第9話「シルバース」
ギターの構造を今一度見直してみたが、特に何か変な点は見つからない。
「んー……やっぱり、ギター自体は悪くないのか……」
剣を握り、音で魔物を倒したとき。あの時は緑に発光し、発生した音は重低音だった。
つまり、重低音じゃないと倒せない……ってことか?
ギターの音色と重低音。違いと言えば音圧だろうか。
一般的なギターのボリュームを何らかの方法で最大限にしたとすると、音圧はあるがただ耳障りで、世間一般的にうるさいと言われる不快な音になる。
だが重低音と言うものは、その周波数があるだけ体が振動して震え、心地よさすら感じるものだ。
根本的に両者の音の役割が違う。
「なら……音の高さで用途が変わるのか……? それなら……ベースだ!」
俺はすぐさまベースの制作に取り掛かった。
ベースは確かに高い音を使う際もある。だが基本的には低い音を鳴らしている楽器だ。
元の世界ならあまり聞こえない問題もあったが、この世界はちょっと違う。
なにせ音がないので、音を奏でると良く聞こえる。だからきっとこの世界は全ベーシストが一度は来てみたい世界になっているだろう。
うらやましいだろうと言いたいが、ちょっと煩わしいこともあるから一概に鼻を高くすることはできない。
なんて考えているうちに枠組みは完成した。
ギターと似ているから、さほど作り方に変わりはないのだ。
後は……ベースの弦だな
ベースの弦はギターの弦とは違って長い。そして、重い金属製のような弦が必要だ。
前狩ったドラゴンのひげは、どちらかというとナイロン製に近い。ナイロン製の弦はギターとの相性は抜群だが、ベースとの相性はいまいちだ。
「困ったな……」
重くて、長くて、金属のような紐……
「カイト様、帰りましたー」
都合がいいな……
「レネー!」
「はいー!」
すぐにレネーに確認を取った。
「そうですね……また、ひげですか?」
「いや、ひげじゃなくてもいいけど、とにかく金属製のような紐状の何かが欲しいんだ」
「それなら何種類か上げられますが、どれもここから遠いか、面倒臭い場所にいるかのどちらかですね」
「なんでもいいぞ! むしろ全部言ってくれたっていい!」
レネーに顔を寄せると、レネーは呆気にとられた様子で笑いながら頷いた。
「まず、北部ダンジョン内に生息しているシルバースパイダーと呼ばれる鉄の糸を吐くクモがいますね」
「鉄の糸を吐くクモか」
いかにも異世界って感じだな……
「ここから最短でも三日はかかります。それもフィレア様から場所を使ってもいいと許可が下りればですが……」
「それなら、俺が何回か赴いてギターを響かせればいいだろ」
「そ、そうですね」
レネーは関係の手前、あまり笑えないのだろう。ぎこちなく笑った。
「ほかは?」
「そうですね。糸とはまた違うんですが……柔軟性の高い針を操る通称ショットという魔物がいます」
「通称……?」
「はい。あまりにも種類が多いので、いちいち全てに名前を付けていられないんです」
「へー……」
「それに、神出鬼没なので会えるかどうかは分かりません……」
「なるほどな」
ショットか……
「ほかには?」
するとレネーは少し険しい顔を浮かべた。
「ここからは、強い個体の魔物になります」
「近くにいるの?」
「はい。前言ったウルフの森の奥、倒したドラゴンの長です」
「ほう……」
「シルバースと呼ばれていて」
汁リバース……んんっ、
「どうされました?」
「あ、いや……ちょっと変な考えをしただけだ」
「あ、はい。そのシルバースは昔の勇者を滅ぼしたとも言われているほど、強力な魔物なんです」
でも近いんだもんなー……
「じゃあ、そいつ狩りに行こうぜ」
楽観的にそういうと、レネーは慌てて首を振って俺の腕を掴んだ。
「だ、だめです。何かあってからでは遅いです」
「いや……これも楽器のためだ。レネー、これは仕方ない、消耗戦ナンダヨ」
早く作りたい……
「ですが……」
「いざとなればレネーだけ帰れ。俺の屍を超えていくんだ」
「カイト様……」
そんなにウルウルくるシーンじゃないぞ。早くいこう……ベースが待ってるんだ。いや、跡地で舞ってるんだ!
