第19話
涙も出ない
声も上げられない
大声で、泣き出したい
でも、そうしてしまうと
セラが死んだのを、認めてしまうみたいで
「はあ…は、あ…さ、や…
いつ、でも動ける、ように、なさい…」
返事はしなかった
つるさんは、セラを見捨てた
置いていった
助けられたかもしれないのに
一人で、置き去りにした
でも、私のためにやったことで
だから許せなかった
自分のせいで、こんなことになったのが
つるさんのせいにしようとする、真白さやという愚か者が
殺してやりたいくらい
憎かった
「さや…返事を、しなさい…
聞こえて……」
……つるさん?
息が、荒い
喋る体力が尽きたのかもしれない
ぜえぜえと、苦しそうに呼吸している
顔が青白くなっていく
「ごめん…ごめんね」
「……さ、や」
ああ…傷口が
着物の色が変わるくらいの、血
いつの間にこんなに――
包帯、なにか、布は?
……落とし、ちゃったんだ
制服でもシャツでもいい、血を止めないと
これも、これも私のせい
つるさんまで、死んじゃったら
もう、生きていたく、ない
怖い
怖い
イーゴンさんが、いなくなっちゃったのが
セラが、死んじゃったのが
つるさんが、冷たくなっていくのが
怖い
一人は怖い
一人は嫌だ
助けてお母さん
助けてえりちゃん先生
助けてりりちゃん、ちーちゃん、しおりちゃん
誰でもいい
つるさんを、助けて…
私を一人にしないで
*
雷蔵、見よ。
あの連中、二人欠けておる。
それに、白き剣神も深手の様子。
あれ程の練達に手傷を負わせるとは、どのような相手か…
異邦の偉丈夫と妙手の女も、見事な使い手であったが、敗れたのか。
…それは承知しておるが、代わりはおるまいよ。
あれはまだ致命ではない、ここにおいてはそれで充分。
…蓋し、隣の娘は。
死に、引きずられておるようだな。
以前よりも、幾分かこちら側に足を踏み入れておると見える。
ほう、同行者を失った故のことと申すか。
…うむ、それで得心がいったな。
あの娘、やはり楽土におるべきではない。
……いや、それはよい。
あやつ、弱者ではあるが、戦の匂いが出てきておる。
ああいう手合は楽土に多いであろう、早晩死にゆくのみ。
ふっ、雷蔵、そなたよく見ておるな。
然り。
……あの娘、好まんな。
されど、まだ利用できよう。
そなたの傷はどうか。
…本当か?
土壇場でその強がりが裏目に出なければよいがな。
……これ以上は無益であろうな。参ろう。
*
なんだか、暖かい。
あれ、私…
寝ちゃってたのかな。
なんだっけ、何か…忘れてる…ような…
「…つるさん?」
「さや、眠れましたか?」
つるさんが、汗ばんだ顔で微笑む。
ぎこちない笑顔、無理をしたような表情。
私は、それを、すぐそばで見ていて…
涙がやっと、ようやく、泣くことができた。
イーゴンさんのこと。セラのこと。
つるさんが、ここにいてくれること。
全部全部、ごちゃ混ぜの感情が、溢れて止まらない。
「さや、そなたには、辛い思いを……
せら殿のことは、私の責任です。
恨むのも、当然のこと…」
「そ、んなわけ、ない、じゃん…
つる、さん、のこと、嫌いなわけ、ないよお…」
つるさんはきっと、自分を恨んで欲しいわけじゃない。
恨みで私の悲しみを、誤魔化すために、薄めるために、そう言っているだけだって、わかってる。
その優しさを、理解してしまったから、情けなくて、申し訳なくて、辛くて、苦しくて――
イーゴンさんに会いたい
セラに、会いたいよお
「さやは、強い子です。
そなたの傷は、癒えるまで時を要するでしょう。
されど必ず、必ずいつかは…
それまで、傍で私が守ります。」
「うん…うん…ずっと、いなく、なら、ないで……
つるさん…ごめん…ごめんねえ…」
「はい。
つるは、ここにおりますよ。」




