兄妹の二人 3
靴箱に着くと、人影があった。
「ん?…あ」
そこにいたのは、ヤなやつ坂上。
「あぁ、藤井さん」
無視や、無視!
あたしは、何も言わずに上履きから靴に履き替える。
あいつもイメージ崩したくないから、本性出さへんやろ。
よし、このまま帰ろう!
「ちょお、待てや」
へい?
いや、聞こえてない聞こえてない。
無視だ!
「何無視してんねん。コラ」
肩をぐいっとつかまれて、無理矢理振り向かされるはめになった。
くっそー。
「ここには人気はないしな。素でしゃべらせてもらう」
今ここで大声だしたら、誰か来ないかな。
「変なこと考えんなよ」
「うっ」
すっかりあたしの脳内お見通しやん!
「藤井さん、一緒に帰りませんか?」
「うえぇぇぇ!?」
なんだこのエセ優等生スマイルわ!
笑顔なのに腹黒さがにじみ出てて怖いやん。
「帰りましょう」
「か、帰ります。帰らせて下さい」
なんであたし、こいつに逆らえへんの?
ヘビに睨まれたカエル状態やで。
もーうちがコイツより身長高くて、頭良くて、モテモテやったら張り合うことできたんやけどなぁ。
数学と英語のせいや。むかつく!!
一人で悶々と葛藤しつつ、二人で校門まで歩く。
道行く女の子が、すっごいこちらをじろじろ見ている気がするけど、きっと気のせい………じゃない。
女嫌いのクールボーイが、あたしと歩いてるんやもん。
明日、あたし先輩とかから呼び出しくらってボコられるんちゃうかな。
あたしは、全くその気はありませんから、みなさん安心してくださーい。
今すぐ大声で叫びたい。
「藤井さんの家ってどっち方向?」
校門でぴたっと坂上が止まるから、後ろを歩いていたあたしは、坂上の背中にぶつかりそうになった。
「えっ?なに?」
「藤井さんの家って右と左どっち?」
「右やけど」
そう言うと、坂上は無言で右の道へ進み始めた。
しばらく無言で歩くあたしたち。
一体坂上はあたしとなぜ一緒に帰ろうとしたんだろうか。
うーん。全くわからん。
考えていると、コンビニが視界に入った。
あ、晩ご飯買わな。
「ちょっと、坂上。コンビニ寄ってええ?」
「あ、うん」
坂上は、意外と素直にあたしの要望にこたえてくれた。
俺様な感じかと思ったけど、ちゃうみたいやな。
コンビニに入ると、お弁当売り場に直行する。
「どれ買おっかなぁ。焼き肉弁当…いやいや、ペペロンチーノ…うーん」
「晩ご飯弁当なんか?」
「あ、うん。今日はオトンも帰ってけーへんし、晩ご飯作るの面倒くさいし、弁当でええかなぁって」
それから数分考えて、カルボナーラを手に取りレジに行こうとすると、
「じゃあ、うち来い」
「はぁ!?」
ここがコンビニだということを忘れて、大声で叫ぶ。
「だから、晩ご飯買う必要ないから、ここ出るぞ」
そして、坂上はあたしの手を掴んで、コンビニを出る。
なぜに、坂上の家に行くことになるねん。なに、こいつ。
「ちょっと坂上!何考えてんねん!」
手を振りほどこうと暴れるけれど、力が強くて全くかなわない。
も、もしかして、あたしを家に連れ込んでアハン、ウフンなことするつもりじゃ……。
食われる!あたしがこいつの晩ご飯になってしまう!
うわぁ、どうしよ。
最初っからそういうことするのが目的やったんか!あたしの純情がこいつに奪われてまううぅ!
「着いたぞ」
気づくと、白い二階建ての家の前に立っていた。
ここが坂上の家!?
≪ピーンポーン≫
坂上は、自分の家のくせに、呼び鈴を鳴らした。
「ここ坂上の家やないの?」
「俺んちやで」
「じゃあなんで…」
タタタタタタタタッ
中から足音が聞こえてくる。
ガチャ。
「おにぃたん。おかえりなしぁい」
一人の可愛い女の子立っていた。
「このむっちゃ可愛い子だれ?」
「俺の妹」
い、いもうと!?こんなに可愛い子が、坂上の妹!?