「レネー、行くぞ。俺に任せろ!」
「分かりました。全力で援護いたします!」
意気揚々と気持ちを奮い立たせるレネーを横目に、俺は後のお祭りにしか興味がなかった。
「あれです」
「お!」
レネーに連れてこられてシルバースがいる場所までやってきた。
「これ、どうやって行くんだ?」
目の前は崖になっており、周りはアリジゴクかのようにくぼんでいる。
そしてその真ん中にシルバースであろう巨大なドラゴンが包まって寝そべっている。
「これは……ゆっくりと斜面を降りていくしかないかもしれないですね……」
「登りは?」
「私などの魔術師がいないと登れないですね」
「そうだな。よし、あいにくレネーがいる。さあいくぞー」
歩き出した俺の首の襟をレネーに掴まれた。
「カイト様、私もうmpがありません」
「レネーなら出来るよ。俺、信じてるから」
レネーの肩を持って鼓舞すると、レネーは久しぶりの顔を見せた。
その顔は出会った当初のころに見せたあのごみを見るかのような目だ。
「無理です」
「い、や、だ! 俺はどうしてもあいつの出す鉄の糸が欲しいんだ!」
「一人で行ってどうやってここまで戻ってくるんですか」
「そりゃ、レネーが魔法を――」
「もうmpがないって言いましたよね」
「えー……なんとかしてよぉ、レネー……」
レネーは呆れた様子でただ黙って首を横に振るだけだった。
「どうしても、俺は今すぐにベースを完成させたいんだ。あ、新しい楽器なんだけど、それだけ、俺はこの世界を救いたいんだよ……」
嘘偽りの言葉を羅列させると、レネーは身を少し引いて言葉が響いている様子を見せた。
「頼むよレネー……俺、直接魔王とかと対峙するのは苦手だけど、何とかして役に立ちたいんだ」
「カイト様……」
よしよし……
味を占めた俺は再度、レネーの肩を持った。
「お前しか、今頼れないんだよ……!」
レネーは低くうなりながらも、俺の手を握った。
「分かりました……ただ、カイト様を護衛することは不可能になりますが、いいですか」
「ワカッタ。ハヤクイコウ」
「……はい」
最後に若干何かを察していそうなレネーを引き連れて、俺は崖を下った。
「よしっ、やるぞ!」
「出来るだけ、私がおとりになります」
「おう」
まずは、先手必勝だ……!!
剣を腰から抜き、いつも通り俺は剣を振るった。
今日は赤色か……
そんなことを思っていると、爆風で飛ばされた。
「な、なんだ……!?」
霧がかかって前が見えない。
まさかシルバースが動き始めて……!
俺は横で倒れたレネーのもとに駆け寄った。
「レネー、おいレネー!」
レネーは目を開けない。
おいおいまじかよ……ここに来てベースも作れずに死ぬのか?
俺は再度剣を振るうことにした。
今度は黄色?
初めて見る色に驚きつつも、振りかざした勢いは止めることも出来ず、大地を切り裂くように剣を振った。
その瞬間、エレキギターで高音を鳴らしたときのような、痺れる高音域が耳に響いた。
「な、なんだこれ……!!」
体が痺れる。
「快感だぁ!!」
そのまま俺は膝から地面に崩れた。
「あ、まずい……レ、レネー、お、俺たち死んじゃうよ。オキテヨー、ネー」
段々霧が晴れてきたが、そこにはまだ寝ているシルバースがいた。
ええ……今の全てを耐えたってこと? バケモンじゃないか……!
「こんな怪物なら早く言ってよ!!」
そう叫ぶと、レネーが起き上がった。
「あ、レネー! 俺たちこのままじゃ死んじゃうよ」
「……なに言ってるんですか?」
記憶が飛んだのだろうか。
まあ、あの高音を聞いて痺れて、脳がマヒする感覚は分からなくもないか……
「もう、シルバースは討たれてますよ」
「え……?」
しっかりと横たわるシルバースを見ると、確かに微動だにせず、まるで絵のように止まっていた。
「倒したってこと?」
「……はい。正直……規格外です。カイト様の〝力〟は」
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