表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音のない異世界で、俺は音を創る勇者になった  作者: 為世 斐文


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/19

第18話「隣に来る」

 どうしてこうなった……

 ドレミールさんが帰ってからというものの、フィレア様がずっと隣に座ってくる。

「あのー……危ないですよ?」

「うむ」

 まあ、楽器の作りかたを見たい気持ちは分かる。だけど、少し体を動かせば、触れてしまえるほどの距離にいるのはいかがなものか。

 俺の肩の上から顔を覗かせて、目を輝かせながら俺の顔をチラチラと見てくる。

「フィレア様? 危ないので」

「うむ」

 返答がさっきから「うむ」しかないし、少しの間は遠ざかってもすぐに元の距離に戻ってくる。

 んー……

「金属の破片が飛んでいくかもしれません」

「うむ」

 意地でも離れる気はないみたいだ。

 まあいいや……

 あまり気にせずに、俺はシンバル系を作ることに決めた。

 鉄板なら少し貰っているから、それを少しずつ曲げて、出来るだけ響く音にしたい。

 真ん中が空いている四角を作って、そのくぼみにめがけてトンカチを打ち付ける。

「何を作っておるんじゃ?」

「これはシンバルですね」

「シンバル……とな」

「はい」

「色んな種類があるのじゃな」

「無限大にありますからね」

「なんと」

 そこまで言ってフィレア様は俺の肩に体を預けて来た。

「フィレア様? 危ないので」

「うむ」

 うむ、じゃないんだよ

 しっかりと言葉を聞いてくれてはいるはずだが、今回は俺から離れてくれない。

「フィレア様、作りづらいので」

「そうか」

 そう言うとやっと離れてくれた。

 いや、ほんとなに? どういうこと?

「帰りましたー」

 レネーの声が聞こえると、フィレア様は対面に移動した。

 ん……?

 考えても答えが見つかりそうになかったため、俺は気にせずシンバル作りを再開させた。


 あとちょっと……

「カイト様、フワツジと出かけてきますね」

「ああ、行ってらっしゃい」

 羽をばたつかせるフワツジを抱きかかえて、レネーはまた外に出ていった。

 また動きがあるだろうとフィレア様を見ると、やはりまた俺の隣に移動してきた。

 うん、待って本当にどういうこと?

 レネーがいなかったら俺の隣に来る。それはつまり、レネーには見られたくないということなんだろう。

 でも問題はそこじゃない。なぜ俺の隣に来るかだ。

「フィレア様、つかぬことをお聞きしても?」

「構わんぞ」

「なんでレネーがいない時は俺の横に来るんですか?」

 フィレア様は目を逸らした。

 んー……

「お答えしかねることなんですか?」

「そうじゃな……」

 一旦、保留ってか

 何も喋らないフィレア様を問いただすのも悪いと思って、また手を動かすとフィレア様はまた俺に近づいてきた。

 落ち着ける場所が今はここみたいな……? 俺をお父さんみたいに見てるみたいな……? でも、年齢はさほど変わらないし、お父さんと言われるほどに老いてはいない……

 気にしないようにしても、やはり気になってしまうのが逃れられない性というものだ。

 色々な考えを回しながら、作業工程として鉄板を回して、叩いて、ある程度の作業を終わらせた。

「完成……」

 綺麗にシャープを描いているわけでもなければ、厚さも均等でもない。

 だけど、平らで四角い鉄板からは程遠い、シンバルに近しいものにはなった。

「これがシンバルというものなのか?」

「そうですよ。ちょっと試せてないからあれですけど」

 そこらへんにあった木の棒でシンバルの軸を固定させて、弱めに叩いてみた。

 すると、高い音域のエコーがかかった空気に広がっていく音が鳴り響いた。

 おお……いい感じ

「これも魔物を倒せるのか」

「これは、どうですかね……またちょっと変わったものにもなりますから、もしかしたら聞かないかもしれません」

「そうか……でも、オトとしては悪くないな」

 おお

「フィレア様、音楽というものが分かってきましたね」

「うむ」

 それっぽくバスドラムとシンバルでビートを刻むと案外、様になっていた。

「おお……勝手に体が動くぞ……」

 フィレア様はレネーと同じく、体を縦に揺らしてリズムを感じていた。

「音楽と言うのは、リズムありきなんですよー」

「リズム……」

「はい。リズムは音楽を変え、音楽を支え、音楽の方向性を決める重要なものなんです」

「おお……とても大切なものなんじゃな」

「そういうことです」

 まだスネアはないため、スネアを入れたい所で少し強めに床を叩いて代用してみた。

「おお、いいぞ。いいぞ、カイト殿!」

 フィレア様は口角を上げて、さっきよりもさらに体でリズムを感じている。

 きた、俺が求めていたものに近づいてきている……!

