責任のなすりつけ
連れ立って門の前まで来ると、待ちくたびれたようなガルの姿が見えた。
そういや先にいってもらっていたな。今まで存在を忘れていたよ。
「お前ら……いや、ギルド長。遅いですよ」
「仕事の依頼でね。いやあ、厄介な仕事がようやく片付きそうで良かった」
「え? それはもしかしてこいつに……」
「いや、用があるのはツレの方だ。彼は関係ない」
「そりゃそうですよね」
なんか二人のやり取りで散々言われていたが、俺としては金が貰えればギルドの依頼に用はないんだ。
そもそも、存在しなかったEランクが受けられる依頼って何かあるのかよ。
「ようやく街の外か。じゃあ、ここで取り出しても良いのか?」
「ああ……もし本当なら運搬の手間もあるので、入り口の傍が好ましい。そうだな、あの開けた場所にお願いできるか?」
そういって、門から少しだけ離れた場所を指定される。
街へ続く道や門からもある程度は離れており、通行の邪魔や日光の妨げにはならないだろう。
たしかにあのでかい魔物を置くには適しているな。
門を出る際に通行料について気になったが、ギルドの依頼で少し外に出るだけなら問題ないらしい。
これで通行料を払えとか言われたら、街中で取り出すところだったしな。
街に配慮しているので、それくらいは見逃してもらわなければ。
「さて、ここら辺か。じゃあメフィ、頼んだ」
「その前に確認だけど、取り出したあとは回収しなくても良いのかな?」
「ああ、ここに置いておけば、自ずと街へ訪れる人への宣伝にもなる。ここは海を渡って来る人も多いからな。良い客寄せになるだろう」
さすがギルド長、興味を惹かれた人による経済効果も考えてか。
邪魔にならないなら無問題だ。ギルド長の許可も出たことだしさっさと終わらせるか。
「あ、あと暗殺獣もついでに頼む」
「了解したよ。ボクも髪飾りのような報酬を期待しておくさ」
その言葉にシキが自分の頭を触るが、メフィも別にシキから奪うわけじゃないから安心して欲しい。いや、さすがに奪わないよな?
これはメフィの分も気を入れて選ばないとな。
そう考えているうちにも、先の空に大地を覆うような黒い空間が広がっていく。
あのカバを吸収した空間を考えると、この周辺を覆う程度には広がるだろう。
「な、なんだ! 空が闇に包まれていくぞ!」
「あれは容量空間を開いているだけだぞ」
「おいそこのEランク。まさか、空から落とす気じゃあるまいな?」
「ん? そうするんじゃないかな」
あれを収納した時だって、落とし穴に落とすように収納したんだ。
なら、取り出すときも重力を利用することはおかしくない。
もう近いうちに、あのカバが空から降ってくることだろう。
ん? 空から降って……?
「おいメフィ! ちょっと待って!」
「ん? もう取り出せるところだが、どうしたんだい?」
「もっと低いところから、な!」
ギルド長に言われなければ気づかなかった。
あの何百トンもありそうな巨体が降ってくる。それで、どれだけの衝撃が地面に伝わってくるのだろうか。
あいつが倒れたときですら地震が起こったんだ。
それが上空からともなると、壁や建物が崩壊してもおかしくはない。
「悪いねマスター……既に手遅れだよ」
「オゥ……」
空を見ると、黒い空間の広がりは既に止まっているが、中からあの魔物が落ちかけているところだった。
あの様子だと、重力によってすぐにでも落ちてくることだろう。
これは……被害が拡大しそうですね。
「ちなみに、修繕にかかった費用は君の報酬から差し引かせてもらう」
「シキ、頼むっ!」
そういって横を見ると、既にシキの姿はなかった。
カバが空から落ちてくるのも止まらないが、その下に向けてシキが走るのも止まらない。
いつの間にか着物の丈も短くなっていたようだが、もしかしてこうなることに気づいていたのか? もうシキには頭が上がらないな。
そして、カバが地面に落ちる寸前、シキが軽く跳躍する。
離れて見ている俺からすると、まるでカバが地面に落ちる手間で時間停止されたみたいだ。
少し浮いたところで落下が止まったカバだが、すぐに重力によって地面に衝突する。
その衝撃により、辺り一面に地響きが鳴り響く。
「うわあああああ!」
「くっ、多少の衝撃はあったが、彼女のおかげで被害は最小限みたいだな」
「……マスターは、地面に寝転がって日向ぼっこかい?」
浮いているメフィは元より、すぐ横で見ていたランドも衝撃には耐えたらしい。
俺はと言うと、襲ってきた衝撃に立っていられず地面に手をついてしまう。
それを日向ぼっことかいうのはやめてくれ。
潰されたように見えたシキも、何事もなかったかのように先で立っているのが見える。
どちらにしろ近くに寄らないと詳しいことはわからないんだ。シキにお礼を言うためにも、出てきたカバの元へ近づいていく。
「シキ、大丈夫だったか? ケガはないか?」
「はい。問題ありません。腐っているかと思いましたが、メフィストさんは凄いですね。あの時の状態のままです」
