二人と二人 2
案の定、“ベル”には長蛇の列ができていた。
最高尾に並ぶ私たち。
お店から結構離れているのに、甘い香りがふわふわと漂って、空腹を誘う。
「中にいる客たち、さっさと食べ終わればいいのにっ」
ユカ様、あいかわらずご立腹。
「こんだけ並んでおいしくなかったら、店長に文句言ってやるんだから」
「柚香…」
委員長もお手上げのようです。
列は二列で並んでいて、私の隣にユカ、私たちの後ろに先輩と委員長が並んでいる。
振り返って、先輩をまじまじと見つめてみる。
………かっこいい。
バチッと目が合った。うわっ…恥ずかしい。ほっぺたが、赤くなる。
「陽依どうしたん?俺の顔になんかついてる?」
「いっいえ!!盗み見してただけです。全然盗めてなかったけど…」
「盗み見て…」
「先輩…かっこいいなぁって…」
「陽依」
あぁ恥ずかしい。
「あまーい!!!!甘い甘いあまーーーーい!!ケーキより甘いものが目の前にある」
ウゲっという顔をするユカ。あっ、ユカたちがいること忘れてた。
真っ赤な顔を覚まそうと、前を向いて顔を手で仰いだ。
「ねぇ君たち、2人?」
「よかったら、あたしらと相席しない?」
私にかけられた声ではありません。
「あたしら、県外からなんだけど2人は地元?」
私とユカの存在を総無視というか、気づいてないのかな。
女の人2人は、どちらも20歳前半ぐらいで、美人。
おまけに露出度が高い格好で、ケーキを食べるよりおしゃれなバーでお酒飲みそうな格好。
「あっ、俺らは隣町です」
「もしかして、関西の人?標準語つこてるけど、イントネーションが西の方やん。実はうちら関西から来てーん」
きゃぴきゃぴ喜ぶ女性2人。
「えーほんまですか?標準語しゃべってるからてっきりこっちの人や思いました。東京弁お上手ですねー」
先輩楽しそうに話してる。
なんだか、嫌だ。なんでか分かんないけど、泣きそうになる。
「めっちゃうれしい~。なぁなぁ2人って高校生なん?」
「ゴホンッ」
私の隣から大きな咳払いが。
「そーです。高校3年生です」
「ほんまにぃ?若いね~」
「ごっほん!ごほごほ、げふんげふん」
ユカすっごい大きな咳。風邪かな。
「ユカ、のど痛いならのど飴…」
「ちゃうわ!!」
ユカ、関西弁でツッコんだ。
「ちょっと、オバサン。そろそろ陽依が泣きそうだし、私もイライラするから、イケメンズ2人に話しかけるのやめてくれませんか」
委員長と先輩の間に立って仁王立ちするユカ。
鬼の形相のユカ様、せっかくの美しいお顔が台無しです。
でも、なんででしょう。ユカがすっごくかっこよく見える。
「なによ、あたしらの邪魔せんでくれる?あっあんたら、この2人のとりまきか何かやろ?」
「私らが学生の頃こういう、顔につられてくる子っておったおった~」
いや…あなたたちが顔につられてきたんじゃないの?
私は先輩の顔も大好きだけど、性格や気持ちを好きになったんだもん。
「ガキはひっこんでて、ねぇ君たち、お姉さんたちと遊びましょうよ」
ブチッ
私の目の前に立つユカから、異様な音がした。
「藤井バカ太!!バカ光!!」
「えっ…バカ光」
「バカ太…?」
美人のお姉さんに怒ってるのかと思ったら違うみたい。
ユカは、藤井先輩と委員長に勢いよくゲンコツする。
それを見ていた美人のお姉さんズは、一瞬ひるんだが、すぐに体勢を立て直す。
「ちょっと、可哀そうやないの」
「最近のガキは女らしさのかけらもないなぁ」
「ほらっ柚果、いい加減落ち着けって。お二人ともすいません」
委員長が珍しく、ユカをたしなめる。
「ええんよ。…一つ聞いてええ?2人の名前知りたいねんけどぉ」
巻き髪を指に絡めながら、お姉さんズの片方が聞く。
「あっ…えっと、俺は小西貴光っていいます」
「フルネーム教えてくれんの?わー顔赤くってかわいい~」
キャーキャー騒ぐお姉さんズ。
「俺は藤井悠太言います」
「貴光君と、悠太君やね~」
さっきから…胸がチクチクする。名前、私…先輩の名前…、呼んだことないのに…。
「……貴光…」
ユカは何か言いかけて、拳をぐっと握り、黙り込んだ。
ユカらしくない。どうしたのかな。
さっきまでの啖呵切ってる勢いがまるでなくなり、ユカは前を向いた。
「ユカ?」
「……貴光なんか、知らない」
ボソっとユカはつぶやく。目にはうっすらと涙が光ってた。
なんとなく、なんとなくだけど、私にもその涙の理由、分かる気がした。
だって、私も泣きそうなんだもん。
先輩も、委員長も、さっきからずっと私たちのこと見てないし。
それから30分ぐらいたって、やっと席に付けた。
席に着いたはいいけど。
「なぁなぁ、貴光くんはぁ~どんな子がタイプなん?」
「えっと……その」
「照れて可愛い~」
「悠太くんってインテリアつくったりできるんやぁ~すごぉい」
「ま、まぁ」
お店の中に入った瞬間に、店員さんから
あ、6名さまですね?こちらへどうぞ」と勝手に勘違いされて相席になってしまいました。
テーブル席に、奥から藤井先輩、巻き髪お姉さん、私。
その前に、ユカ、ショートヘアお姉さん、委員長。
なんでこの席順なの?
