第30話
この話から新章になります。よろしくお願いします。
テオがこの都市、ケルヴィオンを出立して、一週間が経過した。戦友がいなくなって少し寂しい。
この一週間で変わったことがある。それは、リオンとキールが冒険者になったことだ。リオンはブランド―商会の連中に怪我をさせられたときにエリーから冒険者のことを聞いていたらしい。
冒険者には10歳以上でないとなることができない、ということだ。リオンとキールは10歳のため、冒険者になることはできる。しかし、リオンはともかく、キールが冒険者になるとは思っていなかった。以前、俺を助けてほしいと言ったこと、そのことを気にしているようだ。子供なのだから、気にしなくてもいいのに。
二人の新人冒険者は俺が面倒することにした。俺が守らねば、二人を守ることは俺の将来を守ることになる。俺が二人を養うから、二人も俺を養ってくれよ。
「リオン、キール、そろそろ行くか。」
「はい、キッドさん。」「わかりました、キッドさん。」
俺は二人に声を掛け、冒険者ギルドに向かうことにした。
「では、ミレーユ。行ってくる。」
「はい、行ってらっしゃい。キッドさん。二人のこと、よろしくお願いします。」
俺は頷き、二人と冒険者ギルドに足を進めた。
俺達は冒険者ギルドに着き、エリーに声を掛けた。
「エリー、おはよう。」
「おはようございます。キッドさん。リオン君、キール君もおはようございます。」
「おはようございます。エリーさん。」「おはようございます。」
「今日の二人用のクエストは何がある。」
「はい、今日のクエストは、『ボアの討伐』、『ウルフの討伐』ですね。」
「そうか。わかった。では二人とも、行くぞ。」
「はい。」「はい。」
俺達はまずウルフの討伐をすることにした。
俺達は近場の草原に来ていた。以前テオの双剣を指導してもらった場所だ。
さぁ、まずはリオンからだ。
side リオン
「さぁ、リオン。始めるか。」
「はい、キッドさん。」
俺は二人の前に立ち、双剣を抜いた。
この双剣はキッドさんに連れて行った武器屋でキッドさんが俺に買ってくれたものだ。武器屋のダイクさんが俺の体格に合わせて調整してくれている。新人冒険者に対して、過ぎたものだと思う。でも、この双剣に対して報いるためにも、いつかキッドさんに並ぶ冒険者になってやる。
「さぁ、いくぞ!」
俺は勢いよく、ウルフに斬りかかった。先手必勝だ!
ウルフがこちらに気づき、戦闘態勢に入った。俺とウルフの間合いが重なった。
「ウォォォォォーー」
ウルフが雄たけびを上げて、飛び掛かってくる。
俺はその攻撃を躱しながら、右の剣を振りぬき、クビを刎ねた。
やった!!キッドさんに習ったことができた。
俺は確かな手ごたえを感じて、次の獲物を探した。
見つけた!次は二体いる。でもさっきの手ごたえと感覚ならもういける。俺はキッドさんに並ぶ冒険者になるんだ。こんなとこで足踏みできない。
「ウォォォォォーー」「ウォォォォォーー」
ウルフに気づかれた。二体でも関係ない。先にどちらかを倒して、次を倒せば問題ない。
俺が近づいた方が急に後ろに飛んだ。俺は攻撃の体制に入っていて、躱されたことで、体勢が崩れた。
しまった!もう一方が俺の体勢が崩れたところを攻撃しようとしている。
俺は攻撃の衝撃に備えようと、身を固めた。でも衝撃、痛みが来ない。俺は周りを確認すると、クビが二つ落ちていた。この切り口は、俺は勢いよく後ろを振り返ると、キッドさんが立っていた。キッドさんしか持っていない特殊な武器『カタナ』が握られていた。
「リオン、油断、いや慢心したな。」
あぅ。確かに、慢心した。ウルフくらいなら、もう苦戦しないと思っていたのに・・・
結局キッドさんに助けてもらうだなんて、俺はキッドさんに並ぶ冒険者になるんだ。
「キッドさん、何時までも助けないでください。俺だって冒険者なんです。体で痛みを覚えないと・・・」
「俺達は仲間だ。仲間が傷つくの見逃せない。それにリオンが傷つくとみんな悲しむ。」
「キッドさん・・・」
俺は自分の未熟を隠すため、キッドさんに八つ当たりをした。でもそんなこと言われたら、誰にも当たれない。いや、俺が未熟なんだ。慢心したんだ。だから悪いのは俺だ。
ふぅー、息を吐き、血が上った頭を冷静にした。
「キッドさん。ごめんなさい。それから、ありがとう。」
「ああ。」
俺はまたウルフに斬りかかった。今度は冷静に戦えた。俺は以後は危なげなく、ウルフを討伐できた。
side out
リオンも随分戦い方が上手くなった。最初の頃は、右も左もフラフラしていて、試し斬りの丸太を斬るどころか、かすりもしないから、双剣を辞めるか、聞いたら、『やる!』て意地張っていた。ここ最近は日に日に鋭くなっている。このまま、上達していってほしいものだ。
後で、また、指導をしてやるか。
さて、次はキールの番だな。
