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音楽のない異世界で、俺は音を創る勇者になった  作者: 為世 斐文


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第2話「音楽は最強の武器だ!」

 一週間後、俺は宣言通り楽器店の本舗となる場所を手に入れた。と言っても、森で特訓をしていた時に見かけたおばあさんを助けたら、もう使わない蔵があると譲り受けただけの質素な場所だが、好きに使っていいと言われたので、ここを拠点にしようと思っている。

 今日から、夢の音楽ライフだ……!

「念願叶ったり!」

 拳を上に突き上げると、バキッと大きな音を立てて柱であろう木が折れた。

 っすー……いったん、蔵の補強と掃除からか

 裾を上げて、俺は一度蔵の中にあった荷物を整理した。

「ま、こんなもんだろ……」

 足場にしていた木箱を最後に片付けようと上の方を持つと、木箱が開いた。

 お、おお……!

 そこの中には沢山積まれた金の硬貨らしきものが入っていた。

 でも何円の価値があるのか全く分からないな……やっぱり早く相方を探さないとな……

 そんなこんなで、ある程度綺麗になった蔵を後に、修築するための木材を取りに行くことにした。

 勿論、お金は懐へ預けている。せっかくの初任給だ。大事に保管しておかねばなるまい。

 さてと、木を伐りますか!

 きっと大切だろう勇者の剣を抜き、目の前にそびえ立つ木の根本を見つめる。

 硬そうだな……でも、

「なんとかなるだろ!」

 楽観的に目の前の木に切り込みを入れようと剣を横に振るうと、爆風と共に、焼かれた土の匂いが鼻の奥にツンと刺激してきた。

 煙が晴れると、目の前に映る一面が焼け野原に変わっていた。

「うぇ……?」

 何が起こったのか全く理解ができない。

 え、な、なに……ま、魔物?

「だ、だれだぁー……」

 怯えながら出した声は、蚊の鳴く音のように小さく、高く、情けない声だった。

 辺りは静まり返り、次第に鳥の鳴き声が遠くから聞こえるようになった。

 な、なんなんだよぉ! 怖いの嫌いなんだよ……!

 怖がりながら剣をしっかりと握ろうと、視線を剣に向けたとき、その剣が赤く光っていた。

 っすー、これってつまり……そういうこと?

 どうやら、俺は無意識にスキルか何かを使ってしまったようだ。

 んー……まあ、それならいいか!

 また楽観的に鼻歌を歌いながらあたり一面に転がった木を拾い集めて、二本ずつ肩に預けて帰って、また戻ってきては回収の繰り返しで今日は終わっていった。

「あー……疲れた……」

 どうやらこの世界でもしっかりと朝昼夜の概念はあるようで、あたりはもうすっかりと暗くなってしまった。

 修築は明日やるか……

 腹は空いても動く気力も生まれず、固く冷たい地面の上で俺は眠りについた。


 ん……

 目覚めると、俺の体に何か温かいものが被さっていた。

 なんだこれ……

 寝起きで全く働かない頭で周りを見渡すと、昨日に増してぼろくなっている蔵に、何かいい匂いのする物が置かれていた。

 ぱっと見は肉に見えるけど……ってか、誰だ?

 明らかに人為的に物の配置が変わっているし、この料理も俺は作っていない。

 すぐに剣を抜こうと腰を確認すると、そこには剣がなかった。

 ん……?

 自分の記憶が確かであれば、昨日は腰に剣を刺したまま寝たはずだ。

 えー……これってまずいか

 事の重大さに気づいて、急いで起き上がると蔵の扉が開いた。

「うわ、眩しい……!」

 蔵の中には窓も何もなくて、木々の隙間から光が差し込むくらいだった。だから扉が開いた瞬間、この蔵の中に車のハイビームを放たれたように目が痛くなるほど眩しくなった。

「あ、勇者様起きられましたね」

 その声に俺は聞き覚えがあった。

 この棒読みがベースだけど、どこか音楽センスの感じる声。

「レネー……か」

「おはようございます。探しましたよ」

「来ると思ってたぜ!」

 寝起きのイケメンスマイルで親指を突き立てると、レネーは呆れた顔を浮かべた。

「ラファさんから聞きましたよ。ここを預かったって。でもラファさんが言うにはここはおんぼろだそうです。それで手に余っていたそうで、ラファさんが受け取ってくれたことを感謝したいと、金貨を少し分けてくれたんです」