今日は本当は、Wデートのはずだったのに。
ユカもさっきから俯いたまま、運ばれてきたケーキに一口も手をつけてない。
まぁ、私もだけど。
「あー私もモンブランたべたかったぁ~。ねぇ貴光くん、一口もらっていい?」
巻き髪お姉さんが委員長の了承もなしにモンブランを一口パクっと食べた。
「あっ…」
ピクッ
わずかにユカの肩が動く。
「私も、悠太くんが食べてるショートケーキ食べてみたいな~。私のチョコ一口あげるから、いい?」
ショートお姉さんが、藤井先輩のケーキにスプーンを伸ばした。
「だめぇええええ!!!」
自然に口が動いてた。
お店の中にいる人が一斉にこっちを向く。
…カァアアアア。私の顔はこれ以上にないほど熱を帯びた。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、ユカの方をチラってみると、驚いた。
うそ、ユカ様…泣いてる?
俯いたままだけど、分かる。
震えてるんだもん。声を押し殺して泣いてるユカ。
あの時と同じだから分かる。
委員長がイメチェンした日の朝、ユカ目にいっぱい涙ためてたあの時。
ユカって結構しっかりしてるから、いつも頼りにしてるけど、本当はそうじゃないんだよね。
誰よりも人のことを考えることができて、いつも気を使って、本当は弱い女の子なんだよね。
私いっつも、自分がつらい時、ユカに頼ってた。
ユカにどうにかしてもらおうって、心のどこかで思ってたのかもしれない。
このままじゃ、ダメ。
私だって、ユカを守りたいし、自分のことは自分で解決できる。うん。大丈夫。
「あの……やめてください」
でもやっぱり怖い。
「はぁ?…なによ」
うぅ…でも、がんばらなきゃ。
「委員長や先輩に…話しかけないで」
「陽依?」
藤井先輩が名前を呼んだ。ダメダメ、甘えちゃだめ。
「委員長と、先輩に触らないで」
まっすぐに、お姉さんズの目を見る。
「なんでアンタにそんなこと言われなアカンの?」
「心外やわ」
なんなの?この人たち。
どうして、先輩たちなの?
ほかにもいっぱいいるじゃない。
なんで、先輩と委員長なの?
いままで、こんなに胸の奥からぐわーって込み上げてくるこの感情を私はしらなかった。
こんなにも自分が、怒ってるのって初めてかもしれない。
いつの間にか拳をぎゅっと握りしめてて、手汗がすごいよ。
私、初めて怒ってる。自分のために、ユカのために。
「ていうか、あんたら2人邪魔やねんけど」
「貴光くんと悠太くんのとりまきなら帰ってくれへん?」
なんで、藤井先輩と委員長は気づいてくれないの?
こんなに、私たち傷ついているのに。なんで?なんで?なんで?
「…ここまで着いてくるやなんて、ほんと何さま?」
「……っ!」
私は自分でも驚くぐらいの低い声で、
「彼女さまじゃーーーーーーー!!!」
と叫んでいた。
ハッとしたときは、時すでに遅し。
「お客様、店内で騒がれては他のお客様にご迷惑がかかります。すみませんが、こちらのケーキをプレゼントいたしますので、今日はお帰りください」
ベルのオーナーらしき男性が、私の目の前に現れて、半ば強制的にケーキの箱を渡される。
「ごめん…なさい。すいません…」
「陽依、行こう」
ユカが私の手を引いて、お店を飛び出した。
お店に残ってる先輩たちが気になるけど、でももう私はお店には戻れないよ。
ユカは黙って私の手を引いたまま、歩く。
適当に歩いたところで、公園があったので、中に入った。
木陰にあるベンチに黙って座る。
「……陽依?」
「なに?」
「ありがとう」
ユカの思いがけない言葉に、私の涙腺は一気に緩んで、ボタボタと大粒の涙が頬を伝った。
ユカは優しく私の頭をなでて
「私も泣いていい?」
って震える声で言うから、私はうなずいた。
それから子供がたくさん遊んでる公園の隅っこで、私とユカは、子供のようにわんわんと泣いたんだ。




