表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音のない異世界で、俺は音を創る勇者になった  作者: 為世 斐文


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/19

第15話「15」

 第十五話「十五」



「ふー……」

 何とか丸太をくり抜けた俺はレネーの機嫌を見に行くことにした。

「レネー」

 レネーは無言で、淡々と大蛇の肉を細切れにしていた。

 うっ……

 生々しすぎて見るも無残で、俺は吐き気を我慢しながらレネーに近づいた。

「レネー」

 口を押えながら向かうと、レネーは目だけこちらに向けた。

 怒っている。初見の人でもそれが分かるほどの静けさをしている。

「ごめん」

 謝ってもレネーは手を一瞬止めるだけで、何も喋ってくれない。

「俺、何をしたか分かんないんだけどさ……怒ってるんでしょ?」

 そういうと俺の近くにあった肉塊に剣を突き刺した。

 ひっ……

 剣が刺さった大蛇の肉が動いた。

 神経でも刺激したのだろうか。

 おえ……

 吐き気が出てきて、目を伏せるとレネーは手を止めた。

「私も嫌なんです……こういうのは解体班がいて、私の役目ではないんです……ジョブ魔術師ですよ? 剣にも慣れてないんですよ? 私にやらせるのは違うと思うんですけど」

 血だらけで、変に脂っこくなったレネーの手が俺の目の前に広がる。

 ねちょっとしていて、きもちわるい糸を引いて、ちっちゃい肉塊が無数についている。

「いや……それはごめんだけど……」

「フィレア様も言ってました。レネーのやる仕事じゃないのに、なんでやりにきてるのかって」

 あー……

「今度からはもう少しお金持ってくるから、解体作業はちゃんとそういうジョブの人にやってもらうのがいいんじゃないですか?」

 じゃあもっと早く教えてくれよ……

 そんな言葉を飲み込んで、俺はただ謝っておいた。

 ここで正論を言ったとしても、レネーとの相棒関係が終わってしまうのはまずい。

 まだまだこの世界のガイド役、そして側近のお手伝いさんとしていてほしい。それが男性にでもなったら、俺のやる気もなくなるだろうし、レネーレベルの美女なのは案外、俺にとってありがたいことだ。

「今度からはちゃんと業者に頼もう。というか、これも残りの作業は頼もう」

「……いや、私がやります」

「え? でも、苦手なんなら、もう今から」

「今回だけはだめです」

 断固として断るレネーに疑問符を浮かべるが、レネーはその理由を話してはくれなさそうだ。

 まあいいか……

「分かった。あとでバスドラムの音聞きに来いよ。もう完成するから」

「分かりました」

 頷いてまた剣を握ったレネーに不信感を抱きながら、俺はあまり気にしないようにバスドラムで何を鳴らそうかを考え始めた。


 よし、ここに釘を打って……

「ふんっ……!」

 最後の釘を打って、ドラムは完成した。

 ねじはこの世界にないみたいだしな……まあチューニングは代替品を見つけてからになるか……

 ドラムのチューニングはねじさえあればあとは簡単に作れる。ただ、ねじを締めるか緩めるかで変わるだけの仕組みだからだ。

 今はどんな音かなー

 ハンマーの持つ部分で叩いてみると、なかなかにいい音が鳴った。

 重低音をゼロコンマ大音量で流したかのような、張り具合も案外いい感じの音だ。

 その音を聞いてか、レネーがこちらにやってきた。

「お、完成したぞ」

「それが“バフドルム”というやつなんですか?」

 惜しい……

 レネーの不意な言い間違いに吹き出してしまった。

 レネーはきょとんと首を傾げた。その手には短剣を持って。

 怖いわ……

「レネー、バスドラムな」

「あ……」

 レネーは自分が言い間違っていたと気づいて顔を赤くした。

「まあ、知らないしな」

「カイト様、やっぱり嫌いです」

「わるい、わるい」

 レネーは頬を膨らませながら、短剣を置いてこちらにやってきた。

「それで……もう一回鳴らしてください」

 音にはいちいち素直なんだよな

「おう」

 再度バスドラムをリズム良く叩くと、レネーは自然と体を上下に動かした。

「お、縦ノリか」

「タテノリ?」

 また出たレネーの棒読みにまた俺は鼻で笑いを漏らしてしまった。

「あ……」

「いや、しょうがないだろ」

「んー……」

 レネーは怒りを持った力で、バスドラムを俺の見よう見まねで鳴らした。

 音が鳴った瞬間だけ、レネーは顔を明るくして、一瞬で元のむすっとした顔に戻る様を見て、俺はまた何度も鼻で笑いを漏らしてしまった。

「もう……!」

 レネーは怒って杖をポケットから取り出した。

「レネー?」

 これ、まずいんじゃ?

