第3話「とっておきの秘策」
レネーにも手伝ってもらって、まずは店の内装を綺麗に片付けた。
「ふぅー、ご苦労様」
「いえ、これも人類繁栄のためです」
レネーは堅苦しい。もっと溜口で喋ってくれてもよいのだが、それが彼女の性格なのであれば、尊重しよう。
「次は何をなさいますか?」
「そうだな、前の蔵から木も取ってきたし、一旦は設計図を完成させたい」
「設計図ですか」
「俺も設計図なしには作れないし、まだまだ未熟者だからな。言っとくが楽器と言う武器を作るのには数年がかかるかもしれない。そこのところは善処してくれよ」
「数年……」
長く楽器を作って音楽に触れるためにも、俺はペテン師のごとく当たり前のように嘘をついた。
まあばれるのも時間の問題なんだけどね……
「数年で出来上がるものなんですね!」
「え?」
レネーは顔を輝かせて、俺に近づいた。
まさか、な……
「ほかの武器って大体どのくらいで出来るもんなんだ」
「既存の武器ですと、多めに見積もっても一週間といったところですかね」
ん……?
「じゃあなんでそんなに晴れやかな顔するんだ?」
「初めて生まれてくる武器は数十年かかるものもあって、その中にはただ自分が使ってみたいからだとか、なんかかっこいいからだとかで、実用性皆無のようなものもありましたから! その点、勇者様の提示する武器となれば、それはもう、利便性の高い武器なのでしょう! それが数年で完成するとなれば喜んでも仕方ありませんよ!」
しまったー……
「お、おう! でも期待はそこそこにしといてくれよ! なんたって、種類が多いからな、ギターにベース、ドラムに、ピアノ、トランペットとか、色々と種類があるんだ。その一つ一つに時間がかかるかもしれないからな!」
俺が出る杭を刺すと、レネーはそれでも変わらず晴れやかな笑顔を見せた。
これは……武器として使われて、変な音を出しながら無様に死んでいく兵士の姿が目に浮かんでしまうな……何か実用性のあるものを取り付けるべきか……
書いていた設計図の隣に、小さく、鋭利なものの設計図も書き足しておいた。
「それで、勇者様」
「あ、その勇者様ってやめない?」
「では、なんとお呼びすれば……」
勇者様なんて仰々しく呼ばれても、俺はそんな自覚も覚悟も強さも持っていない。ちょっと期待される重みを感じて嫌いだ。
「まあ、適当にカイトって呼んどいてよ」
「あー……それでは、カイト様とお呼びしますね」
いちいち様付けか……まあ仕方あるまい
「それで頼んだ」
「分かりました。カイト様」
んー……納得はいかないけど
「それじゃあ、レネーはのこぎりとかを調達してきてほしい」
「のこぎり……? 武器なのにのこぎりを使うんですか?」
「ああ。木をふんだんに使うし、後で魔物たちから素材も調達するぞ」
「分かりました。用意いたします!」
「頼んだ」
またレネーはすぐに走っていった。
転送魔法とかってないのか?
そんな疑問を感じながら、俺も俺で設計図を書くことに集中した。
「よしっ、完成!」
我ながらにいい出来だ……
まず作るのはギター。
比較的に形状や、必要なものが少なそうだからだ。
一番ネックなのは、弦の部分だろう。
「レネー、このあたりの魔物で、ひげが生えてるやついないか? できれば長いひげがいいな」
「ひげですか……」
レネーは手を顎に置き、目を閉じて考え始めた。
ひげが手に入らないとしたら、髪の毛か? でも伸縮性のあるものの方がいいのか……? ナイロン弦とか、ニッケル弦とか……色々あるけど、この世界で作れるもんじゃないだろうしな……
「ひげと言えば、ドラゴンかウルフですかね」
「ほう……」
ドラゴンかウルフか……
「いいじゃんそれ……行こう。さっさと行こう! どんな音色が鳴るか楽しみだ!」
俺は返してくれた剣を腰に、森の方へと向かって走った。
「あ、カイト様!」
とりあえず森に来たのはいいけど、そもそも、俺が先に行っても場所が分かんないな……
「カイト様、私が案内するのでついてきてください」
「ああ、頼む」
早く音鳴らしてぇー……
体がうずうずしてしまう。
あの、中音域をベースとして、たまに入るハーモニクスの抜けた高音。ビブラートなんかかけて、音ガンガン歪ませてー……あー、考えるだけで手が動いてしまう……!
