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剣の楽土  作者: かが介六郎
第二部 現世の剣

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第74話

最後の目撃者と時刻の情報を、一条さんにトークで送信しておく。

今回の事件に関わる剣士、あのジャヤラヴァではないのかな…

楽土から漏れ出た別の剣士が、例えば誰かに協力して殺人を行ったとしたら。

誰かに、依頼されて…


「っ…」


殺された四人は、全員B組の生徒。

勝手に外出していた生徒は、他のクラスにもいたという。

学校関係者、もっと絞ればB組の誰かが、剣士に生徒の情報を渡して、殺させたのか。

私怨か…いや、王さんはともかく、後の三人は怨みを買うようなタイプでは…


そして、恐らくあの時、非常階段の扉の外にいた何者かが、二人殺害したと、協力者と思われる人物に報告をしに現れた。

もし扉から出ていれば、太刀を持っていない私は抵抗もできなかっただろう。

深夜に音と気配を消して、外に向かった生徒…

この条件に当てはまる人物は限られている。


トークの通知が鳴り、ちーちゃんの身体が反応した。


『水月楼に向かいます。十分で到着予定。』


一条さんだ。

下に降りて、玄関で迎えよう。


「ちーちゃん、一条さん来てくれるよ。

一階で待ってよっか。」


「……さやちゃん、なにも感じないの?」


「…そういうわけじゃないよ。

これ以上誰かが傷つかないように、私が止めるだけ。」


「私、だめだ…

もう、お家に帰りたいよお。」


彼女から見た私は、クラスメイトの死に動じない冷たい人物に映るだろう。

けれど、動じていないのではなく、表に出していないだけだ。

B組の仲間が、もう六人も殺された。

この事実に感情が動かない程、私は壊れていない。

……そう思いたい。


ちーちゃんを部屋に残して、一階に降りる。

玄関には利根先生が、決して生徒を出さないように見張りをしている。

先生は私に気付いて、


「真白、どうした?」


「一条巡査がこれからいらっしゃるので、迎えに。」


「それは先生に任せておけばいい。

休んでおけ、大変だったんだろう。」


学校側には、一条さんと状況確認中に、不審者に襲われたという説明がされている。

確かに私は命懸けの戦闘をした後だけれど、利根先生の疲労も明らかなものだ。


パトカーが水月楼の前に停まり、警官が二人降りて来る。

一条さんと、さっきも運転してくれていた男性警官だ。


「状況整理にご協力ください。

…真白さん、情報提供、ありがとうございます。

目撃者と教員の方、会議室にお願いします。

こちらで時系列を整理します。」


私が目撃者の生徒を、利根先生が他の教員へ声をかけに行く。


「はい、生徒は集めて来ます。」


「…しっかりしてるな。」


男性の警官は、不思議そうに呟く。


「あ、えっと、真白さやです。

昨日も、さっきもありがとうございました。」


「ああ、それはいいよ。

伏見署地域課、辻野です。」


利根先生が不在の瞬間、従業員の方が外に出ようとする生徒を注意してくれる。

旅館の従業員の方と、利根先生に話を済ませた一条さんたちは、一階奥の会議室へ。

私は、B組の田中くん、新開くん、大森さん、倉田さんに、それぞれ声をかけた。

ちーちゃんの様子も見たけれど、背中を丸めて座っていて、前髪で顔が隠れている。


「部屋にいる…」


「…うん、なにかあったらトークして。」


会議室に直行すると、椅子が人数分用意されていて、私も当事者というか目撃者なので、端のほうに座る。

目撃者五人と、先生が三人、警察から二人。


私は、冷静すぎるかな…

感情が、まだ追い付いていないだけか。


「…正式な発表はまだしていない内容です。

制服、所持品、所見から、行方不明の四名である可能性が高い遺体が、伏見区で上がりました。

身元確認はこれからです。」


…いきなり来た。

言葉が少し難しいのか、いまいち反応の薄い生徒たち。

先生方は、さっきスピーカー越しにこの話を聞いているけれど、あの電話以前に警察から連絡を受けていたようだった。


「男子一名、女子三名。

最初に見つかった女子生徒の遺体について、一次所見が刑事課より入りました。

頸部切創、刃物様凶器。

…押収している刃物とは、別の刃物が使用された可能性が高い。」


「……あいつじゃ、ない。」


一条さんは、私の目を見て肯定した。

ジャヤラヴァの直剣ではない傷、時系列的に石剣の男でもない。

第三の剣士が、伏見のどこかに潜んでいる。


「ど、どういう意味…?」


大森さんが、か細い声で疑問の声を上げた。

皆の困惑はもっともな話で、理解が追い付いていない。


ちょっと決まりを破って外へ出ただけの生徒が、命を奪われるなんて…

呼吸が、苦しくなる…

書類を準備していた辻野さんが、息を吐いて答える。


「行方不明となっていた生徒四名が、死亡した可能性が高い、ということです。」


息を呑む声なき声。

誤魔化しても仕方ない話だけれど、どの道知ることになっていた。


ゆっくりと、後回しになっていた感情が押し寄せて来る。

音が遠く聞こえ、手先が震えていた。

しかしそれも、燃え上がる怒りによって、すぐに掻き消えた。

下手人は見つける。

