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音のない異世界で、俺は音を創る勇者になった  作者: 為世 斐文


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第17話「虜」

 食事を取り終えたが、今回はフィレア様もここに少しの間残るようだ。

「楽器を作るので、演奏とかできませんよ?」

「よいぞ」

 まあ、いいならいいけど……

 俺を眺めてくるフィレア様に疑問を抱きつつも、俺はレネーが叩いて遊んだままにほったらかされたバスドラムを手に取った。

 とりあえず……ペダルを作ったほうがいいよな。でも、バネとか小さい金属パーツのようなものは作ることが出来ないしな……

 異世界というのは非常に困る。いや、元の世界の楽さを改めて実感したとも言えるだろう。

 細密なパーツを作るってすごい技術だったんだな……

 当たり前と思っていたものが失われたとき、人は初めてそれに気づくとよく言うが、本当に全く持ってその通りだ。

 踏んで前に動くもの……またはその仕組みを作らないといけない……

「何か悩んでおるのか?」

 設計図の前で微動だにしない俺を不思議がったのか、フィレア様が隣に座った。

「あー……この楽器のですね。大事なパーツを作りたいんですけど、部品が足りなくて」

「私が用意しよう」

「あー……」

 しまった……やらかしたな

 この世界から見た異世界である世界のパーツなんて言われても、伝わらないどころか転生者、つまり勇者だと疑われかねない。

 音楽は概念であり文化であるから、この国にまだ伝わっていないものだという説明をすれば納得はさせることが出来るだろう。

 だけど、もしここで「小さいバネと、ネジと」なんて言ってしまえば取り寄せるという話になって、そんなものは存在しないでチェックメイト。

 俺は転生者だと騒がれて魔王討伐の命令を出されてしまいかねない。

「カイト殿?」

 何も答えない俺の頬に手を置いて、顔を覗き込んできた。

 近いよ……

「なんでもないです」

「ん……?」

「あー……あの、釘、釘が足らないです」

「釘か。それくらいならすぐに支給しよう。そろそろカイト殿の武器を作るために使う財産も生み出そうと検討しているところなんじゃ」

 おいおい、目立たすなよ

 そうは言ってもありがたいのも事実だ。

「俺がどんどん怠けちゃいますよ?」

「私はそれで構わんよ」

 いや……

「だめでしょう」

「構わん。私は」

 顔を近づけてくるフィレア様の肩を持って、俺は距離を取った。

「とにかく、なんでもいいので釘の用意をお願いします」

「ああ」

 なんでこんなに距離感が近いんだよこの人は……

 実によく分からない人だ。

 本当にこの国の王様なのか……?

 拠点を去っていくフィレア様の背中を視線で追いかけながら、とりあえず別の工程に移ることにした。

 シンバルとか、ハイハット、スネアは比較的簡単に作れるかもしれないな……

 シンバルもハイハットも、どちらも行ってしまえば滑らかな円錐状の金属板があれば完成出来る。

 なんなら円錐でなくとも、まっすぐでもそれなりに機能してくれるものだ。そして実際、ドラマーの中では自分で板版の形をハンマーなどで変える人もいる。これなら俺にも出来るだろう。

 あとはスネアだな……中に螺旋状の細長い金属の糸が二十本くらい必要なんだけど……これもまた、ほぼバネみたいなものなんだよな……

 こんな時に役に立つのがレネーだが、なぜか今回だけどこかに行ってしまった。

 どうしたもんか……

 途方に暮れてギターを弾いていると、拠点のドアが開く音が聞こえた。

 ん……

 ギターを持って様子を見に行くと、そこには知らない人が立っていた。

 あー……

「えっと、どうされました?」

「変なものが聞こえてきましたもので、様子を伺いにやってきたんです」

 ああ、みんなにも聞こえる音で鳴らしちゃってたか……

「それは、迷惑をかけてしまって」

「ああ、いえいえ。よければ是非聞いてみたい。わたくし、興味が注がれると、止まれなくなってしまう所存。一度聞いた謎のものを聞きたくてうずうずが止まらないんですよ」

 ああ……変態か

 体をくねくねとさせ、顔を赤らめて、まるで子供を誘拐するくせに自分が変質者ではないと思っているサイコパスのサラリーマンのような人だ。

 髪型もどことなくきっちりと整えているように見える。

 どこの世界でも真面目なやつはこういうとこがあるんだな……

 異質な者を見る目をしながらギターを鳴らすと、男性は顔を顰めた。

「はて、それもそれで気になりますが……わたくしが聞いたのはもっと大きい音でした」

 大きい……まさかな

 俺はバスドラムを持ってきて叩いてみた。

「おお、まさしくこれです! これはなんというものなんでしょうか?」

 久しぶりに聞く棒読みに吐き気がしながら、俺は音楽というものを熱心に語った。

「素晴らしい! それはオトと呼ばれるものなんですね。また一つ賢くなれました。いいですね~。いや、実に素晴らしい。わたくしもやってみても?」

「ああ、いいですよ」

 男性に木の棒を渡すと、見よう見まねで叩き始めた。

 レネーのやつ、朝早いからって絶対叩いたな……

 早朝にバスドラムを叩くレネーの姿が頭に浮かぶ。笑顔だから責めがたい。

「これはどこに売ってらっしゃるのでしょうか」

 お、

「こちらはまだ非売品です」

「まだ……?」

「はい。俺が作ってる楽器で、この世界には一つしかありません」

「なんと!」

 この男性はお客さん兼、演奏者になってくれるかもしれない。

「それでは、ここに来て叩かせてもらうと言うのは」

 あー……フィレア様がここに来てるってばれたらな……

 そう考えているとちょうどよくフィレア様が帰ってきてしまった。

 しまった……

「ん、ドレミール。ここで何をしている?」

 え?

 帰ってきてそうそう、この変態な男性にフィレア様は話しかけた。

「あ、フィレア様」

「門の見張りに伝言を頼んだはずだが、終わったのか?」

「すみません……興味がそそられてしまいましてー」

「そうか、音に触れたのか」

「はいぃ!」

 あー……なんか、別に大丈夫そうだな

「その、えっとドレミール?さん

「はい!」

「演奏しにきてもいいですよ。時間があれば教えましょうか」

「そ、そんな、いいんですかぁ!?」

 こりゃ、骨が折れそうだ……

 目を輝かせるドレミールさんに呆れた表情を浮かべていると、フィレア様はくすっと笑って下半身が全て隠れるほどの袋を俺に渡してきた。

 いや、おっも……

 持つのがやっとな重さだ。

 え……フィレア様、持ってきたんだよな……怪力すぎるだろ

「ま、また来ますね!」

「あ、はい」

 ドレミールさんはまた体をくねくねとさせながら拠点を後にした。

「カイト殿、私にもギター教えてくれぬか」

「いいですよ」

 そういうとフィレア様は微笑んだ。

 運べねぇ……

 情けなく袋を置くと、フィレア様は袋を片手でひょいと持ち上げた。

「釘が刺さったのか? 私が持っていこう」

 情けねー……

 明日から筋トレでもしようと心に誓った。

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