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剣の楽土  作者: かが介六郎
第二部 現世の剣

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2025-11-24 19:14:09 真白さや 記録映像

再生開始。


画角が揺れて定まらない。

背景は暗く、真白さやの顔も見えづらい。


『えっと――』


目線を斜め上にして、なにを言うか迷っている。


『真白さや、です。

私は、十一月十九日の午前、行方不明になりました。

その間のこと、そして今伏見で起きている事件とその対処について、お話します。

…えーっと、こんな感じかな?』


『かしこまらんでも、ええよ。』


『じゃあ、そうする。

あの日、親友の三人と一緒に、伏見稲荷大社の楼門辺りにいた私は、突然知らない場所で目覚めた。そこは浜辺で、私は倒れてたの。

イーゴンさんっていう、親切なイングランド出身の人が見つけてくれて…

その後、浅倉涛庵(とうあん)さん、博多出身の人とも知り合って、私の面倒を見てくれる当てがあるって言ってて…』


言葉が詰まる。


『あー…

えっと、大事な要点だけ、言います。

私がいた場所は、”剣の楽土”と呼ばれる土地。

楽土は、簡単に言えば死後の世界。

その世界は、ある条件を満たした場合にのみ招かれる。

剣に生き、死の瞬間まで剣を手放さなかった人たち。

剣に人生を捧げて、死にきれなかった人たちの世界。』


『…なんで、さやは招かれたのかな。』


難しい表情になる。


『…今、私は剣を持って戦ってる。

それは楽土での経験があったからだけど…

でも、あの場所は時間の概念っていうか、時間そのものが不安定な場所だった。

だから、多分私は、”剣に生き、死ぬ瞬間まで剣を手放さない”死に方をする運命なのかもしれない。

結果と原因が、捻《ねじ》れた時間のせいで逆転したのかも。

…この何日か、そう考えてた。』


一時停止。



再生。


『楽土へ私が行き来したポイントを、仮に特異点って呼んでる。

伏見稲荷大社の楼門辺りにある、目には見えない裂け目。

そこから、剣士が一人漏れ出たのを、実際に目撃した。

特異点は、楽土の各所に出来た”渦”と繋がってるらしくて、本来あの場所から出られないはずの剣士たちが、現世に侵入する起点になった。

…この渦が出来たのは、私が楽土から戻ったせい。

多分、生きたまま往復した私のせいで、なにかのエラーが起きてるのかも。』


『…でもそれ、変やない?

さやが楽土から戻る前に、伏見稲荷大社に剣士は出て来てたはず。

…さやが原因とは、決めつけられへんよ。』


『それも、楽土の時間がめちゃくちゃだから、だと思う。

私が帰った時点か、その直前に、あの特異点は開いた。

でも、私が帰った、十一月十九日の十八時に開いたわけじゃない。

あの穴は、多分未来にも過去にも存在してる…

時間に縛られてないの。』


前髪で隠れた表情は読み取れない。


『楽土の剣士は、剣でしか殺せない。

でも、それ以外は人間とほとんど同じ。

水も食べ物もいらないし、眠りもしないけど、人間以上の力を持ってるわけじゃない。

…例外は、いるけど。』


『例えば、高い場所から落ちたりしたら?』


『痛みは感じるよ。

でも、身体は損傷しないの、剣以外ではね。

痛みで怯ませて捕まえるのが、一番いいのかも。

手錠とかを、腕力だけで破壊したりできるのは…あんまり、いない…

でも、もし殺したら、これだけは守って。』


画角が揺れて、真白さやの顔が近くなる。


『剣士の死体を、水に漬けるのは絶対だめ。

どんなことがあっても濡らさないで。

雨の日に殺すのはだめ、屋内じゃないと。』


『汚染されるって、言うとったね。』


『うん。

”穢《けが》れ”は、黄泉の国のルールなの。

剣士の死体には、穢れが付着してる。

水は、それを運ぶ性質と、清める性質を持ってる。

…もし、穢れが氾濫《はんらん》したら、大量の水で洗い流して。

水が真っ黒に染まったら、なによりも優先して水で清めて。』


一時停止。



再生。


『あとは、えっと…』


『剣士の特徴とかは?』


『あ、そうだね。

楽土の住人は、生きていた時代も土地も、バラバラ。

平安時代に怪物を退治してた人、百年戦争に参加してたイングランドの人、ナポレオンの護衛を務めたフランスの人、元寇で二回とも蒙古と戦った人。

二〇〇三年から来た鹿児島の人、戦国時代から来た十二歳の少年剣士…』


『皆、さやの仲間?』


『うん!』


表情が明るくなる。

声も大きくなっていく。


『皆、大切な仲間。

私をずっと守ってくれた、心から信頼してる人たち。

私は、楽土にいるどの時代の人とも話が通じるの。

平安時代の日本人から、青銅器時代の古代人まで。

楽土には、言葉を勝手に翻訳してくれる機能があってね。

話せばわかる人ばかりじゃないけど、悪人しかいない土地ってわけでもないの。』


『さやの仲間が、こっちに来ることはもうないのかな?』


『それはないと思う。

浅倉さんを送ってくれた、つるさんの判断は完璧だったと思ってる。

今は、楽土でこれ以上の剣士が漏れ出るのを防いでくれてるはず。』


『現在伏見にいる剣士の数が増えるのは、考えにくい?』


『それは…

多分、増えると思う。

私の仲間たちは、全員すごく強い。生半可な相手は通さないはず。

でも、渦の数が仲間の数より多ければ、門番のいない穴から出て来れる。

あるいは、門番が守るよりも前に、抜け出るとか。

時間軸の乱れで、今より未来の時間に、伏見に現れるかもしれない。』


『向こうで渦に入って、現世のどの時間に出られるかはわからない、と。』


『多分、そういうこと。

だから、あの場所は監視して欲しい。警察は、もっと上手いやり方を知ってるかもしれないけど。

…話は、こんなところかな。

ね、茉琴さん。これ、お母さんとかにも見せていいのかな?』


『即答はできへんけど…

いや、あんたなあ…』


『あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて…

でも、もしもの時に、私の姿を見れたら嬉しいのかなって…』


終了。

動画時間、16分46秒。

ファイルサイズ、1.21GB。

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