第23話
「――だから、遠心力で勢いを付けた攻撃になるの。
遠心力っていうのは、簡単に言えば回転の力。
けど、すごく重いから、技が出るのは遅い。
そんな感じかな。」
今まで、使って来なかった知識。
現代の、私だけが持つ情報。ここが、使いどころだと思った。
「…概ね、言っている意味は理解しました。
さやの推測通り、暴威の得物がその長柄であったなら、まことに価値のある話です。」
「…驚きました。
サヤ嬢、あなたの知識は私の理解を越えています。
これほどの知見をお持ちだったとは。」
「本当は馬に乗って使う武器だから、リーチでは多分勝てないかもしれない。
つるさん、自分より大きい相手と戦う時、どうしていたの?」
「踏み込まず、疲弊させるのみです。
或いは、足元を突き、頭を届く位置まで下げる…といったところでしょうか。」
私たちは、ゲームのボスキャラを攻略するみたいに、範囲とリーチの広い攻撃への対処を考えていた。
一見、中距離で戦うのは無理があるように思える。
いっそ懐まで飛び込めば、その強みを殺して対応できるかもしれない。
問題は、どうやって近づくのか。
つるさんなら、もう戦い方を組み立てている可能性はある。
私の狙いは、ふたつ。
まず、忌助さんに、私の異質さを見せつけて、計算を狂わせること。
これで、彼女が想定していたであろう策は、使えなくなったものがあるだろう。
もうひとつは、つるさんが怪我をするリスクを、可能な限り低くすること。
これが上手くいけば、戦闘が終わっても、忌助さん達は手が出しにくくなる。
目指すのは、完全勝利だ。
「如何なる時代の知識か、私には測り兼ねるものだ。
蓋し、娘の言は、我らの見たあの男の戦に則した物であった。
間違いは無かろうよ。」
「……それで、ここで暴威が襲ってくるのを待ってる、でいいんだよね。」
冷えた目の忌助さんは、少しだけ口角を上げた。
やっぱり、ここをもう一度戦場にするんだ。
周辺の地形は、彼女たちの方が把握しているはず。
私たちより、その点では有利なのだろう。
ここは前後に広く、逃げ場もある。
危なくなれば、忌助さんたちを囮にしてでも、つるさんを連れてイーゴンさんと逃げよう。
「いごん殿、戦が始まれば、さやを決してその場から動かすことはせぬよう。」
「……必ず。」
二人は、何を言っているんだろうか。
私は、足手まといなのはわかっている。
動かす、ってどういうことかな。
…考えるの、疲れた。
……まあ、いっか。
もしつるさんが危なくなれば、私が盾になればいいか。
*
危うい。
さやの心は、砕け始めておるやもしれぬ。
いごん殿も察してはおろうが、暴威との戦となれば私はさやを見てはやれぬ。
考えもなく飛び入るなど、無謀なる真似をせねばよいが…
我らが深く手傷を負えば、さやは乱され、心は後戻り出来ぬところまで深く落ちよう。
それは、ならぬ。
いごん殿には含めておるが、此度は逃げの一手を打とうとも、さやが無傷であろうとも――
私と、いごん殿のどちらかが死すれば、さやの心も同様に死ぬであろう。
せら殿の献身が繋ぎし物を、守らねばならぬ。
「風が、吹いて参りましたな。」
……鷹司忌助、随分と平静なること。
暴威の人ならざる武、間近で見ておるはずのこの者が、なにゆえこれ程までに気を緩めておるのか。
「…血の気が漂っておる。
匂いに釣られて、暴風は道を変えるやもしれぬな。」
私の視線に、この者は敢えて応えず。
よもや、暴威と手を組んでおるのではあるまい。
我らと暴威の気勢を削ぎ、背後より利を得る算段…
私の、読み違いであったのか…?
「――念念に疑を生ずることなかれ。観世音浄聖は苦悩死厄に於いて能く為に依怙と作れり。一切の功徳を具して…」
女の、声。
……経、か。
道の奥より、泰然として歩み来る。
「……よい。
手を散らすぞ。
奥白石殿は大男を。我らは、女を取る。」
この小娘…
左様のことか…暴威とは、唯一人のみに非ず。
前を歩く尼僧と、奥の大男…
二人で、一つ。
不覚…斯様な算段、見抜けぬとは…
「いごん殿!さやを頼みます!」
「は!サヤ嬢、こちらへ。」
「どう、いうこと…?
なんで、二人…」
さや。
そなたの推測は当たっておりましたね。
長柄の得物、あれが暴威の核であろう。
尼僧は後回し、まずは大男を受ける。
「――楽土に囚われし業、さぞ苦しきものよ。
其の方らの因縁、ここで断ってみせよう。
拙僧、太白。」
「我は破軍、馬破軍だ。
奪う……全てだ。
死んでも、忘れられんぞ。」
「奥白石つる……と申します。
では、破軍とやら。
一騎打ちと参ります。」
「凶星が二つ、揃っておるか。
まことに、自惚れたものよ。
……鷹司忌助。
太白と申す尼僧、相手仕る。」
「……真壁雷蔵。推して参る。」
楢断よ、今一度、私に力を。
命も、心も、守り切るために。




