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怪盗は迷い猫にいる  作者: うろこ雲
月下美人編
13/14

13.説明

遅れました…>_<…


エピローグを書いたら完結となります。


「影山流奥義ノ三・改『海消(うみげし)』」


 影山(かげやま) 天牙(てんが)の体がその場から消え、光が爆ぜた。


 パァアアアアン!という不可思議な音が室内に響いた。


 光が収まると、どさっという音がして村山(むらやま) 善二(ぜんじ)が床に白目を()いて倒れた。


「ふう、成功したか」


 技を放った腕をゆっくりと下ろして、仮面の裏で安堵の表情になる。

 すかさず舌莉から通信が入った。


『成功しないと困るわ』

「いや、普通に秘奥だからね?あっさり終わったけれどすごく難しいんだからね?」

『はいはい。そろそろ逃げないと大変なことになるわよ?』

「っと、そうだった」


 警察がこの部屋に近づいていることを思い出した天牙は振り返り、フロア全体に聞こえるように声を張り上げた。


「さて、今は気絶させるだけに留めたが、これ以上抵抗すると死人が出るぞ?」


 言葉に殺気を込めてこの空間にいる人間を威圧する。

 だが今しがた放った理解を超えた技と得体の知れない姿への恐怖で誰も抵抗する気はないようだった。


「この【月下美人(げっかびじん)】………と月ノ宮(つきのみや) 水蓮(すいれん)は【BLACK(ブラック) MOUTH(マウス)】が貰い受ける。では諸君さらばだ!」


 そう言って天牙は【月下美人】の入った化粧箱をポケットにしまうと立ったまま動けないでいた水蓮を抱えて走り出した。


「きゃあっ!!」

『ちょっと天牙君!?』


 小さな悲鳴を上げる水蓮と困惑した声の舌莉を無視して天牙は会場を後にした。


「あの!どういうことですか!?」

『天牙君!なぜ水蓮をお姫様だっこしてるのよ!』

「捕まるとやばいから今は大人しくしてもらえると助かる!後でちゃんと説明するから!!」


 天牙は後ろから聞こえる喧騒と足音に焦りを感じながらも全力で走り続け、マイクに叫んだ。


「小夜!逃走経路を教えろ!!」

『今やってます!………出ましたそこを右ですっ』


 指示に従って廊下を右折すると、なぜか制服を着た成宮(なるみや) (とおる)がいた。


「おっと!」


 天牙は抱えている水蓮に衝撃がいかないように急停止した。


「だ、誰だ!?」


 いきなり現れた美少女を抱えた仮面にシルクハット、タキシードという格好の不審人物に目を見開き、後ずさる透。

 天牙はなぜここに透が1人きりでいるのか疑問に思ったが、今はそれどころではないので水蓮を抱えたまま叫んだ。


「急いでるんでどいていただけますか!?緊急なんで!」


 天牙の丁寧ながらも焦った様子の言葉に生真面目な透は端に寄って道を開けてくれた。


「そ、そうか分かった!引き止めてすまない………じゃなくて、ちょっ、君!待つんだ!!」


 だがすぐにおかしいことに気づいたが。

 さすがは天才高校生探偵である。ただしお人好し。


「また会おう明智君!!」


 透の制止の声を振り切り、天牙は怪盗らしいセリフを残して逃げ去った。








「はあはあ、ふう……」


 警察の捜査網の外のひとけのないところまでやってくると、天牙は水蓮を下ろして息を整えた。


「説明を要求します」


 水蓮が青い瞳をまっすぐ天牙に向けて言った。

 いきなり連れて来られたのにも関わらず冷静な水蓮に内心感心しながらも天牙はどう説明したものかと頭をかいた。


『そうよ天牙君!すぐに出頭しなさい!』


 対照的に、普段は冷静沈着かつドS、毒舌の三拍子が揃ったお嬢様は荒ぶっているようだった。


「舌莉、それだと来た道を戻る羽目になるから」


 仮面に付いたマイクにそう返すと、水蓮がピクリと反応した。


「"ぜつり"って……まさか舌莉さん?」

「あ、やべ」


 口が滑ったことに気づいて焦った表情の天牙に水蓮は詰め寄った。


「どういうことですか?なぜ貴方が舌莉さんの名前を!?」

『て〜ん〜が〜く〜ん?』

「あ〜……参ったな。はは……」





 はぐらかした説明で水蓮は納得せず、結局天牙は舌莉と相談して洗いざらい話すことにした。


「つまり貴方は舌莉さんと一緒に怪盗【BLACK MOUTH】として活動していて、今回は【月下美人】を狙ったところ一連の騒動に巻き込まれてしまったということですね?」

