉︎ お、おはようございます⁉︎」
「おう、おはよう。挨拶できてよろしい。だが、それと廊下を走る行為は別だ。少し事情を聞いておこうか?」
「あ、いや……授業がぁ……」
「あぁ? 何か言いたいことでもあるのか?」
絶対絶命の事態に陥った。これでは授業は間に合わないかも知れない。
もう遅いのは分かっていた。ここは覚悟を決めるしかない。
「も、申し訳ないです。実は授業に遅れそうでして……」
「まぁ、気持ちは分かる。でも、ルールはルールだろ? まさか尾賀を注意する日が来るとは思ってなかった。今度は気をつけなさい」
「本当にすいません」
俺はあっさり許されたような気がする。けど、他の三人は違った。早く謝ってしまわないと授業に遅れるのは出しだ。
すると、一番手に美羽から謝罪した。ちゃんと頭を下げ、丁寧な謝罪を施す。
「すいませんでした。私も猛雄と同じ理由でルール違反を犯しました。今後は気をつけると肝に銘じます。どうか許してもらえませんか?」
「さすが海麗さん。貴方も丁寧でよろしい。本当に今回は残念だった。けど、次からは気をつけなさい」
「はい! ありがとうございます!」
無事に美羽も許されたみたいだ。後は残る二人が問題である。ただ、それは急に現れた人物のお陰で省かれた。
「いきなりですいません。その四人はすぐに解放してください」
「––––んぅ?」
後ろから声を掛けて来たのは茂朗先生だ。教科書を抱えている点から教室に向かう途中だと思われる。
そんな茂郎先生が傘切先生に一言だけ告げた。
「その四人なら僕が引き受けます。ただ、授業が始まってしまうため、今は解放してもらえませんか? こちらで四人を注意します。きっと傘切先生からご理解頂けるますよね?」
「さ、朔原先生⁉︎ す、すいません。では、後は任せてもよろしいですか? 朔原先生なら任せられます」
「本当に申し訳ない。ご理解頂けて助かります」
茂朗先生は一礼してから俺たちに急ぐように呼び掛ける。
「ほら、四人とも走らずに教室へ急ぎなさい。授業が始まりますよ」
「す、すいません! ありがとうございます!」
「「「ありがとうございました!」」」
俺たちは教室を目指した。注意されない程度の早歩きで急いで向かう。
色々と内心は複雑な気持ちだった。何かと不味い事態に陥ったような気がする。いつもなら余裕を持って席に着いていたんだ。それが今回は出来なかった。それ故に初めて注意されてしまったのである。
取り敢えずギリギリ着席は間に合った。茂朗先生がいなかったら確実に遅れてしまっただろう。
あらかじめ俺は数学セットを用意していた。だから、今から用意する必要もない。これで授業に参加できる。
「えーと、それじゃあ授業を始めよう。その前に一つだけ。廊下は走らないように気をつけて欲しい。後で四名ほど、このクラス内で僕から注意するつもりだ。何かと面倒だが、決してルールは破らないでくれ。以上。教科書二ページを開こう」
授業開始前にルール違反の話が持ち出されて俺は落ち込んでしまう。今まで経験して来なかった後悔を味わった。
これも全部あの四人がいたせいだと呪う。しかし、よく考えてみれば話に乗っかった自分も悪い気がした。何事も他者が原因だとか言い訳するのは良くない。
今ので俺は少し反省した。だから、今後は二度と同じ過ちは繰り返さないと誓う。
そして授業が終わる。俺たち四人は生徒指導室に呼ばれていた。もちろん相手は茂朗先生が担当している。初めて茂朗と対面した俺は緊張気味で硬直状態だった。しかし、他は余裕そうな態度が見受けられる。
「呼び出してしまって申し訳ない。ただ、これも僕としては重要な仕事なんだよ。ご理解頂けるかな?」
「も、もちろんです! 今回はルール違反で呼び出されてしまい、心の底から反省しております……」
「ふむ。他の四人は謝罪して来ないみたいだね? 何か異議申し立てとかあるかい?」