 レネーは子袋を突き出した。

 あー……

「誰だ、そのラファさんって」

「はい?」

 何の脈略もなしに唐突に名前を出されても、誰もわかるはずがない。

「昨日、勇者様が助けたおばあさんですよ」

「あ、あーね」

 あの人ラファっていう名前の人なんだな。でもなんか、独特な名前の人が多いな……

 そんなことを考えているうちに、レネーが俺を蔵の外に引きずり出した。

「まさかですが、ここでガッキ屋を営むつもりではないですよね」

「ああ、もちろん営むよ!」

「だめです」

「嫌なものは嫌だね」

「それなら剣は没収したままです」

 そう言ってレネーは俺の剣を取り出した。

「あ、それ! 俺さっき探してたんだぞ!」

「なら、勇者様は勇者らしく、もっと”人助け”をしましょう」

 人助け……

「それなら、音楽で人助けするってのはどうだ」

「だから、そのオンガクって言うのも、一体何なんですか? 新しい武器なんですか?」

 武器か……

「音楽ってのはな、個人個人が持つ、そうレネーが言ったような武器だ!」

 俺がそう断言すると、俺の服を持つレネーの手が緩んだ。

「みんなが使える新しい武器を作るということなんですね」

「あ、ああ!」

 嘘はついてない……だって、音楽ってそういうもんじゃんかさ……俺、悪くないよね

「それなら話は別です。この蔵はその武器を作るための素材保管庫としましょう。そのガッキという武器づくりは、また別のちゃんとした場所で作りましょう」

 おお!

「ただし、勇者様のお手を煩わせるわけにはいきません。勇者様が最初に設計図を書いてくれさえすれば、武器職人を雇い、それ」

「待て」

 どんどん話が俺に不利益なものに変わっていくため、俺はレネーの言葉を制止した。

「楽器というのはな……その職人が作らなければ、武器として使えないんだ」

「な……」

「その職人気質を持っているのが”俺”だ」

 キリっと、そう発言する俺にレネーはかしこまった顔を浮かべた。

「そのようでしたら、仕方ありません。人類の繁栄のためです。勇者様に一任させていただきます。しかし、この(わたくし)めもお供させていただきます」

「ああ、頼んだ」

 素材運び役と、音楽の新しい方向性の道筋としてな……

 その言葉は言わずに、なんとかレネーを誤魔化せた。

「まずは何をしましょうか」

「さっきレネーが言った、新しい場所と言うのはすぐに用意できるのか?」

「はい。一日二日とあれば」

「よし、頼んだ」

「かしこまりました」

 レネーはすぐさま、走っていった。

「……ふふふっ、よっしゃぁー!!」

 俺は勝ちを確信して、拳を突き上げた。

 昨日の木は全て、ギターとかドラムとか、色々な物に充てる材料として使うとしよう

 ひとまず、レネーが作ってくれたのであろう食事を取り、設計図を書くことに専念した。

 この蔵に紙と、書けそうなペンは事前に見つけている。

 そうだな……別に俺も楽器に詳しいわけじゃないんだよな……

 俺は転移してくる前はあまり活動はしていなかったがバンドマンとして活動していた。

 だけど、前の世界ではギターも、ベースも、ピアノも、ドラムも、ありとあらゆるものは全て作られたものだった。俺が作っていたわけではない。

 つまりは、完全に作ることには初心者の状態から入るわけだ。

 しかも、俺はどちらかというとボーカルメインでやっていたから、楽器の知識も深いわけじゃない。

 色んなジャンルを少し触れたくらいで、一番知識があるとしたらドラムくらいだ。

 いざ楽器を作ろうと思っても、なかなか難しそうだな……

 絶対音感は持っていないから、相対音感のなんとなくで音階を決めなければならないし、この世界でも音楽がやりたいと心は燃えているが、基盤となるものが少なすぎる。

「まあ、なんとかなるか」

 とりあえず、それっぽい設計図を何枚か書いて、レネーの帰りを待った。


 翌日、レネーが蔵にやってきた。

「勇者様! いい物件が見つかりました。早速行きましょう!」

「ああ」

 オナカスイタ……

 昨日、朝ごはんとしてレネーの作ってくれた料理を食べてからは何も食べていない。倒れはしないけど、倒れそうだ。

「レネー、食事が取りたいな」

「まさか……何も食べてないんですか」

「ソノトオリダヨ?」

「なんで食べなかったんですか」

「ナニモシラナイカラダヨ」

 なんで分かる前提なんだよ

「それはすみませんでした」

 レネーと共に食事を取ってから、拠点に向かった。


「ここです」

「おお、おお……!」

 そこは時計店などが似合いそうな、老舗のような佇まいをした建物だった。

「いいじゃん!」

「それならよかったです」

「よし、じゃあここから俺の楽器を世に販売するぞー!」

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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