「そうだ」


 水蓮は目を閉じ、頭痛がしたように頭を押さえた。


「その割には騒動の中心に…いえ騒ぎを大きくしていたように思えるのですが……」


 もっともな水蓮の指摘に天牙は目をそらした。


「まあ、それは成り行きでな」


 一週間前の夜、舌莉の家に行った時のこと。

 着替えを終えて舌莉の案内で応接室に向かうとそこにいたのは月ノ宮家当主・月ノ宮(つきにみや) (みつる)だった。


 『全てを知っている』というハッタリのメールを送りつけて満を呼び寄せた舌莉は言葉巧みに村山(むらやま) 善二(ぜんじ)との問題を聞き出し、水蓮の秘密を他言しないことを固く誓ってから「全て任せなさい」と解決を約束した。


 水蓮を巡る陰謀を知った舌莉は徹底的に村山善二とその周囲の情報を集め、一番ダメージの大きい作戦を立案したのだ。



「そうだったのですか……それからお父様が関わっていたなんて」

「かなり心配していたみたいだぞ」


 あの夜、天牙は話している間ずっと満を観察していたが、彼の目の下には濃い隈が刻まれており、心労でほとんど睡眠を取れていないようだった。


「お父様は舌莉さん達が【BLACK MOUTH】だということを知っているのですか?」

「その辺りを誤魔化すのは難しかったからな、ある程度は説明したぞ」


 大財閥の令嬢が泥棒をやっていることに満はかなり驚いていた。


「後日考えた計画を伝えたら感心するとともに頭を抱えていたな。『次から総帥にどんな顔をしてご挨拶をすれば良いのか』とかなんとか言って」


 水蓮の問題が解決する希望が見えたと思ったら、今度は自分がお世話になっている黒条家当主の娘が犯罪に手を染めていることを知ってしまったのだ。しかも自分も共犯関係にあるというおまけ付きで。


「お父様……」


 自分の父親が新たな心労を抱えたことに心配顔になる水蓮。


「まあ等価交換ってことで。黙ってれば問題ないんだし気にしなければいい話だ」

「お父様の性格上難しいと思うのですが……」


 ますます心配そうになった水蓮に天牙は仮面の裏で苦笑いした。


「話は変わりますが、先ほどの光はなんでしょうか?」

「光?」

「貴方が刃物で襲ってきた村山善二に反撃したときの不可解な光のことです」


 そこで合点がいった天牙は「あれか…」と少し困惑気味に頭をかいた。


「あれは影山流奥義ノ三・改『海消(うみげし)』。簡単に言えば記憶を消す技だ」

「記憶を…消す!?」


 驚きで空いた口を手で隠す水蓮。


「ああ、なんでも生体内に流れる電気を2本の指に集めて相手の側頭部に叩き込むことで海馬に蓄積された記憶を消す。技名の由来は『"海"馬から記憶を"消"す』から『海消』だな」

「そ、そんな恐ろしい技だったんですね」


 原理はいまいちピンと来なかったが、技の効果の異常性は理解できた水蓮は顔を引きつらせた。

 だが天牙は自信なさげだった。


「……たぶんだが」

「?」

「俺も詳しい原理はよく分かってないんだ。この技は育ててくれたジジイの技が元になってるんだが……本来は脳を焼き切る技だったんだ」

「脳を焼き切る!?」

「ああ。技を受けた相手は大抵死ぬか良くても廃人になるか。だけどあまりに危険過ぎるんで、ちょっと改良して指に集める生体電気の量を少なくして記憶を消す程度にとどめてる」