「とはいっても、そこまでの期間は経っていないけどね。いやしかし、褒められるのは嬉しいよ」
そういって、チラチラとこちらを見てくる悪魔。
なんだ、褒めてほしいのか。
「よくやった。運搬ありがとうなメフィ」
「フフッ、このボクにかかれば造作もないよ。あとは……ほら」
メフィが顔を向けた先には、同じようにチラチラとこちらを見ては、悪魔を羨ましそうに見ている鬼がいた。
君もですか。
いや、最大の功労者なのに、褒められないほうがおかしいだろう。
「シキもありがとう。こいつを倒せたのもシキのおかげだし、街への被害を最小限に抑えられたのもシキのおかげだ。シキがいなかったら俺は借金地獄に陥っていたかもしれない。本当にありがとう」
「えへへ……当然のことをしたまでですよ」
「何故か、ボクと感謝の総量が違うような気もするけど気のせいかな?」
人を借金地獄に陥れるような悪魔には、あれくらいでちょうど良い。
シキには今回の件も踏まえて、また何かお礼をするとしよう。
俺達がシキを褒め称え、またメフィを落ち着かせているうちにも、ギルド長は目の前の魔物に興味津々だったらしい。
何かウンウンと頷いては、カバの皮膚をルーペみたいなもので鑑定している姿が見える。
「これは驚いた……間違いない。ベヒーモスだ」
「その道具でステータスとかが見えるのか?」
「ああ。これは『鑑定の水晶』といってな。魔物の特徴と脅威度がぼんやりと判明するユニークアイテムだ」
「ぼんやりってなんだよ」
勇者にお馴染みの、ステータスオープンまでの効果はないみたいだ。
それでも、ぼんやりとわかるというだけで、どれほど有用なアイテムかわからないわけでもない。
「今回は事前情報があったから助かったが、私も初めて見る魔物だと断定はできないのだよ。この『鑑定の水晶』で覗くと、目の前のベヒーモスには巨大、超重量、A級などといった情報が表示される」
「名前はでてこないのか?」
「残念ながらな」
武器で言えばSレアかSSレアに該当するらしいユニークアイテムも、この『鑑定の水晶』の場合はSレア止まりらしいな。
しかし、もしユニークアイテムで全身を固めることができたら、例え魔法が使えなくたってなんとかなりそうじゃないか?
現に勇者特有のスキルも、劣化ではあるが再現できている。
これは……攻略本を使ってユニークアイテム集めといっちゃうか?
ちなみに最近出番がない攻略本だが、きちんとシートの重しや飛んでいる夕食の確保といった仕事には貢献している。
「疑ってすまなかった。さっき言った金貨100枚買い取りは約束しよう。渡すのは、協力した冒険者と同時で良いか?」
「ああ。場所は伝えてあるから、あいつらもすぐに来るだろう」
名前すら知らないパーティだが、あの獣人は鼻が効くらしい。
向こうがわかるというから任せたんだ。もし見つからなければ金貨が全て俺のものになるだけだし、デメリットと言えば時間がかかることくらいだ。
まあ、シキの仕事が終わるまでは待つつもりなので、その間ゆっくりと過ごしますかね。
「ところで、もう一体の魔物は良いのかい?」
「あ、そういや何処らへんに出したんだ?」
「それって……もしかして、虎のような魔物ですか?」
「ああ、そうだが…………まさか!」
「はい……多分」
シキが知っている。つまり、シキの傍にあった。
シキが見たのは、多分カバの真下にいたときだろう。その時見たってことは……今頃はペシャンコか?
「悪いシキ! もう一度これを持ち上げてくれ!」
「はい! 覗くのは良いですけど、危ないので中には入らないでくださいね!」
そう注意して、シキは両手で何百トンもあろう巨体の下に潜り、それを少しだけ持ち上げる。
潰されずに潜れる方もおかしいのだが、今更だが持ち上げられるほうがもっとおかしいだろ。
シキが作ってくれた隙間から見えた地面には、何者かが叩きつけられた後のようなクレーターが出来ていた。
普段なら疑問に思うところだが、大方シキがジャンプする際にへこんだだけであろう。俺も随分と慣れてきたものだ。
メフィに出してもらったあいつは……よかった、無事だ。
ここから見る限りでは、クレーターのど真ん中に横たわっているようだ。
しかし、死んでいるからかやけにクレーターが似合うな。
「おうギルド長さんよ、あれが俺の倒した魔物だぜ」
「あれが暗殺獣か? いや、ここからでは鑑定もできないので調べようもないが……もしや、本当に?」
疑り深い兄さんだな。
そうでもないとギルド長という大任は務まらないだろうが、俺としてはさっさと終わらせてもらいたい。
「じゃあ、買い取ってもらえるか?」
「ああ……だが、どうやって回収する?」
いま暗殺獣がいるのは、ベヒーモスの真下だ。
潰されていないのが不思議なくらいだが、いくらクレーターにハマっているとはいえいつまで無事かはわからない。
ベヒーモスが腐って落下したり、肉が垂れる可能性だってあるんだ。
できれば早めに回収したい。
「あの……そろそろ降ろしたいのですが」
「ああっ、すまんもう大丈夫だ」
さて、どうしますかね。




