二人と二人 3
翌朝。リビング。
「陽依…ど…どうしたんだぁ?!その目は…」
「あらあらまぁまぁ」
お父さんとお母さんが私の顔を見て言った第一声。
「陽依…泣いたの?」
「そうなのか?何があった?いじめられたのか?」
今にも抱きつきそうになったお父さんをお母さんが止める。
昨日、公園で思いっきり泣いたユカと私は、すぐに家に帰った。
結構泣いたし、もう大丈夫かなって思って、夕ご飯を食べて、お風呂に入った。
でも、ベットに入って目をとじると、今日のお昼の出来事を鮮明に思い出して、自然と涙がでてきた。
先輩の声が無性に聞きたくなって、携帯に体を伸ばすけど、そのたびに、お姉さんズと笑ってしゃべってる先輩の顔が頭をよぎって、手を引っ込める。
「…知らないっ…」
先輩のことなんかもう知らないっ…。
こんな気持ち知らない…。
こんな自分…知らない…。
自分の中のどろどろした感情と、どうしようもないモヤモヤした気持ち。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
わかんないわかんないわかんない。
そして、朝方までずっと泣いて眠れなかった。
だから私の目はすっごく腫れてる。
お父さんやお母さんが目を見開いて驚くほど心配してるんだから、相当腫れちゃってるみたい。
このまま学校行けるかなぁ…。
みんなに見られるよね。…恥ずかしい。
「陽依、これつかいなさい」
「えっ?」
「お母さんも陽依ぐらいのころは、よくこれのお世話になってたわ。目に当ててなさい」
お母さんから手渡されたのは、蒸しタオル。
よくお世話になってたって…それって…。
お母さんの顔を見上げると、お母さんはお父さんに気づかれないようにウインクした。
「さっ、朝ごはんの準備しなくっちゃ。ほらお父さんも仕事仕事!」
「おっおぅ。…陽依、誰かに泣かされたりいじめられたりしたら、お父さんに言いなさい。相手をやっつけてやるからな。じゃ、行ってくる」
「「いってらっしゃい」」
リビングでお父さんを見送ると、私は目に蒸しタオルをあてて椅子に座った。
「気持ちいぃ~」
ぽかぽかして気持ちがいい。
「ねぇ、陽依。私が陽依ぐらいのころ、よく蒸しタオルのお世話になってたんだけどね」
突然、キッチンで懐かしむように話しだすお母さん。
私は黙ってそれを聞いた。
「お母さんね、後になって気づいたの」
蒸しタオルが目をじんわりと温める中で、お母さんの声が優しく心に響く。
「蒸しタオルを使ってる時の私って、すっごくすっごく弱虫で、素直じゃなかったの」
優しい声で私に何かを伝えようとしているような話し方。
お母さんはなんでもわかっちゃうんだね。
「陽依はどうして蒸しタオルを使うことになったのか、お母さんは聞かない。…でもね、これだけは言わせて?」
「女の子は素直が一番」
素直が…一番…。
なんだかまた目頭が熱くなって、蒸しタオルをそっと取ると、目の前には朝ごはんが並んでた。
「さっ、召し上がれ♪」
「い…いただきます」
「おはよ」
「おはよう」
靴箱でばったりユカに遭遇した。
「ユカ、その目」
「陽依こそ…」
ユカの目も少し腫れていて、私と同じように泣いたんだなって分かった。
「大丈夫?たぶん教室に委員長いるよ」
私の言葉に、ユカは靴箱に靴をしまおうとしていた手をピタっと止める。
「大丈夫、だと…思う」
「そっか」
私と先輩は教室の階が違うし、自分から会いに行かないと会えない。
でも、ユカ達は…。
「っだーもう。こんなぐちぐち悩んで私らしくない…」
「ユカ…」
「昨日あんなにないたのにさ、すぐ涙でちゃうんだもん。…私こんな弱くないのに。あんな些細なことでなんで…なんであいつのために泣かなきゃなんないの。あり得ない」
「ユカ、教室、一人で行ってきなよ。ほら、まだみんな来てないよ」
靴箱には、私の靴とユカの靴、委員長の靴しかなくて、珍しくみんなはまだ学校に来ていない。
今なら2人きりでちゃんと話ができるはず。
今じゃないと。
今話し合わないと。
「ユカ、思ってること全部話して素直になろう」
「えっ…」
「今日ね、お母さんに言われたの。“女の子は素直が一番”って。だから」
ユカは驚いたように私の顔を見た。
「まさか陽依に諭される日がくるなんてね…うん。ありがと、頑張ってくる」
「行ってらっしゃい」
私はユカの走っていく背中に大きく手を振った。




