第33話
よろしくお願いします。
さて、今日もギルドに行くか。リオンとキールの用意ができたようだし、声を掛けるか。
俺が声を掛けようとすると、
「キッドーーー!いるんだろう!出てこーーい!」
いきなり孤児院の外から俺を呼ぶ声が聞こえた。この声は!
俺は孤児院の外に出ると、
「いたーー!いや~、会いたかったよ、キッド!」
俺に抱き着こうとしている、キアラがいた。
「キアラ、なぜここに来た。」
俺はキアラの頭を鷲掴みしながら、質問した。
「いたい、いたい、でもキッド、力強くなったね~。姉ちゃん嬉しいよ。」
「もう一度聞く。どうしてここに来た、キアラ。」
俺は呆れながら、同じ質問をした。
「今日はあんたに会わせたい奴を連れてきたんだ。」
「会わせたい奴?」
「出てきな。」
俺がキアラが声を掛けた方向を見て、言葉を失った。
「お久しぶりです。キッド様。ミラにございます。」
そこには俺の婚約者だった。ミラが立っていた。
俺よりもミレーユよりも小さな体躯、真っ黒な髪は腰まである。小さな顔に大きな目をしている。間違いない、ミラだ。二週間前に最後に見た時から変わりがないその姿に俺は言葉を出せなかった。嬉しいのか、戸惑いか、申し訳なさか、どれもありそうで、どれもないような、分からない混ざった感情だ。
俺は立ち尽くしていると、ミレーユが出てきて、俺達を孤児院の中に通した。子供たちはリオンとキールに任せて、外に出した。最悪、ここが戦場になる。ミレーユにも出てほしかったが、本人が残ることを選んだ。俺が出方を伺っていると、ミラが、頭を下げてきた。
「早朝より失礼いたしました。私、ミラと申します。本日は婚約者である、キッドを迎えに参りました。長い間、婚約者がお世話になり、感謝に堪えません。本日は婚約者を連れ、急ぎ実家に帰り、祝言を上げた後に再度お礼に伺わせていただきます。さ、キッド様、急いで帰宅の準備をしてください。帰宅したら祝言が待っております。さぁ早く行きますよ。さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、・・・」
ミラはミレーユに丁寧な挨拶をしていたが、突然、早口になっていた。俺にも急いで帰るように言っているし、祝言をあげる、と言っても、そんな話は知らない。それになんだか、ミレーユとキアラがミラを怖がっている。ミレーユはともかく、キアラがミラを怖がるなんて初めて見た。
「ミラ、少しいいか。」
「キッド様。早く帰りますよ。さぁさぁさぁさぁさぁ・・・」
「ミラ、俺は帰ることはない。」
「キッド様。ワガママ言わないでください。さぁ帰りますよ。さぁさぁさぁさぁさぁ・・・」
「ミラ、何度でも言おう。俺は帰らない。ミラも俺のことは忘れろ。」
「・・・」
俺の言葉で、ミラは目を見開いたまま、俺の顔を見ている。
「なにをいっているんですか、かえりますよ、きっどさま。かえりますよ。かえりますよ。・・・」
ミラの声から抑揚が無くなっている。部屋の空気が下がっているように感じる。ミレーユとキアラは体が震えている。やはり寒いのか。
「ミラ、何故俺をそんなに連れ帰りたい。俺は一族を捨てた。もう戻る気はない。親父も好きにしろと言った。だから出てここにいる。」
「・・・きっどさま、かえりましょう。かえりましょう。かえりましょう。・・・」
何だか様子がおかしい。ミラはこんな感じだったか、おかしい。違和感がある。一体どうしたというんだ。
俺はキアラを見たが、唖然、としている。キアラもおかしいと思っているようだ。
side キアラ
あたしはこんなミラを見たことがない。
いつもキッドに引っ付いていた、どこに行くのも、何をするのもキッドと一緒がいい、という子だった。そんな子がキッドが出ていった、と聞いたときの様子は、今にも死にそうだった。いや、きっと感情が死んでしまっていたんだ。あたしはそんなミラを見ていられなくて、キッドを探した。親父に聞くと、すぐに居場所が分かった。あたしはキッドを追って、ケルヴィオンに入った。ここには昔なじみのブランド―がいたから、すぐにキッドに会えた。それで、説得すればすぐに帰ってくれる、そうしたらミラは元に戻るとおもっていた。でも、キッドは帰ってくれなかった。ミラに何て言えばいいか、考えていた。
この一週間でキッドがここの暮らしを楽しんでいることが分かった。冒険者として、たくさんの人に慕われていた。都市の人にも、仕事仲間にも、貴族にも、子供にも・・・、キッドはここで暮らすほうが幸せになれると思った。
複雑な気分だった。一族の跡取りでありながら、強すぎたが故にみんなに恐れられていた。一族で必要とされていたのは強さだけだった。誰もキッドを必要としていなかった。弱肉強食をうたい、好き勝手してきた一族に生まれた、圧倒的な強者。それは自分たちを脅かす存在だと思った親父はキッドを外に出した。
だから、一族を思うとこのままでもいいと思った。
でも、ミラは・・・、あの子はどうしたらいいの。
あの子はあんたしか頼るものがない。あんた以外何もいらないのに・・・
帰ろうか、悩んでいた時に、ミラがやってきた。
「お久しぶりです。キアラ姉さん」
あたしはミラが来たことに驚いた。
でもそれ以上に驚いたことがあった。感情が死んでいた。
この子は限界だ。キッドはこの子の全てだ。
キッドはミラのこの状態を見れば、帰ってきてくれるかもしれない。
「あんたなら、あいつの目を覚ませるかもしれない。」
あたしはそう思ってここに来た。
でも、キッドはミラがこんなことになっていても、何も感じていない。
あんたにとって、ミラはそんな軽い存在だったのか!
あんたがミラを戻してくれなきゃ、誰が戻せるんだよ。
side out
ありがとうございました。