 レネーが何か小さく呟いたと思ったら、頭上からバケツ半分ほどの水が降ってきた。

「おい……」

「これで許します」

 俺のイケメンヘアーが……

 イケメンがよくやる、手で髪を後ろにかき分けて、レネーにイケメンスマイルで含み笑うとレネーは真顔で半歩後ろに下がった。

「おい、引くな。水よりも辛いから」

「キモイのでやめてください」

 出たよ上等文句

「分かったよ」

 そういうとなぜかもう一度水が降ってきた。

「なんでだよ……!」

 薄目でレネーを見ると、レネーは背を向けて奥の部屋へと歩いて行った。

 なんなんだよ……もう、びちょびちょじゃねえか……

「水も滴るいい男ってか……」

 そういうと、また俺の頭上に今度は熱湯が降ってきた。

「おい、それで返事すんな!」

 何を伝えたかったのか、レネーは背を向けたまま首を横に傾けてドアを閉めて姿を消しやがった。

 あの野郎……寒いよ……

 今の季節は元の世界で言うところの秋くらいだろうか。

 どことなく寒い風が俺の体温を奪っていく。

 タオル……

 取りに行こうとすると、ドアが開いてタオルが投げられた。

「おいお前、勇者の扱い雑すぎだろ」

 ドアを閉めることでレネーは返事をしてきた。

 もういいや……

 地面に落ちたタオルを取って、少しはたいてから髪を拭いた。

 やっぱ許せん

 顔に泥となって着いた土を拭いながら、俺はドアを開けた。

 すると、レネーは何食わぬ顔で俺の顔を直視してきた。

「レネー、流石にやりすぎだろ」

 そういうと、なぜか顔を赤くしたレネーが目を伏せて頷いた。

「なんだよ」

 こちらも怒ってますと言わんばかりに顔を赤くする。

 もう……服もびちゃびちゃで気持ち悪い……

 上の服だけ脱ぐと、レネーはそっぽを向いた。

 ん……? まさか、ピュアピュアガール?

 これはいいと、俺は含み笑いをしながらレネーに近づいた。

「レネー、恥ずかしいんだろ。異性の上裸なんて見たことないんだろ」

「ありますよ……」

 俺がどれだけレネーの前に立とうとしても、レネーはことごとく背を向けてくる。

「でも恥ずかしんだろ」

「カイト様って変態なんですか? こんな年端もいかない女の子に裸を見せようだなんて……」

 年端もいかない?

「いやいや、お前成人はしてるんじゃないの?」

「してないですけど……」

「……え?」

 今まで、だいぶ落ち着いているレネーの事をもう二十歳あたりのめっちゃ若く見える女性かと思っていたが、どうやら違うようだ。

「え、ちょっと待って……何歳?」

「……十五ですけど」

 おいおいおい……中学三年生くらいじゃんか。これじゃあ、俺は立派な性犯罪者だぞ

「ごめん。すぐ服着るよ」

「……はい」

 体も少しだけ拭いてから、びちょびちょな服を再度着た。

 うげ……変な気分。でも、それより

「ごめん。めっちゃ若く見える二十歳くらいの人かと思ってた」

「違いますよ……まだ十五歳です」

「まじかよ……」

「言っておきますが、フィレア様もまだ十八歳ですからね」

 あ、こっちはまだおっけーだ……よかった。やってないけど。でも……

「あれで十八なのか……」

「そうですよ。カイト様が何歳かは存じ上げませんけど、年上な事は分かります」

「まあそうだな。俺は二十歳。あ、でももう誕生日過ぎたくらいか……だから二十一だな」

 そういうとレネーはこちらを向いた。

「次からは気を付けてくださいよ」

「うん」

 レネーは頷いて、新品のタオルを渡してきた。

「お風呂でも入ってきてください」

「あー、うん」

 呆気に取られてしまった俺は、レネーの言う通りに命令されたロボットのように、お風呂に入った。

 え……十五?

 それだけがずっと頭に残って。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