猪突
樹海を駆け抜ける大猪ウスグンベルフ。
背中の乗り心地は意外にも良く、しがみついてたら獣臭くなると思いきやハーブ系の良い香りがしてくるという始末で挙げ句の果てに『我も生物としては雌だ』と言われ驚きの連発だった。
『ナイアよ、フンヌラーに何かあるのか』
樹海の樹々が避けているにしか思えない速度で走っている中でウスグンベルフは問い掛けてきた。
「これと言った用事はないんだけどさ、いきなり大都市に向かって失敗するよりも農村とかで世情を知ってからのほうが良いと思ったんだよ」
『我が教えてやるぞ』
「人類種の王の話とか噂話とかだぞ?」
『それは無理だな』
鼻を鳴らして残念そうな素振りを見せる。たかが数時間でこの大猪の表情が解るようになってきた。ただウスグンベルフは人語を話せるので声で感情がなんとなく解るだけなのだろう。
「樹海から出れる寸前で止めてくれ、ウスグンベルフはどちらの意味でも目立つからね」
大猪曰く樹海に住み始めて九百余年、いつの間にか周囲の生物から怖れ敬う存在になっていた大猪。自らの名前が樹海の名前になるほどには周辺の国々にもその巨体は有名らしく、樹海の外を歩くものなら軍隊と祈祷師が出張ってきて祈りを捧げてくるそうだ。そのような存在が農村近くに現れたらどうなるかは想像しやすいよね。
『分かった、止まるぞ』
急停止
これは少しムッとしたからだろうか、仕方ないので慣性の法則に任せて吹っ飛ばされることにしよう。
勢いよく吹っ飛ばされ大樹にぶつかった。
ウスグンベルフは心配する素振りも見せずゆっくりと近づいて来た。
『すまないナイア』
と言って樹海の外を見つめている。