「そ、それでも十分強力だと思います」

「まあな。しかも劣化版とはいえ失敗すると大変だしな」

「失敗するとどうなるのですか?」


 興味津々といった様子で尋ねる水蓮。

 天牙は少しの間を空けて重苦しく答えた。


「……めちゃくちゃ痛い」

「え?」

「生体内の電気を無理やり一カ所に溜め込むんだ。少しでも制御を間違えると暴発して神経と筋繊維が酷く痛む。激痛でしばらく動けないくらいだ」


 一瞬で流れて終わる生体の電気を指などの限定的な空間に循環させながら徐々に溜め、暴発する前に相手に流し込むこの技は、制御を少しでも誤るととんでもない痛みが襲う。

 修行時代の失敗を思い出した天牙はぶるりと己が身を震わせた


「まあとにかく、あの野郎の記憶は上手く消えてると思うから安心しろよ。だめだったら今度は本来の威力で脳みそごと消してやるから」


 『海消』を使ったのは善二から水蓮の"力"に関する記憶を消すためだ。

 幸い彼は誰かに話したりはしていなかったようなので、今回『海消』を複数の人間に使う必要はなかった。


「それはやりすぎですよ……でも、ありがとうございました」

「いや、礼なら舌莉に言えよ。俺は舌莉の許可がないと技を使わないからな」

「舌莉さんには後できちんと言っておきます。それと……」

「どうした?」


 急にもじもじし始めた水蓮に天牙は仮面の裏で怪訝な顔になる。

 水蓮はなぜか2、3度深呼吸をしてから天牙をまっすぐ見つめて言った。


「その……お顔を拝見しても?」

「誰にも言わないならな」

「誓って誰にも言いません」


 真剣な水蓮の表情に大丈夫かと思った天牙は仮面に手をかけた。

 舌莉から『だめよ!』と慌てた様子の通信が入ったが時すでに遅し。


「!!」


 露わになった天牙の顔を見て水蓮の目が大きく見開かれる。


「貴方は…この間の……!!」


 どうやら登校中に天牙と目が合ったことを覚えていたらしい。


「俺もまさか通学途中に会った美少女に関わることになるとは思わなかったよ」


 困ったように天牙は笑った。


「ふぇ!?」


 水蓮はさらりと天牙が口にした『美少女』という単語に顔を赤く染めた。


「俺の名前は影山天牙だ。よろしく」


 水蓮の動揺には気づかず、自分だけ相手の名前を知っているのは良くない気がした天牙は自己紹介をした。


「は、はい。つ、月ノ宮水蓮です…」


 ますます顔を赤くして(うつむ)いた水蓮は消えいるような声で自分も名乗った。


「あ、あの、その……」


 何かを言おうとした水蓮の言葉は、黒塗りのリムジンがやって来たことによって(さえぎ)られた。


「来たか」


 リムジンは2人の前で停止し、ドアが開いて舌莉が出てくる。


「水蓮」

「舌莉さん……」


 何かを言おうとして、しかし名前を呼ぶだけで先が続かない舌莉と水蓮。

 天牙は仮面とシルクハットを舌莉に手渡すと一言告げた。


「じゃあ俺は先に帰るから」

「え?」

「積もる話もあるだろうからゆっくりしろよ。この仮面と帽子は持って帰ってくれ」


 そう言って家の方向に歩き出した天牙を水蓮が呼び止めた。


「天牙様!」

「ん?なんだ」

「また……またお会いしましょうね」


 絞り出すようにそう言った水蓮の頭をぽんぽんと叩いて天牙はニヤリと笑った。


「会えたらな」










「ただいま〜……………あれ?おーい、光〜?」


 家に帰った天牙はいつも出迎えてくれる義妹(いもうと)(ひかり)の姿が見えないことに首を傾げた。


「出かけてるのかな……」


 靴を脱いでリビングのソファに沈んだ天牙は1件のメールが入っていることに気付く。


『晶ねぇと彩ねぇと一緒にお出かけします。ご飯はいらない』


「あのまま舌莉の家に行った方が良かったかも………」


 1人寂しい夕食になることにほろりと心の涙を流して天牙はキッチンに向かうのだった。



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