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百足

ここカシナの町は豊かで静かな場所だと思っている。城塞都市アベルクラインが割と近くにあるおかげで治安は良い方だし、肥沃な土地のおかげで農作物はよく育つので飢えるモノも聞いたことがない。


この町で宿屋を継いで早二十年、少し高めの料金だと言われるが気にしたことはない。部屋は清潔にしてるし料理だって有無を言わさないモノを作ってる自信がある。ならばそれに見合った金を貰うのは当然のことだ。


息子も一端に成長したは良いが、早く嫁を貰ってくれないことには安心して宿屋を任せられないと思うのが最近の悩み種だ。


「あの娘さん可愛かったなぁ、嫁に来たらうんと甘やかしちゃってたろうなぁ」


先日泊まった若夫婦の嫁のことを思い出す。小柄で可愛い顔立ちをしていてまるで人形のようで色々と琴線に触れてしまい堪らなかった。


「旦那さんも綺麗な顔してたけど肌の色が見たことない感じだったのよね。それはそれで良いと思ったけど」


普段は滅多にしない手土産の昼食を作ってあげてしまったのは若夫婦が気になってしまったからだろう。


「また来ないかしらねぇ」


「女将さん! ニッグの旦那はいるかい?!」


物思いに浸りながら下拵えをしていると玄関から自警団の若衆が慌てて叫んで入ってくるのが聞こえた。


「ウチの旦那ならさっき狩りから帰って来て今は裏で獲物の処理してるよ!」


わざわざ出向くのも億劫だったので声だけで返答し作業を続けた。


「分かった!女将さん今日は宿から出るなよ!!それじゃあな!」


大慌てで旦那の元へと向かったであろう自警団の若衆。旦那が自警団のいろはを教えたからだろうか今でも慕ってくれている。


「ハレナ、少し出てくる。どうやら外で見たことがない魔物がうろついてたらしいんだ。ハレナ、今日は家に篭ってろよ」


「ん、分かったよニッグ、気をつけてね」


それじゃ、と言って大斧を持ち出掛けて行った夫を見送った。


魔物が町の周りをうろつくことは珍しい事ではない。ただカシナの町では自警団や城塞都市からの見回りのおかげで滅多にそんなことは起きなかったのだ。


「こういう時に限って塩がなくなるのよね」


予備もいつの間にか使っていたらしく保存庫にも見当たらなかった。旦那のニッグや自警団の若衆からも出るなと言われたが、仕方ないので買い出しに出かけることにした。


子供達のはしゃぐ声が聞こえない

主婦たちの世間話や露店商たちの呼び込みも一切聞こえない


(ちょっと静かすぎない?でも塩だけだしさっさと買って帰れば良いわよね)


大広場にある馴染みの店に着くとそそくさと塩を手に取り会計を済ましたのだが、女主人に捕まってしまい世間話を余儀なくされた。大きくもなく小さいわけでもない町だが近所付き合いも大事なのだ。


「そういえばさっき自警団の若衆が今日はもう表に出るなと言って来たね、ありゃなんだい?」


「あたしも言われましたよ。外に見たことない魔物がうろついてるらしくてね、危険だからってことじゃないんですか?ウチの旦那も駆り出されちゃったしね」


「ニッグが今の若衆を育てたんだから頼られるのは仕方ないだろうさ。それとも何かい?まだこさえる気だったのかい?」


「馬鹿言わないでくださいな、息子も成人したんですからもう十分ですよ」


「ハレナはまだ十分若いだろうよ、あと二人は頑張ったらどうだい」




一方その頃町の入り口付近



「おいおいなんだありゃ、ヒトか?」


「あんな奇声あげてうろついてるのが人とは思いたくねぇな」


「まっぱで四つん這いになって一列に並んで進む変態の行列、字面が酷いな」


「ぐだぐだ言ってねぇで警戒を続けろ、近づくようなら矢を射て。ヒトにしろ魔物にしろありゃ気味が悪い」


ニッグは表面上落ち着き払っていたが内心は焦っていた。狩りに出たら魔物の一匹や二匹と送風するのは珍しくない。中にはヒト型をとるモノもいると聞くが少なくともここいらでは見たこともなければ遭遇したということも聞いたことがない。


だが少し先に見えるアレはヒトに見える。ヒトが十人連結しているように見えるのを除けばだが。


(なんだアレは?何故ケツに顔を付けて行進しているんだ?それが十人も?変態の集まりと言ってしまえば終わりだが)


「近づいて来ました!射て!!」


ニッグが思案していると得体の知れないモノが近づいて来たらしく若衆が一斉に弓を射った。命中するも勢いは止まらずどんどん近づいて来る。


「ヒトにしろ魔物にしろ町の中には何があっても入れるな!」


ーーーーー!!!


(ムカデじゃあるまいし気味が悪い、さっさと終わらせて一杯引っ掛けよう)


ああぁあぁぁああぁぁぁあああ!!!


得体の知れないモノの叫び声がハッキリと聞こえてきた。大の男が十人、全裸で、四つん這いとは思えない速さで近づいて来る。口は顎が外れ口端も裂けているのか血で濡れているようだ。


「そのまま射ち続けろ!俺が頭を潰す!」


動物や魔物ならば戦力差を察して既に逃げているはずなのにバケモノは何故か一切退こうとせず死にに来ているようにすら見える。

身体中に矢が刺さり血を幾ら流そうが更に速さが増したとすら思えた。


「うぉおおおぉお死ねぇええぇえ!!!」


大斧を振りかぶってバケモノの脳天に直撃し断末魔をあげる間も無く絶命した。

ニッグは確かな手応えを感じつつ大斧を引き抜き構え直す。


「ふぅ、案外呆気なかったな。誰か司祭の爺さん連れてこい!あの長生きな爺さんなら何か知っ」


っぁあああぐぁあああああぁ!!!


「んな?!頭潰したのになんで!」


「うげっ口元についてるのってまさか」


「ニッグさん退いてください!」


2番目のヒト型が先頭のケツから口が剥がれ絶叫をあげている。


「まさか、全部殺さなきゃならんのか?」

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