14.怪盗は迷い猫にいる
喫茶『Stray Cat's』。
影山 天牙はグラスを拭きながら店内を見渡してほうっと一息ついた。
「今日も平和だ……」
「ですねっ」
お盆を胸に抱えた溝口 小夜が同意する。
ニコニコと笑っているがさっき皿を3枚まとめて割ったばかりだ。
「ここ最近は大変だったしな……」
天牙は一週間前の騒動を思い出していた。
あの後、何かの情報操作があったのか、新聞などの各ニュースでは【月下美人】は【White Eye's】が見事盗み出したことになっていた。
天牙が撒いた書類が原因で村山善二と神成組の人間は逮捕され、孤宝博物館は閉鎖された。
【月下美人】は月ノ宮家に戻り、天牙の記憶消去が上手くいったことで水蓮の秘密が漏れることもなく。
平和な日常が戻ってきていた。
「やっぱり高校生が荒事に手を染めるのは良くないと思うんだよ」
しみじみとつぶやいた天牙。
小夜はちょこんと首を傾げた。
「そうですかね?私は大学生なので分かりませんがっ」
「そういえばそうだったな」
中学生と言っても通じる小夜のちまい体型を見ながらニヤリと笑う。
「む……何か失礼なことを考えてますねっ!?」
「こんなちっこいのに超一流のハッカーだもんな」
「ちっこいとは失礼な!これでも160センチはありますよ!」
ムッとした顔でつま先立ちになって主張する小夜。
だがどう見ても150センチを越えるかどうかというところだった。
「将来に……いやもう成長は止まってるのか。すまん」
「そこで哀れむような顔になられるとダメージしかないのですよっ」
「溝口も辛いんだよな……」
「私がちっちゃいことにコンプレックスを持ってるみたいな言い方はやめてくださいっ」
「大丈夫。溝口の身長は高い方だぞ」
「今なにを比較対象にしたのですかっ!?」
詰め寄る小夜から天牙は目をそらした。
「先生の目を見なさいっ!!!」
そんな風に漫才じみたことをしていると、カラリンと扉の鈴が鳴り、三城 光と頬ガーゼを貼った虹野 彩、そして手に包帯を巻いた清水 晶子の3人が店に入って来た。
そしてなぜか怒った顔の彩が困り顔の晶子に詰め寄っていた。光はいつも通りの無表情で携帯を弄っていた。
「もうっ晶子が悪いのよ!」
「ごめんね〜」
手を合わせて謝る晶子。
だが彩の怒りは収まらないようだった。
「偽物をつかまされるなんてどうかしてるわ!!」
「だって〜」
「しかもなんか成功したことになってるし!!」
「結果オーライ?」
「だって〜」
「晶子ォ」
にこっと笑った晶子の顔を彩の右手が覆いギリギリと締め上げた。
「痛い!彩ちゃん痛い!」
彩の肩を叩いて降参する晶子。
携帯から顔を上げた光が彩の服の裾を引いた。
「でもさ、晶ねぇがいなかったら逃げ切れなかったよ?」
「首都高すっ飛ばすさないといけないところまで追い詰められるのが悪いのよ」
手を離したが眉は吊り上げたままの彩がフンと鼻を鳴らして吐き捨てた。
「ふふん、発信器の解除はボクの手柄」
「ニセモノ持ってきたのは彩ちゃんだしね〜」
「なに?私が悪いの?ねえ?」
「「なんでもないです」」
グラスを拭き終えた天牙が彩のガーゼを見て心配そうな表情になった。
「彩、傷は大丈夫か?」
「て、天牙!こ、これはその……大丈夫よ!!」
どうやら怒りで周りが見えていなかったようで、天牙がいることに気づいた彩がそわそわと髪に整えた。
「そうか、お前も女なんだから顔の傷は気をつけろよ?」
「う、うん……」
急におとなしくなった彩を光が無表情のまま下から覗き込む。
「ジーーー」
「な、なによ光、文句でもあるの!?」
「彩ねぇは乙女」
その一言で彩の顔が一瞬で赤くなる。
「はぁっっ!!?どどどどどういうことよ!!」
「天にぃに声かけられて嬉しそうだった」
「そ、そんなことないわよ!こ、こんなやつなんとも思ってないわ!!」
「どうでもいいが、注文は?」
紙とペンを持ってそう聞いた天牙に彩の眉がピクリと反応する。
「どうでもいいって言い方はないでしょ!?」
「うおっ!危ねえだろ!」
放たれた拳を間一髪でよけた天牙が彩を睨む。
「あんたが悪いんでしょうが!!」
「なんでだよ!!」
「ツンデレと鈍感乙」
彩の攻撃を避けつつ天牙が晶子と光の注文を取っていると、扉の鈴がまた鳴って、今度は黒条 舌莉が入って来た。
「こんにちは天牙君」
「いらっしゃい。なんかあったか?」
なぜか表情の優れない舌莉を見て怪訝な顔になる天牙。
「そうじゃないわ……はぁ」
「天牙様」
透き通るような綺麗な声がして、青い瞳の少女が舌莉の背後から現れた。
「あの子……」
「この間の神美少女」
月ノ宮 水蓮に気がついた彩と光が少し驚く。
「おう水蓮か。いらっしゃっっちょっええ!?」
「ずっとお会いしたかったです!」
なぜかいきなり満面の笑みで抱きついてきた水蓮に天牙が素っ頓狂な声を出す。
「天牙君?」
「天牙!あんたは何デレデレしてんのよ!!」
舌莉が黒い笑顔で底冷えのするような声を出し、彩は額に青筋を浮かべる。
晶子と光も威圧的な空気を出し始めていた。
「いや、これは違うぞ?俺は何もしてな…」
「天牙様こっちを向いてください」
なぜか怖い雰囲気になった女性陣に言い訳をしようとすると、水蓮が抱きしめる力を強くしてきた。
美少女に抱きつかれてあちこち柔らかいところが押しつけられ、トドメを刺すように漂う清涼感のあるいい香りにくらくらする天牙。
「水蓮さん?なにをしてらっしゃいますでしょうか?」
なんとか言葉を絞り出した天牙だが、水蓮は話を聞かずに質問を飛ばしてきた。
「天牙様はお付き合いされてる方はいらっしゃいますか?」
目が点になる天牙。
「と、唐突になにを」
「重要なことなんです!」
「……いないけど」
天牙がそう答えると、水蓮はふうと息を吐いて拘束を解いてくれた。
だが解放されたことに安心するのもつかの間、水蓮が爆弾を投下する。
「良かったです。では私とお付き合いしてください」
「「「「「「えええええ!!?」」」」」」
「だめ……ですか?」
「ええ!?い、いきなり言われると……」
美少女に告白された困惑にしどろもどろになる天牙。
だが返事を考える暇を他の女性陣が与えるはずもなく。
「て〜ん〜が〜?」
「天牙君?分かっているわよね?」
「天くん?」
「抜け駆けは……ダメだよ?」
「ちょっと待て俺は悪くない〜〜!!!」
「あ、待ちなさい!!」
「天牙様お返事を!!」
追い詰められて逃げ出した天牙を追いかける女子達。
「これでも一流の怪盗なんですけどねっ」
微笑ましくその光景を眺めていた小夜がぽつりとつぶやいた。
なんとか終わった……2日遅れで申し訳ありませんでした(分かる人には分かるはなし)




