第7話「これが音の力だ!」
ひとしきりにギターを鳴らしていた結果、レネーからいつももう一度聞きたいと懇願されるようになった。
どうやら、音というものに魅了されたみたいだ。
「カイト様お願いします……!」
朝食後もこうやって、欲しいものがある子供のような顔をして、顔をグイっと近づけて迫ってくる。
これじゃあ断り切れない。レネーは、俺の好みのような顔をしているからだ。
「分かった、分かった」
しかも断ったら断ったで、レネーはどこか上の空になってしまう。
まるで大事なものが消えてしまったみたいに、顔を曇らせて、いつものようにシャキシャキとしたレネーではなく、じめじめとしてどろっと溶けた感じになる。
そんな状態でいられたら、俺も困る。
「今日は何を弾いてくれますか?」
どこで覚えたその言葉……
音楽を聞かせてからと言うものの、レネーはどこか俺の喋り方に似ている声に変わってきた。
抑揚や音程が今まで以上に付いて、だいぶ聞き取りやすいし、俺も自然体でいられる。
音楽を聴いて、音と言うものに慣れたのかもしれない。
「今日はこんなのにしてやろう」
俺がギターを構えるだけで、わくわくした顔でそばに座る。
それがちょっとかわいくて、なんとも言えない気持ちになってくる。
「今日も一日頑張れそうです」
「それならよかったよ」
レネーは満面の笑みを浮かべた。
前の世界でもこんな人がいたらよかったのになー……
ちょっと寂しい気持ちを思い浮かべながら、俺は二個目のギター制作に取り掛かった。
「よし、後はネックとヘッドを作って」
「カイト様!!」
出かけていたレネーが慌てた様子で拠点へ戻ってきた。
「どうした?」
「その……前のハーピーとの闘いにて、カイト様の素性がばれてしまったみたいで」
「え……」
「王直々に呼び出しの命令を受けました」
「え……」
ギターを作る手をレネーが引っ張った。
「さあ、行きましょう。ガッキというものの素晴らしさを教えるんです!」
「あ、うん」
レネーはやけに張り切った様子で、立てかけてあるギターを手に持ちそそくさと拠点を出た。
「行きますよー!!」
子供みたいだな……
そんな気持ちを抱きながらも、勇者関連というよりも音楽を広げられるチャンスのように聞こえた俺も、張り切った気持ちで拠点を後にした。
「そなたがカイトか」
あ……王って嬢王なんだ
俺が思っていた王様像とは打って変わって、若い女性が玉座に座っていた。
「はい」
「そなたは剣士のジョブを持っておきながら、新たな魔法を使うことのできる者だと聞いたぞ? まるで〝勇者〟のようにな」
なっ……
この嬢王は中々に鋭い洞察力を持っているようだ。
「しかも、普通の魔法とはちょっと違うそうじゃないか」
「はい」
「負傷が出ないのなら、見せてもらいたい」
よしきたっ!
「分かりました。実演してみましょう。レネー」
「はい!」
レネーもどこか誇らしげに、ギターを手渡してきた。
「ん、それはなんだ?」
「これは、楽器と言う新しい武器でございます」
「ガッキとな」
あーなんか最初の頃のレネーを思い出すな……
「そんなものが武器になるのか?」
「はい。よく聞いておいてください」
「ふむ」
口元を袖で隠した嬢王に、俺はレネーの時のように明るい和音のメジャーコードから弾いた。
「な、なんだ……? 今、何をしたのじゃ?」
「これは、音と呼ばれる。それはそれは素晴らしい命の輝きでございます」
「命の輝き……もう一度、鳴らしてみてほしい」
お、食いついたな……!