side キール
「次はキールの番だ。いけるか。」
「はい!頑張ります!」
僕は冒険者になった。いつかキッドさんを助けるために。でも僕はリオンみたいに双剣は使えない。だから僕が使えるものを探した。短剣、弓、槍、・・・色々試した。分かったことは武器が使えない、ということだった。これではキッドさんを助けられない。どうしようか、悩んだ。だけどある人が僕に教えてくれた。
それは『魔法』、僕に教えてくれたのはウィルさんだ。キッドさんが『魔法』を使うのはどうかと提案してくれて、ウィルさんに引き合わせてくれた。指導を受けてまだ3日だ。でも一つだけ使えるようになった。それを使って、今日、初めてのモンスター退治だ。
「では、キッドさん。よろしくお願いします。」
「ああ、始めよう。」
僕はキッドさんと二人で、ボアに挑む。僕は魔法使いだから詠唱の間は無防備になる。だから前衛が必要になる。キッドさんが前衛を務めて、僕が魔法で仕留める。よし、頑張るぞ。
「キール、あそこにいるな。いけそうか。」
「キッドさん。少し近づきます。僕の魔法はまだ、5mくらいまでしか届きませんので。」
「わかった。ではそこまで行くぞ。」
僕とキッドさんはモンスターの5mまで近づくとボアが気付いて、攻撃してきた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「大丈夫だ、キール。お前が攻撃するまで、俺が守る。」
「は、はい!いきます!」
僕は魔法の詠唱を始めた。
「氷よ、今ここに、集まり、敵を、貫く、槍、となれ・・・」
僕の前に氷が槍のように尖っていく。
僕の魔法の属性は『氷』。割と珍しい属性のようだ。僕の魔法の先生であるウィルさんは『炎』だけど、補助として、『水』『地』『風』が使えるそうだ。でも、ぼくは『氷』だけだ。そのことをウィルさんに言うと、まず『氷』がちゃんと使えるようになれば、魔法の使い方が感覚として分かるようになっていく、それから属性を増やしたほうが、効率的だと教えてもらった。
よし、できた。魔法の詠唱は言葉というよりもイメージが大事だという。自分のイメージが固まっていれば、詠唱を短くできるし、すごい人は詠唱しないで魔法を使える人がいるらしい。僕もいつかそうなりたい。
キッドさんがボアを抑えてくれている。
「キッドさん!!用意できました!!」
僕は大声でキッドさんに知らせると、ボアの足を斬って、そこに倒した。僕は勢いよく、魔法を放った。
「いけ!!『氷の槍』!!」
勢いよく発射された『氷の槍』ボアに命中した。
「ぶぉぉぉぉぉ!!」
まだ、生きている。やっぱり駄目なのかな。
「キール、次だ。」
「は、はい!」
そうだ。一回でだめならもう一回だ。
「氷よ、今ここに、集まり、敵を、貫く、槍、となれ・・・」
もう一度『氷の槍』を作りだした。今度はさっきよりも大きく、硬く、鋭く、イメージして『氷の槍』を作る。
「いけ!!『氷の槍』!!」
僕が作った『氷の槍』はボアに突き刺さり、絶命させた。
「やった!やった!やった!」
僕は自分のやった魔法でモンスターを倒せたことが嬉しかった。武器が使えなかった、僕がモンスターを倒した。これをもっと使えるようになれば、僕もキッドさんの役に立てる。よし、もっと頑張るぞ。
「あ、れ」
僕は倒れていく、地面が目の前に迫ってくる。痛みを耐えようと、目を閉じた。でも、痛みが来ない。僕は目を開くと、大きな腕に抱えられていた。
「大丈夫か、キール」
「キッド、さん」
「魔力を使い過ぎたか。」
「魔力の、使い、過ぎ?」
「ウィルが言っていただろう。魔法は使うと魔力が減る。だから、使い過ぎには気をつけろと言われたろう。」
「うう・・・」
僕はウィルさんに言われたことを思い出し、顔を赤くした。
「後は俺がやろう。リオン、キールを頼む。」
「はい、キッドさん。」
僕はリオンに連れられて、場所を離れた。
「キール、お前すごいな。」
「そんなことないよ、リオンはちゃんと倒しきったでしょ。僕は一体でこの様だよ。ああ、もっと強くなりたい。」
「そうだな、帰ったら反省会だな。」
「リオン、最近真面目になったね。前までそうじゃなかったのに。」
「そんなこと言ったら、キールの変わったぞ。泣かなくなった。」
「もう一生分泣いたからね。涙なんか出ないよ。」
「本当変わったな。俺達強くなろう。キッドさんのように、もっと。」
「うん。もっと。」
僕はリオンと約束した。もっと強くなることを心に誓って。
side out
キールの『氷の槍』か。すごい強そうだな。まともに食らうと俺もやられるな。ウィルが言っていたけど、『氷の槍』は中級に位置する魔法らしく、初心者が使えるようなものじゃないらしい。そういう点で言うとキールは『天才』だとウィルは言っていた。
でも今はまだ弱い。俺が守らなければな。
ありがとうございました。