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剣の楽土  作者: かが介六郎
第一部 楽土の華

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第51話

「サー・イーゴン・アシュクーム」


名乗り、構え、息を吸って吐く。

あれは、鉄器以前の金属の剣。雷の紋様《もんよう》があしらわれた、信仰を示すものだ。

気の遠くなる程の古き時代から、在り続けた戦士、か。

頂上で立ちはだかる者として、これ以上の相手はないだろう。

雷紋の剣士よ、仕掛けさせてもらう。


ツル殿を右手で制し、先駆けを願い出た。

まずは、防御能力が最も高い私が、相手の出方を探る。

ツル殿もサヤ嬢も、これを大いに活かしてくれるはずだ。

生半可な相手でない事は明らか。

いきなり主力のツル殿が手傷を負う可能性も充分にあり、それは我らにとって致命…

無論、ただやられるつもりは毛頭ないが、これが一番効率的だろう。


「よく、見ていて下さい。」


「うん。信じてる。」


「…ご武運を。」


合図も言葉も、本当はいらない。

積み重ねてきた絆が、信頼が、私を後押しする。

彼女たちが、私に力をくれる。


異様な構えを取り続ける雷紋《らいもん》の男に、突っ込んで行く。

相手も同様に猛突進を仕掛け、すぐぶつかる――


「ぐおっ!」


重い剣が円盾とかち合い――

一方的に、押し負けた。

盾ごと、腕が上がるように持っていかれた…!

身体が妙な浮遊感を覚え、背中から地面に強打した。

すぐさま立ち上がり、防御の姿勢を取る。

しかし、なぜか追撃はない。

瞬《まばた》きひとつせずに、暗い瞳で私をじっと見つめる雷紋の男。


全身鎧の私を、あの剣で吹き飛ばした…

それも片手で、だ。

あの剣は、鉄よりも重い金属であると推測できるが、どうやら原因はそれだけではなさそうだ。

受けるは悪手、攻めるのみ。


無手の左手側を狙い、防御を強いる。

騎士剣の切っ先が肩を横切り、腋《わき》を突き、腰元を横薙ぎに撫で、連続で攻め立てる。

異様な姿勢で、私の剣を受け続け、その間――

たった一度も、瞬きをしない男。


…見られている。


次、脇腹への突き。

僅かに硬直した男の身体に、切っ先が吸い込まれていく。


――その軌道が、真上から潰された。

水平に突き出した私の騎士剣、その中央に走る溝に――

雷紋の剣が切っ先を押し当て、地面に縫《ぬ》い留めた。


「それはもう視《み》た。」


そのまま――


「ぅぐっ…!」


顔面を、蹴られ――

しまっ、剣を…!


咄嗟《とっさ》に、伸びた脚を盾で殴りつけ、相手の体勢を揺さぶる。

仰け反った身体を無理矢理前に倒し、明滅する視界の焦点を強引に合わせ、即座に手放した剣を取り戻す。

しかし、不安定な体勢から雷紋の剣が振り抜かれ、円盾を叩く。


距離を取り、呼吸を再開させ、意識をはっきりさせる。

…この男、ずっと私を観察し、癖を読んでいたのだ。

たった一度だけ繰り出した”突き”を、見切って封じたというのか。

まだ、確証はないが…

もう一度試せば、きっと二人が答えに辿り着いてくれる。


もっと引き出す。一度見せた技で仕掛け、手札を出させる。

堂々と、正面から喉《のど》に突き――

そう見せかけて、腹を真横に裂く攻撃に切り替える。

男は、剣ではなく――

私の目を、見ていた。


――ほんの一瞬で雷紋の男は距離を詰め、横振りの軌道を取る私の右手首を、膝で抑えた。


「それも。」


来る…!

胴狙いの突き。盾の縁《ふち》で逸《そ》らす。

すかさず、頭突きをかまして、その反動で後方へ下がる。

…額《ひたい》を強打してやったというのに。

それでもなお、目を開けたままか。


…この男、自分からは攻めてはこない。今のところ、行動の全てが後手だ。

おかげで考える時間を作れる、しかし…

これは、時間をかければかける程、こちらが不利となる。

我らが三人であること、それこそが勝機。

”学習”される前に、決め切らねば。


あと見せていないのは、盾と奇策のみ。

私にできる役目は、全てやる。

もし、私の表情や仕草から、行動を読んでいるならば…


再び、素早く距離を詰め、首元を狙う。

しかし今度は、直前で盾で男の視界を奪った。

目の前に現れた盾の圧に、この男は怯むまい。

だが、見えない攻撃は、どうだ。

最小動作の突き。

視界を塞いでいた盾を、回すように脇に逸らし、一息に突く。


「懲《こ》りぬな。」


縦向きに突いた騎士剣。

またしても、その溝に、雷紋の剣の切っ先が添えられ、軌道が逸らされていた。

首のすぐ横を、先端が逃げていく。

その刃は、私の方を向いている。

溝に沿い滑るように、剣が、一直線に――


「う、おっ!」


突如として、横殴りに身体が吹っ飛び、無様に地面を転がる。

やれやれ、随分乱暴ですね…

しかし助かりました、ツル殿。


「出来ますね、文身《ぶんしん》の者。」

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