第46話
よろしくお願いします。
「元A級冒険者、だと。」
俺はいきなり現れたブランド―の肩書に訝しんだ。
「まあな、昔の話だ。15年くらい前のな。」
「いきなりで驚いたが、まあいい。デスファルコンとの戦闘経験があるというのは本当か?」
ブランドーに問うと、ニヤリと笑い答えた。
「ああ、あるぜ。奴と戦い、仲間を失った経験がな。」
「---!」
ブランド―の答えに言葉を失った。笑ったのは自虐の笑みだった。
「そのあたりは今はいい。それより急ぐぞ。ここでグズグズしていたら、ユーグ村が全滅しちまうぞ。」
「ああ、そうだな。急ぐぞ。」
「ところでキッド以外誰を乗せればいい?」
ブランド―に問われて、考えた。俺一人で行くべきだと思ったが、ブランド―が来た。だったら二人でもいいだろうと思った。しかし。
「キッド様お待たせしました。」
ミラの声が聞こえ振り返ると、ミラ、リオン、キールが馬車に乗り込もうとしていた。
「いや待て、まだ乗るな。ブランドー馬車には何人乗れる?」
「小さい馬車でも10人は乗れる。大きい馬車なら30人乗れる。それがどうした。」
ブランド―の回答に俺をエリーに声を掛けた。
「エリー、今日はロイ達は居ないのか?」
「・・・はい。今現在、北に向かっていて、今早馬で連絡しても戻ってくるのは早くて明日の夜くらいになります。」
「そうか。ブランドー、質問だ。デスファルコンを倒すのに役に立つのはなんだ。戦ったことがあるお前ならわかるか?」
「デスファルコンの体は全身が鉄でできているようなものだ。硬いんだ、とにかく。その上、魔法が効きにくい。炎も風も水も土も効かなかった。その上で、言えることは鋭い一撃でクビを断つしかない。」
「クビを斬る、か。ブラッディーベアと同じだな。」
「過去に討伐された例はクビをへし折る、氷漬けにした、この二例しか記録上残っていない。そしてそれを成したのが現在のS級冒険者だ。それ以前は分からない。」
「分かった。キール、リオン、二人は残れ。俺とミラ、ブランド―で行く。」
俺がキールとリオンに残ることを告げると、二人は反発した。
「待ってください、キッドさん!どうしてですか?」
「そうだよ!俺達だって戦える。今日だってレッドボアとブルーウルフを倒せたんだ。今度だって。」
リオンの反論を聞き、ブランド―は嘲笑う。
「倒せるか、デスファルコンが。無理だろ。いいか、レッドボアもブルーウルフもF級冒険者には無理でもC級冒険者なら倒せるくらいだ。A級冒険者ともなれば、そんなの歯牙にもかけない。だがな、デスファルコンはA級冒険者が死ぬんだ。圧倒的に力が違うんだ。まだガキの内からそんなのと戦うな。早死にするだけだ。」
「「ーーー!」」
「それでも納得しなければ付いてきてもいい。だがな、誰もお前たちを守る余裕は全くない。それでも、キッドもミラもお前たちを守っちまうだろうさ。そして、死ぬことになる。昔、そうやって死んだ仲間が実際いた。A級冒険者3人とB級冒険者1人のパーティでそうなった。A級冒険者のリーダーがB級冒険者の弟をかばって死んだんだよ。お前たちよりもずっと強いパーティでそうなった。お前たちにキッドとミラを殺してでもこの戦いに参加する気はあるか。」
「「・・・・」」
二人は何も言えなかった。俺でも何も言えない。ブランド―の手から血が出ている。爪が掌に食い込んでいるんだろう。それほど強く握りこんでいる。悔しさがにじみ出ているようだ。
「二人はこのまま、孤児院に帰れ。ミレーユにも帰りが遅くなると伝えてくれ。」
二人は肩を落とし、ギルドに入っていく。少し落ち着いたら、孤児院に帰ってくれるだろう。
「さて、行くのは俺とミラが行く、ブランドー出してくれ。」
「ああ、それはいいが・・・おい、エリー。マーキスはどうした?ギルド長なのに今回の指揮も取っていないようだが・・・」
「ブランド―、ギルドはユーグ村には冒険者を派遣しない、これはギルド長の決定だ。」
「なに!なら、この準備は一体・・・お前か、キッド。」
「ああ、俺が指示を出した。俺の独断だ。元々俺一人ででも行くつもりだった。」