「いてっ……」
前は見ていたが、妄想に視線を持っていきすぎて止まったレネーに気づかなかった。
「あれがウルフです」
そう言って指さした先を見ると、尖った岩場に点々と座っているウルフの集団がいた。
ひげの長さは……んー、少し短いな……でも、狩っといて損はないな
そう感じた俺は、レネーの横を通り過ぎて、岩場の中腹で包まるウルフに剣を突き刺した。
「カイト様!」
「ん? どったよ」
レネーは慌てて俺の方へと駆けてくる。
その表情は絶望に染まった顔をしていた。
「なんだよー」
そう楽観的に言う俺も、レネーが見ている視線の先を見ると直ぐに納得がいった。
岩場だと思っていたものは、巨大なウルフのしっぽだったようだ。
「デ、デカ……」
その巨体は低く見積もっても、家二つ分くらいの大きさを持っている。
立ち上がった巨大のウルフのせいで、俺のもとへ太陽が届かず、影だけが辺りを埋め尽くした。
「マ、マズイヨネ……」
俺はレネーの後ろへと退散した。
「レ、レネー。あとは頼んだぜ!」
「え? 無理ですよ……?」
「え?」
レネーはもっと絶望を見る目に変わった。
だが、秘策がある。
「レネー、大丈夫だ。俺に任せろ」
「カイト様……!」
ふふふっ……羨望の目が、ちょっとばかし痛いね
「レネー、少し失礼するよ」
「え?」
俺はレネーを抱きかかえて、巨大なウルフから逃げるように走り出した。
「ちょ、ちょっとカイト様!?」
「許せぇ! 俺にはあんなの倒せっこないよ!」
「ですがこれでは市民が!」
「だって、怖いもぉぉぉん!」
俺はひたすらに、がむしゃらに逃げ続けた。
あれから何十分が経過しただろう。
「カイト様……ウルフがもうそこまで」
「分かってるよ……!!」
ああ、まずいまずいまずい……ここで、死ぬしかないのか? いや、市街地まで行けば精鋭隊とかいるんじゃないか?
「街まで走るぞ!」
「それでは……!」
「いいから! とっておきの秘策があるんだ!」
そんなものはないけど、俺がそういうとレネーは黙って了承してくれた。
うおぉぉぉ! 走れ、走れ走れ!
最後の木を抜けて、街の門が見えたとき、俺の目の前に突然大きなものが降ってきた。
「な、なんだ!?」
必然的に立ち止まってしまった。
「カイト様……あ、あれ」
空を見上げて言葉に詰まった様子のレネーを降ろして俺も空を見ると、そこにはドラゴンの群れも来ていた。
そして、落ちてきたのはドラゴンが足で持っている岩のようだった。
しかもあの巨大なウルフも森を出そうになっている。
「カイト様……これじゃあ、市民が死んでしまいます!」
怖くて俺は手が震えていた。
俺は、何も力なんてないし……どうすればいいって言うんだよ……!
街の方でも何か危険を知らせていそうな鐘が鳴り響いた。
「カイト様、剣をふるうしかありません。私も加勢します。ここで市民の安全を守りましょう」
レネーはやはり人を守る人間のようだ。
恐怖に顔を支配されるだけでなく、その奥に情熱と護衛の文字を深く刻み込んでいる。
レネーに抜かれて、俺は右手に剣を持った。
お、俺がやるのか……こんな獰猛なやつらを?
降り注いでくる岩を、レネーが魔法で撃ち落とす。
「カイト様! 私が岩を防ぎます。早く秘訣を!」
――そんなものないんだ!
なんて言葉を吐いてしまえば楽になれるだろうか。
楽にはなれても、俺は生き場を見失ってしまう。
――それは、嫌だ……!
俺は木を伐るときのように、剣を構えた。
「ん……?」
その時、剣はあの時のような赤色ではなくて、緑色を発していた。
「良く分からないけど、とにかく。これでも食らっとけぇ!!」
仕組みは分からない。でも、前に目の前が一面焼け野原に出来た破壊力を持っていた。だから今回もそうなってくれるはずだ。
空を真っ二つに切るように、大きく剣を空で降ると、その刹那、骨に響く重低音が鳴り響いた。
お、おお、おおお!!
俺は何が起こったかよりも、その音圧にしびれた。
「す、すげぇ!!」
「カイト様……あれ」
音に押しつぶされそうになるほどの高揚感に染まっている俺に、レネーの驚く顔が現実を見せた。
空に飛んでいたドラゴンも、少し離れた距離にいた巨大なウルフも、全て地面へ倒れこんでいた。
「あれ……?」
そして何より気になったのが、さっきまでただの砂地だった周りの様子が、下草が生えた芝生と化していたことだった。
これって”音が変えた”ってこと……?
※この作品は他サイトでも掲載しています。




