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司祭

朝の祈りを終え朝食の準備を始めようとしたところノックもなしにドアが開かれた。

そこにいたのは同僚のジョージ・ジョアだった。ジョージは息を切らし血走った目で部屋主を見やると安堵した表情を見せた。


「おはようジョージ。ノックもなしとは行儀が悪いぞ、何かあったのか?」


搾ったばかりの牛乳をカップに移しジョージに手渡すと何も言わず一気に飲み干していた。普段のジョージは気さくな人柄で細かなことにも気が回って参拝者にも親しまれている男なのに今朝はその姿は見られない。


「ジョージなにがあったんだい?」


「二ラス大司教猊下から直々の出動命令だ、準備が終わり次第中央広場へ向かえ、ニコラス今回ばかりは遅れは許されないぞ」


カップを机に置き「ミルクごちそうさん」と言って飛び出して行った。最低限の礼は忘れていなかったようだ。


少しばかり焦っていたようだが冷静に用件を述べてから伝達室へ向かったようだ。先に知らせてくれたのは部隊の中で一番準備が遅いと思われる親しい同僚へのせめてもの配慮だったのかも知れない。


「やはり各所に通信士を置くべきでしょうね、コレでは来訪者に逃げられてしまうじゃないですか」


部屋主はミルクを飲み、朝食を食べ始めた。準備など何時間も前から既に完了しているのだから。


「伝達にここまでかかるんですね、情報の鮮度と精度が落ちてしまいそうです。次の会議で提案しなければ」


二ラス=リクセト=アムルセフィトはゆっくりと食事を楽しみ終えてから支度を済ませ正装で中央広場へと赴く。


「さて彼らはどういう反応をしてくれるだろうか?あの愚鈍なニコラスが実は自分たちの上司だったなんて知ったら」


くふふ、と小さく笑い歩き続ける。


大司教 二ラス=リクセト=アムルセフィト


彼は大司教としての業務をこなしながら一司祭として生活をしていた。普段は愚鈍な少年司祭を装っていて彼の役職を知る人間は司教でも数人程度。


大司教の職務を終え休憩中に側仕えが気になって聞いたことがあった。どうして一司祭のふりをするのですか?と。


「彼らの信仰が本物かどうかを見たいからですよ。あと信者さんにも気軽に会えますしね」


と無邪気に笑って答えたそうだ。


中央広場に着きお立ち台に登ると無邪気な笑顔は今は何処にもなくただ整列した武装司祭たちを冷たい目で眺めている。


すると先程知らせに来たジョージが見えた。冷や汗をたっぷりと滴らせ口元は痙攣しているようにヒクヒクと動いているが体は微動だにしていない、訓練の賜物だろうか。


他の武装司祭も顔と正装を見て困惑の表情を浮かべるが一切なにも言ってこない。



「おはようございます皆さん、二ラス=リクセト=アムルセフィトです!皆さんはニコラスのほうが覚えがあるでしょうね。ですが実際は愚鈍な司祭ではなく大司教です」


声だけは明るく視線は絶対零度。

冗談で着て良い服でも名乗って良い役職でもない、ジョージを始め他の武装司祭たちも俄かに信じがたい状況だが信じざるを得なかった。


「私が直々に出張って来たのには理由があります。託宣にない来訪者が出現しました。来訪者はアイゼンドラフト王国の王女を連れ城塞都市アベルクラインのレント・サタリューヤ城塞伯に接触、その時に確認された能力は最低でも3つだったそうです。その後行方を眩まし今に至ります」


思わぬ情報に騒めく武装司祭たち。

来訪者の特殊能力は最大でも2つと言うのが常識だっただけに衝撃の度合いが大きかったのだろう。

更に驚かせたのが一国の王女を連れている事だろうか、どうして来訪者が?と疑問符が尽きない武装司祭たち。


「今回の来訪者の目的は不明です。何せ主神ファンマは元より他の七大神からも何も御告げがないのです。問いかけてはいるそうですが時間がかかります。ですが王女の安否も気がかりです。なので今回皆さんを招集しました」


全員の視線が二ラスを捉える。


「いくら能力を持つと言おうが相手は一人です。しかも今までの来訪者で分かるように、来訪者は農民のように戦闘慣れもしておらず皆さんなら追い詰め捕縛するのも容易いでしょう。例え王女を盾にされようとも場慣れしている皆さんには敵うわけもありません」


一人一人の目を見て睨め回すように確認すると更に述べた。


「だが決して油断しないことです、相手は一般人ですが特殊能力を持っていると言うことを。こちらにも被害が出る可能性もあることを。私からは以上です、各部隊ごとに分かれ行動を開始して下さい。集結場所は部隊長に知らせます。では」


ふとジョージの顔を去り際に見てみると丁度視線が合ってニッコリと笑みで返す。

彼は言いたいこと聞きたいことが山程あるだろう。せめて還ってきたら聞いてやろうと頭の片隅で思う大司教だった。

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