坂上はしゃがんで妹の頭をくしゃっと撫でた。
あ、なんかこの感じお兄ちゃんと似てるかも。
「ほら、ハルカ、挨拶して」
ハルカちゃんと呼ばれた妹さんは、あたしの方を向いて笑顔でおじぎした。 「さかがみはるか、ほしぐみさんの5しゃい!」
目がキラキラしてる、可愛い。
「あたしは藤井杏奈。よろしくねハルカちゃん」
可愛い。妹がこんなに可愛いのに、兄貴のこいつはなぜここまで嫌な奴なんだろう。
「おねぇちゃん!こっちこっち!!」
玄関でハルカちゃんと、坂上を見比べて唸っていると、ハルカちゃんがあたしの手を引っぱる。
「お兄ちゃんも来て!はーやーくー」
「ちょっと待って、靴脱ぐから」
あたしは、勢いで坂上家に足を踏み入れてしまったけど…よかったんやろか。まぁ貞操の危機っていうのは思い違いやったみたいやな。
リビングへ連れて来られると、ハルカちゃんは、すごくニコニコしてる。
「おねえちゃん、すわって!!」
リビングの真ん中にあるテーブルにまたあたしを引っ張っるハルカちゃん。
可愛い。可愛いよー。あたしも、妹欲しいー。
いや、妹出来たら、お兄ちゃんの取り合いになってまうやん。
そんなんダメやダメ。
妹はあたし一人で十分や。
「あれ?坂上は?」
「おにぃちゃんならおきがえしてるよ」
「そっか」
椅子に腰かけると、ハルカちゃんは私の隣に立った。
「どうしたの?」
なにやら、モジモジしている。
顔を赤らめて、恥ずかしそうに上目遣い。
「…あのね、お姉ちゃん」
モジモジ。
その仕草もとってもキュートだけど、どうしたんだろう。
「きょうね、おかあさんがね、おしごと行くまえにね、いっしょにね、カレーつくったの」
「うん」
そういえば、リサ言ってたなぁ。
『坂上くんて、女手一つで育てられて、いろいろ苦労してるのに、頑張ってるんだよぉ。将来はお医者さんになるのが夢なんだって!』
私の家は、母親いないけど、こっちは父親がいないんだ。
坂上のオカンて、たしかナースやったっけ。
「あのね、だから…その…」
「俺の家で晩ご飯食ってけよ」
モジモジしているハルカちゃんの言葉を遮るようにして、坂上渉が言う。
ラフなTシャツとジーンズに着替えていた。
「もぉー!おにぃちゃん!あたしがゆおーとおもったのにぃ」
「あ、ごめんな。ハルカ」
ハルカちゃんには優しいのね。ふーん。
「だめ?おねぇちゃん…」
しゅんとした顔であたしを見つめる、ハルカちゃん。
今日はコンビニ弁当にしようと思ったけど…。
手作りの方が健康にいいし、それにハルカちゃんが頑張って作ったカレー食べたい!
「あたしもハルカちゃんのカレー食べたいな!」
「やったぁ」
「じゃあ、カレーあっためる!」
ハルカちゃんは、キッチンの方へ走って行く。
「だーめ。ハルカはお皿用意して」
「えー!」
コンロに近づこうとするハルカちゃんを、抱きかかえてキッチンの戸棚の方へ向きなおす坂上。
「だめや、火は危ないやろ。あともう少しハルカが大きなったら、コンロ係に任命したるから」
「むぅ。……わかった。ハルカおさらよういする」
ハルカちゃんはスプーンを取ったり、カレー皿を用意し始めた。
リビングの方からそんな二人の様子をぼーっと見つめる。
なんだか、心が温かい。なんだろう。この気持ち。
この懐かしい気持ちは……。
「あっ……」
あたしが少し幼いころ…。
おにいちゃんが中1ぐらいの時だったかな。
『お兄ちゃん!』
『なんや杏奈』
『なに作ってるん?』
『カラーボックス。友達から頼まれてん』
『お兄ちゃんあたしも手伝う!』
『ダメや。杏奈は不器用やからケガするで』
『ええやん!あたしもつくりたいつくりたいつくりたいー』
『だーめー。ほらそのカナヅチ持ってみい』
『……んぅ…重い』
『それ軽々と持てるようになったら、手伝ってもらうから。な?』
『………分かった』
「おねぇちゃんどうしたの?」
はっ…。昔のこと考えてたら、ぼーっとしてしまってた。
「ううん。大丈夫だよ」
「だいじょうぶじゃないよ?おねぇちゃんないてるもん」
…え?あたし、泣いてる?そっと頬に触れると、目からポロポロと涙がこぼれていた。
うそ、どうして。
「ほら、ふけ」
ばさっと顔にタオルが投げられた。
坂上め、泣いてるってのに、雑に扱って。
どういう神経してんねん。
「おねぇちゃん?」
心配そうにあたしを見上げるハルカちゃん。
ごめんね、心配させて。
投げられたタオルで顔をごしごし拭いた。
「大丈夫、なんだか少し懐かしくて、泣いちゃうなんてあたしおかしいな」
「わたしのつくったカレーたべたら、きっとげんきでるよ」
「うん。ありがとう。あ、あたし何か手伝うことある?」
そうだ、晩ご飯いただくっていうのに、少しぐらいお手伝いせな。
「もうとっくに出来てるよ」
坂上は小馬鹿にしたようにあたしを笑った。
テーブルを見ると、サラダとカレー、コップが綺麗に並べられていた。
「わお」
「おねぇちゃんたべよー」
それからあたしは、ハルカちゃんと楽しくお話ししながら、カレーを御馳走になった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせるハルカちゃんを見ると、思わず頬が緩む。
なんて可愛いんやろ。
あたしにハルカちゃんみたいな妹がおったら、めっちゃ可愛がる。絶対。
「ねぇハルカちゃん。好きな子とかいーひんの?」
お皿を片づけて、リビングのソファーに座っているハルカちゃんに話しかけてみた。
「すきなこ?」
「うん」
ハルカちゃんは、うーんと考える。
「えーとね、りゅうくんと、まさやくんと、しょうへいくんと…えーっと…」
きっと、幼稚園の仲いい子やろうな。
「じゃあ、一番好きな男の子は誰?」
ハルカちゃんは、あたしの質問に満面の笑みで答えた。
「おにぃちゃんがいちばんすき!」
「そっか、お兄ちゃんが一番か」
あたしと同じや。
お兄ちゃんが一番かぁ。




