第16話「レネーの過去と今」
遅れてすみません!
お風呂を出た俺は、まだレネーが十五才ということに納得がいっていなかった。
つまり、十五才という若さをしておきながらお国のために魔法を使って戦っていたと……? そして、あの頭脳を持っていると……? ただの秀才と、早くに大人になりすぎな子供じゃねぇか……
今までの子供のような笑みに意味づけされたことに、納得しながらも同時に俺の今の立ち位置が意味わからなくなってくる。
保護者とか……いるんじゃねぇの? というか、あいつ食事作ってたよな……
どんどんレネーという少女に謎が増えていく。
そんなレネーは笑顔でバスドラムを叩いて遊んでいた。
おもちゃで遊ぶ子供のように、「ふんっ、ふんっ」なんて叩くタイミングに小さく言いながらリズムを奏でている。
まあ実際に子供の訳だが、俺はこれからどう接して言ったらいいだろうか。
「レネー」
「あ、お帰りなさい」
んー……
「なあ、タメ口というか……普通に喋って敬語なのか?」
「はい。これが素の私ですよ」
んんー……ますます生まれが分からなくなってくるな
「お前、いつからその、フィレア様に仕えてるんだ?」
「えっと……正しく言えば生まれた瞬間からですが、本格的に仕えるようになったのは、十歳のころですね」
はや……
「その年にはもう魔物退治とかしてたわけ?」
「はい。正しくは七歳の頃からですね」
えぐ……
俺はもう言葉が出てこなかった。
異世界ってそんなもんなのか……
もはや恐怖さえ生まれてくる。
「それは、みんなそうなのか? お前だけ特別とかってことは……」
「あー……そうですね。私は親が魔物で殺されていますので、赤ん坊の時からフィレア様によく見てもらってました。なので、何というか……お姉ちゃんみたいな存在なんです」
あー……
「それは……思い出させて悪かったな」
「いえ、気にしてませんよ」
レネーは本当に気にしていないのか、すんっと真顔でそう言いのけた。
「親が死んだと言っても、実質フィレア様のメイドさんたちが私のお母さんみたいなものでしたから。もはや、沢山のお母さんたちに恵まれていたんです」
そう言って笑った。
強いなレネー……
「そうだな」
俺がそんなに気負いする必要性もないみたいだ。
「今度は何を作りますか?」
「大蛇の解体終わったの?」
「まだですよ」
「手伝うよ」
そういうとレネーは口を開けて、何も言わずに笑顔で首を傾けた。
「運ぶのをな」
「え……」
「だまされたなレネー」
「氷水かけますよ」
「嘘です。冗談です」
まあ、あまり変えない方がよさそうだな
今日はもうそのまま大蛇の片づけ作業で終わっていった。
ゲロは吐いていないけど、気分がやられて何回か休ませてもらったけど、レネーはやってくれたことに成長でも感じたのだろう。何も言わずに一緒に休憩を取っていた。
これじゃ、どっちが子供なのかって話だ。
次の日の朝、俺はまたレネーの作る料理の匂いで起き上がった。
そこにはまたフィレア様がいた。
「おはようカイト殿」
「おはようございます……今日は、どういった用件で?」
そう聞くとフィレア様は首を傾げた。
「ようがないと、私は来てはいけぬか?」
おう、しまった……
「いや、そんなことないですよ。全然来てくださって構いません」
「ああ。王宮じゃ、みんな堅苦しくてな。ここの雰囲気の方が落ち着くんじゃ」
あー……まあこの口調だしな
なんとなく、想像がついた俺は笑いながら椅子に座った。
「レネー、お前まじで朝早いよな」
「カイト様が遅いだけです」
「いやいや、フィレア様もそう思いますよね」
「そうじゃな。確かに、レネーはいつも朝一番に起きては私を起こしに来ていたな」
「みんなが遅いんですよ」
誰が想像つくだろうか。こんな異色なメンツは。
勇者を隠して音楽に命を吹き込む転生者の俺。それに付き添う十五才の何でもできる少女。そして、俺の素性を知りもしないこの国の王様。
なんでこんな変なメンツで食卓をかこっているのか、意味が分からない。
「いただきます」
「あ、今日は私の番でしたよね」
「あー……でも、いただきますに当番もくそもないんだぞ」
いただきますという言葉を教えてからというものの、レネーは食事を取るときにいただきますを一番最初に言いたいみたいで、謎の一番最初にいただきますをいう係りを当番制にしたのだ。
「それでも、一番最初のいただきますは王様なんです」
「等しく感謝を述べることこそ、真のいただきます王だよ」
「そんな……」
レネーは衝撃に打たれたかのように目を点にした。
「まあ、でもいただきますにも一つ当番を付けられることがあるぞ」
「なんですか?」
「手を合わせる合図を出す当番だ」
「あ、いただきますの時は手を合わせるから、それの合図の当番ですか?」
「そうそう」
「それやりたいです」
おう……日本人はそれを嫌がるんだけどな本来
心でレネーに笑みを浮かべていると、フィレア様だけ呆気に取られてさっきのレネーより目を点にして、もはや真顔で怖い顔をしていた。
「あー……俺が元々いた国では、食事を取るときに」
「命をいただきますって意味で、まず手を合わせていただきますというんです!」
俺の話にレネーが上乗せしてフィレア様に教えた。
本当にいただきますの職人になりかねないな
フィレア様もそれに感化されたのか、だいぶ落ち着いた声で目を瞑って、神にお祈りを捧げるシスターのように優しく料理に「いただきます」と喋った。
おう……全人類が見習うべき手本を見たな
「フィレア様お上手です!」
「そうか?」
これで笑えるんだから、幸せな空間だよな。でも……やっぱり、フィレア様も段々と抑揚がついてきたな……
俺と関わっているからだろうか。フィレア様もレネー同様に話す言葉に俺のような抑揚と、音階がついてきている。
そして、それを自然に他の言葉にも併用して、それが上手いことはまっている。
やっぱり、この世界にはもともと音があったんじゃないのか……?
疑問点を頭で思い浮かべ、色んなパターンを描いているとフィレア様が俺の手を取った。
ん?
何をするのかと待っていると、俺の両手を合わせて、その上からフィレア様も手を重ねて、笑みを浮かべた。
「な、なんですか?」
「一緒に言わぬか」
あー……そんなことしないけど、まあ
「いいですよ」
そう答えると、元の笑みを超える微笑みを見せて来た。
んー……
レネーもフィレア様も、二次元みたいな可愛さをしているからあまり直視できない。
俺も負けじとイケメンスマイルを返そうとしたが、その片鱗を受け取ったのか、レネーが真顔で俺を見つめていた。
分かったよ……
俺はイケメンスマイルは出さずに、普通の顔でフィレア様と料理に「いただきます」と言った。
これに一体なんの意味があって、これは何の時間なんだろうか。
うーん……
「料理、冷めてしまいますよ」
「そうじゃな」
フィレア様はまた微笑んでは俺の手をゆっくり、なぞるように離した。
うーん……まあいいや
前からちょっとフィレア様の何気ない行動が気になるが、あまり気にせずにいつも通り美味しいレネーの食事に手を付けた。
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