今度もレネーの時と同じく、少し悲しくて神秘的な和音のセブンスを鳴らした。
「見える……情景が見える……なんじゃそれは。こんなの初めてだ。胸がざわついて、気持ちが高揚する……これが〝オト〟というものなのか?」
「はい。お気に召されたようで、よかったです」
「だが、それが武器になるのか?」
「はい。どうやら、この世界には音という概念がないようですね」
「そうじゃな。オトというのは初めて聞いたぞ」
嬢王の音の発音に笑いが込みあがりそうになりながら、なんとか平然を装った。
「人間に対しては、今の王のように気持ちが揺さぶられる傾向が見られております。ですが、魔物に対しては、これは脳を蝕む毒のように、聞いたものは倒れる傾向を確認しております」
「ほう……それで前のハーピーたちをやっつけたというのか」
「はい。厳密に言うと、別の武器を使いましたが、大層の違いはありません」
「気に入ったぞ。ガッキという武器じゃな」
「はい」
「量産しよう」
あー……
「すみません王様。この楽器というのは職人である俺にしか作ることはできません」
「なんと」
「それだけの技術と知識と、色々なものを持ち合わせなければ作ることが不可能なものなのです」
「そうであったか……」
「はい」
これで、しばらくは安泰だな
安心しきっていると、俺の前にデカい袋が置かれた。
「それなら、そなたが作った楽器を定期的に購入しよう」
「え」
そう言って袋の中身を見せてきた。
「これでどうじゃ?」
中身には前、ギルドでバッチと交換した量のお金よりも大量のお金が積まれていた。
これだけあれば、色んな場所に出向いて、色んな素材をゲットできるのでは……!?
「今後とも、ぜひよろしくお願いします!!」
俺は迷わずに頭を下げていた。
「ああ、こちらもお願いしよう」
キターーーーーー!!
「あ、ですが。まだ試作段階の状況なので、今しばらくお待ちしていただいてもよろしいですか?」
「ああ、五年ほどは待とう」
いや、気なっが……
「ありがとうございます」
本当に、武器に困ってるんだな……
現状の闇を見ながら、俺はそのお金を台車に乗せて城を後にした。
「しっかし、気前がいいな。俺、あの王好きだぞ」
「フィレア様は優しいで有名ですからね」
フィレアと言うのか……しっかりと覚えておこう。大事な仕事のパートナーだ
「カイト様、これからどうされますか?」
「そうだな……一度、このギターが魔物に通用するか試してみよう。まだ実戦していなかったしな」
「お供します!」
「聞きたいだけだろ」
そうツッコむと、レネーは照れくさそうに笑顔を浮かべた。
こりゃ、大金持ちになれそうだな……いいビジネスだ
大金を拠点に置いた俺たちは、早速森の中へと足を踏み入れた。
「この周辺にはゴブリンがいるはずです」
「おお」
ゴブリンとはまたなんとも異世界らしいな
ギターを構えて歩き続けていると、視界に低い背で、青緑色の肌をしている人型の何かが映った。
「あ、いました」
「おお……あれがゴブリンか」
二次元でしか見たことがなかったから何とも思ってこなかったが、いざ実際にゴブリンを見ると、なかなかにグロテスクで、悪寒がするような顔つきはしている。
ハーピーにも効いたし、ゴブリンもそう大差ないだろう。いくか……!
「レネー、いつでも魔法が打てるようにしておいてくれ」
「分かりました」
レネーは満面の笑みで答えた。
あれはあれで、人間とは違う生き物みたいだな……
レネーの笑顔にそう感じながら、俺はゴブリンの前に出た。
「俺のコードに痺れな」
ゴブリンは大層いらだった様子で持っていた木の棒を振り始めた。
「聞け!!」
俺がコードを鳴らしたとき、ゴブリンの動きが止まった。
静寂の中、風で飛ばされる枯れ葉の音だけが聞こえる。
もう一度……!!
「痺れな!」
もう一度コードを鳴らすと、後ろからドサッと何かが倒れる音がした。
ん……?
後ろを振り向くと、レネーが泣きながら倒れていた。
ええ……?
前を見るとゴブリンはまた棒を振り回し、今度は俺に向かって猛スピードで向かってきた。
あ、まずい……
俺はギターを片手、レネーを片手に持って森を駆けた。
なんでレネーが気絶してんだよぉ!!
レネーはとても、いい顔で寝ている。
音に慣れてはいても、激しいコード展開に、レネーはまだ慣れていなかったのかもしれない。
「おかしいだろ……!!」
血眼で追いかけてくるゴブリンを何とか振り切って、俺は拠点へと帰った。
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