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音のない異世界で、俺は音を創る勇者になった  作者: 為世 斐文


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10/10

第10話「想定外」

 レネーは顔を歪ませて、シルバースの元へ駆けていった。

 規格外……そうだな

 俺自身もこの力に驚きが隠せない。

 レネーの言う通りなのであれば、昔の勇者は今俺が瞬殺したシルバースに殺されたはずで、それだけこの巨大なドラゴンは強いはずだ。

 それを俺はものの数秒足らずで打倒したとでもいうのだろうか。

 でも現実、目の前に広がる光景はそれを物語っている。

「レネー、本当に死んでるのか? シルバースのやつ」

「はい……生命反応がありません」

 おう……

 呆気なさ過ぎて、逆に変な気分になってくる。

 まあ……いっか

「それで、鉄の糸はどこにあるんだ?」

「このひげもそうですし、体毛自体が無数の針のように固い毛なんです」

「ほお……」

 試しにひげを触ると、俺の頭にベースのあの独特な柔らかさを持つ金属製の弦が浮かんできた。

「これ、最高だよ!! 早く運ぶぞレネー!」

「あ……はい」

 ひげを根元から切り取り、丸めてカバンに詰め込んだ。

「でもやっぱり、一回じゃ足りないな……」

「そうですね……」

 さっきからレネーはどこか腑に落ちない顔をしている。

「どうしたんだよ」

「いえ……なんでもないです」

 変なレネーだな……

 こんなどこにも落ち着かない顔をしているレネーは初めて見る。

「仕方ない。今日はひげだけ持ち帰ろうか」

「え、ひげ以外も持って帰るんですか?」

「当たり前だろ。例えばあの爪! 絶対にピックに使えるし、細長くしたらプラスチック製のようなドラムスティックになるかもしれないしな! まあ、今日はこのひげでベースを完成までもっていくぞ。運んでくれ」

 まだやはり落ち着かないレネーに運んでもらって崖の上の方までやってきた。

「もう……mpがありません……」

 だいぶ疲れた様子で、ぐったりと出っ張った部分に座り込んだ。

 それでか……さっきからの表情は

「よし、俺に掴まれ」

「ですが……」

「多分、大丈夫」

「……分かりました」

 レネーをおんぶさせて、俺は崖を上った。

「カイト様……あのオトは何なんですか……?」

「あれはー……俺の作ってるギターの最終形態ってとこだな」

「そう……」

 そこまで言ってレネーは黙り込んだ。

「ん、おーい。レネー?」

 問いかけた瞬間、レネーの体重が増えたように重くなった。

 な、なんだ……!

「おいレネー? なんか、引っかかったか?」

 後ろを見ようにも見えない。あと少しだから我慢は出来そうだが、服が何かに引っかかったんなら、傷が出来てしまっても申し訳ない。

「レネー?」

 動けずにいると、次第に首元にほのかに温かく、優しい風が辺り始めた。

 おい、こいつ寝たのかよ……

 どうやらレネーが寝たため、俺にかかる体重が増えただけのようだった。

 ここからの道は若干なら覚えてるし……寝かせてやるか

 崖の上に到着した俺は、おんぶしたままで拠点に向かって歩いた。


「よしっ……ちょうどひげの太さも違うし、何なら五弦ベースなんてものも作れるんじゃないか?」

 レネーをベッドに寝かせてから、俺はすぐにベースを創る作業に取り掛かった。

 まあ五弦は難しいだろうし、スタンダードに四弦にしておくか


「完成!!」

 弦を付けて調整するだけだった為、ベースはすぐに完成した。

 よし鳴らすぞ……

 緊張が走る中、俺はベースの音を鳴らした。

 ん……?

 その音は緩くて、ギターのような音で、低音よりも中音域の方が目立っているへにゃへにゃっとした音だった。

 あれ……

 ひげの硬さや太さは、ベースの弦そのものだ。しっかりと金属のように重く、弾いた時の揺れが残る感じもまさしくベース弦にふさわしい。

 何を間違えた……?

