第6話「初めての楽器」
朝、またいい匂いで俺は起き上がった。
お……またレネーの手料理か
いい匂いの正体はレネーが作ってくれている料理だった。
「カイト様、おはようございます」
奥の部屋からエプロン着のレネーが出てきた。
「あとスープを作るので、ちょっと待っといてください」
おお……なんか、奥さんみたいだな
レネーはきっと美人でいい奥さんになる。
こんな朝早くから俺の元にやってきて、俺のために料理を作ってくれるなんて、勇者って肩書き様々だな……
なんて思う気持ちもありつつ、その重圧に耐え切れるか分からないという不安要素も産まれつつ、寝起きの頭をゆっくりと動かした。
もう、食べていいのかな……
食卓には大量の食事が置かれている。
これ全部が俺のってことはないよな……
また不安要素が増えてしまった。
少しすると、大きな器に入ったスープを持ってきたレネーがやってきた。
え……鍋くらいでかいんだけど
「カイト様、早速食べましょう」
「あ、おう」
どうやら俺だけで食べる量ではなかったようだ。
よかったー……でも、多くね?
「いただきます」
椅子に座ったレネーを横目にそういって箸を持つと、レネーは不思議そうにこちらを見た。
「ど、どうした?」
「いえ、その〝いただきます〟って初めて聞いたので」
あ……そういえば前はレネーがいなくなってたから言えてなかったな
「前は言えなくてごめん。言うつもりはあったんだけどな」
「あ、いや……えっと、文字通りの意味なんですが」
あ、
「いただきますって、俺の世界でしか使ってないのか……」
「そうなります」
そっか……
また俺は異世界に居ることを忘れていたようだ。
早く、慣れなきゃなー……
「感謝を伝えて食べるのがマナーで、その時にお命いただきますって意味で、いただきますって言うんだ。こっちじゃ何て言うんだ?」
「それ、凄くいいですね」
レネーは楽器の話の時のように、目を輝かせた。
やっぱり、真面目な人には刺さる話なんだな
「ここでは、いただきますって言うことにしましょう!」
「ああ、そうするか」
レネーは嬉々とした声で、いただきますと言った。
ん……?
「レネー、もう一回言ってみてくれないか?」
「あ……何か間違えましたでしょうか」
「いや、ちょっと気になっただけ」
「すみません……では、」
レネーは力強く手を合わせて、お辞儀をしてから口を開いた。
「〝いただきます〟」
やっぱり……
レネーの言ういただきますは、音階がしっかりとしている。
なんでだ……
他の言葉は音階も抑揚も何もない、棒読みで聞きにくい声だ。
「レネー、俺の真似してる?」
「あー、真似をしないと分からないですからね」
「まあ、そうか……」
「やっぱり、何か気になる点が……ありましたか?」
「いや、レネーの才能に驚いただけだよ」
「才能……! 私、いただきますの職人になります!」
いや、真面目な馬鹿でもあったか……
嬉しそうに食事をつつくレネーの不思議さと異様さを、食事とともに噛みしめた。
「さあ、作るぞ」
「はい!」
幸いにも材料は全て無事で、何ならハーピーの羽もゲットできた。
装飾や、固い骨のような部分は別の何かにも使えるかもしれない。
「まずは、ボディーだな」
「私も手伝います!」
あー……
「それならレネーはひげを三つ編みにして、強度を高めといて」
「了解しました!」
「あ、でも……太さを変えないとだしな。三つ編みと四つ編み、適当に何本か作っといてくれないか?」
レネーは表情を固めて意味が分かっていないようだった。
まあ無理もないか……
紙に説明書を書いてレネーに渡した。
「なるほど……つまりは、三つ編みと四つ編み、どちらも四本ずつ作ればいいんですね」
「あ、そうそう」
確かに、最初からそう言えばよかったな
弦を作る工程はレネーに任せて、俺は早速ボディー用に木を切るところからスタートした。
最初の一本だからな……綺麗に作るぞ!