「---!まあいい。冒険者が個人的なツテでブランド―商会とケルヴィン辺境伯を動かしたんだろ?大体分かる。全くあの不出来な後輩め。ようやくだろう。ゼクスの仇を討てるのに・・・全く。
エリー、これをマーキスに渡してこい。」
ブランド―は懐から手紙を取り出し、エリーに渡した。随分古そうな手紙だ。今回用に用意したものではなさそうだ。
「はい、分かりました。」
「頼む、おいバット。」
ブランド―が呼ぶと一人の男が現れた、以前戦ったバットだったか。
「何でしょうか、ボス。」
「追加分の用意をしておけ。」
「はい。」
ブランド―の指示を受け、素早くその場を後にした。
「キッド、ミラ行くぞ!」
「ああ、任せた。」
俺とミラは馬車に乗りこみ、ユーグ村へ出発した。
side マーキス
「行ったか。俺は全くそんな指示した覚えなんてないのに・・・キッドがやったか?」
ギルドからは冒険者を派遣するつもりはなかった。今もない。だからこれはキッドが自分でやったことだ。
「キッドめ、後で請求は全部あいつ行きだ。」
はぁ~、思わずため息がでた。
兄貴を殺したデスファルコン、俺の未熟が招いたことだった。俺は兄貴やブランド―先輩にも止められてた、なのについて行って足手まといになった。そして、兄貴が俺をかばって死んだ。
それからだ、パーティの歯車が狂ったのは。
当然だ、兄貴はリーダーで剣士としてS級になることも視野に入るほどだった。
ブランド―先輩が軍師として、作戦や調達、魔法での支援と遠距離を一人で担当していた。
姉貴のスカーレットは魔法と剣の両方を器用にこなして前衛で兄貴と、後衛でブランド―先輩と状況に応じて切り替えて戦っていた。
それぞれ凄い才能を持っていた。俺とは違って・・・
でも、兄貴が死んで、ブランド―先輩は商人に、姉貴は騎士になった。二人とも冒険者をやめてしまった。
俺は一人になってから努力し、A級冒険者になったが、そこで俺は限界だった。S級冒険者なんてとても無理だった。だから諦めて、冒険者を辞めてギルド職員になった。元々A級冒険者だったからすぐにギルド長なんて役職に就いたが、それまでだった。
その後も二人はどんどんとその世界で上に登っていった。
ブランド―先輩は自分の商会を立ち上げ、各地に名を広めている。
姉貴は英雄騎士と呼ばれるほどの力を持ち、王都の近衛騎士団団長になったほどだ。
俺は惨めな気持ちだった。
どうして俺はこんなに、何もできないんだ。
あの時、もし俺がついて行かなかったら、兄貴は無事でデスファルコンを倒したことで有名になり、まだ冒険者を続けていたかもしれない。
あの時、もし俺がデスファルコンにビビらずに立ち向かえていれば、こんな惨めな気持ちにならなかったのかな。
どうすればいいだ。兄貴、教えてくれ。
「ギルド長、エリーです。いいですか?」
部屋の外からエリーが声を掛けてきた。どうせ、ユーグ村への冒険者の派遣の件だろう。
「冒険者なら派遣しない。これはギルド長の俺の決定だ。」
俺はこの決断を変えるつもりはない。デスファルコンと対峙して無駄に死ぬ冒険者を出すわけには行かない。
「いえ、そのことではなく、ブランド―さんから手紙を届けるように言われて・・・」
「手紙?ああ、入ってくれ。」
「失礼します。こちらです。」
「分かった。もう下がってくれ。」
エリーは一礼して、部屋を出ていった。
俺は受け取った手紙を見て、随分古いと思った。
「これ、何時のだ?紙が変色しているな、ブランド―先輩が今、用意したようなものじゃないな。」
俺は手紙を裏返し、サインを見て絶句した。
『ゼクス』
俺の兄貴の名前だ。
俺は慌てて、手紙読みだした。
『マーキスへ
この手紙を読んでいるということは、俺はもうこの世にいないんだろうな。
俺が死んだとき、ブランド―から渡してくれるように頼んでいた、俺の遺言だ。
マーキス、お前は小さい時から俺の後を付いてきていたな。
だから、俺が死んだ後、お前のことが心配だった。
もし、俺がお前の目の前で死んだとき、お前はずっと引きずると思っていた。
もし、マーキスが俺のことを引きずっているならこの手紙が手元に来るようにブランド―に頼んでおいた。
