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宿屋

「んで、どうして戻って来たんだい?」


両頬に紅葉を見事に咲かしてから食器を返しに来たら理由を尋ねられてしまった。紅葉に関しては可愛い嫁からのプレゼントだ。


「それよりも聞くことがあるんじゃないんですか、私の頬の腫れ具合だとか」


「んなもんウチの旦那で見慣れてるからどうってことないんだよ。で、なんで戻って来たのさ」


旦那さんも苦労してるんだろうなと思いつつも言い訳を考えていた。


(素直に教会の結界に邪魔されましたって言えたら楽なんだけど、そもそも歩いて半日そこいらで着く距離じゃないよな。どうしようかな?)


適当にボヤかしていると旦那さんがやつれた顔をして帰って来たので話題をそちらに逸らすことにした。


「こんばんわ、またお世話になります」


「ん、あぁ、ゆっくりしていけ」


「どうかしたんですか旦那さん?」


「気味が悪い魔物が出やがったのさ。もう殺したから大丈夫だがアレがまだいるんじゃないかと思うと寒気がして来るぜ。あんたらは各地を旅行してるとか言ってたな?だったら」


その後旦那さんの口から語られたのは野盗で作った即席百足人間のことだった。姿形を聞いた女将さんは苦虫を噛んだかのような表情を浮かべている。


「んな魔物聞いたことがないよ。まず人が魔物になるなんておとぎ話の中だけの事だろ?」


「ハレナ、オレだってガキの頃婆さんに嫌ってほど聞かされたんだ。てかお前も一緒に聞かされたじゃねーか」


「はいはいそうでしたね。で、その魔物はどうしたんだい?」


「オレの前に誘導させて、この斧で頭をカチ割ったさ」


「なんだいそれじゃすぐに倒せたんだね。そんな魔物にこんなに時間がかかったのかい?」


「違うんだよ」


「は?何が違うってんだい?」


「頭をカチ割ってからわずかな時間で後ろに付いてた頭が離れて喚き始めやがったのさ」


「じゃあ何かい、それ全部の頭を割らなきゃダメってことだったのかい?」


頷くことで肯定を示した旦那さん。女将さんことハレナさんは悩ましげな顔をしてコチラを見やった。


「若旦那さんよ、そんなヤツを他所で見聞きした覚えはあるかい?この町には見回りの兵士たちが来てくれて魔物や野盗の話をちゃんと伝えているくれてるんだが生まれてこのかた聞いたことがねぇんだ、あんな気色悪い魔物」


「悪いが聞いたことがないな。そう言えばその気味が悪い魔物はちゃんと処分したのかい?」


「明日城塞都市から兵士が見回りに来るんだ。その時に兵士たちに検分して貰おうと思ってる。だから今は町の外にある小屋に放り込んであるよ」


旅行中の俺でも見聞きしたことがないと聞いて少し肩を落とす旦那さんだったが腹の虫が凄い音を出した。それを聞いてハレナさんが思わず吹き出していた。


「ニッグ、アンタなんも食ってないだろ?ちょっと待ってなね今作るからさ!若旦那とくっちゃべってなさいよ」


笑いながら厨房に入っていったハレナさん。その後ろ姿を苦笑いをしながら見つめているニッグさん。


「んで若旦那、なんでまた戻って来たんだい?」


話がぶり返してしまったが適当に躱し今までのことを逆に根掘り葉掘り聞き出した。ハレナさんが料理を持って来る頃には馴れ初めから今に至るまで聞き出し、ニッグさんを赤面させられたので満足した。


「じゃあ俺は部屋に戻って嫁さんのご機嫌取りでもして来ますね!」

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