茂朗先生が異議を尋ねて来た。だが、あの状況下で廊下を走ったのは自分たちの都合だから異議はないはずだ。彼女たちでもそれは分かって良い話だと思う。
しかし、彼女たちは簡単に俺の予測を踏み越えていった。もはや、遠慮なくドカドカと踏み進んだ。
「少しだけならある。あれはどう見ても必要な行動でした。廊下を走らずして授業は間に合いません。なら、仕方なく走らせて頂くのが生徒思いです」
「なるほど。言い分は分かる。けど、学校は社会ルールを学び、守る癖を身につける場所だ。ここで事前にルール厳守を心掛けると社会で役立つ癖が活躍してくれる」
「それは確かな正論です。ただ、私たちは社会ルールをしっかり守る派でした。注意するのは見逃しても問題なかったはずではないですか?」
鈴莉から問題発言が勃発して俺は横で頭を抱えてしまう。あらかじめ出来るとか言う意思が強ければ注意されないなんてあるはずがない。正直、考え方が全くなっていなかった。
「申し訳ありません! 鈴莉は何か勘違いしているようでして⁉︎」
「ちょっと尾賀くんは黙りなさい。もう少し話を聞いておこうか?」
「当然、ルール違反者は反省しなければ直らない。けど、それは今後にチャンスを頂けないと確認できません。なら、あの時点で見逃すのは異議なしです」
「いや、あるだろ」
黙るように指示されたが、ツッコミたくなって来る。これもギャグアニメみたいはヒロイン発言と類似していた。けれど、本人は自覚していないはずだ。
両隣は大きく視線が外れている。そもそも話などする意味がないと思っている感じが伝わっていた。でも、許せない発言だったと思うばかりである。
「もしかして雛津間さんは怒ってるのかい? そんなに怒られることが不服なら次は気をつければ良い。それを踏まえた上で“注意は不要”だと言い切ったんだね?」
「その通りです。理解が早くて助かります」
「そっか。でも、次は重たいよ。きっと君でも背負えないかも。それと二度目は存在しない。もし破ったんなら原稿用紙五十枚分の反省文と一ヶ月間の同人活動を停止。それを呑んでくれ」
「はっ⁉︎ 同人活動停止⁉︎」
何故か真っ先に俺が驚いていた。まさか同人活動停止を提示してくるなんて思わなかったはずだ。しかし、三人は冷静に回答してみせた。
「別に構いません。それぐらいなら引き受けますよ」
「絶対に約束は守って見せる。同人活動が掛かっている上で無視することはありません」
「同じく同意です。もうこれ以上は言い残したことはありません。では、そろそろ引き上げさせてもらっても良いですか?」
三人が口を揃えて同意してしまった。俺はそこに口出しすることが出来ないまま硬直する。その間に三人は立ち上がって部屋から出ていった。
「本当に約束してしまった。驚きだね」
「全くですよ。マジで守れるのか心配です……」
「まぁ、君が落ち込む必要はない。とにかくあの子たちを信じてあげよう。それと同人活動停止は君の声掛けで回避可能だ。もし良ければ君は傍で回避すると良いだろう」
「な、なるほど……」
茂朗先生も部屋を出ようと立ち上がった。茂朗先生が出ていくなら俺も一緒に出ないと迷惑だろう。
俺は茂朗先生より先に出させてもらった。すると、最後に茂朗先生から一言だけアドバイスを頂けてしまう。
「君は真面目だから大丈夫。その真面目であの子たちを守るのとか“ラノベ主人公”みたいだよ。もし考えても良いなら三人は君が見守ってなさい」
「え、俺が?」
「そう。どんな風に恩返しされるかは知らない。けど、善行は積み重ねれば返って来る。だから、君に提案したんだよ」
茂朗先生が微笑みながら告げた。その一言は大きく心を揺さぶる。お陰で少しラノベ主人公っぽくなるのも悪くないと思えてしまった。
その日から決意は固まる。俺だって美少女と交際してみたいんだ。