魂をかけ、全力で木を切っていく。
まずは薄い長方形を二個。縦の長さを三倍ほどにした幅が狭い長方形を一個。次に、大きい方の長方形をやすりとのこぎりで形を作っていって……こんなもんか
段々とギターの面影が見えてきた。
よし、そしたらこの工程が一番むずいんだよな……ボディーを箱の形にしてもいいけど、音が死ぬし、見た目は悪いし、音の反響具合も変わってくるしなー……
木と睨めっこをしながら、考えを回す。
まあやっぱり、丸く曲げられる外周の木材は必要だな
精密な作業が求められる分、デカい刃のノコギリだと限界を感じてくる。
切り込みを入れるのは想像以上に難しいな……
「カイト様、編み終わりました」
「はや……」
レネーは綺麗に編んだひげを持ってきた。
「おお……この滑らかな感覚。そして、この強度、ナイロン弦に似た気質を感じるぞ! 太さもちょうどいいくらいだし、長さの調整も出来そうだ! レネー感謝する!」
「いえ」
「完璧だぁー……」
編まれたひげを触っていると、レネーが切り込みを入れている途中の木を持ち上げた。
「これは何に使うんですか?」
「あー、折れちゃうからあまり持ち上げるな」
「あ、すみません」
だがレネーが持ち上げたことによって状況がつかめた。
意外にも、木はしっかりと曲がってくれていた。
「ふむ……このまま続けるか。それはな、まあボディーってパーツに使うんだ」
「ボディー……専門用語ですね。覚えておきます」
「ああ、後でひとしきり教えるよ」
「はい! では今度は何をすればよろしいですか?」
「そうだなー……釘の頭より下の棒の部分、そこに貫通する穴を開けていてほしい」
「穴ですか」
「そう。でもそんなに太く開けないようにしてほしいから、そうだなー……棒の太さの半分以下くらいで開けてほしいな」
「了解しました!」
よし、その間に俺はこれを仕上げよう……!
作業を再度、開始させた。
「カイト様、できました」
「お、おお!」
結局、レネーは与えたタスクを卒なくこなしてくれるから、釘に穴を開ける工程どころか、それ以上の工程を終わらせてくれた。
俺が作ったのはボディとヘッドだけかー……まあ、一番個性が出るしな。いいだろう
早速すべてのパーツを組み合わせていくと、綺麗なアコースティックギターが出来上がった。
「いいじゃないか!!」
少しエレキギターに近いような形にはなってしまったし、大きさもちょっと小さい気もするが、それなりに様になっている。
「これがガッキという武器なのですね!」
レネーはいつも以上に目を輝かせた。
「そうだ。ちょっと待ってろ。チューニングするからな」
「はい!」
「チューニング、チューニング……チューニング……って、できるかい!!」
「え?」
忘れていた。この世界にはチューナーなる調律できる機械はない。
これって……どうしたらいいんだ? 一本の弦さえしっかりと決めれたら、そこからはなんとかなるけど……その一弦の音も決められないぞ……
「そのチューニングって必要なんですよね。どうするんですか?」
んー……あ、俺の相対音感でなんとかならないか……?
「まあまあ、相対音感か何かでなんとかするよ」
「ソウタイオンカン?」
あ、これ何も分かってない時のレネーだ
レネーは何も分からない時だけ、本当に何の音階もなく、抑揚もない声を出す。
「兎にも角にも、俺の耳に任せろってことだ」
「分かりました!」
うぐっ……
レネーの子供のような期待が苦しい。
さて……どうするか
「六弦が確か……Eだったかな……ミの音だな」
というか、歌を歌えば……分かるな
冴えていた俺はそのことをひらめいた。
「ちょっと大きな声出すけど、気にしないでくれよな」
「は、はい。分かりました」
そして俺は久しぶりに曲を歌いだした。と言っても、サビの高い部分を出しただけだが間違いなく、音のない世界に、始めて俺の声ではっきりとした音階が鳴り響いた。
この曲の最高音が確かhiE、つまりちょっと高いけどミの音だったんだよな……
声を出しながら、チューニングペグを回した。
お、ここか……
俺の歌声と合わさる音を見つけた俺は、そこからはとんとん拍子でことが進んでいった。
以外と覚えてるもんだなー……
バンドメンバーのギターリストに教えてもらっていてよかったと初めて感じた。
「じゃあ、響かせようか」
「あ、はい……!」
緊張しているレネーの前で、俺は旋律を奏でた。
別にどうだってないただの基本的で明るい響きを持つメジャーコード。
でもそれは確かにこの世界初めての〝音〟となった。
「どうよ」
自慢げにレネーを見ると、レネーは口を開けて涙を流し始めた。
「お前もこの良さが分かるか……!?」
口を押えて頷くレネーに、今度は少し寂しくなるような、でもどこか神秘的な音がなるセブンスのコードを鳴らした。
俺がコードを鳴らすたびに、レネーは涙を流し続けていく。
「いいだろう。音楽って」
「はい……! 故郷を思い出します……!」
「おお、いい感性だ」
気持ちよくなってしまった俺は、そのあともこの世界初めての楽器を鳴らして遊んだ。
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