だから、この手紙を読むときお前は悩んでいるんだろうな。
そんなお前に兄貴として最後にこの言葉を贈る。
【好きに生きろ】
お前は考え過ぎる。たまには好きに生きていいだろう。
俺の人生、好きに生きた結果だ。悔いはない。だからお前も悔いなく生きろ。
元気でな。
最愛の弟マーキスへ最強の兄貴ゼクスより
』
なんだよ、俺も30越えてるんだぜ、今更・・・
俺は手紙を読み終えて、考えていた。
いや、考えていたことを止めた。
「好きに生きろ、か・・・キッドもギルド長の決定に、好きな判断じゃない、て言いやがったし、何だよ俺の周りは!みんな好き勝手し過ぎだろうが!」
俺は怒りが湧いてきた。
「ああああああ!」
いいさ、あいつらが好き勝手するなら俺もやってやる。
デスファルコンを俺が倒してやる。兄貴の仇討ちだとか、冒険者の義務とか、どうでもいい。
俺がデスファルコンを斬りたいんだ。
俺は冒険者を引退しても手放さなかった大剣を持ち、あることを思い出した。
「そう言えば、俺最近好き勝手やっていたな。ブランド―先輩の商会に殴り込みに行った。・・・なんだ俺も好き勝手やっていたな。ハハハハハ・・・」
兄貴、俺はあんたの弟だ。好きに生きてるぜ。
俺は部屋を出ると、ギルド職員がみんないた。
「お前たち、どうした?」
俺の問いかけに全員が気まずそうな顔し、代表してエリーが答えた。
「・・・あの、部屋から奇声が聞こえて・・・ギルド長、おかしくなったんじゃないのかな~って、みんな思ってて・・・」
その返答に俺も気まずそうな顔をすることになった。
「・・・いや、もう大丈夫だ。それより、ユーグ村の件、どうなっている。」
「はい、キッドさん達がギルドを出て、一時間程経ちますが、他の冒険者たちはデスファルコンが出てユーグ村がある西側には誰も行きません。」
「そうか。俺も出る。ギルドを頼む。」
「ーー!ギルド長も行く気ですか!」
「昔のケリをつけてくる。後は任せた。」
「・・・はい、お気を付けて」
ギルド職員が俺を見送ってくれている。俺の愛すべき部下たちだ。
ギルド長になったことに間違いはなかったな。
「ああ、行ってくる!」
俺は見送られながら、ギルドを出ようとすると、声を掛けられた。
「待ってください。」
「俺達も連れて行ってくれ!」
声を掛けたのはキールとリオンだった。
「お前たち!キッドと一緒に行かなかったのか?」
俺の問いかけに二人は顔を曇らせた。
「・・・ブランドーさんに言い返せませんでした。」
「足手まといだから、キッドさんとミラさんを殺すかもしれない、て言われて、何も言えなかった。」
「でも、僕たちだって、キッドさんとミラさんが帰ってこないのは嫌なんだ。」
「その場にいれば助けれたかもしれないのに、ただ遠くで待ってて、後で帰ってこないのを聞くのは嫌なんだ。」
子供の意見だ、そう思ったが二人とも子供だ。誰かが帰ってこないことが嫌だなんて、それで一緒に戦いたいというんだったら、俺は是が非でも止めようと思った、が斜め上の回答が来た。
「だから俺達戦いません。見に行くだけです。」
「デスファルコンから目を離しません。常に安全に逃げ続けます。」
「俺達を連れて行ってください。」
「お願いします」
リオンとキールのことはここ最近ギルド内でも評判だ。
キッドの弟子としてだけではなく、一冒険者として、評価されている。
ウルフを単独で倒したこと、ボアを倒したこと。
まだ10歳、まだ冒険者になって一か月目。
どんな冒険者になるのか楽しみな逸材だ。
だから、本来なら、冒険者ギルドのギルド長ならば止めるべきだ。
そんなの分かっている。でも、
「好きに生きろ」
俺はそういうことしかできない。俺も好きに生きるんだ。彼らに好きに生きるな、なんて言えない。
「「はい!」」
彼らは俺に答え返した。
俺達が外に出ると、一台の小さい馬車が止まっていた。
「お待ちしておりました。早く乗ってください。」
御者はブランド―商会の若頭をやっているバットだった。
「頼む。」
俺とリオン、キールは乗り込みユーグ村へ向かうことにした。
ありがとうございました。