 俺も高揚感が収まらず、色んなリズムで遊びまくった。


 最後に強めにシンバルを鳴らしたとき、拠点の扉が開いた。

「帰りました」

 そこには目を輝かせたレネーが立っていた。

 あ、終わろうと思ったけど、終われないな

 また少しずつ力を込めてシンバルを叩くと、フワツジが俺の頭の上めがけて飛んできた。

「おお、どうした」

 そうして俺の鳴らすリズムにフワツジはメロディーを付けて、曲と言うものの原型を作り出した。

「おお……」

 レネーもフィレア様も、顔を輝かせながら音に酔いしれている。

 俺もこの楽しさから逃れられるわけもなく、少し変なリズムを入れてみたり、変拍子にしてみたり、フワツジに挑戦状を叩きつけるようにリズムを鳴らし続けた。


 結局辺りが薄暗くなるまで、俺とフワツジの演奏は続いてしまった。

「すごいです!!」

「うむ! とてもよかったぞ!」

 喜ぶ二人の顔が、俺の幸福度をさらに押し上げた。

「これが、音楽というものだ。魔物を倒すためじゃなく、音楽は人を救うんだよ!」

 そういうと二人とも頷いて肯定してくれたようだ。

 ただし、

「フィレア様、今日はずっとここに居ましたけど、大丈夫なんです?」

「ああ、構わん。たまのたまには休暇を取ってもよいだろう」

 あー……案外、そこらへんは軽く考えてるんだな

「今日はもう、ここで寝ることにするぞ」

「え……」

「ん? 何か問題があったか?」

 いや、問題ありまくりだろ……

「まず、布団が……ないですね」

「あー……」

「それと、レネーは帰るので俺と二人きりになってしまうんですよね……王様ですから、そこらへんはまずいかと……」

「それは問題ないぞ」

 フィレア様はきっぱりと言い放った。

「でも布団は……」

 ああよかった……そっちは気になってくれるのね

「私は構わんが、カイト殿は」

「いや、気にしてくださいよ」

 そういってもフィレア様は首を傾げるだけで、全く気にしていないように見える。

「私はそろそろ帰らないといけないので、お先に失礼します」

 レネーはそそくさと荷物をまとめて拠点を出ていった。

 するとやはりフィレア様は俺に少し近づいてきた。

「カイト殿は……私と一緒じゃ嫌か?」

 んー、ん? それって告白?

「嫌ではないですけど、ないですけど……」

「どうしても嫌なら、床で寝よう。泊まらせてもらっているわけだからな」

 流石にだめだ……

「いや、ベッドで寝てください。俺が床で寝ますから」

「それなら一緒に寝ようぞ?」

 うーん……

 もう、どうあがいたってフィレア様をベッドに寝かす方法は俺が一緒に寝ることしかないように思える。

「分かりました……」

 覚悟を決めて頷く俺に、フィレア様は微笑みながら頷いた。


「おやすみなさい」

「おやすみ、なさい……」

 寝るまでは昼までとなんら変わらず、時間だけが過ぎていき、フィレア様と一緒に寝ることになってしまった。

 いや……流石に好意があるわけではないと……

 チラッとフィレア様の方を向くと、フィレア様は俺をガン見していた。

「少し狭かったな……」

「そうですね……」

「少しそっちに寄ってもいいか? 落ちそうで」

「……はい」

 フィレア様の腕が俺の腕に当たる。髪の毛が首元に触れて、足先が俺のすねに触れて、息が肩をかすめる。

 近すぎる……

 バンド仲間の顔を思い浮かべて、場をしのごうと思ったが、顔が霞んでしか見えなくなってきていた。

 順応しすぎだ……ばかやろう!

 顔に力を入れていると、フィレア様が俺の手に触れてきた。

 ばかっ……

 フィレア様を見ると、そこには安心しきって寝ているフィレア様がいた。

 うーん……

 悩んでいた俺がバカみたいだ。

 この国の王であられるフィレア様が、こんな俺を好きなわけがないからな。よし、俺も寝よう……寝よう……うん

 目を瞑ると、フィレア様はまた俺に近づいてきては腕を抱き枕にされてしまった。

 無理だろ……!

 結局、俺は目を閉じても眠ることは出来ず、心を放棄した。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