 横にギターを並べてみた。

「んー……」

 別に変わった点はない。

 ボディはギターのように空洞が空いた箱のようなものではなく、ちゃんと中身が木でぎっしりと詰まったボディをしている。

 ネックも別に曲がるほどの脆さはなさそうだし……あ、

 俺は前作ったアコギにも見られる決定的な欠点を発見した。

「〝ブリッジ〟作ってないじゃん……」

 ブリッジというのは、ギターやベースなどの音を決める決定的なパーツだ。これがないと変な音が鳴るほど、とても重要なパーツなのだ。

 久しぶりに聞くからって、耳で勝手に変換されてたんだな……

 アコギを鳴らすと確かに、音が変な気がする。

 弦の角度もちょっとずつずれてきてるし、これはだめだな……

「カイト様……」

 アコギを鳴らしたからか、レネーが寝室から出て来た。

「ああ、レネー。おはよう」

「おはようございます……」

 また眠そうに目を擦りながら、俺の隣に座った。

「あ、弾かないよ?」

「完成したんじゃないんですか……?」

 あくびを一回、二回と繰り返して目をぱちくりぱちくり繰り返す。

 よっぽど疲れたんだろう。

「厳密に言うと、弾かないよりも弾けなくなったんだ」

「え?」

 俺の言葉にレネーはすぐに食いついた。

「弾けないって、もう聞けないんですか?」

「あー、違う違う。足りないパーツを思い出したんだよ」

「足りない?」

「ああ。ブリッジって言うんだけどな。それがないと――」

 俺はベースの音を響かせた。

 レネーは「おお」と声を出していたが、同時にギターの時よりかは高揚感がなかったようで、それで終わった。

「とまあ、こんな感じでいびつな音が鳴るんだよ」

「そうなんですね。それを直さないと弾けないってことなんですか?」

「そういうことだ」

「それなら私も手伝います!」

「ああ。頼む」

 ブリッジを作る際は、基本的に木では作らない。牛などの骨からできているため、手で曲げられないほどの硬さを持っているものが望ましい。

「木を取ってきたらよろしいですか?」

「いや、木はだめだ。一番いいのは、ハーピーの骨の部分か、ドラゴンの爪と骨だな」

「骨か爪ですか」

「ああ。特に、爪はちょうどいいくらいの硬さだったはずだ」

「そう、なんですね」

 そうだよな田野……

 田野は元の世界でのバンドメンバーで、よく俺に音楽系の雑学を披露してきた。

 まさかここで生きてくるとは思ってもみなかったが、しっかりと聞いていた俺のおかげでもある。

 ファインプレーすぎるぜ俺たち……まあ、物は試しだな。色々と使ってみるとしよう!


 レネーが色々と持ってきてくれたため、俺はすぐに硬さのチェックから入った。

 ハーピーの骨は……曲がるし、空洞がありそうだな……

「どうですか?」

「こっちはだめだ」

「そうですか……」

 ドラゴンの爪は、やっぱり曲げようと思えば曲がるし、骨も空洞がありそうだ……まあ、どちらも飛ぶために軽くなってんのか……

「こっちもだめだな……もっと、がっちりしたものじゃないとだめだ。手で曲がらず、それでいて硬すぎてもだめで、空洞とかもあったらだめだ。振動で骨が砕けるし、拾いきってくれない」

「よく分からないですが……硬い骨が必要なんですね?」

「ああ。しかも加工できる感じの骨がいいな」

「ちょっと、考えてみます」

 そうしてレネーは椅子に座って頭を悩ませ始めた。

 まあでも、ブリッジが完成したとしても、ベースはこの世界に向かないな……電気なるものがないから、音が聞こえづらいし、しょぼくなってしまう……何かいい方法があればいいんだけどな……

「カイト様」

 俺も俺で考えを巡らせていると、レネーがこちらに戻ってきた。

「牛、なんていかがでしょう?」

 あ、そうか……

 俺はバカな考えを巡らせていたようだ。いや、異世界に当てられすぎたのかもしれない。

「一番、いいよ!」

「そうとなれば、すぐに取ってまいります!」

「あ、おう。当てはあるのか?」

「はい! 肉屋を経営しているランゴさんが、骨の処理に困っていると毎月のように城へ手紙を送ってくるんです」

 あーなるほどな……

「そこで、私たちが牛の骨だけでも受け取れれば、両者いや、フィレア様も助かるということです!」

「おお、それなら善は急げだ。至急向かってくれ!」

「はい!」

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