今度は、私が仕留める。


「四名それぞれを最後に目撃した人と時間、場所を確認します。」


無理矢理頭を切り替えて、今は冷静に答えるよう努力する。


「…じゃあ私から。

王翠玲さんを最後に見たのは、昨日…十一月二十日の九時半頃。

三階の非常階段から出て行くのを見ました。」


辻野さんが即座にメモに書き込んでいく。

時系列的にこれが最初のはずだ。

順番で言えば次の外出は新島くんだけれど、田中くんたちは答えられないでいる。


「…新島くんを最後に見たのは、田中くんと新開くんの二人。

コンビニに行くとかで、裏口から出て行った。

間違いない、かな?」


二人は、青ざめた顔で頷いた。

満足に答えられないのも無理はない。

同じように高村さんと平沢さんの目撃証言を補助して、辻野さんが記録していく。


「まず、真白さん。

九時半頃とのことですが、点呼の前ですか?後ですか?」


「えっと、後でした。

朝食後、玄関で一条さんと話して、その後三階に上がった時に見たんです。」


具体的な時間と場所、他に誰がいたか、どのような服装、持ち物だったか。

詳細な質問に、覚えている限りの情報を話していく。

私以外の四人も、曖昧な部分はあるけれど、受け答えをしていった。

全員、出て行く時の服装が制服だったらしい…


「玄関、裏口、非常階段以外に、出入りできる場所は?」


…これだ。

鉄格子の件、さっきの男性従業員がまだ館内にいれば、証明できる。


「真白さん、なにか?」


一条さんは、私の表情の僅かな変化に気が付いたようだった。

私は、直接この件に関わりがあるかは不明という前置きをした。


「昨夜零時に、部屋の外で足音がしたんです。

旅館を出た誰かが戻ってきたのかと思って、部屋を出てみたら、逆に外に出ようとしている人物を見ました。

ぎりぎりで顔は見えなかったけど、男性の影だったのは確かです。」


「…追わなかったんですね。」


「ちーちゃんが熱を出していたので、放っておけなくて。

その後、扉越しに話し声がして――」


「複数人いたと?」


「確証はないですけど、多分そうです。

低い男性の声が聞こえて…

あと二人だ、って。」


「二人…」


誰も口を挟まず、一条さんと私だけが話し続ける。

辻野さんはペンを高速で走らせていたが、その手が止まった。


「零時頃、足音と会話。内容は“あと二人だ”。

その時点で既に二名死亡の可能性がある、と。」


「真白さん、追跡しなかった判断は適切です。」


「…私も、そう思います。」


辻野さんと一条さんは、整理して話を纏めてくれた。

昨夜の出来事はこれで共有できた。

でも、私は遅すぎた。

取り返しのつかない失敗だ…


「――零時なら、俺達、起きてたぞ…」


隣からした声に、俯いた顔を上げる。


「田中さん、新開さん、昨夜零時に二人でまだ起きていた。

お互い証明できるものは?

スマートフォンの履歴など。」


二人は声を揃えて頷く。

私が素振りをしていた時間に、まだ起きて、何かしていたんだ。

田中くんたちはグループトークの発言履歴を見せて、起きていた時間を証明した。

これで、えっと…なにがわかるんだ…


「…真白さん、その夜、襖《ふすま》の開いた音は?」


「微かに聞こえてました。

多分、女子の部屋じゃなくて、男子の部屋から。」


「田中さんたちの部屋には、あと誰がいましたか?」


「俺達と、前田だけ。

あとは新島も同じ部屋だったけど…」


「起きていたのは二人で、前田さんは寝ていたと。

三階南側の男子部屋は、あと何部屋ですか?」


一条さんは、部屋割りの構成も含めてえりちゃん先生に尋ねる。

…うん?

あ、わかった。

もし他の男子の部屋に、起きていた人物がいれば、誰かが部屋を出て行ったのを目撃しているかも。


「あと二部屋です。

三〇四と、三〇六号室で…」


「では、その部屋の生徒を――」


「一条さん。」


敢えて話を遮《さえぎ》って、割って入った。

一条さんの鋭い目が、私を突き刺すように見ている。


「失礼しました。

もうひとつ、話しておくことが…」


「……真白さん以外は、一時、退席願います。」


すご…

私の意図をすぐに読み取ってくれたんだ。



「では、続きを。

重要な内容なんでしょうね。」


会議室に残ったのは、私と、一条さんと辻野さんの三人だけ。

人払いをお願いしたのは、この話で、深夜に外出した人物を特定できてしまう恐れがあるからだ。

そうなれば、”彼”は事情聴取を受けるか、捕まるかするかもしれない。

それに、私以外の生徒四人がこの内容を知れば、どんな行動に出るかわからない。


「非常階段の扉が閉まった後、一度部屋に戻って、お風呂へ行く準備をしていたんです。

ちーちゃんが眠っているのを確認した後、部屋を出て二階に向かいました。

その途中、階段を降りた所で彼に会ったんです。」


「それは、誰ですか?」


非常階段から外に出て、一階に降りた彼は、鉄格子の外れた窓から館内に戻り、二階で私と鉢合わせした。

剣士と繋がっているのは――


「立石直人くん。」


三人だけの空間が、凍り付くように止まった。

辻野さんのペンも、動かないまま。


「…所在確認をします。」


一条さんの声が、低く響いた。

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